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剣聖、天使な娘を拾う  作者: ミューズ
16/18

16 ヤマアラシ掃討 前編

ディアルは王都へ帰って来た。

突如として発生した大量の魔物を討伐し終えたのだ。

と言ってもほとんどゼスが対処してくれたのだが。

何はともあれ、戦死者を出すこともなく討伐完了したので、今回の討伐遠征は満点だ。

王都にも被害はなかったし。

そんなことを脳内に浮かべながら、ディアルは家のソファーで寝転がっていた。

本当に疲れた。

もう今夜は一歩も動けそうにない。いや動きたくない。

今日くらいグダグダしてても許されるだろう。

ミーナも帰宅後早々寝入ってしまったし。

ディアルは心の中でそう理由付け、そのままソファーで寝落ちしたのだった。


そして翌日。

ディアルは疲労で爆睡し、起きた時はもう正午過ぎだった。

まだ開き切らない瞼を何とか開けると、ミーナが隣で心配そうにディアルを見ているのが目に入った。

「あ!パパおはよう」

「ああ。おはよう、ミーナ」

「もう、死んだようにずっと起きなかったから心配したよ。でも起きてくれて良かった」

ミーナが心底安堵したように微笑んで来たので、ディアルは一言謝った。

「ごめんな。昨日の魔物の大量討伐で疲れ過ぎたみたいだ。心配かけちゃったな」

ミーナが不安になるほどの昏睡状態とは、いやはや一体自分はどんな寝方をしていたのだろうか。

脳がクリアになって身体が完全に動くようになった時、周りをよくよく見渡すと、どうやらリビングのソファーで寝ていたことに気付いた。

それはそれはさぞかし心配することだろう。

ディアルは恥ずかしくなってばっと立ち上がった。

そしてそのままリビングから逃げ出した。

ミーナがどうしたのかと尋ねて来た。

「・・・パパ、どうしたの?」

「トイレだ」

嘘だ。

単にリビングのソファーで爆睡するというダメパパシーンを娘にばっちり見られた恥ずかしさを紛らわしに行っただけだ。

幸いミーナにディアルの本心は気付かれていなかったようだった。


それから少し経って、ディアルは再びリビングへ戻って来た。

そしてミーナに気になっていたことを訊いた。

「そういえばミーナ、朝ご飯はどうしたんだ?俺が起きてなかったからまさか食べてないか!?」

「ううん。残ってたスープとお肉を焼いて食べたから大丈夫だよ」

そう聞いてほっと安堵の息を吐いたディアル。

ミーナはちゃんと朝食を摂っていたようだ。

昼まで寝ていて子供に朝食を与えないなど、父親たる者失格である。

本当にお利口に出来た娘で良かったと安堵しつつも、とても誇らしく思うディアルだった。

しかしミーナは天使なので、一食二食抜いたところで全然問題ないのだが。

そんなことは露ほども知らないディアルだった。

「さて。ミーナ、お昼食べに行こう。朝はちゃんと食べさせてやれなかったから、食べたい物を何でも食べに行こう」

「いいの?」

「もちろん」

ディアルは罪悪感からお昼は好きな物を食べさせてやることにした。

埋め合わせである。

「私スパゲッティーがいいな」

「分かった。良し。行くか」

「うん!」

ディアルとミーナはスパゲッティーを食べに飲食店へと向かった。


王都ブランシアは何処も豪華絢爛で、美味しい店ばかりが軒を連ねている。

そんな中で今回訪れたのは〈レストランホワイトローズ〉という店だった。

名前の通り店は白亜の建物である。

中も白を基調とした内装で、天井には白薔薇の彫刻が精緻に彫られていた。

芸術的な意匠が施された美しい店内には、やはり上流階級の客ばかりテーブルに着いている。

ミーナは格式高い店にやって来たのだと身体を強ばらせた。

ディアルはしまったと思った。

ミーナはこういう高級な店に慣れていない。

ミーナは今まで料理店で食事をしたことが何度もあったが、王都の高級料理店を訪れたことはなかった。

初めての高級店に緊張しているのだ。

無理もない。

ディアルだって最初はそうだった。

王宮騎士団に入って直ぐの頃は、何度もマルクス中将に連れて来て貰っていたが、落ち着かなかったものだ。

何とかしてミーナの緊張を解してやらないと。

ディアルはミーナに優しく声を掛けた。

「ミーナはこういう高級な店は初めてだもんな。緊張するよな。でも大丈夫だ。席に座って水でも飲んでるうちに少しは慣れて来るさ。料理は期待してろよ。絶対美味しいぞ」

「ほんと!?」

「ああ。もちろん。なんてったってここは四つ星レストランだ。めちゃくちゃ美味いぞ」

「お待たせしました。二名様ですね?お席へご案内致します」

そうこうしていると、タキシード姿のウェイターさんが席に案内してくれた。

連れられて席へ向かう途中、ミーナはお料理楽しみとわくわくしていた。

ディアルはそんなミーナを見て、あぁ可愛い!と心の中でキュンキュンしていた。

もうミーナは緊張が解けていた。

席に着いて食べたい物を注文する。

ミーナは食べたがっていたスパゲッティー。

ナポリタンだ。

ディアルはカルパッチョを注文した。

料理が運ばれて来た。

テーブルにナポリタンとカルパッチョが並ぶ。

「わぁ!美味しそう!」

「楽しそうで何よりだ」

ミーナが楽しそうに言ってナポリタンをフォークでくるくる巻く。

パクリ。もぐもぐ。

「んん!美味しい!」

一口食べて感動し、顔を綻ばせたミーナ。

その蕩けたような笑顔が何とも可愛い。

またもディアルは心の中でキュンキュンした。

親バカ密かに炸裂である。

いよいよディアルも自分の注文した昼食を食べ始めた。

ディアルが注文したカルパッチョは、薄切りの牛ヒレ肉にチーズが鏤められていた。

口に入れると、ほのかにオリーブオイルの香りが口に広がった。

チーズの味と牛ヒレ肉の旨味が合わさって、上品な美味しさだ。

四つ星レストラン。その評価に値する料理の味だった。

「パパ、美味しいね!」

「だろ」

ミーナの楽しそうな無敵可愛い笑顔が、ディアルを捉える。

ディアルの顔も自然と、いや必然的に綻ぶ。

美味しい料理とミーナの可愛い笑顔のハーモニー。

最高のランチタイムだった。


昼食を食べ終え、二人は〈レストランホワイトローズ〉を後にした。

「時間もあることだし、どっか行きたい所とかあるか?」

本日ディアルは丁度フリーだ。

ミーナを好きな所へ連れて行ける休日だ。

いやそもそもディアルは王宮騎士だが非番なので、ほぼ毎日休日と言っていい。

給料は当然多少少ないものの、それでも他職業よりは全然高給取りなのだ。

剣聖は給料泥棒であった。

「行きたい所?うーん・・・じゃあカフェでデザートが食べたい」

「そうか。じゃあカフェに行こうか」

ミーナはカフェに行って何かデザートがご所望のようだ。

娘に甘々なディアルは、当然ミーナの頼みを叶えるべく早速カフェへ歩き出した。

そんなところでディアルの魔導通信器が鳴った。


「ディアル君。聞こえるかね?」

魔導通信器から聞こえて来た声は、マルクス中将のものだった。

別に分かっていたが。

魔導通信器は、王宮騎士団や王国軍上層部のみが使用しているかなり高価な代物だ。

広く普及しているわけではないのだ。

それに自分に連絡を寄越して来る人なんて、マルクス中将以外にいないので直ぐ分かる。

ディアルは受け答える。

「はい。ディアルです。中将、何かありましたか?」

「おお、ディアル君。よく聞いてくれたまえ。前々から追っている大盗賊団ヤマアラシのアジトを突き止めた。直ちに討伐隊を組み今夜出征する。ディアル君も来てくれ。頼んだぞ」

ディアルは目を剥いた。

通信器の向こう側から届いた中将の声は、ディアルが追跡している事件の犯人の居場所の報だった。

こんなに早い段階で突き止めるとは驚きだ。

ミーナが訊いて来た。

「パパ、何があったの?」

「中将がな。俺たちが追ってる大盗賊団のアジトが分かったって報せをくれたんだ」

「本当!?確かその盗賊団って、騎士団が何度捜しても中々尻尾を掴ませない連中なんでしょ?よくこんな早くアジトが分かったね!」

ミーナも中将の情報を聞くや驚嘆の声を漏らした。

今まであちこちの街道で事件を起こしているのに、全く捕まえられなかったのだ。

それを短期間でアジトを突き止めた。

驚嘆に値するも十分だろう。

「マルクス中将、一体誰がヤマアラシのアジトを突き止めたんですか?」

「誰かって?ディアル君の良きライバル、剣帝ゼスだよ。捜査は彼に一任していたからね。十分やってくれるとは思っていたが、まさかこれ程とは・・・いやはや流石と言うしかないのぅ」

「ははは。ゼスか・・・やっぱあいつはすげーや。分かりました。直ぐに向かいます」

「うむ。作戦会議も開きたいしな。とは言えそんなに急ぐ必要もない。待っておるぞ」

そうしてマルクス中将との通信が終わった。

ディアルはミーナに向き直る。

「ゼスが奴らのアジトを突き止めたそうだ。本当に流石だよ」

「へぇ。ゼスさんって本当に凄いんだね!パパと渡り合えるくらいだもんね。この前も凄かったし」

「あいつが頑張ったんだ。今度は俺たちが頑張る番だ。ミーナ、一緒に盗賊退治するぞ!」

ディアルが真っ直ぐミーナを見詰め意気込む。

ミーナもディアルの力強い視線を受け止めて答える。

「うん!パパと一緒に盗賊をやっつける!」

そう言い放ったミーナの眼は、やる気に燃える力強い炎を宿していた。


ディアルとミーナはあれから直ぐお出掛けを引き上げ、マルクス中将の元へやって来た。

場所は大会議室。

そこには既に何人もの軍の者たちが着席していた。

縦長テーブルの一番奥に堂々と貫禄を見せ座っているのは、今回の作戦の総司令官マルクス中将だ。

左右には奥から順に少将、大佐、中佐、少佐、大尉、中尉と席に着いている。

そしてディアルの目の前の席に座っていたのは、今回の功労者、剣帝ゼスだった。

「ゼス」

「ディアルか」

「すげーなお前!捜査開始から僅か三日でアジトを突き止めちまうなんてヤバすぎんだろ」

「別に大したことはない。只、もう既に場所を移動したかもしれん。奴らの頭は馬鹿ではない。俺の探知器にも気付いた可能性は高い」

「そうなのか!?じゃあやばいんじゃねーの!?」

「大丈夫だ。もう奴の魔力は覚えた」

「奴の魔力?なあゼス、奴の魔力って一体」

「全員揃ったな。それでは作戦会議を始める」

ゼスに気になったことを訊こうとしたところ、マルクス中将が作戦会議の開始を告げてしまった。

なので質問は一旦断念した。

作戦会議後にまた訊けばいいだろう。

マルクス中将が作戦の内容を話し始めた。

ディアルは耳を傾け聴く。

ちなみにミーナは、ディアルの左隣で大人しく座ってマルクス中将の話に耳を傾けている。

言われなくてもやれる出来た娘であった。

一時間ぐらいで会議は終了した。

作戦内容は至ってシンプルなものだ。

大盗賊団ヤマアラシのアジトに到着したら、アジトの中にガス弾を投擲し、盗賊団員たちを炙り出す。

そして出て来たところを残らず殲滅する。

以上である。

これは国王陛下から直々に殲滅の許可が下りたため、このような作戦内容になったのである。

王国内各地でこうも暴れられては、陛下も堪忍袋の緒が切れたのか、即殺しても構わないということだろう。

そんな感じに作戦が決まった。

会議室を出たディアルはゼスに先から気になっていたことを訊いてみた。

「ゼス」

「何だ?」

「お前が先言った奴の魔力って一体何のことだ?」

「・・・ああ。それのことか。それはな、この前大規模な魔物の大量発生があっただろ?あれは人為的な物だ」

「何だって!」

ディアルは本日二度目の驚嘆に目を剥いた。

声まで上げた。叫んだ。

先日の魔物の大量発生は、ゼス曰くなんと人の手で引き起こされた人為的な物だったそうだ。

驚愕するディアルにゼスは呆れた目をして言った。

「お前まさか気付いていなかったのか?」

冷たく訊かれてディアルはうっとなった。

「いやぁ・・・その」

「まあとにかくだ。俺は魔物の大量発生を起こした魔法師の魔力を覚えた」

え?どうやって?ゼス凄くね?

ディアルはそう思った。

種を訊くと、あの時の魔物の一体を捕まえて探知魔法を掛けたそうだ。

するとその術者の居場所まで分かるのだとか。

ゼス凄くね?凄すぎじゃね?

二度目。ディアル本日二度目のゼスへの感心だった。

「話はそれだけか?早く準備しておけ。出発までそう時間は無いぞ」

そう素っ気無く残してゼスは去っていった。

「冷めてーなぁ」

そうは言いながらも、ディアルもヤマアラシ征討の準備をするべくミーナの所へ向かったのだった。

~ ~ ~ ~

「まさかあそこが割れるたぁな。とんだ使い手がいやがったもんだぜ」

そう苦々しく酒を呷ったのは、大盗賊団ヤマアラシの頭領ザーガだ。

ザーガ率いる大盗賊団ヤマアラシは、ゼスにまんまとアジトを突き止められ、拠点移動を余儀なくさせられた。

煮え湯を飲まされたのだ。

それもとてもとても熱い。

ザーガは苦虫を噛み潰したような顔で晩酌するのだった。

そして丁度その時を同じくして、マルクス中将率いるヤマアラシ討伐隊が進軍を開始した。





















































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