表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
8/87

作戦会議


 昼飯すんだら、作戦会議だ。オレにしては珍しく、意気込(いきご)んでた。

 誰かが風呂に行こう、と言い出して。年生少者が不安がるから、とか。気を()かせたのかと思いきや。五(そう)の舟で十七人。なにやら、お祭り(さわ)ぎ。(くじら)のでかさを興奮気味(ぎみ)に話す者。(うたが)う者。ハインツが一度、経験してるから。同じようにすればいい。そう気楽に考えたらしい。これは、いかん。

「はい、ハインツ先生」

 オレは湯船で、高々(たかだか)挙手(きょしゅ)意図(いと)は瞬時に理解された。

「なんだい? リュウイチ」

「以前、(くじら)が門につまった時は。餓死するのを待って、取り出したんだよな?」

「そうだよ」

 なんだ、なんだと。見世物(みせもの)を見るような雰囲気。

「どれくらいの時間がかかったんだ?」

「半年だね」

「え?」

「半年。正確には、六カ月と十四日」

 湯に()かってるのに、ひやっとする。

 多少の危険と不自由はあるが、生活できてる。すぐ裏には森があるし。街へのルートを()たれたわけでもない。

「その間、水は引かないし。じし、地揺(じゆ)れも続くんだな?」

「そうだよ。(くじら)(あば)れ続けるから、つぶれる卵も多いし。死骸(しがい)からはよくないものがたくさん出る。どうしようか?」

 ひねられる頭の数々。やっと真剣に考える気になったらしい。

「とっとと殺そう」

 サメ先輩、迷いないな。

「一つの方法ではあるね」

 半年の時間短縮。意義がある。

「1、殺処分」

 書くものないの、つらいな。オレはとりあえず(くも)った壁に、髑髏(どくろ)マークを()く。

「なんだ、あれ」「骨だ」「ほね?」「体の中にあるんだ。ベベの中にもあるぞ」

 流れを止めて、すんません。消そうとして、止められた。

「魚だって死んだら、(くさ)って骨だけになるだろ。オレたちが食っても同じ」「死を象徴(しょうちょう)するものだな」「わかりやすい」

 年生長者は経験と()らして、すぐに飲み込めたようだ。

「ロープ()けて引っ()りだせないのか?」「つまってるあたりを()め付けて細くするとか」

 あ、うん。ふつう、そう考えるよな。

「お前ら、見てないから」「でかいって、言っただろう」

 確かにそうなんだが。意見は意見だ。

「2、曳行(えいこう)

「3、(くび)る」

 (つな)に引かれる魚に続いて、胴を()め付けた魚の絵を()く。提案した(がわ)は、満足そうだ。

「ただし、先に見学の必要あり」

 括弧(かっこ)して、目のマークを描いておく。すでに見てきた連中も落ち着いた。(しずく)()れて、わけわかんなくなってきてるけど。

(さかい)(きわ)で、すっぱり切り落とせればな」

 調理から連想でもしたのか? 自分の名前が嫌いらしく。コック長、って呼んだらよろんでた。魚と包丁を()いておこう。

「4、切断。オレは、これを押す」

 贔屓(ひいき)じゃない。村の一員として発言。

「大きさ考えろよ」「リュウイチ、お前も見てきたんだろ?」

「方法は、おいおい」

 まだ、思い付きの段階だ。

「少なくとも、門の中で腐らせなくてすむかと」

 首枷(くびかせ)から離れた胴体。浮かんで門から出る姿を想像する。

「そうだな。実現できれば、だが」

「あ」

 賛同してくれたサメ先輩の意見と、線で結ぶ。

「いや、俺は単純に(もり)でだな」

 (もり)っぽい線も引く。

「ぶつ切りは、さすがに無理だろ」「急所やって、すぐ、ワタ抜きするのはどうだ」「ありだな。確かに、あそこで腐らせるのはよくない」「サメが寄ってくるから、時間との勝負になるぞ」

 なんか圧倒される。日々、生き物の意志を感じとってるはずだが。食うものと食われるもの。線引きは明確だ。

「いきてる、かわいそう」

 意外に繊細(せんさい)なベベ。そういう奴がいてもいいと思う。先輩たちは容赦しない。

「他の魚とか亀は、うまいうまいって食ってるだろ」「どうせ寝てんだ。わかりゃしない」「あれが生きてる間、ベベも(めし)()くか?」

「やだ。くう。やる」

 宗旨変(しゅうしが)え、はやっ。

「ほかに、考えのある奴は?」「だいたい、こんなもんだろ」「出そろった」「なーし」「じゃあ、3、2、4、1の順で(ため)すか?」「それが、妥当(だとう)だろ」

 ほっといても勝手に決めてる。おかげでのぼせる前に、風呂から上がれた。

「とうちゃく」

 船倉の壁や床。()れた指で、さっそく髑髏(どくろ)()くベベたち。そうなんだ。なぜか悪いもの、不吉なものから覚える。馬とか花とか、あらたに()いて見せても。やはり、負ける。

「湯冷めするぞ」

「さむくない」「しない」「へーき」

 ()きるまで駄目だな、これは。

 他の連中は、さっそく準備を始めてる。すでに()ってあるロープ。(つな)いで伸ばし、さらに()む。ぶきっちょは、お呼びでない。明日の綱引(つなひ)きは、全員参加だって。

 水位は上がらないけど、下がらない。十数分に一度、揺れがくる。落ち着かない。はじめにハインツが言った通り。(あわ)てず、(いそ)ぐしかないか。当の相手は、物置と化した寝室で、在庫チェックをしてた。後先(あとさき)考えない奴ばっかだからな。オレも(ふく)めて。

「ちょうどよかった。僕も、リュウイチに(たの)みたいことがあったんだ」

(なん)だ?」

 場所がえ不要。こっちは、人目につかない方がいい。

「お先にどうぞ」

 お言葉に甘えて、簡単すぎるプレゼン。主に、うまくいった場合の後始末。そのための手回しを頼む。一つでも予想が(はず)れたら、(どろ)をかぶるのはハインツだ。二、三の確認の(のち)了承(りょうしょう)

「結局、こうなるな」

「こっちのことは、気にしなくていいよ」

 そう言うとわかってるから、頼むんだけど。

「で。そっちの頼みって?」

 多少、無理してでもやらねば。

「さっきの、全員で話し合った方。忘れないうちに書いておいてくれないか」

 差し出されたのは、薄い板と羽根ペン。あったぞ、筆記用具! そうか。これで、在庫管理してんのか。裏側の書き(そん)じ。数字だけだが。単位は? 項目も、ハインツの記憶(まか)せか。

「そうか。そっちも(たの)もう」

 読み取ってるのが、ばれてる。さっき数字も書いたしな。観念して、インク(つぼ)を受け取る。見えることは見えるが。書き物するには、明るい方が楽だ。

「案外、のん気だな」

「記録するって、大事なことだと思ってね」

 外廊下(そとろうか)で、ちゃぽちゃぽ。水音をバックに。ハインツが、野菜の名前を羅列(られつ)する。干肉の種類も。衣服、シーツ、食器まで。

 ()いたけど。わかればいいよな。わかれば。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ