#15 ぶっ壊れていく
「今回は説明回よッ!」
女神がそう口にした。
【初まりの世界】の中央にそびえ立つ怪獣と同じぐらいの高さのタワー‥‥【個性管理センター】に白いローブを纏った絶世の美女【女神】と、長髪で無愛想に整った顔をした有栖川ハイド【アリス】はやってきていた。
力の残っていない女神の護衛として、アリスは付き添いを依頼されたのだった。
「闇系君はいいんですか?‥‥学園生徒に預けてきちゃいましたけど」
制服姿のアリスが問いかける。パーソナリティー学園の学生寮で一度、闇系の無事を確認した女神とアリスだったが、女神の“緊急の用件”で苦渋ながら別行動をとっていた。
「問題ありません、アリス‥‥パーソナリティー学園の生徒は個性に管理されてますから」
「でも、闇系君は何かやらかしそうで‥‥心配になりますね」
アリスが唇を尖らせる。
「わたしだって‥‥心配ですよッ!‥‥なんたって、加護者が死ねば‥‥わたしも消滅する‥‥そうなったら、怪獣を止める可能性は‥‥0ッ!‥‥世界は‥‥終わりますッ!」
女神も唇を尖らせる。そして、二人が同時にため息をついた。
「それでも‥‥個性管理センターには訪れなければならない‥‥理由があるのです」
少し冷静を取り戻した女神が口にした。
「なるほど‥‥理由‥‥つまり、説明回とゆうわけですね」
アリスが大きく頷く。女神は満足げに微笑み、個性管理センターの正面玄関の近くにあるエレベーターにアリスを案内しながら口にする。
「えぇ‥‥神様の権限でショートカットを使いましょう‥‥本来なら158階層のダンジョンを攻略し、レベルを上げて最上階に踏み込むシステムになっていましたが‥‥加護者が機能しない世界線の今は‥‥無視して、最上階で“緊急の用件”を済ませましょう」
女神とアリスがエレベーターに乗り込むと、すぐに無音で動き始めた。
「個性管理センターか‥‥巨神の像とゆうオブジェクトだと思い込んでいた怪獣よりも違和感はありませんけど‥‥ここも、【半霊人】の時には興味すら湧かなったのが不思議です」
アリスが少しずつ離れていく地上を見つめながら口にした。
エレベーターはガラスのような透明な素材で作られており、周囲の特に何もない荒野が視界には広がっていた‥‥そのせいで、怪獣の存在感がひときわ目立つ。
「アリスと個性管理センターに訪れるのは‥‥3回目です。まさか、4回目は加護者でもないアリスに説明回をするとは思ってもいなかったけど」
女神は頭を抱え遠い目をして口にした。
「‥‥それって、女神様はあたしに3回加護を授けてくれて‥‥3回‥‥失敗した‥‥世界が滅びたってことですよね?」
「はい、賢いアリス‥‥その聡明さに期待して、3回の滅びた世界線でわたしはアリスに加護を授けました」
「3回‥‥あたし以外にも女神様が誰かに加護を与えて滅びた世界線がいくつもあった‥‥ってことですよね?」
「正確には998回‥‥わたしは世界の誰かに加護を与えて、怪獣を止めてもらうように導いてきました‥‥しかし、998回‥‥怪獣を止めることはできず‥‥世界は滅びてしまった‥‥だから、わたしは998回やり直して‥‥今が999回目よ」
「‥‥2月の昏睡事変から‥‥あたし達の魂が【初まりの世界】に転移して、魔王を倒すための3年間の経験も‥‥怪獣を止めるためだったと、教えてくれましたよね?‥‥そこまでしても‥‥怪獣は止まらなかったのですか?」
「時間が足りなかったのよ‥‥怪獣を止めるためには、魔力、魔法、能力、ステータスに秀でた【神兵】を育成する必要があった‥‥だから、現実世界の16歳の子供を400人選出し、クロスタシスから時間を遡り、魂が具現化した【半霊人】として、アリス達には強くなってもらったわ‥‥それが、わたしのシステムが導き出した最善の策だった」
「それだったらもっと早く‥‥あたし達に限らずとも、準備ができたんじゃありませんか?」
「いいえ、アリス‥‥怪獣は現実世界でゆう2月に‥‥突然、現れたのです‥‥【初まりの世界】では巨神の像とゆうオブジェクトとして祀られていた怪獣が‥‥2月、現実世界に突如として“存在を共有”し‥‥覚醒の兆しを見せた‥‥その時点で世界の【法則性】は固定化され‥‥以前の時間に戻れなくなった‥‥クロノスタシスを経由して、魂を行き来させるとゆう方法以外は‥‥それでも、わたしの“力の限界”とゆう制約があった‥‥」
「時間の固定‥‥まるで、運命ですね」
「いいえ、アリス‥‥【法則性】です。未来は一つの大きな結果に、収束し帰結する」
アリスが悲しそうな表情で下を向いた。
「‥‥あたしは女神様に加護をもらったにも関わらず、3回も失敗した‥‥なんか‥‥ごめんなさい‥‥女神様が‥‥そんなにも色々、考えてくれていたにも関わらず‥‥」
「謝らないで、アリス‥‥謝らないで欲しいの‥‥アリス‥‥賢いアリスは‥‥3回とも‥‥わたしを裏切り‥‥怪獣に立ち向かうことを辞めたのですから」
「え?」
アリスが間の抜けた顔をする。
「有栖川ハイド‥‥異世界ネーム【アリス】‥‥わたしの賢いアリス‥‥は、怪獣を止めるとゆう使命よりも‥‥初まりの世界の大切な人を守る‥‥より正確にゆうと‥‥大切な人も世界も両方守ると豪語し‥‥その結果、世界は3回滅びました‥‥わたしは、導いたのよ‥‥怪獣がいなくなり世界が存続する方向へ‥‥それが、【法則性】の意地悪で‥‥アリスは大切な人と、世界を天秤にかけてしまった‥‥アリスはいつも両方をとる‥‥天秤ごととったら‥‥世界は滅ぶって‥‥何度も‥‥何度も、何度も、何度も‥‥丁寧に説明して、導いたにも関わらず‥‥アリスは背負ってくれなかった‥‥」
「‥‥‥」
女神は優しい穏やかな表情のままだったが、壊れたレコードのように不気味な声色で語り続ける。
「別に怒ってないわ‥‥だって、【法則性】がそうやって、世界を終わらせるように仕向けているだけだから‥‥それに、賢いアリスだけじゃなかった‥‥わたしを裏切ったのは‥‥【英雄アルテマ】も【勇者リュカ】も【天才たら子】も異世界帰りの子供の誰かでも、学園パーソナリティーの生徒でも、現実世界で特異な才能を持つ子供でも‥‥みんな、世界を守るために怪獣を倒すと約束してくれるのに‥‥大切な物と天秤にかけられたら‥‥すぐに、約束を破ったわ‥‥でも、約束を破った自覚すら持ってくれない‥‥目の前の人を守れず世界が守れるか、とか‥‥丸ごと全部救う、とか‥‥第3の選択をとる、とか‥‥違うのよ‥‥そうゆう話じゃないでしょ?‥‥世界を守るって」
「その‥‥あの‥‥【大人】‥‥大人は?‥‥あたしも子供で‥‥その、子供には背負えない物が‥‥山ほどあります」
「【大人】なんて10回試したけど、全然駄目よッ!‥‥【法則性】に縛られる前に、社会にッ!常識にッ!法律にッ!倫理観にッ!家庭にッ!家族にッ!子供にッ!叶いもしない夢にッ!あの日の栄光にッ!‥‥縛られて‥‥ロクなことにならないッ!」
どう反応して良いか分からないアリスが絞り出すように口にする。
「‥‥闇系君は‥‥あの、不健康そうな少年は‥‥」
これまで優しい穏やかだった女神の表情一転し曇る。
「賢いアリス‥‥あの子を‥‥わたしのシステムが選んだのは確かですが‥‥それは、998回の試行の末、力の弱くなったわたしには‥‥もう、あの子しか‥‥あの練度の低い魂しか導く力が残っていなかっただけ‥‥だから、わたしは‥‥選んでないッ!‥‥せざる得なかっただけよッ!」
「魂の練度って‥‥?」
「繰り返し‥‥生まれる前の人生から‥‥もっと、遥か昔から‥‥痛めつけられ、倒れ‥‥立ち上がり‥‥死んで、また生まれても‥‥また痛めつけられ、立ち上がり‥‥そうやって鍛えられた魂は‥‥練度が上がって‥‥【法則性】を変えることのできる‥‥特異点になりうるの」
「あたしの魂のそうやって‥‥痛めつけられて‥‥強くなった‥‥」
「はい、アリス‥‥練度の高い魂は、魔力や能力‥‥スポーツや頭脳においても‥‥優秀な成績を残せます‥‥逆に、少し痛めつけられては逃げて‥‥戦うことを放棄して‥‥自宅に引きこもり‥‥スマホばっかいじって‥‥わたしのゆうことを一度もッ!‥‥ただの、一度もッ!聞かないッ!‥‥屁理屈ばかりッ!‥‥約束すらしないッ!‥‥言い訳もしないッ!‥‥そんな練度の低い魂を‥‥インターネットが甘やかすから‥‥あの子は‥‥つけ上がるッ!‥‥わたしを見下し‥‥無視するッ!」
「女神様、落ち着いてくださいッ!‥‥闇系君の愚痴になってます」
女神は「はぁ、はぁ‥‥」と呼吸を整えて口にする。
「つまり‥‥もう、わたしには導く魂を選り好みできるほど力も残されていない‥‥あの子に加護を授けはしましたが‥‥本来の10%にも満たない、僅かなものです‥‥あの子のYouTuberとしての企画力を信じて、ユニークスキルを一つ創造する加護を授けましたが‥‥怪獣に対抗できる能力なんて、難しいでしょう」
「‥‥それが本当だったら、世界はもう終わりなんですか?‥‥あたしがゆえた義理もないんですけど‥‥」
「はい、アリス‥‥世界は終わります‥‥あの子を999回目に選んだ時点で、世界は終わりました‥‥わたしは諦めてます‥‥でも、わたしは神として‥‥世界を存続に導くとゆう‥‥義務を果たさなければならない‥‥それは、1回目から変わりません‥‥ずっと‥‥ずっと‥‥わたしは最善を尽くし続けているッ!」
小さな揺れを感じ、数秒空白が生まれると、エレベーターの扉が開き最上階に到着した。
「さあ、アリス‥‥最善を尽くしましょう」
女神は穏やかな微笑みを浮かべて、歩み始める。アリスも恐る、恐るとついて行く。
それほど広くない部屋は、部屋と云うよりは雲の上のような場所だった。
星が上にも下にも横にも浮かび、宇宙のような美しさとは反面、息苦しさを感じさせた。
エレベーターから直線が結ぶ場所に、台座があり剣が刺さっていた。
女神がその剣に向かって歩き出し、アリスも後に続く。
「女神様‥‥【個性管理センター】ってどんな場所なんですか?‥‥ダンジョンとゆうよりは、機械のような気配がするんですけど」
アリスが気まずそうに問いかける。
「はい、アリス‥‥ここは、30億以上の個性が保管されている巨大な情報センターよ‥‥【初まりの世界】に15歳以下の子供がいないのは知っていますよね?」
「‥‥異世界はそうゆうもんだと思ってました」
「間違っていませんよ‥‥【初まりの世界】の個性‥‥パーソナリティーはここで管理され、役目を終えればここに戻ってきて、次の役割を与えられるまで保管される‥‥無個性な体は別の場所で効率よく作られているわ」
「【初まりの世界】の人は‥‥子供を作らないし育てない‥‥無個性な体に個性を与えて‥‥その役割を果たしているだけ‥‥」
「はい、賢いアリス‥‥そのシステムが‥‥現実世界の円環の理の参考にもなっている‥‥【初まりの世界】は現実世界の原型になった場所‥‥初まりの人類はこの世界からクロノスタシスを通って、地球に移住したのですよ」
アリスがポカン、と口を開けて目をパチパチさせる。
「‥‥壮大過ぎて‥‥どう反応していいか‥‥」
「フフフッ‥‥そうゆうもんだと理解するだけで十分ですよ‥‥現実世界は個性管理センターから外れている‥‥すでに独立した世界になっていますから」
ちなみにこの時、女神はまだ【人懐こい】エルザのパーソナリティーが個性管理センターの巨大なシステムから逃れたことを知らない。
【素直な良い子】シンシアと【嘘が嫌い】オーフェリアと闇系が出会い、学園寮に案内される。そのすぐに、探知魔法を使用し学園寮で闇系と合流した女神とアリスだったが、女神の“緊急の用件”のため、またすぐ出掛けた。
闇系のスマホに【人懐こい】エルザの個性が逃げ隠れたのはそんな絶妙なタイミングだった。
女神ですら気付かず、巨大な個性管理センターすら欺き‥‥【法則性】の世界の終わりに収束と帰結する‥‥運命さえ気づかれず‥‥エルザは闇系のスマホに転送し‥‥そして、Vtuberになった‥‥Vtuberになって‥‥世界に大きな影響を与える。
その事をまだ、女神も個性管理センターと云うシステムも‥‥気付いていない。
気付いていない女神が宇宙のような場所にある台座の前に到着し、その剣を糸も容易く抜き‥‥手に収める。
「女神様‥‥その剣は‥‥?」
女神の隣で剣を眺めるアリスが問いかける。
剣は幾千の星の瞬きを刀身に宿し、莫大なエネルギーを秘めているようだった。
「これは‥‥【時空剣】です‥‥世界を繋げ‥‥世界を破壊する‥‥剣です」
アリスは『世界を壊す』と云うキーワードよりも、その刀身に心を奪われる。
「‥‥綺麗」
「あなたは3度、【時空剣】を握り、怪獣と戦うことを決意したのよ‥‥本当なら、十分にレベルを上げた加護者が、個性管理センターとゆう最大級のダンジョンを攻略して、さらに限界突破にレベルを上げる‥‥そうすれば、剣を握った瞬間に‥‥滅びた世界線の記憶を思い出す‥‥その世界が滅びたとゆう過去の経験で‥‥加護者は怪獣を倒す‥‥それが最善の策よ」
「‥‥限界突破‥‥異世界帰りの子供達でもそんなレベルの高い子いません‥‥ってか、闇系君ってあたしが見た時、レベルは‥‥0でしたよ」
「だからッ!‥‥加護者がわたしの導きによってレベルを上げるッ!‥‥そして、汗水血反吐の冒険をして、【時空剣】を手に入れ‥‥そこから、滅びた世界の過ちを思い出し‥‥それで‥‥ようやく、怪獣と戦えるのよッ!‥‥それなのに、あの子は‥‥っつ!‥‥異世界にも行かず‥‥そもそも部屋から出ず‥‥YouTubeに夢中だったッ!」
「じゃあ、どうして【時空剣】を‥‥?」
「儀式よッ!‥‥最善策をとるとゆうシステムが生み出した‥‥無意味な儀式‥‥わたしは握れもしない‥‥いいえ‥‥そもそも、剣を握ってくれさえ‥‥いいえ‥‥わたしの話すら聞かない‥‥聞こうともしない‥‥あの子‥‥クソガキに‥‥【時空剣】を手渡し‥‥加護者の役割を説かなくてはならない‥‥絶対に‥‥絶対に無意味な‥‥儀式をわたしはこれからしなくてはならないッ!」
女神がその場で足を思い切り踏みつけ「クソッ!クソッ!」と声を荒げる。
アリスは世界を滅ぼしてしまった自分には、女神の苛立ちを止める権利はないだろうと諦めてボソリと呟く。
「‥‥闇系君‥‥神の怒りを買い過ぎだよ」
とはゆえ、こうして【時空剣】は個性管理センターの最上階の台座から離れることになった。
世界を繋ぎ‥‥世界を壊し‥‥過去の世界の記憶を呼び覚ます剣が‥‥。
お昼休みの生徒会室で中性的で小柄な鷲津たら子【天才たら子】とスマホを操作し、「ふむふむ‥‥」と、思考を組み立てていく。もちろん、その後ろには、たら子の騎士である2メートルを超える大男ドテチンが控えている。
たら子はドテチンに語りかけるように、一人で話し始める。
「正直‥‥怪獣は無理でしょう‥‥世界が存続する可能性は‥‥【異世界に帰りたい派】のリーダー、有栖川さんの長文メールから推察するに‥‥0に等しい。まあ、諦めも大切ですね‥‥世界の終末を楽しみましょうか」
「ドテチンッ!」
「しかし‥‥もし‥‥何か‥‥奇跡が起きて‥‥世界が存続した場合‥‥有栖川さんの情報がもたらした30億の個性は‥‥欲しいッ!‥‥国家には国民が必要でしょう?‥‥30億もの個性を保管している個性管理センターを掌握すれば‥‥国家は‥‥【子供だけの国】は作れるッ!‥‥詰め込み教育と不倫にまみれた大人に‥‥復讐できるッ!」
「ドテチンッ!」
「しかし、しかし‥‥158階層のレベルが限界突破するようなダンジョンを私は攻略できないでしょう‥‥駒‥‥ナイトが必要‥‥女神は?‥‥力のなくした神などとるに足らないでしょう‥‥だから、個性管理センターを攻略し‥‥掌握できるようなナイト‥‥」
「ドテチンッ!」
「個性‥‥パーソナリティー‥‥現実世界に唯一、連れ帰った個性‥‥【人懐こい】エルザ‥‥生徒会の会計エルザ‥‥今は‥‥Vtuberになって初投稿の歌ってみた動画が30万再生を超えた‥‥あのエルザ‥‥和泉光平は‥‥まだ気付いていない?‥‥あの、和泉にだけ送られた‥‥世界に発信されている動画を?‥‥何故?‥‥もしかして‥‥スマホがない?‥‥だから、私にも連絡が来ない‥‥スマホを無くした?‥‥いや、スマホを破壊したのか?‥‥だったら‥‥ナイトになりうる?」
「ドテチンッ!」
「ふむふむ‥‥」
たら子がスマホで放送部に電話をかけて、流して欲しい言葉を伝える。
『和泉光平さん、和泉光平さん‥‥至急、生徒会室にお越しください』
その3分後に、息を乱した和泉がやってくる‥‥達観も冷静さもない‥‥正気を無くした様子の和泉が‥‥。
「見つかったのかッ!‥‥エルザは‥‥僕の剣はッ!」
たら子がもったいぶるように、手にアゴを置いて‥‥冷静に慎重に‥‥言葉を選び‥‥不必要な言葉を使わないように答える。
「見つかりました‥‥エルザさんの個性は魂だけで生きのび‥‥今は女神の‥‥【初まりの世界】のシステム管理人の‥‥女神の加護者‥‥つまり、従事者である‥‥闇系少年のスマホから‥‥逃げられなくなっている‥‥琴吹副会長が教えてくれました」
和泉が目を恐ろしいほど見開き、唾液を飛ばしながら喚く。
「エルザがなんで闇系のスマホにいるッ!‥‥意味が分からないッ!」
たら子がそっとスマホを差し出し、「見ていないのですか?」と、問いかける。
「エルザさんは‥‥何故か‥‥いえ、きっと闇系少年に洗脳か‥‥無理やり‥‥YouTubeをやらされているようです‥‥その動画を見て‥‥どう思われますか?」
Vtuberエルザの歌っている動画を見て‥‥和泉は肩を震わせた。
「エルザ‥‥?‥‥どうして、エルザが‥‥歌っているんだ?‥‥エルザは歌なんか歌わないだろ?‥‥僕は一度も歌ってほしいなんて‥‥頼んだ記憶はないッ!」
たら子は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。
‥‥こんなにも愛のこもった歌を聞いても、少し誘導されただけで‥‥こうも理解が変わるなんてッ!
「‥‥そうです‥‥私の知るエルザさんも‥‥きっと、歌わない‥‥と思います。だから、エルザさんは‥‥闇系少年に‥‥」
たら子がそこまで言いかけて、絶妙に間を空けると、堪えきれず和泉が叫ぶッ!
「囚われているとゆうのかッ!」
「‥‥和泉君‥‥私の計画を聞いてくれますか‥‥エルザさんを‥‥連れ戻すために」
「あぁ、天才軍師ッ!‥‥エルザの‥‥僕の剣のためならなんでもやろうッ!」
たら子は悲しい顔をして、心でほくそ笑む。
「まず、【初まりの世界】にいる闇系少年を‥‥討ちます‥‥エルザさんは戻ってきますが、彼女は【初まりの世界】の個性に過ぎない‥‥システムからは開放されません‥‥そこで、近くにいる女神から‥‥【時空剣】と呼ばれる宇宙のような剣をもらってください‥‥ただ、その【時空剣】を使うには、レベルを上げる必要があるらしく‥‥手に入れたらすぐに、個性管理センターとゆう158階層あるダンジョンでレベル上げを兼ねて‥‥攻略し、掌握してください‥‥掌握してしまえば‥‥エルザさんの個性はシステムから解放されるでしょう‥‥そして、掌握した頃には‥‥レベルは上がり、【時空剣】を振るえるはずです‥‥そしたら、【時空剣】で【初まりの世界】と現実世界を繋げてください‥‥平穏な‥‥エルザさんとの暮らしが戻ってきます」
たら子が一つ、二つ、三つと丁寧に説明すると、和泉が立ち尽くすように笑う。
「カハッ!‥‥ハハハッ!‥‥分かった、やろうッ!‥‥天才軍師に乗るよッ!‥‥エルザの3個の命のうち1個を使って魔王を殺した時のようにッ!‥‥僕はエルザを助けるぞッ!」
「‥‥エルザさんは生きています‥‥和泉君を待っています‥‥例え、2個になろうとも」
「そうだッ!‥‥それで、会長‥‥異世界にはどうやって渡ればいいんだ?」
たら子が聖母のように微笑みかてこう伝える。
「私のユニークスキル【時渡り】を使います‥‥エルザさんと同じ、制約付きの能力で、一度しか使用できませんが‥‥友達を助けるためです‥‥和泉君を【時渡り】の能力で‥‥異世界へ送ります」
「‥‥助かる‥‥すぐに闇系をぶち殺して、個性管理センターを攻略して‥‥【時空剣】で現実世界に戻ってくるよッ!‥‥エルザとッ!」
「はい‥‥お願いします‥‥私も準備に少し時間がかかりますから‥‥きっと厳しい冒険になると思います‥‥準備を怠らないようにしてください」
「分かったッ!」
たら子の後ろで控える大男ドテチンは必死に笑いを堪えていた。
アースドラゴンを一撃で屠った【現代的な勇者】リュカは、その肝で亡国のお姫様の妹【泣き虫】ヒーヤの命を救った。
体中に魔法では治らない傷跡をつけ、過剰な身体強化で筋肉が隆々とし、目つきも鷹のように鋭くなった【現代的な勇者】リュカがバックアップに問いかける。
「次は‥‥次は何をする?‥‥おいおい、今更、休憩なんてゆうなよ‥‥俺は死ぬまで冒険を続けてやるって決めたんだ‥‥おい、バックアップ早く次の冒険に‥‥連れて行けッ!」
漁港の街ベースターの電気街で、リュカがバックアップに詰め寄る。
奴隷の犬耳亜人【トラベル】も、エルフ族の騎士【意固地】なディーナも、某国のお姫様【お利口】シエスタも、その妹【泣き虫】ヒーヤも‥‥リュカの様子に何も言えずにいた。
この人は‥‥この個性は‥‥もう壊れている‥‥そう思っていた。
「【現代的な勇者】リュカのおかげで冒険は2日も早く終わりました‥‥これから、【個性管理センター】とゆう158階層のダンジョンを攻略しに行きます」
幾何学的な幼女バックアップが楽しそうに答える。バックアップも‥‥暴走状態にあるシステム管理代理人も‥‥過酷な冒険計画を提示し、それが達成され、【現代的な勇者】リュカのレベルが‥‥限界を突破しあまりにも強化されたことでシステムの範疇を超えて、壊れていた。
「158階層のダンジョンかッ!‥‥分かったッ!‥‥三日もあれば攻略できるなッ!」
歴戦の殺し屋のような殺気を放ち、リュカはおかしなテンションで口にした。
「いいえ、二日ッ!‥‥二日でいきましょうッ!‥‥そこで、【時空剣】を手に入れて、闇系を殺すのですッ!」
「そうだッ!二日で十分だッ!睡眠なんて無意味ッ!‥‥冒険こそ、正義、正論ッ!‥‥行こうッ!‥‥次の冒険へッ!」
その時、漁港街ベースターのお店のショーウィンドウから闇系の声が聞こえてくる。
リュカが反射的にその声の元、街頭に設置されたテレビに目をやる。
『‥‥闇系チャンネルの時間です‥‥俺はなんと‥‥異世界転生した‥‥いや、転移か‥‥なんでもいいか‥‥異世界に連れてこられた‥‥そして、ここでも‥‥なんと‥‥』
テレビモニターの中の闇系が演技じみた動きで、部屋に一つしかない窓を開ける。
『獣だッ!‥‥怪獣がいるんだッ!‥‥異世界にもッ!‥‥今日は、異世界シリーズ第1回とゆうことで、推察を交えながら‥‥話していくッ!』
視線を釘付けにされた【現代的な勇者】リュカが驚愕して口にする。
「おい‥‥闇系‥‥そこは‥‥俺の部屋だぞ‥‥何してんだ?‥‥お前は別世界にいるんじゃあないのかッ!‥‥なんで、俺の部屋にいるんだッ!‥‥みんなは‥‥みんなは無事なのかッ!あの個性を魅了してしまう、悪魔的な存在が学園の寮にいてみんなは大丈夫なのかッ!」
暴走状態にあるバックアップにもどうして、【闇系チャンネル】が初まりの世界に来ているのか理解できなった。
闇系の10分に満たない動画は終わると、モニターにノイズが走り、普通なら淡々となんの面白みもない天気予報を流し続けるテレビが‥‥二人の少女を映す。
『【素直な良い子】でも【夜だけは悪い子】‥‥双子妹のシンシア16歳ですにゃん♡』
『【嘘が嫌い】でも【幸せにしてくれる嘘なら大好き】‥‥双子姉のオーフェリア16歳ですわん♡』
テレビモニターに映る二人は、体のラインがくっきりとでる黒のシャツを着ていた。大きくない胸の谷間が見えるかどうかのシャツだった。リュカは絶望し、その場に膝を落とす。
「‥‥遅かった‥‥俺は‥‥シンシアもオーフェリアも‥‥助けられなかった」
バックアップがすかさず口を挟む。
「いいえ、【現代的な勇者】リュカ‥‥まだ間に合います‥‥敵の居場所が分かった以上、もう【時空剣】は不要です‥‥スキップワープしましょう‥‥パーソナリティー学園に‥‥一度行った場所なら、いつでも移動できる‥‥スキップワープで‥‥バグを‥‥闇系を殺しに行きましょうッ!」
「‥‥そうだ、まだ間に合う‥‥間に合わないと思っているから、間に合わないんだ‥‥間に合ってしまえば、間に合わないって言葉は嘘になる‥‥だから、俺は‥‥冒険をやめないッ!‥‥バックアップ‥‥スキップワープを使ってくれッ!」
「はい、【現代的な勇者】リュカ」
漁港街ベースターからリュカとバックアップの姿が消える。
取り残された4人(パーソナリティー学園に行ったことがないため、ワープできなかった)は、そのままテレビモニターを見続けていた。
『今日は〜お姉ちゃんと‥‥早口言葉対決をしたいと思いまーす‥‥にゃん♡』
『え〜‥‥できるかなぁ‥‥ワン♡』
胸の大きな犬耳亜人トラベルが一言。
「あざとッ!‥‥あちし、こいつら嫌いですッ!」
胸の大きなエルフ族の騎士ディーナが一言。
「なんですかこの売女はッ!‥‥下品にも程がありますッ!」
亡国のお姫様の姉のシエスタが一言。
「絶対に姉妹ではありませんよね‥‥振る舞いが他人行儀すぎて、姉妹の個性じゃないっての誰が見ても分かるのでは?」
同じく妹のヒーヤが一言。
「怒りを覚える自分に‥‥驚きます‥‥こんな感情、初めてです」
もちろん、現実世界でも【異世界姉妹チャンネル】の動画再生数は890回で打ち止め‥‥惨敗したのであった。
パーソナリティー学園でワイのワイのと、YouTube撮影をしていた闇系達の元に、【時空剣】を手にした女神とアリスが戻り。
そして、スキップワープしてきた【現代的な勇者】リュカも現れる‥‥殆ど、同時に。
「闇系ッ!‥‥お前を殺すッ!」と、リュカが吠える。
同じ頃、ビジネスホテルを学生寮にした部屋で、冒険の準備を進める和泉光平が。
「闇系殺す‥‥闇系殺す‥‥闇系殺す‥‥」と、呟いている。
同じ頃、人格を持たない世界の終わりに向けて収束と帰結する【法則性】が。
「闇系に特異点になりうるキャラクターが集まっている。早く殺さなければ」と、作用する。
校長室にいる【大人】のオールバック姿の元陸上自衛隊の校長先生が。
「世論が荒れる今、【闇系チャンネル】がコントロールできないなら、少年を殺すことも考えないといけないか‥‥?」と、【社会システム】と話している。
私立特別支援高校のグランドで【時渡り】の準備をしている鷲津たら子が。
「闇系少年が殺されて‥‥世界は一気に加速するッ!」
「ドテチンッ!」




