ベルデの毛刈り
ベルデが、毛を刈ってくれと言いだした。動機は、自分が暑いからではなく、ネジェムが体調を崩したから。
「見ての通り元気だし。そんな気にしなくていいと思うぞ」
そういう問題じゃない。と言って、譲らない。
「暑いところは、さっさと通過していまえばよい」
よほど寝心地がいいんだな。ネジェムが思いとどまらせようとしても、ベルデの決意は揺らがなかった。
ここで引いたら女が廃る。一思いに、やっとくれ。
でん、と横になったベルデを囲んで。どうするべきか相談。
いずれは刈らなければならない。本人がその気になっている。刈ることに異論はない。問題は方法だ。普通に考えれば、ネジェムが刈るのがいい。女だし、器用だし。
「でも、途中で飽きたら駄目だからな」
え? っと、ベルデが目を見開き。皆、さりげなく視線を逸らす。
「我なら有り得るのである」
胸を張るところじゃないぞ。まあ、普通じゃない集まりなので、次いこう。
紐をつくると。ベルデが、びくっとする。あ、ごめん、縛らないよ。括るけど。
見た目をマイルドに、毛糸に変えて。えーと、見づらいもん見せてごめんね。試しに、自分の左足、膝から足首まで。五センチ間隔くらいで、結んでいく。で、溶かして伸ばすイメージで膜にする。取り込んでる毛の根元。ぎゅっと狭めて断ち切れば。
「ぎゃっ」
痛みが引いても、涙が止まらない。ワックス脱毛って、こんな感じ? 頭で考えた時は、お肌ぎりぎりで楽に切断できたんだが。やってみると、だいぶ違う。
ベルデの悲壮感に、拍車が掛かってしまった。
ごめん。確信の持てないものを、目の前でやるべきじゃなかった。女性陣の冷たい視線を浴びながら。ベルデのご機嫌取り。
「ま、ま、まあ。方法はのちのち何とかするとして。毛刈りが無事すんだら、どうする? こんな感じの服が着たいなーとか、ないのか?」
瞳の色に合わせて、メッシュのベスト風のものをつくって見せると。ベルデの瞳が輝いた。
そ、そんな可愛いの、あたいに似合うかな?
似合う、似合うと、周りが一致団結して推してくれたので。いや、実際、似合うし。ベルデもだんだん乗ってきた。サイドを、ネジェムの服みたいに黒くしてほしいとか。ポケットを付けてほしいとか。オーケー、オーケー、お安い御用です。ところで、お尻が出てるのは、問題ないのか? さすがに聞けない。何にも言ってこないから、これでいいんだろう。
どうせ見えないよ、とか言わず。前立てに付ける、ボタンにも拘ったのがよかったらしい。
色違いで、鬣に付けたい? あ、ルルにね。そうだよな。ヘアゴムみたいのでいいか? 言っても伝わらない。リボンで結ぶ? わかった。ネジェムの手を借り、お花型のボタンをあしらって喜んでる。
その間、オレは自主練。やはり、明確にイメージできないものは駄目だ。こう、電気シェーバーっぽく、すればいいのか? 何度か痛い思いをして、だんだん形になっていく。ブルーノが、協力を申し出てくれた。これで行ける! 自信が持てた時には、二人とも全身つるっつるだ。いくら構わないと言われても。ポリシー持って伸ばし始めたブルーノの髪に、手は出せない。自分の頭で最終確認。おおー、この触り心地。中学の部活以来だな。
こちらの覚悟が、伝わったらしく。細かい説明をベルデは大人しく聞いている。
あたいの為にわるいね、二人とも。よろしく頼むよ。
影を切り離すことも考えたが。うっかり手足をって想像したら、恐ろしくてできない。
最初に考えた通り、ネジェムに。羊毛を掻き分け、地肌になるべく近い位置に、毛糸を回して結んでもらう。首回り、胴体、脚。ここまでがいちばん手間で、時間が掛かる。双方、忍耐強いな。頭とお尻は、まあ、膜にする時に、何とかカバーする。これは防刃です、鋼鉄の刃も通しません。よし。
あまり肌ぎりぎりもなんだから。自分の頭で試した通り、五ミリくらい浮かせる。面倒だが、毛糸結びから膜をつくるまでの行程をもう一度。出来上がった二枚の膜。その間に、小さな丸ノコの刃をつくって、高速回転させながら、まんべんなく移動させる。肌の側に残っている膜を、刈った毛の方に移動させて、終了。言えば簡単だが、かなり神経を使った。ため息吐きたい。
ベルデは、特に何も感じてないようだ。まだ、全身に力を入れて、動かないようにがんばっている。
おっと、忘れちゃいけない。腹側を正中線で。前脚の、服で言えば袖から続く、肩の縫い目位置を分ける。
「あとは、ネジェム、頼む」
「あい、わかった」
着替えを持って、幌馬車に入っていく。ベルデは、ネジェムが軽々と持ち上げていた。毛を刈られた自覚がないから、え? って感じ。
ほどなくして。恥ずかしそうに、幌馬車から飛び降りたベルデは、ほんとにスリム。体高は高く、骨格もしっかりしているが。これでよく、あの量の毛を生やして、動き回れてたよな。オレは、慌ててサイズ直しをする。Mサイズの女性に、3Lとか勧めて、すみません。
「どっか痛いところとかないか? 服もよく似合ってるけど、着づらいところとかあれば、すぐ直すから」
問題ないよ。
もじもじした感じで、なんか可愛い。でも、それを言ったら、本人からも周りからも、ぼこられそう。
「よくお似合いです。それに、涼しく過ごせそうでよかったですね」
あ、ありがとよ。
感動的な場面に、一頭の羊が乱入、ってネジェムだよな?
「コレよ、これは素晴らしい。コソレも承知した故、我のものにするのである。このまま着ることができるようにしてたも」
五年分のふっわふわを根元で固定したのは、当然そういう意図もある。それにしても、コソレか。そうきたか。
「はいはい」
裏地は、羊毛の町製の下着のイメージ。なかなかの水準まで迫れたと思うんだが。余ってる部分を、足りないところに移動させられるのが便利。袖を閉じ、フードを完成させると。着ぐるみだ、これ。単純に可愛いと言えない存在感。小柄なイエティ? ともかく普通のボタンじゃ絡まるっていうか、埋まるな。ダッフルコートの、トグルっていったか。角の形の、あれにしよう。ごろごろして嫌だって言われたら、替えればいい。
「よきかな」
相当、気に入ってるのはわかるが。顏、上気してるぞ。季節が秋冬の場所でのみ、使用するよう説得する。
「何故、いま着ては駄目なのであるか?」
頭はいいのに、ば。無邪気。




