近くにいたのに
幼なじみに招待状をもらい、結婚披露宴に出た。白いドレスの君は綺麗だった。
披露宴はつつがなく終わり、二次会の会場に移動した。そこで君が、二〇も歳上の新郎と一緒に挨拶してくれた。
他の人には対しては満面の笑顔だったのに、君は僕の顔を見たとたん、目から大粒の涙を流し始めた。
そのとき僕は気づいた。君の心は、当時のままだったんだって。
あの時、君は言ったよね。「ねえ、私のことをさらってよ」って。夏祭りの夜のことだ。
でも僕は君をさらうことができなかった。
まだ高校に入学したばっかりだったし、君もまだ中学生になったばかりだった。
僕たちは家が隣同士だったこともあり、家族ぐるみの付き合いだった。家族同士で温泉旅行にも行った。
僕は全寮制の高校に入学し、街で一人暮らしすることになった。その年の夏休みに僕は帰省した。そして君と一緒に夏祭りに行くことになった。
毎年変わらない縁日と盆踊りの会場から少し道をそれて休憩していたとき、君がふと、そう言ったのだ。
君の家は地元じゃ有名な名家だった。だから君には許嫁がいた。
「会ったこともない人間と結婚なんかしたくない」って君はよく愚痴っていた。
その言い方がいつも冗談っぽく言っていたので、結婚相手が決まっているなんてこと、僕には冗談だと思っていた。
それにまだ高校生だったし。しかも君とは家族ぐるみの付き合いで、君は妹みたいなものだった。そもそも結婚などという人生の一大イベントなんて、一〇年以上先のことだと思っていた。
だから僕には君をさらうなんてできなかった。だからあのとき僕は、「バカ言うなよ」とだけ答えたのだった。
でも、今こうして君の目からこぼれ落ちる涙を見て、その粒の大きさを見て、僕は君の本心を知った。今の本心と、当時の本心を。君の愚痴は遥か遠回しな告白だったことを。君の近くにいたのに、僕は君のことを全然理解していなかったのだ。
一〇年前の自分は何をしていたのだろう。何を考えていたのだろう。あのとき彼女をさらうことができたなら、いやその後だってよかった、一〇年間も時間があったのに、大学生になってから、いや、就職した後だってよかった。それなのに、自分は今まで彼女に何をしてやれたのだろう。
気がつくと、僕は二次会の会場の真ん中で、泣き崩れていた。このとき僕は、一〇年前の僕自身を酷く恨んだ。
(了)




