ギルド営業職、外回りから戻る風景
高い壁に囲まれた狭い街でも一日中を歩き通せば、膝が痛み、背中・肩が重く……不意に痛みが奔る。
自分には、ここ11年の記憶しかない。
一番古い記憶でさえ、山のなかの公園駐車場で営業車輌を停めて休憩中に山全体が鳴動するような地震に襲われ、外に出たら……風景ごとガラスが割れたような……本当にそうとしか、言い様のない光景を見た途端、割れた風景の暗黒の闇に呑まれてしまった。
足場もなく落ちていく?
落下するというよりも、引き込まれ呑まれていく。
自身も……今から思えば『次元の狭間』に落とされたのだろうか?
気付けば、山の斜面に転げ落ち、そこが何処だか?分からぬまま、手や足に擦り傷程度で、腰も軽く打ち、痛みもあったが暫く流離い山を降りていけば、道、進めば街があり、人の列に紛れて迷い込んだ。
西風が幾らか山地の寒さを和らげてくれる頃合い。
早春に入りかけた季節だったろうと記憶している。
周囲の人間は、服装からして、偉く古臭く……服地が麻や木綿の物ばかりでボタンは、見えても……チャックの付いた服は、誰一人いなかった。
髪の色は、黒、茶、栗、赤、金、肌の色も自分のような黄色人種は、誰一人いず。
欧州人のような顔が濃く、額は、鼻筋、所謂、堀の深い顔立ちで鼻も高い人々ばかり。
鏡を覗けば、嫌でも自分が異人種だと理解できた。
見慣れぬ石畳の道に石造りの街並み…言葉も理解できず、硝子窓など一つもない奇妙な古臭い街で途方に暮れていた。
そこへ街の誰か?が通報したのだろうか?
「お前は、どこから来た?」
「何者だ!?」
と、彼のとき私を取り囲んだ中世?の鎧を身に付けた衛兵が言っていたと今では思う。
槍を突きつけられ、抵抗するどころか、その気も湧かず、街の衛兵隊の詰所の牢屋に閉じ込められ、数日を過ごした。
食事も出されたが麦粥に硬いパン、無理して噛めば歯が欠けそうなので粥に浸けて食べた。
味など云えた代物でなかった。
牢屋の隅にトイレがあったが……掃除などしていない汚いもので、身ぶり手振りで道具が有れば、自分で掃除する旨を伝えて、やっと、幾らかマシになる。
自身の行く末に不安も絶望も何も見えない日々のなか、小太りの浅黒い脂ぎった中年男が牢屋の前に現れ、不思議なことにその男だけが自分と同じようなワイシャツ、スーツにズボンの服装で衛兵と何やら話だし、顔や言葉の強さ感情の度合いを読み取ると、中年男が私を引き取る旨であるとわかった。
その中年男が所属する『冒険者ギルド』なる謎組織に拾われた。
木賃宿を宛がわれ、質素な「赤毛の“Bleep!”ン」のような19世紀か?と云うような質素な暮らしが始まる。
それから歳上と思しき、自分と同じ黒髪を肩まで伸ばした中年女性に毎日、日常的会話から言葉、文字・文書の読み書きまで教わっていくうちに……ここが今までいた世界と全く別の異世界だと思い知らされた。
正直、中世の欧州にでも『時間跳躍』していたのだと勘違いしていただけにショックだった。
その頃は、『転スラ』も流行る前だったので、この男には、カルチャーショック以上に……
“並行世界に来ちまった?”
“時空の“Bleep!”っさんどこ〰️!?”
の時代である。
自らの名も忘れてしまった私は、拾われた冒険者ギルドの職員、あの小太りの浅黒い脂ぎった中年が呼び名を決めようと言い出し、「パジェロ」が良いと言い出した。
聞き覚えのある名前で納得しかけたが、他の職員全員で大反対!
意味が“自慰する”……何考えてんだ糞爺!?
結局、「フラヴィオ」、“黄色い”と肌のままの意味が分かり易いと皆の意見が通った。
自分のような、異世界からの迷い人が時折、この世界には、いるらしく、【来訪者】と呼ばれ、民俗学で言う『マレビト』のような扱いらしい。
特に【転生】の報告は、多いが【転移】してくるのは、稀少で【異能】は持たないものの知識がこの世界にないものが多い。
貴重な人材として、様々な業界のギルドに引っ張り凧らしい。
それを見越して、冒険者ギルドに引き取られたのだが、読み書き、数学もある程度出来ると冒険者ギルドに理解され、そのまま、事務職か?と思いきや依頼の数が減っていく傾向が何ヵ月も続き困っていると職場内で会議が始まり、早速、意見するようにと使命されてしまう。
「顧客ルートへの営業か、新規開拓でこちらからエリア別けして、各業種へ営業活動したらどうですか?」
この発言がフラヴィオの過酷な運命への幕開けとなる。
“そもそも、日本的な営業職を彼等は知らなかった!”
それから11年、営業で依頼が増え、冒険者ギルドは、この大陸の半島でも上位級の収益を誇る冒険者ギルドとなる。
営業も増え、エリア・業種別に『班』が編成され『班長』となる者がギルドマスターへの近道とさえ云われる。
だが、……“一番の功労者”である筈の彼は、『主任』となっただけで現場で酷使され続けた。
【来訪者】が
“迫害されないだけ、マシだろ!”
と組織、各ギルドでも使い潰されるのが当たり前とされていた。
――十二分に迫害である!――
この街でも数少ない三階層の石造りの建築物件に冒険者ギルドが入っているのも彼の功績だと街の誰もが理解していた。
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