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剣聖、天使な娘を拾う  作者: ミューズ
11/18

11 ディアルの秘密

「聖魂とは、聖紋が刻まれた魂のことだ。聖魂を持つ者は聖遺物という女神が遺した武器を使うことが出来、更に通常の魔法の範疇では測れぬとても強力な魔法を有する。それを聖魔法と呼んでいる。聖魂の所有者は世界に四人既に存在している。汝が五人目の聖魂の持ち主よ。」

リヴァイアサンは言った。

聖魂がどのような魂であるのかということ。

聖魂を持つ者は極めて希で、女神が遺した聖遺物という武器と魔法を超えた絶大な力、聖魔法を扱えるということ。

しかしこの時もう一つ初めて耳にする単語が出て来た。

「その聖紋ってのは何だ?」

「聖紋とは、聖遺物の力を発揮させる為の鍵たる紋章。聖紋を持たぬ者が聖遺物を使うことは出来ぬ。その聖紋の種類によって使える聖遺物が決まっている。剣の聖紋ならば聖剣、槍の聖紋ならば聖槍というようにな。聖紋の種類は現在汝を入れて五つ。因みに汝の聖紋は剣だ。何とも汝らしいな。」

聖魂や聖紋のことは分かったが、一度に聞いた情報量が多くて整理が追いつかず、状況が飲み込めない。

兎に角自分は凄い力を持っていたということでいいのだろうか。

まあ隣のミーナが憧れのスーパースターを目の前で見た時のようにキラキラした目で自分を見ているのでそうなのだろう。

そんな風に納得したディアルだった。

リヴァイアサンは剣の聖紋が刻まれているならば聖剣が使えると言っていた。

それに自分の魂に剣の聖紋が刻まれているとも。

ということは、自分は聖剣を使えるのだ。

しかも魔法を凌駕する聖魔法という力も使えるらしい。

一体どんな聖魔法が使えるのだろうか。

「俺は一体どんな聖魔法が使えるんだ?」

ディアルが食い入るように訊くとリヴァイアサンは呆れたようにして答えた。

「全く、最強の剣聖ともあろう者が子供みたいにはしゃぎようて。まあ分からんでもないがな。良いだろう。教えてやる。汝の持つ聖魔法は力を自身に宿す力だ。」

「・・・・・」

ディアルは何を言われたか分からなかった。

ミーナは何を言われたか分かったようで、パパ凄い!とぴょんぴょん飛び跳ねて、まるで自分のことのように喜んでいる。

この反応から察するに、どうやら自分はとんでもない能力を持っていたようだ。

どれくらいとんでもないのか順を追って整理していく。

取り敢えず自分は聖魂と呼ばれる世界に五つしかない魂を持っている。

その聖魂には、聖遺物の真価を発揮させる鍵となる聖紋という紋章が刻印されている。

聖紋の種類は幾つかあって、その聖紋によって使える聖遺物が決まっている。

そして聖魂の持ち主が使える聖魔法は、どれも魔法を凌駕する途轍もなく強力な力。

自分が持つ聖魔法は力を身に宿す力だ。

相手の力を手に入れて自身に宿し、その力を行使することが出来るということだ。

ということは、魔法が使えない弱点をカバー出来るんじゃないか?

何だか天から光明が差したような感じがして、ディアルは心が躍る心地でいた。

そんな欣喜雀躍のディアルを温かい目でミーナが見詰める。

魔法が使えないコンプレックスを抱いていたディアルをミーナはよく知っている。

聖魔法が使えると判ってそれが解消されたらいいな。

ミーナは心からそう思ったのだった。

ディアルもミーナのその様子からミーナの気持ちを察して、ありがとうの気持ちを込めて微笑み返した。

神竜リヴァイアサンを前にして大胆に堂々とお花畑を展開したディアルとミーナ。

正に強者である。

いきなり攻撃でもされたらどうするのだろうか。

リヴァイアサンは呆れたように口を開いた。

「全く汝らは。幾ら剣聖と天使といえど、我を前にして大胆不敵なものだな。」

重々しい声音で言い、鼻を鳴らし睥睨するリヴァイアサン。

しかし何処かディアルとミーナをからかっているように聞こえた。

「そ、そうだな。ははは。」

「うぅ。」

リヴァイアサンにそう言われ、気まずくなった二人。

ディアルはミーナから離れそっぽを向いた。

ミーナは顔を赤らめ俯いた。

「「・・・・・・・」」

この状況、かなり気まずい。

ディアルはこの空気を払拭しようとリヴァイアサンに話を振った。

「そ、そうだ。なあリヴァイアサン、聖魔法ってそもそもどうやって使うんだ?」

そう。肝心なのはここだ。

聖魂のことは分かった。

女神が遺したとされる聖遺物を使う為の聖紋が自分の魂に刻まれている。

その聖紋の形によって使える聖遺物が決まる。

ディアルの聖紋は剣ということらしいので、剣の聖遺物である聖剣が使えると思っていいようだ。

聖遺物の在り処が分からずお目にかかれていないため、直ぐに聖剣を手に入れるのは不可能だが、聖遺物とは関係の無い聖魔法なら、使い方を教われば今直ぐにでも使えるようになるだろう。

そう思って尋ねたのだが、どういう訳かリヴァイアサンは沈黙したまま答えてくれない。

竜なので表情はあまり分からないが、訝しんでいるように見えた。

どうしたのかとディアルは心配して尋ねた。

するとリヴァイアサンの口から、ディアル自身もミーナも今の今まですっかり忘れていた、ディアルの問題の核心を突く言葉が発せられた。

「聖魔法のことなのだが、何とも不思議なことに、汝は魔力を持っていない。ゼロだ。汝はこの世界では希少な魔力無しなのだ。なのだが、汝は聖魂の持ち主。聖紋を有し、聖魔法の力も確かにある。聖魔法とて一種の魔法。魔力無くしては行使出来ぬ。」

「あ・・・・・・・」

ディアル固まった。

それを聞いてディアルは、そうだった!と雷が落ちたような衝撃を受け、動けずにいたのだ。

ミーナもそう言えばそうだったと不安な顔色を見せた。

ディアルは思う。

俺聖魂なんて超レアな代物持ってて魔法より凄い聖魔法使えるって言われて、弱点克服って意気込んでたけど、聖魔法だって魔法なんだから魔力が無い俺に使える訳ねーよなぁ・・・

がっくりと肩を落としたディアルを見て、ミーナはディアルの手を優しく握った。

そして元気付けるように言った。

「パパ、聖魔法が使えなくても聖剣は使えるよ。それにもしかしたら聖魔法が使える方法が見つかるかもしれないよ。だから一緒に頑張ろうよ。」

ミーナの温かい思いやりの言葉がディアルの心に沁み渡る。

落胆していた暗い気持ちがすうっと晴れていく。

ミーナの手の温もりと、温かい優しい言葉と、そして極めつけのキラキラの笑顔。

この無敵の三段仕立てに晴れない気持ちなどこの世にあるものか。

心が晴れると自然と力が湧いて来た。

ぐっと拳に力を込めて握り、ミーナの頭を撫でる。

頭を撫でられたミーナは嬉しそうに目を細めた。

「ありがとう、ミーナ。おかげで元気が出たよ。魔力が無いからって聖魔法を諦めたりしたら前に進めないもんな。ミーナの言う通り、魔力以外でも聖魔法が使える方法を探してみる。付いて来てくれるか?」

力強くそう宣言したディアルの表情は、迷いの無い晴れ晴れとしたものだった。

いつも通りの明るいディアルだ。

いつものディアルが戻って来た。

それが何だか嬉しくて、ミーナは微笑を湛え元気いっぱい

「うん!」

そう返事した。

二人のやり取りを見ていたリヴァイアサンは、双眸に強い意志の光を放つディアルを視認し、眼を静かに閉じて吟味するように一度頷いた。

そして眼を開けてディアルに言い放った。

「聖魂を持つ者よ。聞け。汝の持つ聖紋は、二振りの交差した剣。それが意味する所は即ち、汝は二本聖剣を手にすることが出来る。普通はどのような聖紋であっても複数ある者など存在していなかった。だが汝は剣の聖紋が二つある。これは何かの思し召しか?汝は何か大きな運命でも背負っているのか?分からぬが汝は特別だということだ。我は直に海へと還る。我は基本人間の事には干渉せぬが、近頃何やらこの世界に不穏な気が流れている。世界の危機やもしれぬ。汝はとても興味深い人間だ。何か大事を成し遂げることが出来るような気がするのだ。そこで汝に問う。我と戦い我を倒してみよ。もし我を倒すことが出来れば、そこの剣を汝にくれてやろう。」

リヴァイアサンは身体を動かし、背後にある剣を見せた。

これがタエさんの言っていたリヴァイアサンの魔力を込めた剣だろうか?

全体が蒼い剣だ。蒼い輝きが何とも幻想的で美しい。

常時放たれている蒼光はリヴァイアサンの魔力だろう。

魔力を封じ込めていてもひしひしと感じる濃密な水の魔力の奔流。

これ以上近づいたら意識を持っていかれるかもしれない。

その力強さに圧倒されたディアルをミーナは全力で守った。

ミーナは魔力があるためレジスト出来たようだ。

魔力が皆無のディアルには濃密な魔力の力に抵抗する術が無いのだ。

「パパ、大丈夫?」

心配して声を掛けて来たミーナに大丈夫と言って、ディアルは再びあの剣に視線を戻した。

途轍もなく強力な魔力だ。

これほどの魔力をあの剣に封印したリヴァイアの風のメンバーは本当に凄いなとディアルは思った。

リヴァイアサンは、戦って勝てばあの剣をくれると言った。

しかし濃密な魔力に圧倒され、近づくことさえ出来ない自分に使える訳が無い。

でも諦める訳にはいかない。

ミーナと約束したのだ。

聖剣を手に入れて聖魔法を使いこなしてみせると。

こんな所で諦めて、格好悪い父親の姿を大好きな娘に見せる訳には絶対にいかない。

だから答えはたった一つ。

ディアルは鋭い眼でリヴァイアサンを見据える。

言外に言っているのだ。その勝負受けて立つと。

ミーナは察しの良い出来た子なので、既に脇に退避済みだ。

しかしその表情はディアルを応援している一方で、身を案じているようでもある。

普通の竜ではない神竜との一騎打ち。

ディアルのことはいつも信じているミーナだが、幾ら剣聖と呼ばれる男でも、魔法が使えないのでは勝ち目など果たしてあるのかと甚だ疑問に思ってしまう。

心配するのも当然だ。

そんなミーナの表情を見てか、リヴァイアサンはディアルに言った。

「父親たる者あまり子供を心配させるでないぞ。」

そう言われてディアルはミーナを振り返り眼で、大丈夫だ、心配するな、と伝え安心させた。

ミーナはあまり表情に違いは見られないが、少しは安心したようで力が抜けた感じがした。

それを見て安心したディアルは、リヴァイアサンの眼を見据えて言った。

「準備は完了した。行くぞ!」

聞いてリヴァイアサンも

「良いだろう。来い!」

吹き飛ばすような強さで言い放ち魔力を全身から飛ばした。

神竜VS剣聖の激闘の幕開けだった。

~ ~ ~ ~

「急に呼び出すなんて珍しいねえ。一体何だいセム?」

イセドは今王都にある大聖堂に来ていた。

イセドと同じ神竜捧柱のセムという男に突然呼び出されたのだ。

なので少し機嫌が悪い。

イセドを呼び出した張本人のセムは聖職者の出で立ちをしていた。

白髪で鼻の下から顎の下まで伸びる白髭を蓄えた穏やかな顔つきの正に好々爺だ。

「すまんすまん。イセド君にも伝えなければならない事があったのだよ。」

棘のある言われ方をされたセムだが、怒ることなく穏やかな顔色のままで、むしろ申し訳なさそうに対応した。

性格も温厚な人なのかもしれない。

「僕にも、伝えなければならない事ってことは、他の誰かに先に話したってことだね?」

「そうだな。ガンス君には既に話してあるよ。」

「ガンスに話したんだ。で、その内容は?内容によっては彼暴走しかねないからね。」

困った困ったと首を左右に振るイセド。

イセド自身ガンスの勝手な行動に何度も振り回されて来た。

尻拭いはもう懲り懲りだとつくづく思う。

今回も暴走しないでくれと今も心の中で切に願っている。

そんなイセドの心中を察したセムは言った。

「心配要らんよ。ガンス君は左腕を失くしたようだな。その上戦いに敗れたのだろう。修行をすると言って話を碌に聞かずに出て行ったよ。ほほほ。若いのぅ。」

「それなら安心したよ。また勝手にドラゴン狩りに出られたら王国にバレそうだからね。良かった良かった。」

心底安堵しているのが分かるイセドの言い方に、ほほほと苦笑するセム。

イセドが用件を急かして来たのでセムは話を話し始めた。

「手短に言おう。神竜リヴァイアサンが目覚めた。」

「へぇ。いよいよだね。他の神竜も目覚める頃だ。で、話はそれだけかい?」

「鋭いのぅ。神竜リヴァイアサンの復活は問題ないのだが、ガンス君にこの話をした時一人の解放者が聞いてしまってな、どういう訳か勇んで倒しに向かってしまったのだよ。それで止めに行って貰いたいのだが、良いか?」

イセドは胃が痛くなるような思いで、はぁ、と溜め息を吐いた。

「また尻拭いか。まあ薄々そんな話だろうと思ってたけどね。分かったよ。引き受けよう。」

「本当にすまんな。」

「但しその者の生死は保証しないけどね。」

「分かっておる。」

「じゃあ僕はこれで。」

そうしてイセドはセムの元を後にした。

一人大聖堂に残ったセムは遠い目をしてこう零した。

「剣聖ディアル君。どうかやられてくれるなよ。」

~ ~ ~ ~












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