#20 闇系チャンネル
森川亮司32歳、小太りな体格で無精髭の清潔感のない男は、ダボダボの作業着で瓦礫除去の日雇い労働に従事していた。
8月1日だった‥‥蝉とセミのような異世界の虫が鳴く、よく分からない夏だった。
怪獣が暴れ出し、ヒーローたちが世界を救い、戦いの結果めちゃくちゃになった瓦礫を撤去するのが森川の仕事だった。雑居ビルが立ち並んでいたビジネス通りは、異世界の学園都市と呼ばれる場所と融合してしまい‥‥現代的なコンクリートと、中世ヨーロッパ的な石造りが混沌と、とろけ合うような景観をしていた。
「モンスターだッ!‥‥すぐ、冒険者を呼べッ!」
遠くで誰かが叫ぶ。どうやら、【ダンジョン】から魔物が溢れ出し、こうして町の近くまで現れるようだった。森川は「まるでドラゴンクエストだ」と、鼻で笑い飛ばす。
剣の代わりにスコップを持ち、たるんだ体、ないに等しい体力‥‥どうやら自分は、神鳥や精霊には導かれなかったらしい。森川はコンクリートの塊を運び必死に顔を歪めて、早く労働の時間よ終わってくれッ!と、祈り叫ぶしかできない。
労働を終えて、自分の腰ぐらいの大きさのドワーフの現場監督から、銀貨を一枚手渡しされた。森川は慌てて、現場監督に問いたてる。
「私は現実世界の人間ですッ!‥‥円でッ!‥‥円で報酬はくださいッ!」
ドワーフの現場監督は露骨に嫌そうな顔をする。
「あぁん?‥‥ここは【初まりの世界】の人間を雇ってる場所だッ!お前さんが勝手に紛れ込んだんだろッ!‥‥瓦礫運んで銀貨1枚なんて‥‥破格だぞッ!嫌なら返してもらおうかッ!」
ドワーフの現場監督が「返せッ!」を手を出してくる。
森川は銀貨をギュッと握りしめ、逃げるように離れていった。
「異世界でさえ、ブラック企業が横行してるなんてッ!」
森川はクタクタの体を引きずって、家路とは違う方面に向かっていた。
ノソリ、ノソリ‥‥と、亀のように歩き、コンビニを見つけて入ろうとするが、異世界の銀貨1枚が自分の手持ち財産だと思い出す。立ち止まり、コンビニに向かって嘆息をつくと、隣にドラクエの道具屋のようなお店があることに気付く。
森川は手のひらの銀貨を見つめて、覚悟するよう頷き道具屋のドアを開けた。
カランコロンと、昔の喫茶店のような音がする。
店内は雑貨屋と云う感じで、所狭しと見覚えのない物が並んでいた。
「いっらっしゃい‥‥んん?‥‥あんた、別世界の人間かい?初めて見たよ‥‥その、別世界の人間は、随分だらしない体型してるんだね」
いきなりディスられた森川は、ブラック企業に勤めていた時代の愛想笑いで返事をする。
「えへへ‥‥いやぁ、こんな不摂生なのは私ぐらいですよ」
へーこら、とペコペコ頭を下げる。
「ふーん、そうかい‥‥それでなんの用だい?‥‥お金は持ってるんだろうね」
猫耳の生えた意地悪そうなおばさんが、怪しむように森川を睨む。
森川は握った銀貨を慌てて見せつけた。
「ありますッ!その、これで菓子折りのような物を見繕っていただけないでしょうか?」
森川がカウンターの意地悪そうなおばさんに銀貨を手渡す。
「へぇ‥‥あんた、見かけによらず金持ちじゃないか‥‥そうだね、これなら保存も効くしちょうど銀貨1枚だ」
手の中に収まるサイズのビンの中にはキラキラと輝く金平糖のようなお菓子が詰まっていた。
「ありがとうございます‥‥これ、もらいます」
森川はペコペコと頭を下げて、道具屋を後にした。
夜、犬のような遠吠えに釣られて、犬が鳴き、それが連鎖的にずっと続いていた。
モンスター‥‥こんな夜道を襲われたら一溜りもないな、と身震いさせる。
電柱に備え付けられた街灯と、ランプのような異世界の光源を頼りに、森川は記憶を必死に頼って目的の場所に向かう。
聞く話によると、怪獣の中心点であった小さな地方都市は異世界の一部と融合してしまい、場所の次元が歪み、土地が広がっているようだった。衛星観測では土地の広さは変わっていないが、実際の土地は2倍ほど面積が広がっているとのことだった。
森川は一度、訪れたはずの道が想像よりも長く、遠く離れていることにうんざりしていた。
なんとか、目的の場所にたどり着く‥‥そこは、平凡な現代的な民家だった。
森川は生唾を飲み込み、インターフォンを鳴らす。
すると、玄関のドアが開き、白髪混じりの女性が出迎えてくれた。
「あの‥‥森川です。その‥‥息子さんに会いに来ました」
女性は微笑み、「はい、聞いてますよ」と家の中へ促してくれる。
「2階の部屋にいますから、上がってください‥‥息子にこんな目上の友達ができたなんて‥‥YouTubeってすごいのねえ」
女性は感心したように頷き、口にした。
「‥‥えぇ‥‥はい‥‥」
森川は涙でボケる視界を必死に隠しながら、階段を駆け上がった。
階段を登った先にあるドアをガチャリ、と開けると‥‥不健康そうな細身で小柄な少年‥‥【闇系チャンネル】がスマホをいじっていた。
パーカーを深くかぶった男の子は‥‥廃墟のボーリング場で見かけ‥‥そして、果物ナイフで刺した時よりも、痩せほそり、疲れているようだった。
森川32歳、小太りな無精髭は‥‥闇系の言葉を待たずに、その場に土下座をする。
頭を部屋の床に擦り付けて、ひれ伏して謝罪の言葉を絞る。
「申し訳ないッ!‥‥私は‥‥どうかしていた‥‥何故か、【闇系チャンネル】に嫉妬し‥‥君を刺してしまったッ!‥‥刃渡り5センチの果物ナイフで‥‥背中から脇腹をッ!‥‥そして、怖くなって逃げてしまった‥‥あの晩は眠れなかったッ!‥‥布団の中で血の気が引き、冷静になっていく頭が‥‥私が人を殺した事実を鮮明に‥‥鮮明にしていき‥‥私は夜が明けて‥‥取り返しのつかないことをしたッ!と、気付いたッ!‥‥しかしッ!‥‥私が警察に自首し、罪を告白をしようとしたら‥‥君はッ!‥‥【闇系チャンネル】はいつものように‥‥動画を更新したッ!‥‥最初は予約投稿だと思った‥‥だから、そのうち、ぴたりと配信は止まり‥‥君が死んだと確認する‥‥そう思っていたッ!‥‥でも、動画の投稿は続いたッ!‥‥君は異世界から動画を投稿し‥‥そして、【世界の終わり未遂】まで‥‥動画を投稿したッ!‥‥私はもうどうしたら良いか分からなくなった‥‥だから、TwitterのD Mで君と連絡をとり、こうしてお邪魔させてもらった‥‥これは、途中で買った異世界の菓子折り‥‥その‥‥こんなんで許されるわけはない‥‥この後、すぐに警察に出頭する‥‥その前に‥‥君に謝りたかったッ!‥‥本当に申し訳ございませんでしたッ!」
森川が頭を床に擦り付けたまま「うぅ‥‥」と嗚咽を漏らす。
気が気じゃなかった‥‥生きた心地がしなかった‥‥しかし、男の子が目の前で生きている事実と、こうして謝罪できたことの安心感で森川はボロボロと涙を溢した。
「‥‥大人の涙はこの世で一番‥‥めんどくさい。顔あげろよ‥‥【森川オカルトチャンネル】のおっさん」
チャンネル名を聞き、森川がブワッ!と顔を上げる。
「え?‥‥どうして‥‥私のチャンネルを知ってるんですか?」
闇系は「ふぅー」とめんどくさそうに、肩で息を吐き出した。
「‥‥おっさんのことは許す‥‥だから、警察に行くな‥‥これは、命令みたいなもんだから正義感に囚われて、勝手に自首するな‥‥」
「いやッ!‥‥そんなわけに‥‥」
「まあ、聞け‥‥俺はおっさんに一度‥‥命を助けられている‥‥5月の初めだったよな、【森川オカルトチャンネル】の初投稿の‥‥あの、音声だけでおっさんが、ボソボソとまとめサイトの都市伝説を読み上げるだけの‥‥クソみたいな動画‥‥俺、その動画見て‥‥YouTubeやろうって思ったんだ‥‥なんかさ、おっさんみたいなゴミクズ人間でも‥‥YouTubeやっていいんだって思ったら‥‥もう少し、生きて‥‥YouTubeやってみようって思えたんだ‥‥だから、俺は‥‥俺はッ!‥‥おっさんに命を一回、救われているッ!‥‥貸し借り0だッ!」
「‥‥見ていてくれていたのかい?‥‥私のあんな‥‥クソみたいな動画をッ!」
「見ていたさ‥‥誰でも見れるッ!‥‥それがYouTubeだッ!‥‥コメントも残したッ!‥‥『いい声ですねw』って」
「ええッ!‥‥あのコメントは君だったのかッ!‥‥でも、ミルキーって名前で‥‥」
「サブアカだッ!‥‥俺はここだけの話‥‥今でもサブアカでコメントの自演をしているッ!」
「‥‥それで、【闇系チャンネル】にミルキーがコメントの残していたのか‥‥でも、ミルキーって名前は‥‥その‥‥君らしくない」
「白居雲道‥‥しろい、くもみち‥‥俺の名前、なんか白っぽいだろ?‥‥だから、ミルキー‥‥そんなもんだろ‥‥名前なんて。ちなみに、ミッフィーは単純に好きだからだ」
「そうか‥‥私と君は‥‥出会っていたんだな‥‥」
「あぁ‥‥だからさ、気にするなよ‥‥あんたのこと、未来の自分を見ているような気がして不安になるんだ‥‥だから、なんつーかさ‥‥次、会う時はコラボしようッ!」
「チャンネル登録者数180万人の【闇系チャンネル】とコラボッ!‥‥そうか‥‥そうか‥‥私は頑張るよ‥‥君とコラボしても恥ずかしくないぐらいになるよッ!」
「おうッ!‥‥まあ、俺はしばらく【闇系チャンネル】を休止するつもりだから、再開したらすぐコラボしようッ!」
森川は「えッ!どうして休止だなんて‥‥」と口にしたが、すぐに察する。
浅い呼吸‥‥目の前の男の子は、どう見ても‥‥不健康な小柄で細い‥‥男の子だった。
「‥‥分かった‥‥必ずコラボしようッ!‥‥絶対に、絶対に‥‥コラボしようッ!‥‥私と約束してくれ‥‥絶対に帰ってきてコラボして欲しいッ!」
「‥‥それまで、頑張ってチャンネル登録者数増やせよな【森川オカルトチャンネル】」
「頑張るッ!‥‥やるッ!‥‥やってやるよッ!‥‥【闇系チャンネル】!ッ」
闇系チャンネルの時間です。
今日は‥‥重大発表だッ!‥‥あの、動画を開いた瞬間に肩を落とすような釣り動画だッ!‥‥まあ、見たいやつだけ、見て欲しい。
見ての通り‥‥俺はクソガキだ‥‥学校にも行ってない‥‥ずっと、部屋に引きこもって世界を狂った呼ばわりする‥‥どうしようもない15歳さ。
15歳って何してた?‥‥たぶん、殆どの奴は進路とか、部活とか‥‥そういうの思い出すんだろうな‥‥でも、俺の動画を見てくれてる奴にはさ‥‥俺と同じで、学校にも行かず‥‥一日中YouTube見たり、ゲームしたり‥‥そうゆう奴も結構、いるんだよ。
学校に行ってても‥‥死にたくなるぐらい、しんどい奴だっているんだよ。
なんつーか‥‥俺もそうだよ?‥‥って、知って欲しくて‥‥俺を見て欲しくて‥‥たぶん、YouTuberになったんだ‥‥いや、わざわざ説明する必要もないか。
俺さ‥‥生まれてからずっと‥‥あぁ、もうずっとだよ‥‥病気でさ‥‥長くないって‥‥あ、これは釣りとかじゃなくて本気で‥‥マジで‥‥いつ死んでもおかしくないってゆわれてたんだ。生まれてすぐに、いつ死んでもおかしくないって?‥‥笑えるだろ?‥‥まるで、死ぬために生まれてきたみたいだろ?
でも‥‥俺は15歳になった‥‥いつ死んでもおかしくないのに‥‥15歳まで生きてしまった‥‥15歳になったら‥‥今度は半年で死にますって余命宣告を受けたッ!
だったら、もっと早く殺してくれよッ!無意味に長引かせるなよッ!
俺の人生、生きるとか死ぬとか‥‥そんなくだらないことで振り回すなよッ!
‥‥俺は死ぬつもりだった‥‥生きるとか死ぬとかめんどくさいからさ‥‥存在から消し去って欲しかったよ。
でも‥‥さ‥‥YouTube、始めちゃったんだよなあ‥‥。
『動画を見る前から高評価しました』って馬鹿とかさ、『学校で嫌なことあっても【闇系チャンネル】見たら忘れられます』って馬鹿とかさ、『闇系みたいな素直な男になりたい』って馬鹿とかさ‥‥どいつもこいつも馬鹿ばっかッ!
馬鹿すぎて‥‥好きになっちまっただろッ!
お前らと離れたくないって思っちまっただろッ!
そんなに優しくするなよッ!‥‥どうすんだよッ!
‥‥俺、死にたくないよ‥‥生きて‥‥生きて、生きて、生きて‥‥お前らみたいな馬鹿と‥‥ずっと馬鹿したいよッ!
あぁ‥‥生きるとか死ぬとか‥‥クソくだらねえなあ。結局‥‥また、振り回されてる。
‥‥生きるよ‥‥俺‥‥生きて、また【闇系チャンネル】‥‥に、動画投稿するよ‥‥そうだな‥‥今度は怪獣よりも、すげえネタ見つけてきて‥‥また、お前らと馬鹿騒ぎ出来るように。
‥‥【闇系チャンネル】は活動を休止するッ!
じゃあな、──‥‥‥‥。
8月7日‥‥正午‥‥4人部屋の病室、点滴に繋がれて、不健康そうな少年は窓の外の【新しい世界】を眺めている。4人部屋には一人しか患者はいなかった。
少年は大きな手術を来月に控えており、まずは体力をつけるために、栄養を管と針から供給され続けている。
少年は‥‥闇系は‥‥白居雲道は‥‥星柄の入った子供っぽいパジャマで、【新しい世界】を見つめている。
点滴って音しないんだな。少年はそんなことを考えていた。
病室の物静かな引き戸が開く。
幾何学的な模様の装飾‥‥と云うより、体の一部が幾何学模様をした無表情な幼女がテクテクと雲道のベッドの横に立つ。
「‥‥ボクは【法則性】初めまして。【バックアップ】と云う個性の器を使わせてもらって君に会いにきた‥‥一つだけ、教えて欲しい‥‥君は怪獣の顔が女神と同一であること‥‥いいや、女神の加護を受けた2月に怪獣を認識して、すぐに‥‥君が【集団心理】と呼んだ女神と、怪獣が同一の存在であると‥‥直感的に気付いていたはずだ‥‥どうして、頭の中に巣食う【集団心理】に『お前は怪獣そのものだッ!』と糾弾しなかったんだい?」
少年は点滴を見つめたまま静かに答える。
「フンッ‥‥承認欲求はな‥‥指摘されると死にたくなるんだ‥‥だから、あいつから話してくれるのを待っていた‥‥それだけだ‥‥俺もそうだったからな」
「そうか、だから君は‥‥1話目から答えが出ていたんだね‥‥うん、ありがとう‥‥世界の終わりに向けて収束と帰結する【法則性】が作用しなかった理由が分かったよ‥‥女神の本音を‥‥君の気遣いを‥‥ボクは想定していなかった‥‥」
「そうかい」
「うん、やはり‥‥君をなんとしても殺すべきだった‥‥世界で一番危険なのは、君だったんだね‥‥もちろん、殺しはしない‥‥殺さなくても、君はもうすぐ死ぬ‥‥君は死ぬと云う収束と帰結に向かっていってる‥‥君は‥‥絶対に死ぬ」
「そうかい‥‥せいぜい、足掻いてみるよ」
次の瞬間、【法則性】はいなくなっていた。
病室の物静かな引き戸が開く。
【素直な良い子】シンシアと【嘘が嫌い】オーフェリアが病室に訪れる。
「闇系先輩ッ!見てください‥‥【異世界姉妹チャンネル】のチャンネル登録者数千人いきましたッ!」
シンシアが素直な笑顔で口にした。
「ただ‥‥アンチコメントが多くて‥‥どうしたら‥‥」
オーフェリアが悩ましげに口にした。
「アンチは二種類いる‥‥好きの裏返しなアンチと‥‥他人のコミュニティで自分の承認欲求を満たそうとする害悪‥‥前者の意見はしっかり聞いとけ‥‥害悪は他人の人気に便乗して、自分を認めて欲しいだけだから‥‥無視しとけッ!」
二人が満面の笑みで首を縦に大きく振る。
「はいッ!」
病室の物静かな引き戸が開く。
中性的な小柄な鷲津たら子と2メートルを超える坊主の大男ドテチンが病室に訪れる。
「初めまして、鷲津たら子です。【闇系チャンネル】に一度、会いたいと思っていたんですよ」
「ドテチンッ!」
「あぁ?‥‥熱狂的な信者か?」
「まあ、そんなところです‥‥闇系少年‥‥来年、私たちの高校に入学してください‥‥いや、入学させます‥‥そして、私と友達になってください‥‥YouTubeのネタに困らない素敵な毎日を約束します」
「‥‥俺が学校に通ったら‥‥キャラがブレるだろッ!」
「アハハッ!‥‥やはり、闇系少年は面白いッ!‥‥私は必ず、友達になってみせましょう‥‥フフッ‥‥では、お体に触りますので、この辺で」
「ドテチンッ!」
病室の物静かな引き戸が開く。
【負けず嫌い】のリュカが、【現代的な冒険】で仲間にした4人を連れて、病室に訪れる。
「やあ、悪いね‥‥ゾロゾロと会いに来てしまって。どうしても、闇系に会いたいってきかなくてね」
「これが‥‥勇者様を倒して、その勇者様を倒した救世主を倒した‥‥闇系ですかッ!?‥‥あちしでも勝てそうですッ!」
犬耳亜人のトラベルが口した。
「こら、トラベルッ!‥‥その‥‥見た目で判断してはいけませんッ!‥‥勇者様だって、最初は泣きながら走っていたわッ!」
エルフ族の騎士【意固地】なディーナが口にした。
「でも‥‥今にも死にそうに見えるけど‥‥」
亡国のお姫様の姉【お利口】シエスタが口にした。
「‥‥魔力も感じませんわ」
その妹【泣き虫】ヒーヤが口にした。
「やめないかッ!‥‥闇系さんは‥‥僕のヒーローなんだッ!‥‥闇系さん‥‥今度、一緒に冒険しませんか?‥‥イージーな冒険を考えておきますから」
リュカがそう口にすると、闇系は「ケッ!」と鼻息を吐き捨てた。
「俺は‥‥俺は‥‥冒険には行かないッ!」
病室の物静かな引き戸が開く。
長い前髪で瞳を隠した琴吹彩夏と、長い青髪の不機嫌そうな有栖川ハイドと、ボブヘアーに小動物のようなクリクリした瞳の【半霊人】のエルザが病室に訪れた。
「闇系先輩見て‥‥Vtuberの絵‥‥ライブ2Dで作った‥‥アプリで動かして‥‥YouTubeまたやるッ!」
鼻息をフンスカと鳴らし、エルザが口にした。
「‥‥絵はプロの方に依頼して‥‥アプリの設定なんかは私がすることになったんです‥‥その闇系さんに負けないように‥‥」
彩夏がオドオドと口にした。
「あたし?‥‥あたしはYouTubeなんかやらないわよッ!‥‥こっちが落ち着いたら、旅に出るんだから‥‥まあ、世界を行き来できるようにしてくれた事は、闇系君に感謝してるわ」
「知るかッ!」
「はいはい‥‥口の利き方は高校生になるまでに勉強しましょうね‥‥高校では、先輩後輩になるんだから‥‥会長だけじゃなくて、みんなあなたの入学を待ってるんだから」
「俺は高校には‥‥行かないッ!」
「はいッ!‥‥闇系さんは高校に行く必要なんてありませんッ!‥‥闇系さんは学校システムに縛られませんッ!」
「えー‥‥わたしは闇系と‥‥高校でYouTubeしたい」
「えッ!?‥‥闇系さんと高校でYouTubeッ!?‥‥それは、確かにッ!」
「ヒュー♡闇系君、モテモテじゃん」
「俺は高校には行かないからなッ!」
病室の物静かな引き戸が開く。
この世界の生物とは思えない絶世の美人‥‥一般的な衣装を着た女神が病室に訪れた。
「‥‥ねえ、気付かない?」
「気付かない」
「わたし、人間になったのッ!‥‥YouTubeもすぐに始めるわッ!‥‥この美貌で、チャンネル登録者数200万人なんてあっという間よッ!」
「はぁ‥‥顔で伸びるのは、せいぜい10万がいいとこだな‥‥再生数を稼ぐために、日に日に際どい衣装になっていくお前の未来が見えるッ!」
「見てなさいッ!‥‥闇系にコラボさせて下さいって、頭を下げさせてやるんだから」
「俺のチャンネル登録者数を超えたらな」
「‥‥それで、一つお願いがあるんだけど‥‥わたしはもう女神じゃないわ‥‥だから、その‥‥名前ッ!‥‥あなたに名前を付けて欲しいの‥‥その、あなたじゃないとダメな気がするから‥‥」
「よしッ!じゃあ、『うん子』だッ!決定ッ!‥‥今から、お前はうん子ちゃんなッ!」
「はあーーーーーッ!?‥‥ふざけないでよッ!‥‥こっちは真剣に頼んでいるのよッ!」
「うるせえッ!‥‥名前なんて大切なもん‥‥他人に委ねるなッ!」
「あんたが委ねろッ!って教えてくれたんでしょッ!」
「それと、これとは別だッ!『うん子』が嫌なら‥‥名前ぐらい自分で決めてみせろッ!」
「はいはい‥‥あなたはそうゆう奴だったわ‥‥」
不意に窓の外‥‥【新しい世界】から風が吹いた。
風は女と少年の頬を撫でていく。
「‥‥なあ」
「‥‥なによ」
「たくさん‥‥人が来たんだ」
「そうね‥‥あなたはちょっとした有名人だからね」
「もしかして俺ってさ‥‥冒険してたのかな?」
「そうね‥‥たくさん出会い‥‥強くなり‥‥そんな冒険をしてたわね」
「そっか‥‥俺は冒険してたんだなぁ」
「まだまだ冒険は続くわよ‥‥だから、死なないでよ」
「‥‥分かった」
少年はゆっくりと、うなずいた。




