大蒜マシマシですか?
木賃宿の部屋に戻り、街中に出る為、襟なしの木綿シャツに麻の上下、腹回りには…この街の治安が悪い訳ではないが鎖帷子の胴衣をシャツの下に着込んでしまう。
営業職は、いろんな場所、行政地区から高級住宅街、商業地区、職人街、貧民街を歩くのでトラブルに巻き込まれる事も多い為、特殊『技能』など持ち合わせていない“転位者”であるフラヴィオの防犯意識がそうさせてしまう。
昨日まで営業職だった為、習慣が癖になり抜けきらない。
街の中心にある噴水前に着き、直ぐにニルスを見つけられた。
3メートル近い身長を見逃す方が無理である。
ニルスに案内されるまま、店に着いたが列して待つ客にウエイトレスのお嬢さんがメニューを見せながら、
「大蒜マシマシですか?」
と、先に注文を取っていた。
案内した筈のニルスが店の入口から並ぶ客の行列の後ろで鼻を摘まむ。
ニルスが高身長過ぎて、テラス席で待たされ、フラヴィオも聴いたことのあるような“ラメ〰️ン”なるパスタを注文する。
ウエイトレスのお嬢さんが厨房のある店内へ消えた。
鼻に入る臭気は、フラヴィオの眠っていた記憶を刺激して、刻み大蒜の匂いにやられたんだろう。
“G系ラーメン”謎の言葉が頭に浮かぶ。
夜の眷族に大蒜が魔除けになると現世のスラヴ系民族の迷信がこの世界でも伝えられている。
実際は、嗅覚が犬並みの大鬼には、臭くて仕方のない代物だろうとフラヴィオでも予想できた。
どんぶりに盛られ運ばれてきたのは、フラヴィオの予想通り、豚骨醤油スープに極太麺のG系ラーメンだった。
“ズルズル”
音を立てて面を啜るフラヴィオを
”下品だぞ!”
と睨み付けたニルスを余所に店内外から、“ズルズル”麺を啜る音がして、ニルスが周囲を見回し仰天した。
異文化に面喰らう、ニルスも次第にそれがこの店のルールなのかと麺を啜りだし、
「なんだ?この味は〰️!?」
声に出して、また、麺を啜る。
“懐かしい?”
と思う味に目をパチクリするフラヴィオ、どんぶりの底が見える程にスープを飲んだ。
シャツの下に着こんだ鎖帷子の胴衣がきつかったが完食して、お代を自ら払いに店内へ入る次いでに厨房を覗くと……キ◯ヌ・リーブス似の二枚目が頭に麻の布を巻いて、茹で上がった麺の湯切りをしている。
“もしや、同じ転位者か?”
と、心持ち期待していただけに残念、記憶持ちの転生者らしい。
フラヴィオの視線を感じたのか?厨房のキ◯ヌ似の店主が此方を見て、感慨深げな顔をした。
会計を済ませている途中、両手で拝まれる西欧人の東洋人の挨拶のテンプレをされる。
一応、拝んで返したが……ジャパニメーション好きが講じてラーメンに興味を持ち、“ようつべ”でラーメン作りをマスターした?
その記憶を持って……転生?
釣を出す、ウエイトレスのお嬢さんに
「なかなかの再現度だ!」
と、店主へ伝えてもらえるよう耳打ちする。
“うちの店が元祖です!”
と、顔を赤くプンスカしたが、
「言えば、わかる!」
相手をせずに店を去った。
此方の世界に来てから、冒険者ギルドの外回り営業の傍ら『転生者』らしき人間をチラホラ見かけたが自身と同じ境遇の『転位者』には出会えなかった。
フラヴィオが立て替えたラメ〰️ン代をニルスがフラヴィオへ
「今日は、俺の奢りだ!」
銀貨を渡し、今は、無職のフラヴィオも遠慮なく奢られる。
「ありがとう。」
ニルスからの心遣いをフラヴィオも素直に受け取った。
「未収金を溜めてる奴へ分割と無理のない返済プランを銀行で話し合いする事になってるんだ。」
フラヴィオへ手を挙げて、街外れへ駆け出して行く。
“やっと独りに成りやがった!”
“貴様の所為で……俺までクビに!?”
冒険者ギルドのギル・マスを逆恨みするなら兎も角、フラヴィオをお門違いに恨む男……、カエルラ・マリスが帰宅後、まだ、3人目の子を腹に宿す妻へギルドから解雇された旨を告げた途端に妻から往復ビンタを喰らわされ、昨晩の内に家を追い出された。
持ち物も取り敢えず、出て行ったカエルラが一晩中、やけ酒を起こして、飲み歩き、何を思ってか?
「居酒屋」の板場から失敬した包丁を懐に隠し、最初は、ギル・マスへの恨み節……次第にあろうことか?フラヴィオへの恨み言をぶつぶつと独り呟き始める。
今まで、ギルド営業のエリートコースを歩んでいただけに急な転落に自尊心がズタズタに引き裂かれ、一睡もしていない赤い目、まともじゃない心理状態で街中を彷徨っていた。
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