表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
68/87

ドーピング


 質感の指定はされなかったから。包丁で切ることはできても、噛み切れなかったはずだ。方々(かたがた)の食欲を思えば、革靴(かわぐつ)の切れ(はし)だろうと消化しそうだが。

 元々、ネジェムのもの、って意識が強いから。用途を追求しなかったオレもわるい。

 ブルカの上から頭を(つか)んで、位置を確認。こめかみを拳固(げんこ)でぐりぐりしておく。彼女たちには二度と食べさせないと、約束させた。

 その上で、結果は知りたい。自身の経験では、数十分から数時間で、成長したり、能力が定着したりした。

 暑い時分。さすがに昼休みは長めにとっているようだ。日頃の作業や、訓練を開始する頃には、効果が出ているはず。

 運動場を使用している者のうち、三分の一ほどに変化があった。走るのが速くなったとか。足場を無視して、跳んで登れるようになったとか。あとは、バランス感覚がよくなった。動体視力がよくなった。彼女たちの会話から、推測したことだ。どれも日頃の訓練の成果として、喜びこそすれ、ネジェムと関連付けた者はいない。一安心。

 ネジェムは、カリカリとメモを取り、もどかしそうにしている。本当は、本人たちに根掘り葉掘り聞きたいだろうし、いろいろな実験に付き合わせたいだろう。面紗(めんしゃ)越しに目が合う。駄目、駄目。

 そもそも、いきなり人体実験するなんてどうかと思う。苦言を(てい)すると、ネジェムは胸を張る。

「しかと先に、動物で試しているのである」

「あ、そう?」

 なら、いい。とも言えないが、少しは安心か?

 ネジェムがいくら食べさせようとしても、ルルとベルデは断固、拒否したらしい。賢い。生まれたての、本能に従っている時期ならばともかく。あれほど飢えなければ、オレだって食べなかった。

「しかし、ゴゴは食すのである。紙でも革でも、食い物の汁を付けておけば、より食い付きがよい」

「それって、あの真っ白い、つやつやした虫か?」

「いかにも。体が小さい上に、我らよりよほど生き急いでいる(ゆえ)、結果も早くでて、便利なのである」

 ネジェムが言うには。十一匹は、大食漢になった。九匹は、超音波を発するようになり。十三匹は、歩行速度が上がった。あとは、違う能力持ちが数匹ずつ。多くは、何の変化も見られなかったそうだ。うえぇ。足が速いのがいちばん嫌だ。

「即座に寿命を迎えるのも、予想通りであったのだが」

 あ、それはそうか。うん、よかった。しかし、それだけでは終わらないネジェムの実験。

「今度は、それをネズに(しょく)させてみた。黒きもの、そのままでは目もくれぬ(ゆえ)。ゴゴの献身に感謝するのである」

 まったく、何をやっているんだ。結果は興味深いが。

 超音波を発したゴゴを食わせたネズは、同じ能力を有し。歩行速度が上がったゴゴを食わせたネズは、やはり足が速くなった。問題は、大食漢のゴゴを食わせたネズで。歯研(はと)ぎ用の木材や、寝藁(ねわら)、その他(かじ)れるものなら何でも食い。その都度(つど)若干(じゃっかん)、影と体が大きくなっている。

 変化を見せたのは、それぞれ一匹ずつ。全体の数からすると、確率は決して高くない。

(おり)の中から、我をいちばん(しょく)したそうにしているのが面白い」

 確かに、そこからいろいろ考えられるが。まずは、怖がろうか。

「残念ながら、これらもそう長くはないであろうな。影も体も、元の大きさに戻ると思われる」

 感心すると同時に、(あせ)る。

「ネジェムがゴゴの立ち位置だとすると」

 この学者、虫と同列にされたくらいでは怒らない。

「それは我も考えた。大丈夫なのである。(くだん)のゴゴは、黒きものを与えたが(ゆえ)に、ものを多く(しょく)すようになったのであり。我もそうであるならば、いまだ(しょく)せど(しょく)せど、満たされぬはずなのである」

「つまり、ネジェムのお土産(みやげ)を食って、食うことに特化した何かを、あの(きつね)が食ったってことだな」

「うむ。此度(こたび)大喰(おおぐ)らいになる者がいても、それだけのこと。(しょく)した者、全員がそうなるわけでなし。問題はないのである」

 いや、あるだろう。もともと皆が大食いだから、他所(よそ)より目立たないかもしれないが。

「彼女らが昇天した後は? 埋めても、燃やしても消えないって、言ってなかったか?」

 ふぃーっと横を向くネジェム。

「それ(ゆえ)、これ以上の実験は自重しているのである。でなければ、あのネズを犬か猫に(しょく)させて、もごもご」

 小声で言っても、なかったことにはならない。まあ、今更(いまさら)どうしようもないんだが。

「というわけで、虫かごや(おり)と共に回収してたも」

「了解」

 これ以上、何かに食わせたり、捨てたり、埋めたりしなかった。それだけが救い。過去の話を基準にすれば、少しは周りを気遣えるようになってる。(おり)仕舞(しま)って、あとは影取って消滅させよう。合掌(がっしょう)の一つもすれば、オレとしては気が済む。

 思い付きを実行に移す、きっかけにもなった。

 木陰にいるオレ達のところに、女の一人が寄ってくる。何を言われるかとひやひやしたが。

「祈祷師様は?」

 炎天下、道という道を歩き回っている。効果が出ていないのか、気付いていないだけなのか。

 別の仕事をしていると伝えると、女の眉尻が下がる。

(なん)だかわかんないけど。いままでの訓練じゃ、物足りなくなっちゃって」

 本当は、博識で良識があり、真面目に訓練する人間に相談したかったらしい。うん、あなたは正しい。

 適当人間の適当な回答。

「ストイックなのもいいけど、遊びの要素を取り入れるのもありだと思う」

「遊び?」

 ドロケーのルールを説明する。思いの(ほか)、乗り気になった。町の整備をすることが多い彼女たち。犯罪が起きないのはよいことだが、犯罪者を取り締まりたい欲求もあると言う。

 ハードモードで遊び、いや、訓練開始。メニューのタイトルは、泥棒と保安隊だな。楽しそうで何より。

 彼女たちが、持てる能力を全開にしたので、データを取る側も機嫌がいい。

(いと)わしいだけのものかと思いきや。ずいぶんと助けられていたようである」

「ん?」

「我の有能さの一因は、この黒きもの」

 ネジェムが衣服の(すそ)(めく)って見せる。

「時や場所は、いまだ不明なれど。我は大量に(しょく)した。身の内に留め置けぬとは、どれほどの量であったのか。もうそい口当たりがよかったように思うのであるが」

 頭を(ひね)っても、卵という単語は出てこない。ぽんこつになった理由も、お預けのままだ。まあ、ゆっくり。思い出しても、出さなくても。

「そうだな。もっとこう、ふにゃっと弾力があって、口の中で溶けた」

「そうであろう、そうであろう」

 ネジェムを通すことで、(はか)らずも圧縮されているようだが、もたらす効果は変わらない。いや、一度オレが所有してしたことで、彼女たちとも、薄っすら(つな)がりができているような。

「どれだけ摂取させれば、()の女たちは、我と同じように不自由な思いをするのであろう」

「は?」

「それを考えてコレは、これ以上、(しょく)させるのを止めたのではないのか」

「いや。いきなり新たな能力に目覚めたらおかしいっていう、ごく一般的な理屈だったんだが」

 今回の実験のように、成分が濃縮されてるわけではない。おそらく天文学的な数字になるだろうが。日々の食事の積み重ねでも、可能性はゼロではない。知らず知らず口角が上がる。面白い。ネジェムもきっと同じ表情をしているだろう。いかん、いかん。いまのオレは制止する立場。

「ネジェムみたいに余剰分を排出するほど、取り込む機会はないだろう。総量は、オレもちょっと想像つかない」

「そうであるか?」

 首を(かし)げつつ、声が(はず)んでいる。

「コレにも、わからぬことがあったか」

「そりゃぁ。はっきり言って、わからないことだらけだ。ネジェムの方が断然、物知りだろう」

「むーん。多くを忘れてしまっているのである。また、新たに知ることができるのであるから、まったく悪いこととも思わないが」

 言葉は前向きだが。寂しそうな風情。

「約束を守るためにも。何故(なにゆえ)、これ以上、(しょく)させてはならぬのか、本当の理由を聞いておくのである」

 あー、誘惑に(あらが)い難いと。言っておいた方がいいとは思うが、言ってしまっていいのかな。

「我に気を遣う必要はないのである」

 (よう)は、答え合わせ。真実を前に、感情は二の次なんて、いかにも学者らしい。

「食べ過ぎると、歳を取るからだ」

「ふむ。我は寿命がない(ゆえ)、生きていられるわけであるな」

 簡単に底を打ち、急上昇してくる気迫。

「コレよ、それだけの能力を有していながら、なぜ、老いておらぬのか?」

 これも、予測を立てているのか。(おお)先生は、一人で突っ走らず、話し合うことを楽しんでいる。学者としては退化かもしれないが、人としては進歩。オレも、すべてを話せるわけじゃないが、できる限り彼女に習おう。協力を要請したいこともある。

「食べる量を抑えたからだ。これ以上、あと一口でも食べたら、そうだな。十三歳分は、一気に老いると思う」

 なるほどなるほどと、ネジェムは深く(うなず)く。

「ならば、あの者らには、もう少しくらいならば、(しょく)させてもよいと思うのだが」

 立ち直り早すぎだろ。手を(にぎ)りしめて見せると、すぐに前言撤回する。

「十分に知り、少々思い出すことができて、満足である」

 本人は、嘘を()いてるつもりはないが。まあ、十分後には、また何か始めてるだろう。込み上げてきた笑いを、咳払(せきばら)いして誤魔化す。

「新たな能力を追加するのに、量は必要ないみたいだな」

 材料は少ないが、類推はできるだろう。(おお)先生の見立てを聞く。

「うむ。実際に(しょく)すところまで、すべて観察できたわけではないが。器には少なくとも、二片は入ったはずである」

 だいたい一口か、それより少ない量。ただ、ネジェム印の黒いひらひらは、中身(なかみ)が混ざりすぎていて。どの部分がどの動物に由来するのか、特定することはできない。だから、(ごく)わずかな量でいいんだと思う。発現するかどうかは、運。どんな能力を引き当てるかも、運。不本意そうに、ネジェムが結論付ける。

 目的に合わせて、仕分けられればいいんだが。

 (しか)っておいてなんだが、ネジェム由来のそれを使用していいか(たず)ねる。

「何を行うのであるか?」

 怒りはしない。好物を目の前にした子供のよう。

 陸の動物に由来するものと、海の動物に由来するものとを合わせて。と、これは言わない方がいいか。ネジェムが、卵との関連性を思い出すまで。

「歳をとらないぎりぎりの量を摂取させてみようと思う」

 ふんふん、と鼻息が荒い。やる気十分のようだ。

「ただ、あくまで本人が承諾(しょうだく)したらな?」

「あい、わかった」

 絶対、わかってないと思う。それを証拠に、オレは彼女にせっつかれ、黒い錠剤を三十個ほど用意。これでも圧縮に圧縮を重ねて、かなり数を減らした。まあ、オレも、もともとやる気だったから? 先走って、準備は万端。

「よく戻ったのである」

 満面の笑み、は見えないが。そういった雰囲気で迎えられ、ブルーノが狼狽(うろた)える。他にも、戸惑うようなことがあったのだ。

「いままでとは比較にならないほど、遠くまで詳細に見えるのですが」

 驚きに、少々(おび)えも混じった様子。まずは物理的に、ネジェムの頭を下げさせる。

「そうですか。そういった訳でしたか」

 理由がわからないことが不安だったらしい。忌避感(きひかん)はないようなので、話を持ち掛ける。ブルーノは、迷わなかった。

「か、いえ。リュウイチ様より(さず)けていただけるのでしたら、どのようなものであろうと、ぜひに。(つつし)んでお受けします」

 いや。オレが、ってわけではないんだが。もう、ブルーノが神様でいいんじゃ? と思うこともしばしばなので。やってみようと、思い立った次第。

「旅する上でも、どんな危険があるかわからないし。祈祷師としての活動にも、役に立つと思うんだが」

「はい。必ずや、よりお役に立てるように致します」

 話が噛み合ってない。

 いままで出会った信者たち。神様云々(うんぬん)は求めてなかった。目的はあくまでブルーノ。少し能力アップすれば、使途(しと)って形で行けると思うんだ。そして、ゆくゆくは。ふっ、ふっ、ふー。丸投げ体質、ここに極まれり。威張れることではないが、昔はされる側だった。

 ブルーノがいろんな能力、身につけて。さらに、その中に探査系のものでもあれば、オレが大した人間じゃないのもわかるはず。

 いま、ここで言うと、さらに、ずれが生じるよな。

 歳を取らずに済む量は、あくまで(かん)。オレが自分で食った量に基づいている。食い過ぎると、たぶん、三十八歳になると思う。ぱっと頭に浮かぶことなので、根拠はないが、確信がある。

「なんとか、姿を(さら)して生活できないこともないが、違和感を持たれることが増えるだろう」

「そういうリスクがあることは、承知しました」

 まだ、あるんだ。

「どういう能力が定着するかわからないが。例えば、オレが地図作りの時に使ってるみたいな、探査系だった場合」

 リスクの話をしているのに、嬉しそうにされても困る。

「能力を操るっていうか、(しぼ)るっていうか。一遍(いっぺん)に入ってくる信号を適宜(てきぎ)、遮断できるようになるまできついと思う。ブルーノは、すでに気配を察知できてるし、瞑想も得意だから、それらを応用すれば随分(ずいぶん)早いとは思う」

 オレのやり方を教えても、よけいに混乱させるだけだろう。ステレオの()まみとか、カメラのシャッターとか、言ってもわかんないよな。

 しばらく地下室で生活してもらう。まあ、手洗いくらいは、根性で行けるかな。飯は、オレが運ぼう。

「具合がわるくなったら、すぐに言うのである」

 看護は任せろと、胸を張るが。データを取る用意が、すでにできてるネジェムさん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ