取り次ぎ
「リュウイチ様」
「うん」
気付いてるのは、ブルーノだけか。
いま、オレたちが歩いてる道は、土がむき出しだが。言わば、中央通り。両脇に立ち並ぶ向日葵は、人の背丈を越えている。一見、壁のようだが、かなり間隔を空けて植えられており、迷路のような小道を作り出している。
鏑矢が通り過ぎてすぐ。周囲に点在していた気配が、通り沿いに寄ってきた。
ここで矢を射かけられたら、防ぎようがない。冷や汗の出る思いだが。彼女たちは、姿を見せず。そう、全員女だ。囁き合う内容は、先程の門番たちのものと大差ない。さすがにブルーノを知っているわけはなく、主に、オレ達の見た目について。
そんなに重要なことなのか? 必要だからやったことで、後悔はしてないが。何だか、恥ずかしくなってくる。ブルーノにも、わるいことをした。まあ、今更だから。その緊張を解いてやることくらいしかできないが。
「攻撃する気は、ないみたいだぞ」
端から、緊張とは無縁のやつもいる。
「む。あれは、長耳であるか?」
飛び出してきた兎を捕まえようとする、ネジェムを捕まえて、まっすぐ歩かせる。花畑に兎なんて、言葉だけならメルヘンだが。でかい。上で言う、ジャンボウサギだな。真っ白ふわふわの毛に、真っ赤な目。よく動く口元。かわいい、か? ルルとベルデが、すかさず眼を飛ばす。兎、恭順。当たり前だろ。ほんと容赦ないな。言葉は通じないながらも、上下関係はしっかり刻み込まれたようだ。
次第に、濃い灰色の雲が垂れこめてくる。下手に急いで、周りを刺激したくない。
遠くからでも、正面にあることはわかっていたが。次第に、はっきり見えてきたのは、白い洋館。あの壁、下見板っていうんだったか。ってことは、木造だよな。さらに近付くと、うん。塗料があちこち剥げていて。屋根は、かつて赤かったことが何とか見て取れる。
「ようこそいらっしゃいました、花畑の町へ」
出迎えは一人。作り笑いすらしないのが、ここの常識なんだろうか。声も低い。さすがに、見えるところに武器は携帯してないが。格好はやはり、キトンに胸当て。にもかかわらず、秘書然と見えるのは。きっちり結い上げた髪型と、薄板を数枚、抱えているせいか。
「突然、お邪魔致します」
車寄せへ荷馬車まで入ったところで、雨が降り出す。
「濡れずにすんで、よかったですね」
「神のご加護があればこそです」
ブルーノにしては珍しく攻撃的。いや、口調も表情もいつも通りだが。気温が少し下がったような。
「これから町長がお会いになります。失礼のないようにお願いします」
目礼すらなく、お願いされた。考えようによっては、何の伝手もなくやって来て、いきなり会わせろっていうんだから、すでにこっちが失礼なのか。これを挽回するには。
「町長さんに、お贈りしたい物があるのですが。品物を確認してもらっていいですか?」
細い眉が跳ね上がる。お、怒られる?
「どういった意図があっての贈り物でしょう?」
「先触れもなく訪問したことへのお詫びと、それにもかかわらず、すぐに会ってくださることへのお礼です。加えて、宿泊所などご提供いただけるのであれば、その料金も兼ねています」
女が一つ肯いた。よし? 手厳しい教師っぽい。
「常識のある方のようですね。幾分、安心しました。では、品物を拝見しましょう」
第一関門、突破か。オレは、ネジェムを促して幌の中に入る。なぜか、ブルーノも乗り込んできた。
「実験用に渡したものなのに、わるいな」
「致し方あるまい。こういった風習は、我には理解しがたいが。確かに、これであれば間違いないことも、わかるのである」
「こちらでよろしでしょうか」
ブルーノが、良さそうな小箱を探し出す。
「お、ありがとう」
ベルデの羊毛も、少しだけ分けてもらう。それを敷き、本命を載せて、蓋。用は済んだとばかりに、ネジェムが馬車から飛び降りる。
ブルーノが迷うそぶりで、囁いた。
「すでに、お気付きのこととは思いますが。どうぞ、お気を付けください。あの女性からは偽りの気配がします」
「あ、うん。わかった」
会った瞬間に感じた、ごくわずかな違和感。ブルーノの歯切れがわるいのは、その原因がわからないからだろう。オレも確信があるわけじゃない。探査すれば簡単にわかることだが。興味だけで行うのは、相手が男であれ女であれ、エチケット違反。
オレが言うのもおかしな話。近頃、ブルーノは気配察知の能力に頼りすぎてると思う。大したことでもないのに、悩ませるのは本意じゃないが。説明してる時間もないことだし。宿題ってことで。
「お待たせしました。では、お願い致します」
「拝見します」
蓋を開けたと同時に、息を呑む。寄りっぱなしだった、眉間の皺が消えた。数秒後に、咳払い。
「これほどの品であれば、問題ないでしょう。ただ、付け加えておきますと、これを受け取るも受け取らないも、最終的な判断は町長が行います」
気を抜くなよ、と。アドバイスしてくれてるのかな?
「それから、それぞれの習俗に口出しすることは、無作法と承知で言います。袖のないもので、前を留めなくても構いません、何か羽織られるとよいでしょう」
「ありがとうございます」
言葉にも気持ちにも嘘はない。巡り巡って自分たちの為なんだろうが。門番といい、この秘書といい。義務感で仕えてるって感じじゃないんだよな。町長って、どんなやつ? ちょっと興味が湧いてきた。




