嘘なんかじゃないよ
「嘘なんかじゃないよ」っていう台詞を使って何かを書こうと思って書いたもの。
唐突に始まって唐突に終わりますが、そういうものとして見ていただければ幸いです。
「いちがつついたちにしか行けない神社があるんだって」
その話になったのはなぜだったか、どういう流れだったのかは覚えていないけれど、だれかがぽつんと言ったその一言にみんなが一瞬止まったのを覚えている。
それはきっと、怖い話みたいな、オカルトちっくな雰囲気を感じたからだと思う。
「なんで一月一日にしか行けないの?」
「知らないよ。でも、一月一日にしか行けなくて、そこにお参りしたらお願い事が叶うらしいよ」
「なんでも?」
「なんでもなんじゃない?」
話し出した子も、多分誰かからの伝聞なのだろう。詳しいことは何にも知らなくて、みんなが一瞬で惹きつけられたのにじわじわと意識が散っていくのを感じてなんだか面白かった。
「なんで笑ってるの?」
「え?」
笑ってることに気づかなかった私は、訝しそうな顔でそう尋ねられて自分の顔を触った。どうやら、本当に笑っていたみたいだ。
「その話、知ってたから」
「知ってるの?もっと詳しく?」
「うん。あのね、一月一日にしか行けない神社はね、誰でも行けるわけじゃないんだよ。そこの神社の神様が招いてくれた人しか行けないの」
それで?と目を輝かせながら集まってくるみんなに、私はふふふと笑って人差し指を立てた。
神様に招かれるのは、決まった理由があるわけじゃない。もちろん神様だから気まぐれに選ぶ。一人しか招かれないこともあるし、何人か招かれることもある。お願い事はなんでも叶うわけじゃないけど、神様が叶えても良いかなって思ったことは大体叶う。でも、その叶い方は必ずしも願った本人の願った通りとは限らない。たとえばもう学校なんか行きたくないって言ったら、学校に行かなくて良くなるんじゃなくて、学校に行けなくなる場合だってある。それも全部、神様がしてることだから、後で後悔したって無駄なんだ。ただ、神様に選ばれちゃったらそこまで。何も願わなくたって帰れるけど、みんな何か願っちゃうんだって。
「……詳しいね、本当なの?」
「嘘なんかじゃないよ。その神社に行ったことある人、知ってるもん」
「えー、本当?本当かなぁ……」
「嘘なんか言わないよ。信じられないのもわかるけどね。でも、もし神社に行ったらっていうのは考えたおいた方がいいかもね。いつ招かれるかわからないし」
私はそう言って、また笑った。
みんなは本当かなぁって怪しんでたけど、でも最後にはもし行けたら何をお願いする?って話になった。みんなお願い事をたくさんあげて、でも、どれもこれも神様に叶えてもらわなくったって、自分で出来るかもね、って笑ってた。
みんなとお別れして、私は畦道をゆっくり歩いてた。影がどんどん長くなって、一瞬ぽっかりと消える。
「ただいま!!」
消えた一瞬にそう言えば、目の前に大きな階段が現れた。階段を登ったところには大きな鳥居。その下に、着物を着た人が立っている。
「おかえり。今日も楽しかった?」
「楽しかったよ。あなたの話になったよ」
「おや」
階段を登ってその人の手を取ると、その人はにっこり笑いながら手を引いてくれる。
「君が楽しいのが一番だよ」
「あなたの話をするのがとても楽しいよ、神様」
その人は笑う。神様は、笑う。
私は、一月一日じゃなくてもその神社に入れる。神様が招いてくれるから。お願いを叶えてもらったから。
「早く大きくなって、ずっと一緒にいよう」
「早く大きくなるから、私以外の人を見ないでね」
私は神様のお嫁様になったの。神様が招いてくれたから。そして、お願いを叶えてもらったから。
お願いは、私の叶えて欲しかった通りではなかったけど、でも、私の場合は嫌な叶い方ではなかった。もっともっと、幸せな叶い方だった。
だから、嘘なんかじゃない。全部本当のこと。
私はもうおうちに帰らなくてよくって、神様がずっと一緒にいてくれる。
私のお願いは、こうして叶いました。
はてさて、"私"の叶えて欲しかったお願いの形って、いったいどういうものだったのでしょうね…