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こちらこそ、さようなら

 初理は、戦場のど真ん中で、一颯と怪物の戦いをぼうっと眺めていた。


 彼女の立つこの場は、現在も刀型魔道具による防壁に囲まれている。しかしあの二人にしてみれば、この程度の壁は無いも同然。明らかな危険地帯に身を置いていることを、初理も理解している。


 だが、初理は動じない。


 凄まじい速度ながら、ひたすら直線的に動き続ける怪物と、その速度についていけないながらも、全ての攻撃を飄々と受ける一颯。


 そんな二人のやり取りをじっと見つめたまま、初理はただ自分たちの行く末を思考していた。


 と、一颯の動きに変化が表れ始める。


 少しずつ、怪物の動きに追いすがり始めたのだ。


 圧倒的な学習速度。


 一颯の身体は、鋼を超える耐久性に加え、風の如き敏捷性をも手に入れようとしている。


 だがそれでも、未だ一颯が、宗次郎がその身を犠牲にしてまで示した魔道の神髄の半分も理解できていないであろうことを、初理は確信していた。




「なによ、これ――」


 綾香は、実験場内で繰り広げられる異様な光景に慄然としていた。


 炎を放つ破壊の権化と、それを赤子の手を捻るが如く捌く、赤黒い右腕をしたヒトガタ。


 目にもとまらぬ速度で交わされる拳。閃光のように瞬く二つの身体。


 そんな中、突き立った一本の刀の隣で立つ儚げな少女。


 時折、皮膚をライターの火で炙られたみたいな苦痛が、彼女の身体を苛む。


――ここにいちゃいけない、ここにいちゃいけない――!


 綾香が当たり前としてきた日々。これが普通だとしてきた感覚。それら全てが、破壊され尽くされる予感がある。


 だが、身体が動かない。綾香はガタガタと震えだす身体を押さえつけ、入口前に立ち尽くす。


 目が離せない。あんなの、嫌だ。


「ふじみ、くん……!」


 いつも平穏をくれた彼が、あの場で最も異常だった。


――悪いのは、俺だ。普通じゃない、俺だけだ。


 いつかの日の彼の言葉。


 彼は、このことをずっと隠していたのだろうか。


 別に裏切りではないだろう。綾香と一颯の関係は、ほんの一か月前に始まったばかりだ。それだけの期間で、人の何を知れるというのか。


 だから以前までは、綾香はむしろ分からないのが当然だと思っていた。それでいいとさえ思っていた。


 だけど今は、分からないのがこんなにも怖い。


 伝う空気がこんなにも熱いのに、身体は冷え切っている。


 綾香はたまらずその場にしゃがみ込んだ。


 息苦しくて、目の前が霞む。嫌だ、辛い、誰か――


「助けて、藤見君……!」


 震える腕を伸ばす。瞬間、


「っ!」


 綾香は、肩に何かが載るような違和感を覚えて、振り返った。


 そこには、空気が詰まったビニール袋みたいに半透明でふよふよとした、人の形がいた。

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