里山の町
里山の町は、雪に覆われていた。完全に和とは言えない、アジアンテイスト。絵になる光景だ。
ただ、寒い。いちばん暖かそうなのは、言わずと知れたネジ先生。大羊ベルデの毛をまるまる使ったコートを羽織って、人外の生き物と化している。しかし、我らにはウール百パーセント、羊毛の町特製の下着がある。速攻でダウンコートもどきもつくったし。それは、馬のルルや、羊のベルデにも羽織らせる。
さらにオレは狐の襟巻をしている。正体は皮子さん。それはそれは可愛いし、ふわふわやわらかくて温くいのだ。
防寒用の下着はうっかり、ネジェムの分も作らせたが。着せる段になって、既製品では問題があることに気付く。本人はすっかり自分の体質を忘れていて、勧めれば素直に着ようとする。まあ、くよくよしないでいられるなら、それに越したことはない。
「ちょっと待て。汚れが」
きれいにする振りで、そっくりのものをつくる。
これで防備は完璧。
だのに、うちの祈祷師様が言うのだ。
「リュウイチ様、あちらの吹き流しをご覧ください」
農業の町のような関門などない。誰でも自由に入れそうなものだが。ブルーノが言うには、あの黒い吹き流しが掲げられているということは、町長かそれにつらなる者、もしくは町に所縁のある貴人がなくなったということ。町全体が喪に服している状態。
街道を通り抜ける分にはかまわないが、町に入るにはそれなりの作法が求められるのだ。
「私も話に聞いているだけなのですが。いちおう確認させていただきます。町に入らず、通り抜けられるということは」
「いや」
「ありえぬ」
人の返答にかぶせてくるネジ先生。早く腰をすえて、研究の続きをしたくてしかたがない様子。
そんなわけで、祈祷師さま監修、喪中の地域に入る時の服装。
一、麻のぶっさき貫頭衣。二、荒縄の帯。三、裸足。以上。
さっぶ。さ、さ、さっぶ。
いちばん手前の小屋から、さささっと番人らしき男が出てきて、すぐに招き入れてくれたから、まだ、いいものの。
「さあ、こちらに。さあ、こちらを」
達磨ストーブを思わせる円筒形の竈に当たらされて、ホットワインを一杯飲みきったら、あとはふつうにしていいそうだ。た、助かった。相手はその格好のままだから、少々気が咎めるが、この寒さと戦う気にはなれない。
「この度はご愁傷さまでした」
こういうあいさつは一般的ではないのか、軽く相手の動作が止まったが、気持ちは伝わったようだ。
「お気遣い痛み入ります。おかげさまで先代町長の御霊も天で安らかにしていることでしょう」
手を合わせっぱなしのブルーノに、一回多く頭を下げる。口には出さなくてもわかる。ありがたや、だな。
「それにしても。この時期に、よく麻布が手に入りましたね」
「いえ、たまたま所有していたもので」
やはりこっちでも、前もって用意しておくのは失礼にあたるのか。オレが内心ひやひやしてることなど知る由もなく。
「神のお導きです」
きっぱり言い切るブルーノ。相手は、さもありなんって顏で、納得するのか。
なんでもこの町では、麻を育て、加工して糸にするまでが大事な副業。今年は、隣の農業の町に出荷し、織られたものをすべて買い戻しても間に合わないくらいだったとか。
オレが街で仕入れたのは、前の年かそれ以前に売り出された物の残りということだろう。旅に出るなら何をの問いに、丈夫な麻布と答えた男は、大した耳を持っている。
もっとも、せっかく持ってでたジュードはすべて使用済み。装束は、例のごとくオレがつくったわけだが。
そう、あくまで新品でなければならないそうだ。十分にあたたまったところで衝立の向こうを示されて、着替える。ネジェムは、剥き出しの腕や足に、黒いものが滲みはじめていて、本当にぎりぎりだった。まあ、いちおう拭うように特製タオルは渡していたが。
ひさしぶりに嫌そうに眉を寄せていたのが印象に残った。
貫頭衣と帯は、竈にくべて燃やす。それも供養の一環らしいが、はたしてこれは燃えるのか。
結局、オレが形状をコントロールして灰にし、隙をみて回収することに。いまだ喪服の男は、新町長とのこと。ブルーノが経文を一つ上げれば、その間は瞑目するから丁度いい。ネジェムはいつも通り、気付いたら寝ていた。




