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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
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花畑の町

     10


 皮子の嫉妬(しっと)が可愛い。普段は、()れてる感じさえしないのに、わざとべったりくっ付いている。女ボスのプライドか、周囲には(さと)らせないが。散髪(さんぱつ)したことを怒っているらしい。こんなのすぐ伸びるよ。言って、よけいに(へそ)を曲げられた。

 湖の(ほとり)は、過ごしやすい。このまま野宿したいくらいだが。あれ、入道雲だよな? 連れもいることだし、できることなら、屋根のある場所を確保したい。

 街道に上がって、のんびり進む。このまま行くと、湖をぐるりと一周するのか? 途中にT字路。左に曲がって、まっすぐ伸びる道が、次の町に続いているらしい。話に聞く通りなら、花畑の町のはずだが。どうも様子がおかしい。

 羊たちの放されていた牧場(まきば)より、なお草の質が悪いと、ルルが言っている。ベルデ曰く。これは、あたいでも食べたくない。それすら(まば)らな、荒れ地の中の一本道。馬車の揺れが大きくなった。

 やっと少し、緑が元気になってきたと思ったら、スイカだった。ああ、赤瓜(あかうり)っていうんだっけ。(もら)ったものは、甘さ(ひか)えめだが、皆には好評だった。本当だったら、歓声の一つも上がっていいはずだが。さっきの光景を見た(あと)だと、少々気味が悪い。畑と言うほど整備されておらず。野放図に(つる)(から)まり合っている。その合間に、縦縞(たてじま)の実がごろごろ。

 そこを抜けると、やっと豊かな牧草地があって、ほっとする。その先には一面の向日葵(ひまわり)畑。

 丸太を二本立てただけの門。左右に一人ずつ、女が立っている。この町には、保安隊が()めているはず。彼女たちも、そうだろう。膝丈(ひざたけ)のキトンに、簡素な胸当てを付けているだけだが、(きた)え方が違う。思わず、自分の腕を見る。装備は弓と、手斧(ておの)不埒(ふらちな)真似(まね)をする気など毛頭ないが、とりあえず謝っておきたくなる。

 それでも、炎天下に帽子も(かぶ)らず立ってるなんて、正気の沙汰(さた)じゃない。医師でさえ、自分たちは()まないと信じているが。少なくとも、食中(しょくあた)りと熱中症はある。あと、神経痛も。

 十メートルほど手前で、停止させられた。

「止まりなさい」「お手数だが、馬車を下りて、用向きをお伝え願いたい」

 歓迎されてない。嫌な思いをすると決まってるなら、オレが行くべきだろう。

「こんにちは」

「ようこそ、花畑の町へ」

 にこりともしない。警備としては当然なのかもしれないが。必要以上に、不審の目で見られている気がする。

「旅の者です。身元はエイト商会が保証します。宿泊施設があれば、ご紹介いただきたく。ないのであれば、野宿に適した場所を教えてもらえませんか?」

 所属を明らかにすれば、受け入れられると思ったが。商会名を出した途端、跳ねあがる(まゆ)。しまったと思っても、(ほろ)に描かれたロゴ同様、ごしごし消せるものではない。

赤瓜(あかうり)とやらの収穫であれば、勝手にすればよい」

「我ら、花畑の町の住人とは関わりのない土地だ。自然に()った実を採るもよし。そこに寝泊まりするのも、一向に構わない」

「はぁ」

 決めつけられて、困惑を隠せない。相手も数度まばたきした後、首を傾げる。警戒は緩めず、やるならやるぞと本気で思っているが。鈍くはないらしい。

「商会が身分を保証すると言ったが、商会員ではないのか?」

「はい。旅をするための援助は受けていますが。どちらかというと、見分を広めるのが目的で。あ、仲間を紹介します」

 一介(いっかい)の警備員に、そんなことをしても、意味がないのかもしれないが。せっかく向こうから歩み寄ってくれたのだ。半歩くらいだけど。夕立を連想させる、風も吹いてきたことだし。

 馬車から降りてきた二人は、当然、話を聞いていたんだろう。

「祈祷師のブルーノと申します。お祈りやお経のご要望があれば、お応えします。また、悩み事などありましたら、お話をうかがいます」

「これは、祈祷師様」「我らが町へ、ようこそ」

 あ、やっぱり先にブルーノに出てもらえばよかったんだ。ちょっとはリーダーらしくと思ったのが、そもそもの間違い。

「訳あって名乗ることは()(ひか)えるが、学者であり探求者である。怪しい者ではない」

 あやしい、あやしいぞ、ネジェム。まあ、ブルーノが付いてるから、大丈夫だとは思うが。先程、衣替(ころもが)えをして。ブルーノは、墨染(すみぞめ)なのは変わらないが、夏の(ころも)に。ネジェムは、ブルカ姿。サファリスタイル、とも考えたが。彼女の場合は、全身を(おお)わなければならない。その上で、少しでも涼しそうな格好(かっこう)。で、こうなった。顔に掛かる部分、上半分だけ網目状にして、あとはすっぽり全身を(おお)っている。どっピンクの布で。

 馬車を引くのは、(たてがみ)に可愛らしい装飾が(ほどこ)された大きな馬。その陰から現れた、やはり大きな羊は、好戦的に地を()き、おまけに服を着ている。オレは、油断しまくりのパレオ姿。小規模なサーカスだとでも言った方が、説得力があるかもしれない。

 持ち場を離れた二人が、門の中央で出会い。何事か話し始める。どんなに声を(ひそ)めても、聞こえるんだけどさ。

「またも、むつけき男が来たかと思ったが」「毛深くない、暑苦しくない」「髪も短く、清潔だ」「言葉遣いがしっかりしている」「浮ついていない」「大袈裟(おおげさ)でも、馬鹿でもない」「第一、祈祷師様がいらっしゃる」「ブルーノ様といえば、清廉(せいれん)と名高い」「功名心(こうみょうしん)に走った(やから)とは違う」

 ブルーノに聞こえてたら、どんな顔をするのか。いや、聞こえてても、慈愛顔(じあいがお)のままか。

 ブルーノの祈祷師としての評判はともかく。あとは、誉め言葉じゃないよな。比べるものがあって、それよりましってことだろう。それが、どこに(つな)がって行くのか。

 二人は(うなず)き合い、道を開けた。

「失礼しました」「お通りください」

「あ、ありがとうございます」

 思わず礼、言っちゃったよ。

「町長への挨拶(あいさつ)はどうしますか」

 疑問形だが、それは、しろってことだよな。

「お時間をいただけるのであれば、ぜひに」

「では、このまま真っ直ぐ進んでください。赤い屋根の建物が、役所になります」

 言われるままに歩を進める。先触(さきぶ)れとか、案内とか、なしか。伝聞(でんぶん)してる様子もない。また、一から取調べは嫌だな、と思っていると。鏑矢(かぶらや)が、オレたちを追い越して行った。短気で、やる気のない幽霊の効果音? ぼけっとしてたが。先端が(やじり)だったらと考えて、ぞっ。弓って怖い。

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