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歪ミノ世界カら理想の世界へ  作者: 流れる蛍
2/2

理想郷サーカス

工業街ヘブン。


今俺達が拠点としている街の名前だ。

アスファルトで出来たビルが生い茂り、鉄で出来たパイプの枝が無数に伸びた街。蒸気の種が大気を汚染する。


乱雑な街並みは隠れるには持ってこいではあるが、住んでいる者は人間族ばかり。

変わった風貌の俺達はどうしても目立ってしまう。


しかし、金と労働する人間が大勢いるこの街は、俺達みたいな者でも住むには困らない。

俺達は、集まった物を盗めばいいのだから。





俺達のアジトはこの街で最も荒れ果てた場所にある。

街の外れ、既に稼働していない工場の地下。


地下に繋がる入口には一人の男。

手足が四本、合計八本ある。

脱色した明るい金髪に、顔には空かない場所は無いと思われる無数のピアス。

目元は化粧をしているのか、鋭く見える。


門番の男、セクトは俺を見ると、陽気な声を出す。


「ヨッ! マガイ! ご機嫌どう? 元気? 勇気? 頑張ってる?」

「いつもお前はうるせえな、セクト」


苦笑しながら返事をする。


「そりゃそうさ! 俺っち達は世界の爪弾き者。空元気でも景気よくしなきゃやって行けねって! な?」

「ハイハイ。他の連中は?」

「ダンチョーはマガイより一足先に来て、とっくに中さ!」

「知ってるっての。一緒にいたの分かってんだろ」


団長は兎の全獣人、ビットの事だ。

追っ手を撒くために二手に別れたが、先にアジトに戻っていたようだ。


「おーっと、そいつは失礼! 後はそうだな。ホーンの嬢ちゃんとタイムは中にいるぜ! ······マウスはいつも影薄いからなぁ、居るのか居ないのかなぁ」

「分からねえって、何のための見張りだよ」

「そりゃおめえ! 皆を守る為さ!」


俺の指摘に、セクトは四つの手全てで親指を立てる。

そのシュールさに思わず笑ってしまった。


「野暮だった。悪ぃ、お前は間違ってないよ」

「んん? 何を謝ってんのか知らねえけどよ! 元気出せ! な?」

「はは、元気だよ。んじゃ、ビットと合流するわ。見張り頑張れよ」

「オォーケェー! 俺っち頑張るぜえ! なんてったって副ダンチョー様が直々の激励だからな!」

「誰が副団長だよ。んじゃな」

「バイバイ! 副団長!」





昔、このアジトはどこかの違法な研究所だったらしい。

一階は崩れて原型を留めていないが、地下は綺麗な状態で残っていた。

かつて置いてあっただろう高価な機器は当然残っておらず、床には割れたガラスが散らばっている。

通路は入り組んでいて、隠し通路まである。


覚えている道筋を歩いていると、腹に衝撃が響いた。


下を見ると、体に角が巻き付いた黒髪の少女が俺に頭からぶつかっていた。ぐりぐりと頭を俺の腹に擦り付けている。

理想郷(エデン)サーカス』最年少のホーンだ。


「マガイ、マガイ」

「んお? ホーンか」


彼女は角の異常発達により、全身に巻きついている。

その為、腕を動かす事が出来ない。

服を着るのも、食事をするのも誰かの支えなしでは生活出来ない少女だ。


彼女は視線を上げ俺を見ると、無表情に僅かに口元を上げる。


「ん。ホーン。マガイ」

「おう。マガイだ。元気か?」

「げんき。マガイきたから」

「そか。そりゃ元気一杯だ。今日はいい一日になるぜ」


俺はセクトの様に親指を上げるが、ホーンは首を左右に揺らした。


「ちがう」

「あん?」

「今日も、いい一日」

「おぉう、こりゃ一本取られたな」

「とってやったぜ」


ホーンは無い胸を張った。





俺とホーンがじゃれ合っていると、通路の奥から嗄れた声がした。

ホーンの小さな声では響かなかったコンクリートの壁が反響する。


「おやおや、ホーンは今日もマガイにベッタリか。モテる男は辛いのう」

「おう、タイム。今日はババァか」


タイムは自分が内包する魔術の影響で、幼い子供から老婆へ毎日姿が変わってしまう。

今日はかなり歳をとっている日の様で、腰を曲げ、杖をついて歩いている。


「ババァとはご挨拶じゃな。まあ、今は間違っておらんが。だが、ワシは貴様とそれ程歳は変わらんと言うことを忘れるでないぞ」

「知るかよ。お前本当の年齢教えねえだろ」

「ワシはピチピチの十八じゃ」

「こないだは三十二とか言ってたじゃねえか。その口調のせいでボケてるとしか見えねえよ」

「フェッフェッフェ。貴様には絶対に教えてやらんわ」


甲高いタイムの声と態度に顔を顰めてしまう。

彼女は俺の事が嫌いなのか、よく馬鹿にした態度をとる。


「なんだよ。それ」

「因みに、貴様以外の皆は知っておるぞ」

「······マジかよ」

「ショックか? 仲間に隠し事をされて、泣きそうか? ババァが胸を貸してやろうか?」

「いらねえよ。どうせなら若い姿の時に言ってくれ」

「フェッフェ、考えておこう」


そう言うと、タイムは尚も腹に頭を擦り付けているホーンを連れ、来た道を引き返す。

その後ろ姿はどう見ても孫を連れる祖母だ。


今は老婆の姿だが、タイムはとても美人である。

二十代の姿のタイムは、金髪に凹凸のハッキリした体。

誰だって抱きつかれるならそちらが良いだろう。



「あ、ちょっと待て」

「ん? なんじゃ?」


俺は手に持つ紙袋から赤い木の実をタイムに投げる。

タイムは杖を落としながら慌ててそれをキャッチした。

老婆の姿では少し大変だった様だ。


「やるよ。ホーンと二人で分けて食え」

「············本当に貴様は。有難く頂こう」

「ありがと、マガイ」


呆れるタイムと、体を下げてお礼を言うホーン。


俺は、ビットの元へ足を運んだ。

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