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夏のホラー 短編

次は……

作者: 空色

 その日は、随分と残業で遅くなってしまった。時計を見ると既に終電間際だ。


「マズい」


 思わず言葉が出た。会社から駅まではそう離れていないが、走れば間に合うか微妙な時間だ。出来れば終電で帰りたい。家までタクシーに乗って帰るのはなかなかの痛い出費だ。

 素早く片付け、慌てて会社を出ようとした。しとしとと雨が降っている。


「傘を持って来れば良かったな」


 朝の天気予報では、雨は降らないと言っていたのに今日は本当についてない。


「おう、鈴木!」


 会社の門付近で唐突に声をかけられた。驚いて振り向くと先輩の冴島がいた。


「あれ? 冴島さんもまだ残ってたんですか?」

「おう! 納期に間に合わなくてな」

「終電もうすぐなのに急がなくていいんですか?」


 同僚の冴島が一瞬眉を顰めた。何だろう? 確か彼も電車通勤だった筈だが、こんな所で何をしているのだろうか。鈴木が怪訝そうに見る。


「俺はタクシーで帰るからな。お前も一緒に乗って帰るか?」

「えっ? 走ればまだ終電間に合うんじゃないですか?」

「ギリギリだろう? 間に合わなくなりそうだしさ」


「俺は足遅いしさ」と冴島はカラカラと笑った。何となく笑い方が不自然だ。もう一度「タクシー乗って帰るか?」と誘われたが丁重にお断りした。そう言うと冴島は「そうか。気を付けて帰れよ」と言って、こんな妙な事を言った。


「鈴木、もし終電に間に合わなくても次の電車には乗るなよ」


 一体何の話だろうか? 気にはなったが、先を急いだ。冴島に引き留められたせいで間に合わなくなりそうだ。


 駅は信号を3つ越えた先にある。息を切らしながら走って、ようやく3つ目の信号を越えた頃、遠くの方から電車のライトが見えた。駅の入口に入った時点で発車ベルが鳴っていた。


「っ!」


 改札を入り、急いで階段を駆け上がった。


 ──が、結局間に合わず、電車は通り過ぎて行く。


「ああー、畜生!」


 悪態をつきながら、ベンチに座り込む。田舎で近くに泊まれそうな場所も無いので明日の始発まで此処では待つかタクシーに乗って帰るしかないだろう。冴島に引き止められなければ、間に合ったかもしれない。


 急に背筋にゾクリと悪寒が走った。

 雨に濡れてしまったせいだろうかとも考えたが、徐々に辺りが冷え込んで来るのを感じる。雨のせいで、気温が下がったのだろうか?


 突如、ビーと列車の来訪を告げる音が鳴リ始めた。


「!?」


 先程通り過ぎて行った電車が最後かと思っていたのだが、自分の勘違いだったのだろうか?


 次の停車駅を告げるが、肝心の駅名が掠れて聞き取れない。


「──次は……き……。つ、ぎは……よ……」



 壊れているのだろうか?

 ホームには自分以外に数人が立っている。いつから居たのか、気付かなかった。何だか、皆顔色が悪い。


 変だ。


 遠くから、電車の灯りが見え、徐々に近付いて来る。


 この電車に乗れれば早朝まで待たなくてもいい。乗ってしまおうと思うのだが、ふと、冴島の言葉が思い出された。



『もし終電に間に合わなくても次の電車には乗るなよ』



 キイイという音と共に電車が目の前に停車する。


「──次は……き……。つ、ぎは……よ……行き」


 相変わらず、壊れた様な音で放送が繰り返される。ドアが開き、ホームに居た人々が電車の中に吸い込まれる様に入って行く。


 鈴木も電車に乗ろうと近付いて気付いた。


 変だ。おかしい。


 電車の中にいる人々の顔色が悪い。皆、一様に()()()()()のだ。


 変だ。変だ。変だ。


「──次はあ……き……。つ、ぎは……よ……行き」


 背筋が寒くなるのを感じた。壊れた様な放送に耳を澄ます。


「次は……あ……のよ行……き」


 鈴木は全身に鳥肌を立て、転がる様に階段を駆け下りた。その後はどうやって帰ったか覚えていない。


 あれ以来、終電間近にあの駅に近付いてはいない。

 冴島もあの電車を見た事があったのだろうか? 

 もし、あの電車に乗っていたら、今頃どうなっていただろう?







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