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世界世界世界  作者: YB


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2/20

#02 個性に騙されたから今がある

 異世界に存在するパーソナリティー学園の入学儀式は、教室で一つ折りの紙を渡されてから始まる。16歳、まだ無個性な彼の名前はリュカ。

 いや、別にリュカだけが特筆して無個性なわけではない。本日、入学した全ての1年生が例外なく無個性だった。何故なら、この異世界にパーソナリティーはない。人は皆、無個性で生まれ、無個性で育ち、16歳になって学園に入学し、一つ折りの個性を授けられる‥‥文化。つまり、そういう世界の理。

 西洋風‥‥云わゆるバロック風のファンタジーにありがちな教室、その一席で、リュカは自分の個性が描かれている紙を広げた。

名前:リュカ 性格:負けず嫌い 職業:城門の兵士 

設定:真面目な努力家だが、熱くなると周りが見えなくなる

 折り目のついた上の部分を読み上げ、リュカは「そうか、自分は負けず嫌いなのか」と悟る。疑問も感動もない‥‥あるのは、単純な納得。

 教室にいる他の新入生三十数人もリュカと同じ気持ちだ。

 それほどまでに、誰も彼も彼女も、右も左も無個性。それが、この世界の文化で習慣。

 リュカは続けて、折り目の下の方へ目をやる。

16歳:学園に入学し、体力をつけ、剣術に励む

18歳:学園を卒業し、王城の兵士に採用され、主に城門を守衛する

20歳:学園の同級生で、親交のあったシンシアと結婚する

21歳〜:シンシアと生活を営み、その命尽きるまで城門を守る

 リュカはまた、納得する。自分の人生、とりあえず5年‥‥。そうすれば、あとはシンシアと云う同級生と暮らし、城門を守るだけで役割を全うできる。

 そう、5年で自分の人生は安定期に入るのだ!

 先ほどまで無個性で、自分の考えを持たなかったリュカが、生まれて初めて自分を‥‥個性を意識する。

「僕はリュカ。負けず嫌いな兵士‥‥になる、今はただの学生」

 風が吹いたような気がした。それは、自我が芽生えたことによる心の揺れ動きだが、教室で気付いたのは教壇に立つ先生のみ。先生は小さな丸メガネをした髪の長い熟年男性だった。

「皆さんに個性、そして役割が与えられました。この学園では、その与えられた個性を‥‥演じ続けてください。そうすれば、個性は‥‥馴染みます。何者でもない皆さんが、役割をこなす者になれます」

 リュカたち、新入生は背筋をピンとして話を聞いていた。

「個性は‥‥ブレてはいけません。じゃないと、また‥‥何者か分からなくなる。自分を演じ続けてください‥‥それが、人生!それが、生存!つまり、この世界で生きるとゆことです」


 入学儀式が終わり、オレンジ色の斜光に照らされた廊下を歩いているリュカに、肩にかかる程度のブロンドヘアーの無個性な少女が声をかける。

「初めまして、私はシンシア‥‥リュカ、君?で、いいかな‥‥私とあなたは親交を深める必要があると思うんだけど。その認識は間違っていないかしら?」

 リュカはどう返答すれば良いか迷う。しかし演じる。負けず嫌いで真面目で努力家の自分を。

「初めまして、シンシア‥‥リュカでいいよ。あぁ、僕も君と話さなくてはと思っていたよ」

 シンシアが胸を撫で下ろす。

「‥‥私は【素直な良い子】なの‥‥その、上手く演じられているかしら?」

 リュカは手を差し出し、こう答える。

「大丈夫‥‥仲良くしよう」

 シンシアがその手をとり、素直に答える。

「えぇ!」


 パーソナリティー学園の寮の1階フロアにはサロン室があって、そこは個性を演じ始めた学生の溜まり場になっていた。

 シンシアとひと時の親交を深め、帰りが遅れたリュカはサロン室の一角の人だかりに気付く。

 そもそも、つい先ほどまでは無個性だった子供たち。人だかり、だが大人しく静かに何かを見つめていた。リュカもその普通じゃない様子に、人だかり、の視線が交錯する点に目をやる。

 そこには、ブラウン管タイプの古いテレビが置いてあり、どうやら別世界の映像シグナルを受信しているようだった。テレビの中で目の下を暗く変色させた目つきの悪い‥‥生きとし生けるもの全てを恨むような目つきをした、同い歳ぐらいの子供が呪詛のように語りかけていた。

『俺は‥‥俺なのか?そもそも、俺である必要があるのか?おい、道徳教育‥‥お前らが教えた個性は‥‥その、なんだ‥‥個性は役に立つのか?順位や優劣がない社会になったのか?個性が‥‥個性的とゆ勘違いが、怪獣を見えなくしてるんじゃないか?』

 リュカには闇系の言葉が理解できない。しかし、見入ってしまう。熱‥‥その熱は、灼熱できっと、みんな焼かれてしまう‥‥。


 投稿動画数20  総再生数2500万回  チャンネル登録者数32万人

【闇系チャンネル】は2週間足らずで、都市伝説系オカルト気狂いYouTuberとして、すでに人気になっていた。真に迫る語りと、怪獣について考察しながら子供の主張で社会に切り込んでいく‥‥つまり、おかしな奴だった。

 闇系は今日も18℃にエアコンを効かせた自室で引きこもっている。

「フハハハッ!俺は‥‥俺は、勝ったぞ!スマホで撮った自己主張しただけの動画がバズって、広告費さえ入れば‥‥俺は部屋から出なくてもいいッ!」

『YouTuberなんて仕事、長く続かないわ、今だけよ』

 闇系の頭の中に巣食う【集団心理】が嫌味を口にする。

「確かに‥‥確かに、YouTuberは皆、そうゆう‥‥自分たちの仕事なんて、いつまで続くか分かりません‥‥と。しかし!しかし!そんなの、どの仕事でも一緒だろ!」

 闇系がベッド布団をバンバンと叩く。

『分かったわ。わたしはこう見えても協力的なの‥‥とりあえず、猫を飼いましょう。そして、猫の何気ない日常を動画にするの』

「おい、集団心理‥‥お前らは命を何だと思っているんだ?猫も生きてるんだぞ?YouTubeの再生数のために猫を飼うのは‥‥色々と‥‥違うだろ!」

『ごめんなさい‥‥そこまで気が回らなかったわ。じゃあ、筋トレをするのはどうかしら?食事や睡眠についてもググればいくらでも話せるでしょう』

「おい、集団心理‥‥それじゃあ、自堕落な生活ができないだろ!お前らは何も分かっちゃいない‥‥俺はドローンを飛ばさないぞ!ドローンを飛ばすとゆ‥‥リスクはとらない‥‥引きこもりながら、ただ愚痴を語る動画で‥‥YouTubeドリームを手にする!」

『街の喧嘩自慢と戦いましょう。そうすれば、きっと‥‥』

「やめろ、集団心理!俺は‥‥一生、このままでいいッ‥‥」

『怪獣はどうするの?』

 闇系の時間がぴたりと止まる。目がギョッと見開き、そこにいない集団心理を睨みつける。

「怪獣は‥‥教えてやってるだろ!YouTubeで何回も、何回も!あとは、お前らの仕事で‥‥俺は、一市民として、怪獣の危険性を周知させるとゆう、圧倒的な貢献をしているだろッ!」

『あなたの動画はただの与太話にしか思えないのだけど』

「受け取り方は、俺じゃねえ‥‥お前らの自由だ!俺は、一市民として、ヤバいって伝える‥‥あとは、集団心理‥‥お前らの問題だろ!」

『‥‥‥』

 フンッと鼻息を鳴らし、闇系はベッドに寝転びアイフォンを手にして、Twitterを確認する。

 フォロワー数が10万人を超えている。しかし、怪獣を本気で危険に思っている奴はこの中に1人もいない。救われない‥‥俺の頑張りは、広告費で還元されはするが、東京タワーよりも高くて、スカイツリーよりも少し小さい怪獣は‥‥解決しない‥‥だから、俺も世界も救われない。Twitterを適当に眺めていると、闇系のアカウントにDMが届く。

『ボクは【風のエルフチャンネル】のウィンドウです。闇系さんがよろしければ、コラボしませんか?ボクのチャンネルのリンクを貼っておきます』

 闇系は初めてのコラボの誘いに心が躍る。アイフォンを操作して、リンク先に飛ぶと、【風のエルフチャンネル】が表示される。闇系はウキウキしながら、動画をクリックする。

「ヒュルルルル!どーも、ウィンドウです!今日は皆さんにボクの得意な風魔法を披露したいと思います」

 それは、異世界帰りの子供の1人だった。爽やかな中性的な男の子だった。魅了する流暢な声で、手のうえで小さな竜巻を起こし、それを飛ばしペットボトルを真っ二つにした。

「CGではありませんよー!えっと、ボクは半年前の昏睡事変の被害者の1人で‥‥実は異世界に行っていました。魔法はそこで覚えたものです‥‥テヘヘ」

 闇系は驚愕する‥‥魔法!そして、男前!メンヘラな女が飛びつきそうな、男前!

 自分がコイツとコラボしている絵が思い浮かばない。

『コラボはやめておきなさい。魔法なんて‥‥危険だわ』

 また、頭の中の【集団心理】が問いかけてくる。

「うるせえ、黙ってろ!お前らは、あれだろ!俺を天邪鬼だと思い込んでる‥‥だから、本当はコラボさせたいが、あえて‥‥ここは、あえて、やめておけと忠告している」

『そんなつもりは‥‥』

「集団心理、お前らは‥‥事あるごとに‥‥冒険させようとする!俺は‥‥お前らに‥‥乗らない!何故なら、お前らは結局のところ‥‥自分の事しか考えていないからだッ!」

『勝手にしなさい』

「あぁ‥‥しかし、風のエルフチャンネルとはコラボ‥‥するッ‥‥何故かって?そんなの簡単さ‥‥向こうの方がチャンネル登録者数が多いッ!YouTuberは‥‥チャンネル登録者数には‥‥勝てないッ!」

 闇系がついに外に出る覚悟を決める。それは、YouTuberの宿命‥‥どんな相手であろうと、チャンネル登録者数で立場が決まる。登録者数が少ない奴には‥‥決定権すらない!

 闇系の覚悟とは裏腹に、彼の頭に巣食う【集団心理】が『ようやく‥‥』と呟く。

 そう、ちょっとずつ世界は‥‥進んでいる。




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