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世界世界世界  作者: YB


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12/20

#12 政府推奨のAI婚活

【闇系チャンネル】‥‥闇系が‥‥強制的‥‥自らの意思に関係なく‥‥理不尽にも‥‥異世界に【転移】される。

 転移‥‥転移‥‥そう、転移だッ!

「俺を‥‥俺を‥‥家にッ!あの土地、あの場所に帰してくれッ!‥‥ストレスで死ぬッ!」

 薄手のローブを纏った、この世の者とは思えない絶世の銀髪美女【集団心理】改めて【女神】が答える。

「あら、あなた‥‥義務教育も満足に受けられない引きこもりでしょ?‥‥土地に思い入れなんてないでしょ?‥‥繋がりなんてないじゃない?」

「違うッ!‥‥引きこもりでも窓の外から聞こえる環境音とか、夕方を知らせるチャイムとか、野良猫の発情した鳴き声とか‥‥そうゆう繋がりがあるんだッ!‥‥集団心理、お前は‥‥そうゆう繋がりを俺から奪ったッ!」

「‥‥世界のためよ。世界あっての日常よ」

「違うッ!‥‥世界は‥‥世界は‥‥生活じゃない‥‥営みじゃないッ!‥‥本当に守らなくちゃいけないのは、世界じゃなくて‥‥日々繰り返す営みだろうがッ!」

 女神が「ぐぐッ!」と歯を食いしばり、もう目の前の不健康そうなクソガキを殴ってやろうと拳を握り絞めた瞬間、有栖川ハイド、異世界ネーム【アリス】が割って入る。

「まぁまぁ‥‥女神様‥‥闇系君は歪んでるんですッ!‥‥相手するだけ無意味‥‥闇系君は自分の世界に住んでるのでやり合うのは‥‥やめましょうッ!」

「‥‥はぁ‥‥それもそうですね。わたしは‥‥期待しない」

 ここは異世界ッ!【初まりの世界】‥‥現実世界よりも先に存在し、原型にもなった世界。

 不健康そうな細身小柄の、パーカーを着た闇系。薄手の白いローブを纏った絶世の大人の美女【女神】。長い髪に、無愛想で気の強そうな制服姿のアリス。同じく制服姿の、長い前髪を鼻先まで下ろしてオドオドとしている琴吹彩夏、異世界ネーム【アヤカ0602】。

 クロノスタシスで闇系に不本意ながら加護を与えた女神は、怪獣から世界を救うための次の手段に移るため【初まりの世界】に転移してきた。

 学園都市パーソナル。個性を育むパーソナリティー学園を中心に栄えた大きな城塞都市。

 その出店が並ぶ活気の多い人混みを4人は歩いていた。日が暮れ始めの夕刻‥‥。

「半年前は【半霊人】のアリスとしてここを歩いていたんだね‥‥本当に、有栖川ハイドの体‥‥現実世界のこの体でパーソル市場に来れるなんて、夢にも思っていなかった」

 アリスが手を握り、存在を確認するように口にした。

「現実世界の子供の魂を【初まりの世界】に導いて、魔法や能力を与えたのはわたしなのですよ、アリス」

 女神はさも当然のように口にした。

「‥‥その、本当に女神様なんですよね?‥‥あたしら、女神様には複雑な感情なんですけど。異世界に連れてきてもらった感謝の気持ちと、戦いに巻き込まれて嫌な思いをした猜疑心と‥‥」

 アリスが見極めるように鋭く睨みつける。

「異世界に導いた子供達の魂は、みんな現実からの逃避を望む者でした‥‥その感情は怪獣を倒すための“神兵の育成”に適していたのです‥‥覚えていませんか?‥‥わたしとアリスは3度、怪獣に立ち向かい‥‥敗れ‥‥世界は滅びているのですよ?」

 女神が微笑むと、アリスの脳の深く‥‥シナプスよりも抽象的な部位が何か語りかけようとしてくるが‥‥それは既視感を起こすだけで、一塊の情報になることはなかった。

「っつ‥‥また、この感じ‥‥怪獣のことを考えると‥‥思考がロックされるようなこの感覚ッ!」

 頭を抱えるアリスの肩に女神はそっと手を置く。

「無理に思い出さなくていいんですよ‥‥【法則性】が許してくれません。アリスは頑張ってくれました‥‥今回の加護者はアリスではありません‥‥持ち前の第六感で世界に協力してください‥‥いち【神兵】として」

「もしかして、異世界にあたしらが呼ばれたのって‥‥魔王を倒すのが目的じゃなくて、その後に起こる怪獣の覚醒に対処するため‥‥ってことですか?」

「‥‥その通りです。【初まりの世界】はわたしの管理下にある世界です。あなたたち、現実世界の子供達が強くなってもらうために、3年少しの強化プログラムを組みました‥‥それがアリス達の経験値となった‥‥この世界の冒険です」

「ちょっと待ってくださいッ!‥‥それって、なんかあたしらバカみたいじゃないですか?‥‥エンディングの決まったゲームをクリアして喜ぶ子供みたいにッ!」

 アリスが女神の手を払いのけて大声を上げる。先ほどまで賑わいを見せていたパーソル市場も雑踏が減り、人々は規則正しくそれぞれの帰る場所に向けて動き始めた。

「アリスは‥‥賢いアリスなら理解しているでしょ?‥‥現実世界でさえ、社会システムに動かされて、人々が喜び怒り悲しみ楽しんでいることを‥‥初まりの世界のシステムはそれを分かりやすく‥‥しただけです」

 アリスの言葉が詰まる。アリスが現実世界に戻り最初に違和感を覚えたのは、婚活アプリだった。今流行りの顔も名前も知らない男女を出会わせ、結婚までサポートする、あの婚活アプリだ。

 婚活アプリそのものに違和感を覚えたわけじゃなく、国がッ!政府がッ!マイナンバーから得た情報を人工知能に解析させ、政府主導の婚活アプリを開発していると云うネットニュースに‥‥猛烈に違和感を覚えたのだった。

 日本人はシステムに管理されている。

 それが、初まりの世界のシステムに似ていると思った。女神様が管理する初まりの世界のシステムと日本政府が主導する婚活アプリシステム。アリスに違いを答えられるはずもなかった。

 何故なら、アリスは初まりの世界のシステムの方が効率良く、自分たちを導いてくれたと‥‥確信している。確信しているからこそ、異世界で出会い、過ごした人たちとの時間を再開させたいと願い【異世界に帰りたい派】のリーダーとして、活動してきたのだ。

「‥‥理解していただけましたか?‥‥システムに動かされることは、バカなことではありません‥‥世界はそうやってできている」

 女神の言葉にアリスが無言で頷いた。

「‥‥わたし、初まりの世界に会いたい人がいるんです‥‥協力します‥‥怪獣をなんとかしないと、大切な人とも過ごせないってことですよね」

「はい、その通りです‥‥やはり、アリスは賢いですね」

 女神は慈愛に満ちた優しい表情で、アリスの頬を撫でた。

 アリスはその手の温もりに、どこか遠く、懐かしさを思い出していた。

「女神様‥‥それで、どうして‥‥その‥‥闇系君を選んだんですか?‥‥彼は異世界帰りの子供達でさえないですよね?」

「人の魂には練度があるのですよ、アリス‥‥わたしでさえ手の届かない‥‥神でさえ解き明かせなかった魂には‥‥【痛めつければ強くなる】とゆう、筋肉のような性質があります‥‥千回もの世界線を変える能力を使用した今の世界線のわたしは‥‥もう、練度の高い魂を導けなくなりました。だから、最後の最後‥‥今の世界線の加護者を‥‥適当に選んでしまったッ!」

「て、て、適当ですか?」

「えぇ‥‥婚活アプリがロクな男を紹介しないように‥‥わたしのシステムも最後の最後で‥‥ロクでもない男を引き当ててしまった」

 女神が絶世に整った顔を歪ませて、額を抑える‥‥すでに世界が滅んでしまったような、絶望した表情で。

「女神様、協力しますッ!‥‥怪獣をなんとかしましょうッ!」

「アリスは優しい‥‥ですね」

「それで先ほどから、闇系君の姿が見当たらないのですが。迷子にでもなったんでしょうか?」

 アリスが周囲を見渡しながら口にすると、女神が絶望から怒りに豹変させて叫ぶ。

「あの子は弱いのよッ!‥‥この世界で一人にしたらすぐ死んでしまうわッ!‥‥死んだら‥‥わたしは怪獣の覚醒を待たずに消滅するッ!」

 女神の余裕のない形相に、アリスが慌てて探知魔法を使用した。


「Wi-Fiッ!‥‥こんな辺鄙な世界にも、Wi-Fiが飛んでるじゃねーかッ!‥‥生きたッ!‥‥俺は生きたぞッ!」

 そこはパーソナリティー学園前だった。もう夜になっていた。バロック調の石造りの中世ヨーロッパを思わせる校舎。その向こう遠くに、怪獣の影‥‥。

 奇跡に賭けてスマホを手に持ち歩き回った闇系が、学園前にWi-Fiのスポットを発見した。

 急いでYouTubeを開いて【闇系チャンネル】を確認する。チャンネル登録者数:101万人

「やったッ!‥‥俺は掴んだッ!‥‥YouTubeドリームを掴んだんだッ!」

 闇系が小枝ほどしかない手首に力を込める‥‥ガッツポーズ。

「確かに、ここは知らねえ世界だ‥‥だがッ!‥‥Wi-Fiはあるッ!YouTubeに接続できるッ!怪獣もいてネタに困らないッ!電気も水も、インフラも整備されてるッ!」

 闇系は両手を広げて、高笑いするッ!

「俺はチャンネル登録者数100万人YouTuberだッ!‥‥何も恐れることは‥‥ないッ!」

 アハハハッ!と一人、はしゃいでいる闇系を不審に思い、学園の校門から二人の女の子がやってきた。一人は【素直な良い子】のシンシア。もう一人は【嘘が嫌い】なオーフェリア。

 まだ、個性が芽生えて間もない彼女たちには、パーソナリティー学園のフリフリの制服を着ていること以外に特筆する外見はなかった。似たような女の子が二人‥‥闇系に話しかける。

「何を騒いでいるの?」

 【嘘が嫌い】なオーフェリアが闇系に問いかける。

 二人はたまたま、寮へ帰る道すがら、おかしな子供を見かけて声をかけただけだった。

「‥‥動かないで‥‥くださいッ!」

 琴吹彩夏‥‥アヤカがどこからともなく現れ、オーフェリアとシンシアの行く手を防ぐ。

 前髪に隠れた瞳を光らせて‥‥闇系に害成す者がいれば切り捨てる覚悟で‥‥“目立つことが苦手”なアヤカは小刀を構える。

「‥‥闇系さんに近づくことは許しません」

 恥ずかしがり屋のアヤカが凄みを利かせて口にした。

「え?闇系‥‥もしかして、あの男の子は【闇系チャンネル】なの?」

 【素直な良い子】のシンシアが目の前の小刀を構える少女よりも、その向こうで高笑いをしている男の子に目を向ける。

「‥‥闇系様ッ!‥‥オーフェリアッ!‥‥本当に闇系様が‥‥いるわッ!」

「嘘よッ!シンシアッ!‥‥闇系様は‥‥住む世界が違うのよ」

 二人の熱狂的な様子にアヤカが構えを解き、「コホンッ」とわざとらしく咳払いをする。

「いいえ‥‥違います‥‥闇系さんが‥‥世界そのものッ!」

 アヤカが断言すると、シンシアとオーフェリアは天命を受けたように、その時を止めた。

 ‥‥チャンネル登録者数100万人越えのYouTuberの影響は‥‥計り知れないッ!


 エルザは死を感じていた。

 行き交う光の線の中に吸い込まれていく‥‥個性が‥‥個性が生み出した新しい魂が。

 しかし、エルザの個性も魂も‥‥しょせんは、情報‥‥0と1の連続する情報でしかない。

 恋盛愛花が【昏睡事変】で異世界に導かれて、戦うことを拒否した‥‥神兵を育成するために、システム管理代理人のバックアップは、愛夏の魂に偽りのパーソナリティーを上書きした‥‥それが、【人懐こい】エルザだった。

 エルザは‥‥異世界に導かれた子供達と同じ【半幽人】となって、冒険をする。

 冒険をして、愛を‥‥勇気を‥‥希望を‥‥学んだ。

 好きな人もできた‥‥好きな人と魔王も倒した。

 子供達の魂が現実世界に帰る時、エルザの中の恋盛愛夏の魂が刻まれた記憶を封印した‥‥【救世主イズミ】の手によって。

 イズミはエルザから恋盛愛夏の全ての思い出を、家族をも引き離した。

 ‥‥引き離すために、国家が背景についた大人に懐柔されてもイズミ‥‥和泉光平はエルザから恋盛と云う人格全てを引き離した。

 恋盛愛夏の魂が呼び起こされて、自然の摂理‥‥【法則性】によって、エルザの魂が初まりの世界の【個性管理センター】に戻されることは‥‥なんとなく分かっていた。

 元いた場所に帰る‥‥それが、自然の摂理だから。

 無限に感じる光線の中で、エルザは思念の言葉を紡ぐ。

「ごめん‥‥ごめん‥‥ごめん‥‥」

 ずっと一緒にいると約束したのに‥‥イズミ‥‥約束を守れずごめん。

【人懐こい】エルザの個性と云う名の情報が、異世界に到達し、【個性管理センター】の何億とある人格データに埋もれること‥‥それは、個性を持ったエルザには死に等しかった。

 ‥‥イズミに会えなくなるのは‥‥死ぬことだった。

 不意‥‥そう、不意だった。

 エルザも‥‥きっと、【法則性】すら想定していない不意だった。

 異世界で‥‥異世界の初まりの世界で‥‥エルザはスマホの電波を拾う。

 ‥‥何気なく、何も考えず、その電波に向けて‥‥手を伸ばす。

 異世界にないはずの‥‥スマホの電波は、細い‥‥ひどく乱雑な線になって続いていた。

 エルザが乱雑な線を慎重に辿ると‥‥小さな‥‥小さな‥‥小さな‥‥。

 小さくて‥‥小さくて‥‥小さくて。

 小さくて‥‥不健康で‥‥小枝のように細い手首で‥‥小柄の‥‥。

【闇系チャンネル】の姿が見えた。

 エルザは必死に乱雑な糸を辿り‥‥闇系のスマホに情報を‥‥個性を‥‥魂を‥‥移すことに成功する。

「‥‥わたしは‥‥エルザ‥‥その‥‥少しの間、ここを貸して欲しい」

 闇系のスマホのモニターに突然、映し出されたドットの荒い3Dのエルザがそう口にした。

「もしかしてッ!?‥‥Vtuberかッ!?」

 スマホ越しに‥‥エルザと闇系の視線が交わる。

【法則性】の収束と帰結を無視して‥‥【闇系チャンネル】が‥‥特異点になりうるキャラクターたちと出会う‥‥そして、集う。世界世界世界が混じわり始める。



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