トモダチ
たまの休みでもないが、木賃宿の周囲を昼の時間、散策してみよう!と外に出た。
この世界に来てから冒険者ギルドで働きっきりで、ろくにどんな店があるのかも見て歩いた事もなかった。
木賃宿の周りは、決して裕福な者達が住む高級住宅街でもなければ、貧民街でもなかった。
スリッパから革靴に履き替えて一階まで降り木賃宿の外へ飛び出した。
活気のある市場へ出掛けるのも良いが……元顧客も多い地域なので顔を出し辛い。
土のままの砂埃の立つ街路を歩く。
街路の角からフラヴィオの気晴らしの散歩さえ、立ち塞ぐ巨漢が現れた。
「ギルドからの忘れ物だ!?」
その巨漢は、“角のある”の意味の言葉から付けられた名前はニルス、人族ではなく、世間一般的に【大鬼】と呼ばれる亜人種族。
筋骨隆々とした巨躯の持ち主、3メートル近い身長は、黒衣の出で立ちでいるだけで畏怖される。
“魔物”扱いされがちの種族だが、この街では、冒険者の荷役や建設現場の労夫、彼の場合は、冒険者ギルドの依頼主の支払いが滞ると彼が集金に伺う仕事を請け負っている。
働いていた鉱山が閉山され単なる仕事探しで街へ来て路頭に迷っていたのを他所の街から来た冒険者が「魔物だ〰️!」と騒ぎたてたのが原因で衛兵達が取り囲み、一触即発の事態に成りかけたが通りすがりのフラヴィオがニルスへ話し掛け、事情を聞き宥めると……デカイ図体の割りに身を屈めて泣き出した。
手で制していた衛兵達を安心させると聞いた事情を衛兵隊の隊長へ伝えて、退き下がらせる。
そのまま、冒険者ギルドの狸爺へ紹介して今の仕事に就けるように世話していた。
……なので、恩義を感じていたフラヴィオの追放には、腸が煮えくりかえる程、ニルスは怒りを覚えている。
言葉は、ぶっきらぼうでも涙目で鼻をひくつかせながら革袋に入った銅貨ばかりの退職金や麻のズタ袋に机回りやロッカーの私物を持って届けに来てくれた。
本当は、フラヴィオの追放を聞いた時に冒険者ギルドの営業部署へ抗議のうえ暴れ出したかったが……フラヴィオの面子と同種族を偏見から守るため我慢して、誰もが嫌がった退職金と私物の返却の役回りを勝って出て、ここまで来たのだった。
「ありがとう。」
只、礼の言葉で返し、突き出された革袋と麻のズタ袋を両手で抱える。
「あんた、何で?他人の事だと何の遠慮もなしに上層部へ噛み付くのに……自分の事だと……。」
途中で言葉に出来ず、大鬼が膝を崩して泣き出す。
大鬼が周囲の目も気にせず、本音を吐き出す。
フラヴィオが笑顔で肩を叩き、
「ニルス、ありがとう。」
彼の時は、仕事が上手く行かず、本当に落ち込んでた時に……怒鳴られ……返す言葉も無くなってしまった。
「俺が泣いてちゃ、仕様もねぇや!」
ニルス、自ら出したハンカチで涙を拭う。
「俺にやれることが有れば、遠慮せずいってくれ!」
フラヴィオの肩をそっと撫でるごつい大きな掌を握れきれないが手を添えて、
「俺は、大丈夫だ!」
「それより、ギルドもおかしくなってきた。」
「やばくなったら、すぐ辞めた方が良いかもな!?」
普通にリストラ工作すれば、いいのにあんなことをさせるギルドが腐り過ぎた事に疑問しかわかない?
「本当にそうだ!?」
「それでなくても、営業部は、人手不足だってのに?」
フラヴィオの率直な指摘にニルスも納得する。
「あっ!昼でもどうだ。」
「”ラメ〰️ン”っていうパスタを食べさせる店が出来たんだ。」
昼食に誘われたが、届けてもらった退職金と私物を木賃宿に置いてくるとフラヴィオを言い出すとニルスが待ち合わせ場所だけ、告げ暫しのお別れとなる。
退職金といっても給料が元から薄給なので……心許ない額だが、無いよりましだと自分の部屋へと走った。
大家さんに訳を話して、木賃宿にあった金庫に閉まってもらう。
「安心しな!」
と大家さんに男前に答えられる。
複雑な心境のまま、ニルスと約束した待ち合わせ場所の噴水前へ足を運んだ。
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