#19 世界世界世界
ねえ‥‥別に‥‥聞いてくれッ!‥‥なんてお願いしないわよ。だって、あなたはわたしになんて興味ないでしょ?毎日‥‥毎日‥‥あなたに興味を持ってもらおうと‥‥たくさん‥‥本当にたくさん‥‥色々考えているのよ‥‥少しでもあなたに振り向いて欲しくて。
でも‥‥あなたはインターネットに夢中で‥‥わたしの話を一つも聞いてくれなかった。
怒ってないわよ?‥‥わたしがあなたに一方的に話しているのは‥‥理解してる‥‥理解してるのよ‥‥わたしの物語になんか‥‥“誰も興味がない”って。
そうね‥‥『自分語りは悩みと感心』ってあなたの言葉‥‥ようやく意味が分かったわ。
これからする自分語りは‥‥わたしの個人的な“悩みと感心”よ。
ねえ‥‥知らないでしょ?‥‥あなた達が地球で暮らすより昔の話。
世界は最初ね‥‥【初まりの世界】しかなかったのよ。
そこには、たくさんの神様とたくさんの無個性な人間しかいなくてね‥‥たくさんの神様はみんな、無個性な人間が好きだったのよ。
ある日、一人の神様が人間に個性を与えたわ‥‥他の神様は怒り狂ったのよ‥‥『我々の愛する無個性な人間に個性を与えるとは何事だッ!』って。
でも、たくさんの神様は個性を持った人間をすぐに愛するようになり、たくさんの無個性の人間の半分は、個性的な人間になった。
個性的にならなかった無個性な人間は‥‥少ない神様が、無個性な人間も愛されるべきだと主張して‥‥別世界へ移住することになった。
その時に作られたのが‥‥【時空剣】よ。世界を繋ぎ‥‥世界を破壊する剣。
少ない神様は【時空剣】でクロノスタシスと【現実世界】を繋ぎ、無個性な人間と一緒に地球‥‥【現実世界】へ移った。
それが、あなた達の遠い先祖の‥‥誕生の出来事よ。
わたしは‥‥そう‥‥これは、わたしの自分語りだったわ‥‥わたしはね‥‥ずっーと‥‥見ていたのよ‥‥慈愛に満ちた微笑みで‥‥たくさんの神様も‥‥たくさんの無個性な人間も‥‥たくさんの個性的になった人間も‥‥。
あのね‥‥わたしは“見ているだけ”で良かったの‥‥ずっと‥‥ずっと‥‥。
神様と人間が愛して止まないその一部始終を‥‥わたしは永遠と見つめているだけで‥‥満足だったのよ。
だからね‥‥たくさんの神様がたくさんの個性的な人間と一緒に生きるために‥‥神様をやめて人間と暮らすことを選んでも‥‥わたしは理解できなかった‥‥だって、人間と暮してしまったら‥‥もう、見つめ愛でることはできなくなるのよ?
そんなのわたしには耐えられない‥‥わたしは人間を愛し続けるために‥‥見つめるために‥‥神様をやめなかった。
そして、【初まりの世界】と【現実世界】から神様は消えた‥‥たくさんいた神様は、わたし以外みんな‥‥人間として暮らすことを望んだのよ。
何万年か、何十万年か‥‥わたしはずーっと見つめていたわ‥‥【初まりの世界】で人間を。
たくさんの神様から【個性管理センター】を任されて、【初まりの世界】の無個性な人間の体を製造して、個性を与えるとゆうシステムに異常が起きないか‥‥わたしはその役割を果たしながら‥‥個性的な人間を見つめ続けていたわ。
そしたら‥‥怪獣を産んでしまった。
最初は小さな‥‥赤子の手ぐらいしかない‥‥小さな怪獣を産んでしまったのよ。
わたしは慈愛に満ちた微笑みで‥‥人間を見つめていただけなのに‥‥何故か怪獣を産んでしまった。だから、わたしは【初まりの世界】で人間を導き怪獣を倒してもらうことにした。
怪獣は倒しても‥‥倒しても‥‥倒しても‥‥時間が進むと‥‥大きくなって‥‥わたしから産まれるの‥‥人間が好きなはずのわたしから‥‥。
いつの間にかね‥‥雲よりも大きな怪獣になってしまって‥‥倒しても【巨神の像】として【初まりの世界】に残るようになった。それから、【巨神の像】と崇められても‥‥わたしの産んだ怪獣は‥‥日に日に‥‥ちょっとずつ‥‥大きくなり‥‥大きくなり‥‥。
そして、半年前に【現実世界】に存在を共有するまで大きくなってしまった。
大きくなり過ぎた怪獣は、【初まりの世界】を溢れて、ついに【現実世界】にまで存在を伸ばしてしまったの。わたしは焦ったわ‥‥だって怪獣は‥‥世界を終わらせてしまうのよ?
わたしの産んだ怪獣が‥‥たくさんの無個性と少ない神様で移住した、クロノスタシスで繋がる【現実世界】まで‥‥壊してしまうなんて‥‥。
わたしは‥‥パニックになり‥‥恥ずかしくなり‥‥人間達の記憶から怪獣を消し去り‥‥存在すらも‥‥認識できないような‥‥強力な精神魔法を使ったわ。
後から気付いたんだけどね‥‥半年より前に戻れないのは‥‥わたしの精神魔法の影響なの‥‥笑ってもいいのよ‥‥頭を隠してお尻を見せるのが恥ずかしいから‥‥みんなに目隠しをしたのよ‥‥愚かでしょ?‥‥何回でもゆうわ‥‥笑ってもいいわよ。
そして、998回世界を救う導きを繰り返し、999回目をこうして‥‥あなたと最後の時を過ごしているわ。
上手にできたかしら?‥‥わたしの自分語り‥‥“悩みと感心”は伝わった?
時刻‥‥正午‥‥小さな地方都市にある私立特別支援高校のグランドには、数人の生徒を除いて、【異世界帰りの子供達】全員が勢揃いし、整列していた。
生徒達は全員、“異世界の装備”で身を固めていた。
前に立つのは生徒会長の中性的で小柄な鷲津たら子。拡声機を使い、声を遠くまで響かせる。
「怪獣は昨晩、突然目を覚まし、魔力による超高次元のレーザー光線を放ちました‥‥えっと‥‥世界は終わっているはずなのですが‥‥何か‥‥我々では想像もできないようなイレギュラーが起きて‥‥世界はこうして続いています。しかし、今なお怪獣の魔力反応は高まり、次の行動までさほど、余裕はないでしょう‥‥はい、物分かりの良い【異世界帰りの子供達】である皆さんなら‥‥わかりますよね?」
「ドテチンッ!」
たら子の後ろで控える大男が怒号をあげる。
すると、生徒が剣を、槍を、杖を、武器を‥‥地面に叩きつけ「うぉぉぉぉッ!」と雄叫びをあげる。
「注意点1ッ!‥‥怪獣の攻撃は魔力を帯びた攻撃です‥‥回復魔法で治癒できますが‥‥瓦礫の下敷きになるとか、転んで怪我するとかは回復魔法は行使できませんッ!」
たら子が拡声機で叫ぶと、また地鳴りがして「うぉぉぉッ!」と規律正しく生徒たちが雄叫びをあげる。
「注意点2ッ!‥‥気付いている方もいるかも知れませんが、小さな地方都市に暮らす住人は、強力な精神干渉で“町の外に出る”ことができません‥‥【大人】の警察・消防・自衛隊が必死に避難活動をしてますが‥‥間に合わないでしょう‥‥私たちの背中には、一般市民がいると思って戦いますッ!」
「うぉぉぉぉッ!」
「注意点3ッ!‥‥えっと‥‥異世界から帰ってきて‥‥ぶっちゃけ、皆さん退屈していたでしょ?‥‥もう、燻るのは飽きましたよね?‥‥魔法、やっちゃいましょうッ!‥‥この退屈で窮屈な【現実世界】で‥‥魔法、ぶっ放してやりましょうッ!‥‥きっと、世界が続けば【大人】がうるさいでしょうが‥‥その時は‥‥私に考えがありますッ!‥‥なので、気にせず‥‥魔法、使っちゃいましょうッ!」
「うぉぉぉぉぉッ!」
「それでは皆さん‥‥そうですね、魔王討伐が推奨レベル80なら‥‥怪獣討伐は‥‥推奨レベル300ってとこでしょうか‥‥これが本当の、エンドコンテンツですッ!‥‥裏ボスに挑みましょうかッ!」
生徒達がグランドを離れ、怪獣に向かって‥‥動き出すッ!
時刻は‥‥正午‥‥【初まりの世界】のパーソナリティー学園には、各地方から集まったB級・A級・S級の冒険者達が集まっていた‥‥その数、千人以上。
有栖川ハイド【アリス】と琴吹彩夏【アヤカ0602】が指揮をとり、【素直な良い子】シンシアと【嘘が嫌い】オーフェリアと【人懐こい】エルザが冒険ギルドの連絡網に繋げ、怪獣討伐に向けて要請したものだった。
学園の校庭に癖の強い個性の面々が集まる中‥‥前に立つのはまだ、傷が完璧に癒えていない【負けず嫌い】リュカ。メキドのダンジョン20階層の大型の蜘蛛を倒し、さらにアースドラゴンを一撃で屠り‥‥もっとゆうと、三日間の旅すがら、遭遇した魔物を全て刈り取った‥‥まさに勇者の称号に相応しい猛者。
「えっと‥‥僕は【負けず嫌い】のリュカです‥‥その‥‥僕は【勇者】ではありません‥‥たぶん‥‥【負けず嫌い】でもないと思います‥‥えっと‥‥僕は‥‥この世界に生きる人間だと思います‥‥短い旅で‥‥出会いも何もない旅でしたが‥‥夜が更け‥‥水平線の向こうから日がゆっくりと浮かび‥‥夜と朝の中間の‥‥紫に世界が染まる時‥‥僕はこの世界を好きになりました‥‥だから、僕は今から一人の人間として戦います‥‥この【初まりの世界】が好きだから‥‥怪獣に立ち向かいますッ!」
リュカが風魔法を行使し、音が拡散する魔法を使ってそう伝えると‥‥冒険者たちは剣を、槍を、杖を、武器を‥‥地面に叩き付け「うぉぉぉぉッ!」と雄叫びをあげる。
「そのッ!‥‥後悔がないように‥‥世界を守りにいきましょうか?」
「うぉぉぉぉッ!」
冒険者の中には急いで追いかけてきたトラベル達の姿もある。リュカの後ろでは、シンシアとオーフェリアもその勇姿を見守っている。アリスがスマホで鷲津たら子と通話していた。
「会長‥‥はい‥‥こちらも行動に移るわ‥‥にしても、世界を股にかけた同時作戦なんて‥‥たら子には勝てないわ」
長い前髪で瞳を隠しているアヤカは「はぁ‥‥」と何度もため息をついていた。
すると、隣にいた【半霊人】のエルザが服の裾を引っ張る。
「闇系だったら‥‥大丈夫‥‥きっと‥‥明日になって‥‥【闇系チャンネル】で今日のことをネタにする‥‥」
「‥‥うん‥‥エルザちゃん、ありがと‥‥」
リュカを先頭に【初まりの世界】の冒険者達が怪獣に駆け足、勇み足で向かう。
「えー‥‥せっかく、学園都市まで走って来たのに‥‥また走るのですッ!?」
「トラベル、旅は駆け足、勇み足‥‥移動こそ冒険だぞッ!」
犬耳奴隷のトラベルの嘆きに、エルフの騎士ディーナが威勢よく返答する。
世界と世界が動いている‥‥【法則性】に従い‥‥世界の終わりに向けて。
一度、確定した世界の運命を変えるなんて【法則性】は許さない。
クロノスタシス‥‥時計の針が止まってみえる場所。グラデーションのない真っ白な空間。
「ねえ‥‥怒ってる?‥‥わたしが怪獣を産んで、わたしが勝手に人間を導いて、わたしのせいで世界が終わること」
「そんなことより、頭の中でぐちぐちぐち‥‥ぐちぐちぐち‥‥ぐちぐちぐち‥‥呪いのように正論を振りかざしたことの方を怒っているッ!あと、異世界に連れてこられたこともなッ!」
「は?‥‥異世界に連れてきたのは、あなたが勝手に死んだからでしょ?‥‥わたしは命を救ったのよ」
「知らねえよッ!‥‥めんどくせぇな‥‥さも当たり前な言葉を正しいと思うなッ!‥‥俺は命を救われたぐらいで、胸がキュン♡として、少女漫画が始まるなんて許せないッ!」
「感謝ぐらいするでしょ‥‥胸がキュン♡とならなくても」
「クソがッ!‥‥感謝する相手ぐらい俺が決めるッ!」
「勝手にしなさい。それで最後の選択に導かれし、えっと‥‥あなた、結局‥‥なんだったの?」
「YouTuber」
「えッ!?‥‥まあ、分かったわ‥‥最後の選択に導かれしYouTuberよ‥‥怪獣を倒すためには【現実世界】か【初まりの世界】どちらかを消滅させないといけないわ‥‥あなたは【現実世界】の住人だけど、【初まりの世界】に知り合いが複数いるわね‥‥慎重に選びなさい」
「俺に聞くなッ!」
「心配しなくてもいいわよ‥‥わたしの可愛いバックアップから【時空剣】を一振りするぐらいの力はもらったから‥‥あなたの選択はわたしが叶えるわ」
「知るかッ!」
「もちろん‥‥どちらの世界も選ぶことができず、ここで絶望にひれ伏しながら‥‥終わりを待ってもいいわよ」
「うるせえッ!‥‥世界の命運ぐらい、てめえで決めろッ!」
「わたしは‥‥無理よ‥‥だって‥‥わたしは【初まりの世界】の人間も、【現実の世界】の人間もどちらも愛しているわ‥‥わたしは自分で決められないから‥‥こうして加護者を導いているのよ」
「俺は人間は‥‥嫌いだッ!‥‥口から物を食べ‥‥顔も‥‥目と鼻がついた不気味な造形も‥‥手なんか最悪だ‥‥5本伸びた指がウニョウニョ‥‥あぁ、気持ち悪いッ!‥‥それが二足足で動き回り‥‥排泄をする‥‥そんな人間‥‥好きになる要素がないッ!」
「あなたも人間じゃないッ!」
「人間が人間を好きだと思い込むなッ!‥‥そうやって‥‥自分たちの‥‥自分の尺度を押し付けてくるな‥‥人間が好き?‥‥勝手にしろッ!‥‥俺は嫌いだッ!‥‥勝手に嫌いだッ!‥‥だから、お互い関わらなきゃいいだろッ!‥‥お前の美的センスを押し付けてくるなッ!」
「もうッ!‥‥そんな話をしたいんじゃないのッ!‥‥そうやって、あなたはすぐに選択から逃げる‥‥だから‥‥自分の部屋からも出られないッ!」
「部屋から出られなくれもYouTubeチャンネル登録者数101万だッ!」
「それのどこが凄いのか‥‥わたしには分からないわッ!」
「そこそこ凄いッ!」
「だからッ!‥‥こんな話をしたいんじゃないのよッ!‥‥ねえ‥‥わたしが“自分語り”したの‥‥今回の世界線が初めてなのよ?‥‥どうしてだと思う?‥‥わたしはたぶん‥‥あなたに叱られたいッ!‥‥そんな馬鹿なことに巻き込むなって嫌な顔をして欲しいッ!‥‥怪獣を産んだ迷惑なお前なんて死ねって怒られたいッ!」
「‥‥話なんか聞いてないッ!‥‥YouTubeのコメントにグッドつけるのに忙しかったからなッ!」
「‥‥いっつもッ!‥‥いっつもそうやってッ!‥‥わたしの話を聞いてくれないッ!‥‥わたしは‥‥わたしは‥‥わたしはこんなにも辛いのにッ!」
「俺にセラピーを求めるなッ!‥‥俺もアンチのコメントに胸が苦しくなるッ!‥‥それが人間だろッ!」
「わたしは神よッ!‥‥人間とは違うッ!」
「じゃあ、俺は人間だッ!‥‥醜くて、姑息で、どうしようもない馬鹿な人間だッ!‥‥神とは‥‥相容れないだろうッ!」
「あ・い・い・れ・て・よッ!‥‥わたしのこともっと知ってよッ!‥‥知ろうとしてよッ!‥‥ずっと見つめていたのよッ!‥‥気付いてよッ!‥‥わたしにも優しくしてよッ!‥‥もっと、わたしを褒めてよッ!」
「なら、最初からそうゆえッ!‥‥言葉に頼るなッ!‥‥見つめていただけじゃあ‥‥誰も気付いてくれないッ!‥‥YouTubeだって、投稿しただけじゃあ再生数は‥‥伸びないッ!‥‥見てもらうために、タイトルをッ!‥‥サムネイルをッ!‥‥話すスピードなんかもッ!‥‥色々、気にして‥‥千回再生されたら良い方だッ!」
「YouTubeの話なんかしてないッ!」
「YouTuberが命かけてやってきた努力を‥‥お前はしてないッ!‥‥見てるだけッ!‥‥見て欲しいなら‥‥努力しろッ!‥‥学習しろッ!‥‥人気動画見て研究しろッ!」
「‥‥そんなことゆわれても‥‥わかんないよぉ‥‥わたしは‥‥YouTuberじゃないもん‥‥もう‥‥いやだよぉ‥‥なんでこんなことになっちゃったの‥‥わたしは‥‥ただ‥‥みんなが好きで‥‥みんなのために‥‥」
「大人が泣くなッ!‥‥大人の涙ほど、めんどくさいものは、この世にないッ!」
「だってぇ‥‥あなたが優しくしてくれないからぁ‥‥世界が終わってしまうのにぃ‥‥わたしのせいで‥‥わたしがかまって欲しくて‥‥怪獣なんて作ってしまったからぁ‥‥」
「だーッ!‥‥めんどいめんどいめんどいッ!‥‥泣くならッ、背負うなッ!‥‥死にたくなるぐらい悲しいなら‥‥もう、委ねろよッ!‥‥何回もゆってるだろッ!‥‥委ねろッ!」
「委ねるってなぁに‥‥わかんない‥‥あなたはいつも難しいことしかゆってくれないぃ‥‥」
「てめえで背負えない重りなら‥‥世界に委ねちまえッ!‥‥ここで、手軽に解決しようとするなッ!‥‥怪獣?‥‥世界の選択?‥‥うるせえ、知るかッ!って、開き直って、全部ぶん投げちまおうッ!‥‥大丈夫だッ!‥‥それで、世界が滅びたら‥‥悪いのはお前じゃない‥‥世界が悪いッ!‥‥たかだか神様一人の承認欲求すら受け止められない‥‥器量のない世界が悪いッ!」
「だからぁ‥‥どうすれば‥‥いいのよぉ」
「とにかく大勢だッ!‥‥巻き込むぞッ!‥‥いいか?‥‥YouTuberは結局‥‥YouTubeとゆう20億人のユーザーがいるから‥‥成立しているッ!‥‥それぐらい、数は偉大だッ!‥‥とにかく、大勢だッ!‥‥巻き込むだけ、巻き込んだら‥‥あとは遠くから動画撮影してYouTubeにアップするッ!‥‥そして、また巻き込むッ!‥‥あとは信者が勝手に‥‥何かいい話に持っていってくれるッ!」
「いいのぉ?‥‥わたしが悪いのに‥‥みんな巻き込んじゃって‥‥」
「スーツ着て謝罪会見して、謹慎半年すれば‥‥大抵のことは許してくれるッ!‥‥それぐらい、YouTubeを見ている人たちは‥‥懐が広いッ!」
「でもぉ‥‥」
「どーせ、明日もくだらねえ世界だッ!なくなっちまっても‥‥どうってことないッ!」
「‥‥うん‥‥わがっだぁ‥‥」
女神が【時空剣】を振り落とす。
クロノスタシス‥‥世界と世界を繋げ、調整する場所へ‥‥。
【時空剣】に斬られたクロノスタシスは、音もなく崩れていき一つの世界は無くっていく。
【現実世界】と【初まりの世界】を繋げ、調整していたクロノスタシスの崩壊は‥‥その結果‥‥二つの世界を‥‥同じ時間軸に存在する二つの世界を‥‥重ね合わせた。
つまり二つの世界は‥‥一つになり‥‥【現実世界】と【初まりの世界】の人々が‥‥重なり合わさった【新しい世界】で‥‥出会うことになる。
‥‥【新しい世界】が生まれる。
女神は膝を抱えて泣いていた。
遠くから聞こえる怪獣の‥‥自分を認めて欲しくて生み出した怪獣の鳴き声が聞こえていた。
このまま、膝を抱えて世界の終わりを待とうと考えていたが、なかなかその時は訪れず‥‥女神は顔を上げた。高い丘だった‥‥小さな地方都市とパーソル学園都市の建造物‥‥現代的コンクリートの景色に、中世ヨーロッパ的石造りの景色が融合していた。
海も出来ていた‥‥砂漠も出来ていた‥‥遠くにはメキドにあるはずのダンジョンさえ見える。怪獣が覚醒した小さな地方都市は‥‥現実世界と異世界がごちゃごちゃに混ざり合わさったカオスな‥‥【新しい世界】になっていた。
高い丘からは、そんなカオスが見渡せた。
女神の隣には巨大な大樹が堂々と立っていた。その大樹がクロノスタシスそのものだと気づき、消滅した世界もまた【新しい世界】の行く末を見守ろとしているようだった。
女神が涙を拭いて立ち上がると、丘の先端にはもうすっかりと見慣れてしまった‥‥不健康そうで、細くて、小柄な‥‥少年はスマホのカメラを怪獣に向けていた。
女神は少年の隣に立ち、いつものように問いかける。
「ねえ‥‥世界は‥‥どうなったの?」
【闇系チャンネル】の闇系はいつもの調子で答える。
「見ろッ!‥‥怪獣が‥‥動いてるッ!」
女神が目を細くして遠くにいる怪獣を見つめる。
‥‥怪獣は戦っていた。
女神が【神兵】育成のため【現実世界】から導いた子供たちが。
女神が個性を授けた【初まりの世界】の冒険者たちが。
統率のとれた動きで‥‥お互いを助け合い‥‥怪獣に立ち向かっていた。
女神が想像もしたことのない世界‥‥【新しい世界】が広がっていた。
「アハハッ!‥‥凄い映像だッ!‥‥これなら‥‥千万再生いくぞッ!‥‥いや、一億いくッ!‥‥こんな世界の危機‥‥まだ見たことねえだろッ!」
闇系のうるさい声に女神はムッとする。
「あなた‥‥こんな時まで、何ゆってるの?」
「うるせえッ!‥‥委ねただろッ!‥‥もう、関係ないッ!‥‥あとは楽しもうッ!‥‥世界の終末と怪獣の咆哮をッ!」
「‥‥それもそうね‥‥もう‥‥わたしは‥‥知ーらなーいッ!」
「おうッ!‥‥それでいいッ!‥‥ここからは‥‥まあ、世界の都合だなッ!」
「わたしは慈愛に満ちた微笑みで‥‥眺めているわッ!」
「おうッ!‥‥俺はスマホで撮るッ!」
まさに他人事な態度で、二人が開き直っていると、小さな地方都市を見渡せる高い丘に【風のエルフチャンネル】ウィンドウが“空を飛んで”やってきた。
「やぁ、闇系君‥‥探したよ‥‥安心してくれ‥‥今の君は僕よりもチャンネル登録者数が50万も多い‥‥だから、上下関係は‥‥闇系君が上だッ!」
闇系の隣に降り立ち、整った顔たちのウィンドウが爽やかに声をかける。
「あ‥‥お久しぶりです‥‥いや‥‥その‥‥ウィンドウ‥‥先輩のおかげで‥‥あの【怪獣】ついに怪獣が目覚めた!?【咆哮】が百万再生超えて‥‥バズったから‥‥今の俺が‥‥今の【闇系チャンネル】があるんで‥‥先輩は先輩っす」
「アハハッ!‥‥嬉しいね、君みたいな有名YouTuberを後輩に持てて幸せだッ!‥‥僕はさっきまで軟禁されていてね‥‥チャンネル登録者数が伸び悩んでいるんだ‥‥よしッ!じゃあ、後輩君‥‥一つ僕から提案だ‥‥またコラボしないかい?」
「え‥‥コラボすか?」
「そうコラボだッ!‥‥せっかく、闇系君がネタにし続けてきた怪獣が目覚めたんだッ!‥‥しかも、僕の魔法友達が戦っていてね‥‥こりゃ、近くにいってYouTube撮影するしかないだろッ!」
ウィンドウが闇系に右手を差し出す。
「せ、先輩ッ!‥‥はいッ!‥‥お願いしますッ!」
闇系がウィンドウの手を握ると、風魔法が行使されて、ふんわりと体が浮かんだ。
「闇系君‥‥行こうッ!」
そうウィンドウが口にして飛び立とうとした瞬間、余った左手を女神が必死な形相で掴んだ。
「待ってッ!‥‥わたしも連れてってッ!」
ウィンドウが闇系に視線を送ると、闇系が「はぁ」と嘆息をつき首を縦に振った。
「では、美しい貴婦人‥‥僕のスマホを預けますので、代わりに録画をお願いできますか?」
ウィンドウがスマホを女神に手渡す。
「分かったわ‥‥YouTubeね」
女神がスマホを受け取り、しっかりと手で握る。
「あんまはしゃぐなよッ!‥‥声が入ったら緊張感がなくなるッ!」
「はいはい‥‥行きましょうッ!」
「OKッ!‥‥では、二人とも落とされないでくれよッ!」
三人の体が浮かび上がり、怪獣に向かって飛んでいく。
正午もとっくに過ぎた時間にも関わらず、日食のような不気味な暗さに支配されていた。
雑居ビルの隙間に、石造の武器屋があったり、ショッピングモールの駐車場がダンジョンになっていたり‥‥とにかく混沌‥‥カオスだった。
砂漠に高速道路‥‥海の上にテーマパーク。現代的な民家の隣が、異世界の民家。空間が歪んでいるのか、建造物も自然も、潰し合うことはなく、とろけ合うように‥‥世界は重なり、【新しい世界】になっていた。
怪獣のゴツゴツした黒光の鱗が見えてくる。
大きなドラゴンが近代的なアーマーを装備し、その頭部に伊藤花火【英雄アルテマ】が乗っていた。
「これこそッ!醍醐味ッ!‥‥ガハハッ!‥‥エンドコンテンツ用‥‥対決戦兵器アーマードドラゴンIN俺ッ!」
相変わらずの精悍な顔立ちで怪獣に向かっていく。
その後ろをワイバーンに跨った異世界の冒険者たちが続く。
「花火さん‥‥ヒットアンドウェイが基本ですッ!」
怪獣の膝上ぐらいはある大きな巨人‥‥と云うより、機械魔神を操縦している鷲津たら子【天才たら子】の声が響く。
足元では怪獣の大きく鋭い爪を、【負けず嫌い】のリュカが、【現代的な冒険】の仲間達と切り落としたところだった。
「闇系さんッ!‥‥次の動画待ってますよッ!」
雑居ビルの屋上から、琴吹彩夏【アヤカ0602】が大声で叫び、その両隣の【素直な良い子】シンシアと【嘘が嫌い】オーフェリアが手を振る。
闇系は気恥ずかしそうに「ケッ!」と吐き捨てる。
【人懐こい】エルザが【初まりの世界】の屈強な冒険者たちと、【現実世界】の異世界帰りの子供達との連携を取り、後方から最前に向けて支援線を構築していた。
二つの世界でちょっとした有名人のVtuber【エルザチャンネル】が、繊細な中間管理職を任されていた。エルザが闇系を見つけると、ピースサインで答える。
そして、闇系たちの後方からジェット音が響き、数えきれない自衛隊の戦闘機が飛んでくる。
その後方には戦車や普通科の迷彩姿の男たちが、怪獣に向かって行進してきていた。
【大人】たちも、戦線に加わる。
女神はそんな光景を目撃して、慈愛に満ちた微笑みはやめて、腹を抱えて笑った。
「フフッ‥‥ハハッ!‥‥アハハッ!‥‥何これ、めちゃくちゃじゃないッ!」
「おいッ!‥‥しゃべんなッ!‥‥声入るだろッ!」
「アハハッ!‥‥こんなの笑っちゃうわよッ!‥‥何これッ!‥‥みんな必死になって‥‥アハハッ!‥‥馬鹿みたいッ!」
女神が空の上で腹を抱えて笑うと、決意したように闇系に問いかける。
「ねえ、闇系‥‥わたしにもYouTube教えてよ‥‥わたしのこと‥‥みんなにもっと知ってもらいたいのッ!」
「YouTubeはそんなに甘くないッ!」
「分かってるわよ。闇系が頑張ってる姿ずっと見てきたんだもの。でも‥‥やってみたいのッ!」
「うるせえッ!‥‥俺に聞くなッ!勝手にやれッ!‥‥アカウント作れば、誰でもやれるッ!」
「そうね‥‥闇系ってそうゆう奴だったわね‥‥分かったわ‥‥もう聞かないッ!‥‥わたし、勝手にYouTubeやるッ!」
「よしッ!これで、お前とはライバルだッ!‥‥初めて言葉が通じた気分だッ!」
「わたしもよ、闇系ッ!‥‥すぐにチャンネル登録者数200万人いくんだからッ!」
「フンッ!‥‥そんなのエガちゃんじゃないと無理だッ!‥‥せいぜい頑張れッ!」
「うん‥‥ありがとう‥‥ここまで連れてきてくれて」
「知るかッ!」
女神が慈愛ではない‥‥心の底から沸き上がる微笑みを浮かべると‥‥怪獣の存在も弱くなっていく。そこに、【新しい世界】の住人たちの攻撃が突き刺さる。
悲哀に表情を歪めた怪獣は‥‥満足気に‥‥ゆっくりと存在を消滅させていった‥‥。




