表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海 ゆくとき  作者: 涼華
1/9

プロローグ

師走にはいると、木枯らしが急に強くなった。それに促されるように、街を行く人々も慌ただしさが増した。毎年の事ながら、新年を迎える準備が始まっている。子供達は楽しげに、大人達は年越しのやりくりを思案しながら往来を行き交った。その日も、冬晴れの大気はしんしんと冷えていた。薄明の中、家々にぽつぽつと灯りがともり、眠っていた街が目覚め始めていた。人々は、いつもの通りNHKのラジオ放送を時計代わりにしながら、朝の支度にいそしんだ。




午前7時、突如、ラジオから臨時放送のチャイムが流れた。はっとした人々の耳にアナウンサーの第一声が飛び込んできた。




「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部午前六時発表。帝國陸海軍部隊は、本八日未明、西太平洋に置いて、米、英軍と戦闘状態に入れり・・」




真珠湾奇襲攻撃を告げる放送であった。


ついに来たのか・・・不安と期待におののきながら、戦況報告を待っていた国民に対し、「撃沈7隻、損傷10隻、陸海軍機231破壊」という戦果が発表された。思いもかけぬ、一方的な大勝利であった。


国民の戦勝気分はいやが上にも高まることになる。


国中が浮かれる中、2つの失策が伏せられた。1つは、攻撃の第一目標であった米空母艦隊の殆どは、太平洋上にあり、無傷のまま残されたこと。第2は、外交官のミスにより、アメリカに宣戦布告を行わないままの奇襲攻撃になったことであった。この第2のミスこそ、この大戦の戦況を決定する致命的な失策であった。




宣戦布告無しの奇襲攻撃に、「だまし討ち」であると認識したアメリカの世論は一気に開戦へと梶を切る。アメリカ人はunfairであることを最も嫌う。第34代大統領F.ルーズベルトはその日、こう演説した。


「・・昨日は屈辱の日として長く記憶されるべきでしょう。合衆国は、日本帝国により突如、計画的に襲撃されたのであります・・」




Remember Pearl Harbor!




このスローガンのもと、アメリカは一致団結した。GNP第1位の強国アメリカが、民主主義の誇りをかけて参戦したのである。ここに、アメリカの戦意を喪失させ、早期の和平交渉に導くという聯合艦隊司令長官山本五十六のもくろみは完全にはずれる事となる。


アメリカの国力と科学技術の粋を結集して、壊滅させられた太平洋艦隊の補充が急ピッチで行われた。




快調な進撃を続けていた聯合艦隊だったが、翌年のミッドウェー海戦において空母4隻を撃沈され、ここに多くの優秀な操縦士を失った。この海戦を機に、戦局は大きくアメリカに有利に傾くようになる。


しかし、国民は誰も、その事実を知らない・・・





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ