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世界世界世界  作者: YB


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10/20

#10 神様の権限

 クロノスタシス──時計の針が止まって見える場所。真っ白でグラデーションもない空間。

 【女神】がそう説明した場所に、闇系は立っていた‥‥立っていて、疲れたからとりあえず、あぐらをかいてその場にドッシリと座り込んだ。

 闇系の両隣には、学生服姿の有栖川ハイドと琴吹彩夏が棒立ちの状態で完全に静止していた。

 2人とも「えっ!?」って感じの間抜けな顔で、凍りついたまま動かない。

 薄手の肌を露出させたローブ姿の女神が、座り込んだ闇系を見下ろすように‥‥不機嫌なな真顔で‥‥状況を整理‥‥と云うよりは、闇系に状況を理解させるように丁寧に語り始めた。

「【アリス】と【アヤカ0602】はわたしの転移魔法に巻き込んでしまったの‥‥おかげで、あなたを1人転移させるよりも余計な力を‥‥使ってしまったわッ!‥‥クロノスタシスで時間を動かすのも、なかなか大変なの。だから、申し訳ないのだけど彼女たちは停止させてもらったわ」

 女神の説明を聞きながらアイフォンをいじる闇系は「おっ!」と声を上げる。

「Wi-Fiッ!‥‥ここ、Wi-Fiが飛んでるじゃねえかッ!‥‥フフ‥‥カハハハッ!‥‥怪獣の咆哮動画に続き‥‥【拉致】イジメを晒す【監禁】動画も投稿すれば‥‥チャンネル登録者数は100万ッ!‥‥100万に届くぞッ!」

 だらしなく体を揺らし、慣れた手つきでスマホを操作し始めた。

「‥‥あなたは‥‥だから、あなたは‥‥一体、なんなの?‥‥世界が無くなれば‥‥滅びてしまえば‥‥YouTubeだって意味をなさないのよ?」

 女神が腕を組み、軽蔑したように問いかける。

「元々、この世界に意味なんてねえじゃねえか‥‥世界の意味なんて【集団心理】がかかってる自己催眠ッ!‥‥しょせん、人間一人‥‥承認欲求と肯定感しか存在しないだろッ!‥‥世界なんてよッ!」

「あなたは‥‥まだ、子供のあなたは分かっていないのよ‥‥人間一人では生きていけないのよ?‥‥助けてくれる人がッ!‥‥仲間がいるからッ!‥‥生きていけるッ!‥‥それが、世界よッ!」

「いいや、違うッ!‥‥仲間?‥‥友達?‥‥家族?‥‥そいつらがどんだけ大事でも‥‥結局、最初から最後までずっと一緒にいてくれるのは‥‥自分だろッ!‥‥自分と話してる時間が‥‥人生で一番長いだろッ!‥‥人間は一人でも孤独じゃない‥‥生まれて‥‥たぶん、死ぬまで‥‥ずっと、自分が‥‥俺自身が話し相手になってくれるッ!‥‥俺は世界が滅びても‥‥俺と語り明かし続けるぞッ!‥‥この宇宙の最後までッ!」

 女神は闇系に歩み寄り、額を額に擦りつける。

「そんな寂しいこと‥‥15歳の子供がゆわないでッ!」

 闇系も負けじと額を押し返す。

「寂しくないッ!‥‥俺には俺がいるッ!‥‥だから‥‥心配するなッ!」

 しばらく女神と闇系が額の押し合いをして、睨み合う。

 相容れぬ思想‥‥慈愛に満ちた優しい女神と、冷血な自我の優しくない闇系では‥‥永遠に相容れない。遥か長く存在している女神は大人の‥‥なけなしの大人の余裕で額を引く。

「はぁ‥‥もういいわ‥‥わたしはあなたに期待することをやめるッ!」

「押し付けた期待をッ!‥‥勝手に止めて、落ち込むなッ!死ねッ!」

 女神が眉間にシワを寄せて不機嫌に‥‥まくしたてるように話し始める。

「神様権限よッ!‥‥ここから、わたしは‥‥神様権限をフルに活用するッ!‥‥もう、あなたに気遣いはしないッ!‥‥わたしはわたしに与えられた世界の理をフル活用して‥‥一筋の希望に賭けるわッ!」

「分かったッ!‥‥俺はYouTubeに動画を投稿するッ!」

 語りかける女神を無視して、闇系はスマホを手に持ち下を向く。

「勝手にしなさい‥‥わたしは残り10%に満たない力‥‥魔法的な異世界の力をあなたに与えます‥‥非協力的でも‥‥何か起こるかも知れないとゆう、極ッ!極ッ!極ッ!僅かな可能性に賭けてッ!」

 闇系はもう答えない‥‥ニマニマとスマホを操作するのみ。

「焼き石に水の10%未満の力を授けても‥‥僅かな可能性も生まれない‥‥だから、ユニークスキルを一つ、自由に創造する力を授けます‥‥あなたのYouTuberとしての、ユーモアな発想がもしかしたら‥‥極僅かでも、世界を怪獣から守ってくてる‥‥かも知れないとゆう希望‥‥蜘蛛の糸よりも脆弱な希望に賭けるわッ!」

 女神が異世界の言語を唱えると、闇系の周囲に光が浮かびその身に吸い込まれていく。

 しかし、YouTubeに夢中の闇系は‥‥気にしない‥‥声は届いていても無視をする‥‥口うるさい母親の無視が得意だったッ!

「あと、このままわたしと共に‥‥異世界へ来てもらいます‥‥あなたに授けるはずだった力を使い切ってしまったわたしには‥‥もう、現実世界に戻る余裕はありません」

 闇系がガバッ、と顔を上げて絶叫するッ!

「ちょっと待てッ!‥‥話が違うッ!」

「違わないわッ!‥‥わたしの‥‥【女神】の加護を受けた世界の子供は‥‥異世界‥‥いいえ、現実世界の原型となった【初まりの世界】を旅して、大人になるのよッ!」

「だから‥‥俺はそんな話‥‥聞いてないッ!」

「神様権限ッ!‥‥神様権限よッ!‥‥さあ、初まりの世界を案内するわッ!‥‥冒険に出掛けるのよッ!」

「晒すッ!【女神】クズ【ブス】って動画を投稿してやるッ!」

「あらいいのかしら‥‥この魅力的な曲線美を描くわたしを‥‥薄皮のようなローブしか纏わない半裸のわたしを動画にしたら‥‥BANされるわよッ!」

 闇系が立ち上がり、地団駄して叫ぶッ!

「【集団心理】ッ!‥‥計ったなッ!‥‥俺は‥‥全てのYouTuberは‥‥BANを恐れるッ!」

「わたしは女神よッ!‥‥さあ、スマホなんて捨てて、愛と夢と希望の冒険へッ!」

「やめろ【集団心理】ッ!‥‥冒険を望む奴なんて‥‥統計的に見たら圧倒的少数派だッ!」

 女神が異世界の言語を大きな声で唱えると、瞬く間にクロノスタシスが光に包まれて、闇系と静止した有栖川と琴吹を巻き込んで‥‥異世界【初まりの世界】へ転移した。

 慈愛に満ちた女神‥‥等しく人間を愛する優しい女神が「ざまあみろ」と悪態をついたが誰の耳にも届かなかった。


 ビジネスホテルを学生寮にしたホテルの10階その一室、和泉光平の部屋に生徒会長、鷲津たら子が訪れたのは20時だった。

【闇系チャンネル】の少年を確保することで生徒会の方針を決定してすぐのことだった。

 時系列を追って説明すると。

【闇系チャンネル】と【風のエルフチャンネル】が路地裏で怪獣に魔法をぶっ放し‥‥怪獣の咆哮が轟いた瞬間から物語は大きく動き初める。

 そこに和泉光平と有栖川ハイドが乱入し、和泉はウィンドウにあっさりと勝利して拘束し、有栖川は闇系のスマホにGPSのような魔法を施した。

 有栖川と別れた闇系は無料Wi-Fiが飛ぶマクドナルドの前で【怪獣】ついに怪獣が目覚めた!?【咆哮】の動画を投稿する。

 怪獣の鳴き声を聞いて【法則性】に導かれた、森川亮司32歳がマグドナルドの前にいる闇系を発見、後をつけ始める。

 夕暮れ時、闇系が自宅近くに到着すると、伊藤花火たちに誘拐される。

 森川が闇系を見失い、諦めて帰路につく。

 闇系が伊藤花火から拷問を受ける。

 拷問の末、闇系が気を失ってすぐ、伊藤花火が「頭を冷やす」と言い、ボーリング場から離れる。気の弱そうな相澤守と、派手な化粧の石渡桃華も伊藤について行った。

 ちょうど三人がいなくなった時刻が22時過ぎ‥‥。

 森川がコンビニの公衆電話の前で、思い出のボーリング場を懐かしんだのも22時過ぎ。

 異世界で【負けず嫌い】のリュカの部屋に幾何学的な幼女バックアップが、【勇者】リュカにパーソナリティーを書き換えたのも22時過ぎ。

 そして、拘束された闇系を有栖川ハイドと琴吹彩夏が助けに来たのも22時過ぎ。

 拘束された闇系がYouTubeの撮影をしたせいで、3人はボーリング場から脱出するのにしばらくかかってしまう。

 コンビニからしばらくかけてやってきた森川が、女子高生二人を連れ添った闇系を発見し‥‥果物ナイフで刺す。森川はそのまま逃げて、物語から退場した。

 【女神】が強制的に異世界転移の魔法を行使し、闇系と有栖川と琴吹をクロノスタシスへ運ぶ‥‥女神の90%以上の力を消費して、闇系は一命を‥‥取り留める。

 クロノスタシスに何故か飛んでいたWi-Fiを使用して闇系が【拉致】イジメを晒す【監禁】の動画を投稿したが‥‥クロノスタシスは時計の針が止まった世界‥‥YouTubeに動画が投稿されたのは翌日、‥‥そう翌日の18時になってしまう。

 【拉致】イジメを晒す【監禁】の動画がYouTubeに投稿される半日前、【勇者】リュカは紡績で有名なルルスに繋がる馬車道で、幾何学的な幼女バックアップから現代的な冒険マニュアルを聞く。

 私立特別支援高校の放課後、16時から【会長】鷲津たら子と【副会長】和泉光平と【書記】ドテチンと【会計】エルザが出席‥‥もう一人の【副会長】前髪で瞳が見えない“目立つことが苦手”な琴吹彩夏は欠席した。何故なら、クロノスタシスで時間が停止していたからだった。

 生徒会の緊急会議が終わり、鷲津たら子、異世界ネーム【天才たら子】が、【闇系チャンネル】の新しい投稿動画に気付く。

 それは、見覚えのあるRPGのデザインの場所‥‥FFⅧで登場したケーブルや通気口でゴテゴテした場所。

 すぐに、伊藤花火【英雄アルテマ】のその親友、相澤守【ジオング】の錬金魔法だと‥‥鷲津たら子は悟る。

 そして、【拉致】イジメを晒す【監禁】動画の最後の鼻をすする音が‥‥【副会長】琴吹彩夏‥‥会議に無断欠席した琴吹彩夏だとも気付く。

 たら子は2メートルを超えるドテチンを連れ立って、和泉光平の部屋を訪れる。

 それが‥‥怪獣の咆哮の翌日‥‥20時ッ!

 和泉光平の部屋には一緒に過ごしていたボブヘアーで小動物のようなエルザと、突然訪れた中性的な小柄な女の子、鷲津たら子とその騎士大男ドテチンの4人が集まっていた。

 4人ともまだ学生服姿のままだった。

 和泉は【闇系チャンネル】の動画を見て項垂れる。

「これって、世界配信されてるんだよな?不味くないか。伊藤花火の名前が、イジメの主犯格として広まらないか?」

 どこか達観した冷静な和泉が、動画を見た感想を告げる。

 柔らかい表情のたら子が、その反応を予想していたかのように流暢に答える。

「もう学校も特定されて、このビジネスホテルにもスマホを片手に弱小YouTuberが‥‥凸してきています‥‥魔法使いの高校生が‥‥不健康で細身の中学生を‥‥拉致、監禁、拷問したんです‥‥我々の願い‥‥【現実世界に溶け込んで暮らす】は叶わないでしょう‥‥隠蔽されていたことで‥‥インターネットはより憶測を加速させますから」

 たら子が肩をすくめて見せた。和泉も「やれやれ」とため息とつく。

 エルザとドテチンは理解できないと言わんばかりに、首を傾げていた。

「和泉君‥‥私たちなんだか‥‥遅れている気がしませんか?」

「会長、それさっきゆっていた怪獣を認知した瞬間に感じた『何か』既視感のことか?‥‥それなら、僕も感じていると‥‥」

「いいえ‥‥その‥‥上手く言い表せないのですが。私たちはもしかしたら‥‥乗り遅れたのかも知れません」

「ドテチンッ!」

 不安そうに語るたら子を見て、ドテチンが大声で叫ぶ。

 和泉が唸りながら口にする。

「ま、会長がゆうんなら‥‥そうなんだろ‥‥で、どうするんだ?‥‥流石に、時を進める魔法は使えないぜ」

「‥‥そうですね‥‥結局、会議の内容に帰結するのですが‥‥伊藤花火とその仲間を確保しましょう‥‥ただ、闇系少年はもう‥‥いないような気がします‥‥昨晩‥‥そう、昨晩の出来事を少しでも早く知る必要があります」

 和泉が「分かった」と立ち上がる。

「エルザ‥‥行こうッ!」

 和泉の隣にちょこんと座っていたエルザも立ち上がり、二人は手を繋ぐ。

「うん‥‥イズミがゆうならッ!」

 エルザが嬉しそうに声を出すと、魔力に包まれて体を‥‥【天使の翼のような剣】に姿を変えた。

 和泉が【天使の翼のような剣】を優しく握り、魔力を解放させる。

「‥‥それで、花火はどこにいるんだ?」

「廃墟になったボーリング場に向かってください‥‥琴吹さんとの連絡はそこで途絶えています」

「分かった」

 冷静に答えて、和泉光平とその剣であるエルザは‥‥ビジネスホテルの10階の窓から飛び立った。時刻は20時過ぎ‥‥夏のどんよりと重い雲が月光を隠す、そんな夜だった。




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