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えっ、霧の中って泳げるんですか⁉

「――、」


 どうやら眠っていたらしい。一颯は上体を起こすと、脇に読みかけの文庫本が転がっているのに気付いた。


 手に取って、どこか折れ曲がってはいないか確認する――大丈夫そうだ。


 ベッドから立ち上がり、現時刻を確認しようとスマホを探してみると、部屋隅、充電器に繋いだままのスマホが揺れていた。


 着信とは珍しい、いや、最近はそこまででもないか、と綾香を思い浮かべながらスマホを手に取る。発信元は宗次郎だった。


「もしもし」

『あ、よかった、繋がった』


 心なしか安堵したような宗次郎の声。スマホの着信履歴が江藤宗次郎という単語で埋まっている可能性を想像しながら、一颯は、


「もしかして、何か緊急の用件でしたか?」

「あー、ううん、そうじゃなくてね。水嶋君のこと、きちんと謝っておきたくて」


 合点がいった。律儀なことである。


「もう三浦の方には連絡したんですか?」

『うん』

「なら、俺の方は特に謝って頂かなくても」

『そうかい? 水嶋君は、クラスでもかなり人気があったみたいじゃないか。君とも、いくらか交流があったんだろう?』


「それは、はい。ただ、会話をしたのなんて、数えられる程しかありませんから」

『それでも、君にとっては得難い存在だったのではないかい?』

「それは否定出来ません。ただやはり――」

『貴重でも、大切ではなかった、かい?』

「はい」


 翔の代わりなら、いくらでもいる。級友たちにとっては、どうかは分からないが。


『でも、いつまでも大切じゃないまま、とは限らないんじゃない?』

「それも、否定は出来ません」

『否定出来ないことばかりだね』

「知らないことがたくさんありますから」

『ふふ、そうだね。私も結構長く生きたけど、分からないことだらけだ』


 宗次郎は明るい調子で、後悔を滲ませた。


「ありがとうございます。やはり先生にはお世話になってばかりですね」


 宗次郎が、翔と、そして何より一颯と初理のことを気にかけてくれているということは、一颯だって気付いている。それが部活の顧問としてのものなのか、それ以外のものなのかは、分からないけれど。


『そう言ってもらえると、私も教師という職にしがみつき続けてきた甲斐があったってものだよ』


 そんな風に、互いに相手への気休めを口にし合いながら、やがて通話は終了した。


 ちなみに、スマホの通話履歴は思ったほどではなかった。メッセージアプリの方には、綾香からの一言、二言があって、それに返事をしながら、一颯は遅めの夕食を摂ることにした。


 そうやって、夜は安らかに更けていく。今、翔がどんな状況にあるのか、そんなことは、一颯も綾香も佐斗も、そして宗次郎も知るわけがないことであった。

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