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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
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氷上釣り


 ブルーノには終日、完全休養を言い渡した。

 雪掻きでも、移動のためでもなく外に出るのは、地元民にしてみれば、正気の沙汰ではないらしい。さすがにオレも、真夜中に一人ふらふらしようとは思わない。すかっと晴れた青空のもと、日が高くなってから出掛ける。

「どうぞお気を付けて」

 いつも以上に気遣うのは、やはりこの寒さが原因だろう。手足の感覚が鈍るように、気配を感じにくくなるんだとか。あ、皮子もそう?

 オレはもともとそこまで鋭くないからか、変わらないな。

 一面真っ白で、日の反射がきらきら眩しい。美しい景色だが、困ることもある。一体、どこからどこまでが道なのか、畑なのか。唯一、毎日自分で掻いてる通り道だけは信用できる。

 そこから少しだけ逸れた。通りがかる度に、ブルーノが足をとめ、祈りを捧げる場所があって、地形を探査してみたら川だった。

 確かに周りよりは、積もる雪が少ない。ブルーノ自身は感覚が鈍っていて、何があるかまではわからないらしい。ただ経験則で、どうやら祈りが必要だろうと。別に怪談寄りの話ではなく、そういう個所は街中にもちょくちょくあるらしい。

 幽霊とか、人の思念とか、オレは怖がりつつ、実際は眉唾だと思っている。確信が持てるとしたら、ただ一つ。ああ、きっとそうだ。皮子と肯き合う。

 狐の皮子を首に巻くと、ふかふか温かい。いちおう赤いスカーフを彼女の首に巻いて、必ずオレかブルーノか、ネジェムといるように言ってあるが。たまに姿が見えないと、誰かに狩られてしまったんじゃないかと不安になる。お互いに、気配の感じられる距離にいるにもかかわらず。

 まわりには人っ子一人見当たらない。楽をする気まんまんで、足元の雪を一掃。氷の上に立っていることを実感すれば、別の意味でぞくぞくする。

 影を取り去る。道具も、技術も、体力もいらない。雪をどけたのと同じように、一瞬で、氷に穴があく。

 岩塩の欠片を結んだ釣り糸を垂らす。手にしているのは、街のお医者サンから譲られた釣竿だ。

 荷物の中からごそごそ取り出して来たら、ネジェムと目が合った。羨ましそうに見ているので、思わず誘ったが、さすがにこの寒さが嫌だったらしい。断られた。

 あれで、なかなかの釣り名人なのだ。ルルの尾から作った釣り糸を愛用していて、忘れた頃にそれなりのものを釣ってくる。本人に言わせると、思索にふけるのにもってこいの時間で。無心が故に釣れる、それは単なる結果だとかなんとか。

 七輪を脇に据え、がんばったが半時が限界だった。それでも、目的のものは釣り上げることができた。あらたな皮を十三枚。大漁。

 また少し大きくなった皮子と、ネジェムを風呂に入れてたら。とっぷん、じゃばじゃば。(なまず)になってみせてくれた。うわっ。あ、うん。可愛いよ。狐より一回り大きいけど、顏にも動きにも愛嬌があって。水中で推進力を得たのもよかったよな。

 目をらんらんとさせて立ち上がろうとするネジェムの肩を押さえて、手早く頭をタオルドライ。

 なぜ、オレが三助のようなことをやっているのか? ネジェムは、放っておくと洗髪をさぼるからだ。ほぼ坊主なのに、なにが面倒くさいというのか。

「コレよ。包丁をもて」

「いや、さっき見てただろう。これは皮子さんなんだがら。料理のためでも、研究の為でも(さば)いたら駄目だ」

 まったく。何度、真空パックされれば気がすむんだよ。

 後日、ぽっつりぽっつり、氷上釣りをする者が現れた。こっそりしてたつもりでも、遠目に見られていたらしい。それにしても、どうやって穴を空けたんだ。え、薬缶から熱湯を注ぎながら、バールで突いて、お玉ですくう? 人間ってすごいな。

 くれぐれも風邪を引かないように、楽しんでくれるようにと願う。

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