特異技能!
ぶっきらぼうだが、医者も昨日、衛兵が担ぎ込んで来たのがフラヴィオだと分かった途端に真顔になり、
「誰か?の差し金か!?」
と衛兵を睨んだ。
鋭い眼光に衛兵も押され気味に
「裏に誰か?までは、取り調べ中だ。」
とだけ答えて、フラヴィオの治療を頼み去っていく。
街中の医療関係者からすれば、フラヴィオは、陰ながら医療に保険適用が当たり前にしてくれた“大恩人”だと知れ渡っていた。
火山灰を練り込んだ漆喰を多用した建築の病院の質素だが清潔な病室の寝台の上で
「3日後に退院できそうですよ。」
「先生の見立てだと傷口の抜糸も10日後でしょう。」
とふっくらした看護士さんに教えられ、……後2日も寝台の上だとは、貴重品の本も返却して昼間からの惰眠を貪る。
ここ2日、色々ありすぎて、すぐに熟睡してしまう。
意識が変に冴えて、瞼が重いのに射すような光に包まれた。
「なんだ?子供ではなく、おっさん?いい大人に【賜物】を与えるとは、初めてだ。」
「お前に【職能】/『拳闘士LV.Ⅰ』を与える。」
「それと『技能』/「機先」を習得した。」
「おめでとう!」
と、夢枕?に金髪碧眼の爽やかな青年が現れ、フラヴィオへ告げる。
「ありがとうございます。」
と、フラヴィオも深々と頭を下げ、礼を尽くす。
「お前!転位者か?……なのに私が名乗らずとも……ちゃんと、神への礼を欠かさんとは!?」
「感動した!特別に【特異技能】を与えよう!!」
光輝くアポローン、太陽神と感じ取ったフラヴィオが礼を尽くすのは、“日ノ本”生まれの性である。
「『日ノ出』、翌朝、全HP・MP・全状態回復……etc.ありがたく受け取りたまえ!」
と、夢の中だが高らかに宣言される。
つい、太陽神の後光に弱い日ノ本の民であった為、自然にひれ伏し拝んだ。
アポローンは、ご満悦で退場していく。
まだ日も高い内に病院の個室で目が覚める。
あっ!転位してから今日で12年目だ!?
そう、この世界は、12歳で元服、大人の扱いを受けて神々から【賜物】を神授される。
『転位者』故に遅れたのか?
“あっ!明日には退院できる。”
分かりつつも【特異技能】のことは、黙っておこう。
“何者かに利用されるかも?”
冒険者ギルドでも冒険者の『技能』は、“機密条項”に指定されていた。
そんな、新たな“悩み”に苛まれるなか、『大鬼』のニルスと『半獣神』の大家さんが見舞いに来てくれた。
特に大鬼のニルスは、自分が離れてからのカエルラの襲撃に会ったと知り、そんな訳ないのに
「自分が目を離した隙に!」
病室に入れなかったので窓の外からニルスが頭を下げる。
病室の椅子に座った大家さんは、
「鎖帷子って、しておくもんなんだね?」
と変なことに感心する。
この世界に親類もいないフラヴィオには、彼等だけでも見舞いに来てくれて嬉しかった。
大家さんだけには、昼寝中に起きた夢の出来事を告げると
「へ〰️!ちゃんと仕事してるんだ!?あの神?」
と驚かれ……信用されていない。
“あの神”に同情する。
お花や貴重なお菓子を頂いたが明日には、退院できるのに……
“なんだか?申し訳ない。”
と思いながらも夢のお告げを『技能』の詳細ははぐらかせて看護士へ告げる。
看護士も俄に受け止められず、明日を待つのみ!?
それでも、明日を待つのみの半端な時間に大家さんが……、まだ病室でフラヴィオへナイフで林檎の実の皮を剥き、皿に盛ってくれても、微妙な気分になってしまう。
「モーリスさん、何か?あったんですか!?」
店子全員の面倒を勝手出てくれる大家さんが……この時間まで自分に付き合ってくれるのに異常を感じて、フラヴィオが尋ねた。
林檎の皮を剥く手を休め……大家がフラヴィオの視線から目を外して、
「いいの、あんな……宿六!?」
「他に、女……が、まともな相手が出来た……だけなのよ〰️!」
と、急に押し殺していた感情がこみ上げてきたのか?泣き崩れる。
フラヴィオも驚き包帯を巻いた手に持ったフォークで刺した林檎を口に運んでいたのを落としそうになる。
「それ……、仲買した葡萄酒の卸し先で酔い潰れて、泊めて貰い帰りが一日遅れただけだから!」
突然の声の主を探し、フラヴィオの視線が宙を泳いだ。
病室の窓に止まった烏からと……信じられずフラヴィオが当惑する。
「本当……にそれだけなの?」
烏が喋る怪異に平然と……寧ろ大家さんは安堵して、頭を垂れて頷き返事をする烏……その話を聞きいっている?
知り合いの『魔術師』の“使い魔”が木賃宿に誰も居なかったので周囲を飛び回り……様子を見て来てくれたと説明された。
暫くこちらを向き、どこが黒目か分かりずらいがパチクリさせ、頭を傾げる仕草をする烏がフラヴィオを“じっ〰️!”と見つめ、何かに気付き大家さんと窓辺で二言三言、言葉を交わすと踵を返し翔んで行った。
即座に家への帰り支度を始める大家さんの影でフラヴィオの横たわる寝台へ足踏みしながら、タイミングを測る毛ムクジャラのモフモフが忍び寄っていた。
流石に抱きつかれると塞がりかけた傷口に障ると大家さんが首根っこを押さえて捕まえたのは、大家さんに似た毛並みの娘さん、『猫妖精』の女の子ナナちゃんが足元をばたつかせて、
“離せ〰️!”
“シャッー!!”
と抗議する。
孤児院から大家さん夫妻に養子として引き取り育てられている。
まだ、一才にも満たないが乳離れは過ぎ、二本足で歩き人間の子よりも成長が早い。
人語を話せないが大家さんとは、コミュニケーションが成立していて、散々困らせた後はジャレつき喉を鳴らせて寝てしまう。
大家さんに懐いているのは、間違いない。
しかし、フラヴィオの見立てではナナちゃんは尻尾が時折、二つに裂け二本になる猫又?
“何で日本の妖怪がこの世界にいるのか!?”
それだけが不思議だった。
そんなフラヴィオを他所に大家さんは、
「あの酔っ払い!きっちり説教してくれる!」
言葉は、荒いが顔は笑っていた。
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