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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
31/87

卒業試験


 西の街門があるとされてる壁から、少し南にずれたところ。青いタイルを配してあるが。放棄された区画とばかり思っていた。

 お体裁(ていさい)で補強された罅割(ひびわ)れ。壁や天井だったと思しき瓦礫(がれき)。焦げ跡や、何によるものかわからない染みが散見できる。

 元々は、ここに学校の施設がすべて収まっていたそうだ。いまは、一階で牛を飼ってる奴がいるだけ。

 ブルーノが勇気を(ふる)い起こすまでの間。オレは案内される(てい)で、周囲をうろついた。目的は、三階の一室。両開きの扉が押し開かれ、固定されてる。こぢんまりした空間。印象としては、趣味が(こう)じてはじめた個人の博物館か。吊り下げられ、詰め込まれ、積み上げられた多くの標本。その隙間に、一組の机と椅子。(つる)でも折ろうとしてるのか、パリっとした布を畳んだり広げたり。

「あら。交代まで、まだ間があったと思うけど?」

 ヒジャブ姿の女が顔を上げた。口元のほくろって、見入っちゃうよな。

「卒業試験を受けたく存じます。宗教学部のブルーノです」

「あっ、はい。失礼しました。そちらが立ち会いの方ですね。お名前をお聞かせください。私は、学校の卒業生で、守役(もりやく)会員のオルファと申します」

「リュウイチといいます」

「はい、それでは。ここに、規定通り二名の立会人が(そろ)いました。これより、宗教学部ブルーノの卒業試験を行います。方法は、慣例に従い、十の炎の判定となります」

 覚悟を決めて、(りん)としてるブルーノの隣で。思いっきり首を(かし)げるオレ。

 声に出さず、色っぽい口が笑う。

「街最初の人の弟子であり、学校の創立者でもあるネジの像に、あなたの学んできたことを伝えてください。彼女の像を囲む十本の蝋燭(ろうそく)のうち、一本でも灯が消えれば合格となります。一刻たって、何も起こらなければ、また次の機会ということになります」

 どんな仕掛けが? とか思うオレは、純真さが足りんのか。

 間仕切(まじき)りを片側にまとめ、オルファが奥へ入っていく。ブルーノは、少し時間がかかりそうなので。先に(のぞ)いてみた。

 前室の倍の広さ。窓は開いていて、暗くはない。壁は全面、棚として()()かれ。(びん)(つぼ)、用途のわからない道具が並んでる。部屋の中央。寝台っていうより石棺だな。(ふち)に並んだ燭台(しょくだい)に、オルファが火を(とも)していく。一巡(ひとめぐ)りすると、今度は順に、茶筒(ちゃづつ)みたいな金属容器を(かぶ)せる。

 これで灯が消えなかったら、驚きだ。

「さあ、準備は整いました」

 (ほこ)らしげにしてるけど。装飾も何にもない。それ、元は実験用具だったんじゃないか? 生徒達に、空気がないと火は燃えないんだ、って実感してもらうための。

 大掛かりな仕掛けを期待してたオレは、がっかり。ブルーノにとっては、いいことだ。自分の意見を堂々述べれば、合格。って、これじゃ無理だよな。顔面蒼白で、カタカタ震えてる。

 肩に手を置いて、まずは同情。

「これは、ひどい。ここまで、よくがんばった」

 石棺の上に仰臥(ぎょうが)してるのが、ネジの像ってことだろう。黒い木像にも、銅像にも見える。メタボなミイラ。ちょっと、自分でも何言ってんのかわからんが。おかっぱの(かつら)、金の装飾、白いシースーも。()れた肉に()退()けられたり、埋もれたり。ふっくらがミイラ化したんじゃない。ミイラが(ふく)らんだとしか思えない。

 その上、天井を(おお)いつくし、口元まで伸びてる黒い鍾乳石(しょうにゅうせき)のようなもの。隣の部屋、こんなに圧迫感なかった。どれだけ分厚(ぶあつ)いんだ?

「どうしました?」

 オルファは(なん)とも思ってない様子。

「あの、この黒いオブジェはいったい」

「ああ。こちらは、ネジの(あふ)れんばかりの知識と、それを広める(さま)を形にしたと言われています」

 一点の曇りもない瞳。教育、こわい。

「大変に素晴らしい光景です。えー、ブルーノは、学徒であると同時に、神に仕える者です。学問の神にも等しいネジの像を前に、特別な祈りを(ささげ)げたいと申しております。若輩ながら、わたしくも共に」

 我ながら。よくもまあ、しゃあしゃあと。

「あら、リュウイチ様も、祈祷師(きとうし)様でしたか」

 わぁ、様呼ばわりされた。否定したいのを、ぐっと(こら)える。彼女、信者っぽいから、これで行こう。

「大した力はありませんが。ブルーノの補佐を」

「リュウイチ様」

 ええ、ええ、わかってますよ。涙目。いますぐ吐きたいくらいだろうが、頑張ってもらわねば。こそこそと、ブルーノに入れ知恵。嘘じゃない、嘘じゃないぞぉー。

「オルファさん。これは秘儀中の秘儀ですので。申し訳ありませんが、室外で待機をお願いします」

「はい、ブルーノ様。ご健闘をお祈り申し上げます」

 さっきは立場上、対等に接してただけか。いまは、信仰心全開。どうも、街の人たち、神とか仏とかに関心はないようだ。明らかに、ブルーノを信仰してる。鍵はないが、扉の外に出てもらえば、いろいろ安心。

 んじゃぁ、やりますか。

 沓摺(くつずり)の手前で、額衝(ぬかず)いてるブルーノには。お祈りでもお経でも、とにかく続けろと言ってある。お、今日は唯一神が相手か。意味はわかってないらしいが。(わず)かながら空気が澄むような。

 まずは、自分の影から黒い玉を取り出す。(ひも)付きの、影の(かたまり)。中に投げ入れてみる。何の変化もない。ずるずる回収。

 次にフィン。豆粒大に千切って、指で(はじ)き飛ばす。どれも、黒いオブジェに張り付いて、落ちてこない。ってことは、この服も。部屋に足を踏み入れると、軽く引っ張られる感じ。あー、どうするかな。

 あまり気は進まないが。黒いつららの中程を両手で(つか)む。やっぱり、いきなりは無理か。卵の殻を(もと)に自分で変化させたものなら、()れなくても(いじ)れるようだが。

 皮子さん、退()いてて。

 深く考えないようにして、(じか)(さわ)る。太腿(ふともも)くらいあるかな。とりあえず、ミイラは後回し。手を()えた下数十センチのところで切断。そのまま手前に引っ張る。あっ、と思った時は、やっちゃってるもんだよ。天井に付着してた厚い層。そのままの形で落ちてくる。硬い、重たい。腕、折れるかと思った。

 どでかい石板から。え、えーと、ゴムボール? イメージ通り、ぼろぼろと(こぼ)れ落ちる球体。()き分けるように歩き回って、自分の影に収納する。御古(おふる)って、微妙だが。まあ、変質させたから別物ってことで。

 他の落下物や破片は、見ないふり。いや、むしろ影を取りまくって、証拠隠滅すべきか。

「ブルーノ。一先(ひとま)ず、いいぞ」

 言いかけの(せつ)をしまいまで続け、一礼。

「ああ、さすがはリュウイチ様です」

 ずいぶん楽そうだし、嬉しそうだな。あれは見ないようにしてるが。

「前から、あんな? 大変だったな」

「はい。あれの気配を感じる者が、他におらず。どうにかできるような力もなく。この忌避感(きひかん)を認められるだけでよかったのですが。私は、自分がおかしいのかとさえ。すみません、取り乱しまして」

「いや」

 そうなるのもわかる。自分にしか感じられない嫌なことって。続けば、(うつ)になってもおかしくない。

「気にするなって言っても、難しいだろうが。その能力は、遠くのものが見えたり、聞こえたり。身軽に跳べたり、速く泳げるのと何ら変わらない」

 言葉なんていい加減なもんだが、はまれば役立に立つ。オレは、ただ肯定してほしかったな。

「あったからどうってこともない。邪魔になることも多いだろうが。恐れるから、用心深い。苦しい思いをしたから、人ってものがわかる。ブルーノの個性だ。うまく付き合っていけるといいな」

 なかなか上手(うま)くは言えない。あー、むずむずする。

「はい。お言葉、心に()めておきます」

 いや、忘れていいよ。

「ところで、村で仕事する時は、どうだった? 門とか、ずいぶん見通しが悪かっただろう」

「中に入るわけではありませんし。特に、問題はありませんでした」

 質問の意図(いと)がわからないって顔だ。

「そうだよな」

 生まれる前は、自分を守る殻。孵化(ふか)したら、乳代わりなわけだし。まったく(くせ)のない黒いむにむに。

 それが純度を増して、硬くなったら。ブルーノは警戒レベルマックス。感情を、(さっ)することはできるが。オレは、できれば触りたくない。口にするなんて有り得ない。って、その程度。親和性があんのか? ()だな。

「オルファ呼び戻して、試験やってもいいが、どうする?」

「ど、どうするとは。どういうことでしょう?」

 蝋燭立(ろうそくたて)は六台が無事。どれも、とっくに灯は消えてるはず。

 ただ、聞こえた。感じた。戸惑ったのは一瞬。ブルーノの試験のためにはじめたことだ。本人に選ばせるべし。

「あれ、生きてるから」

「生きて。ほ、本当ですか? いえ、決してリュウイチ様の言葉を疑っているわけでは」

「うん。どういうことなのか、オレもよくわかない。すごくゆっくり、小さいが、心音が聞こえる。息もしてる」

 ブルーノは、なむさんと十字を切った。

「それを踏まえて、あの黒いの。ブルーノは、どういう(ふう)に感じる?」

「そう、ですね」

 意識するだけで、この緊張感。

「冷たいような熱いような。刺さりそうに尖っているのに、どろっと染みてくるような。重苦しい気配です」

 聞きたくないが、大事な問い。

「オレの気配も、(おんな)じなんじゃ」

「とんでもありません! 確かに、リュウイチ様には、他の者にはない、濃厚な気配を感じますが。先程まで巣くっていたものや、あの(じゃ)なものとはまるで違います。同じにするなど()()ません」

 力説された。

「なら、いいんだが。少しでも似てるところがあるなら」

「ありません」

「いや、でも」

「まったく違うのです。願望や思い込みで、申し上げているのではありません。よくよく感じていただけば、おわかりになるはずです。確かに、人ならぬという点は似通(にかよ)っていますが」

 へぇ、人じゃないんだ。

「リュウイチ様には、光があり。影が深くなるほどに、輝きを増すように感じられます。あれには、闇しかありません。(とうと)御身(おんみ)、決して卑下(ひげ)などされませんよう」

「あ、うん。わかった」

 正直、何言ってんだか、って感じだが。これ以上ごちゃごちゃ言うと、ブルーノの頭の血管が切れそうだ。

 ふつうにしてよう。皮子じゃないけど、オレはオレだよな。

「それで、あの。リュウイチ様から見て、どうなのでしょうか?」

「どうって?」

「あれをどうにかした場合。リュウイチ様や、周囲が(やく)あうことはないのでしょうか」

 どうにか、で思い浮かべたのが。処分とか、放置。オレの方がよっぽど。

「命あるものです。自身の手に余ることが目に見えていながら、(おろ)かな願いですが。できることなら、お救いいただきたいと。勝手を申して、すみません」

 闇だ、(じゃ)だ、って言いながら。見捨てることはできないんだな。うん、よかった。

「積極的に触りたくはないが、弱そうだし。(なん)とかなるんじゃないか?」

 わからないものについて、シミュレートしようがない。あくまで(かん)

「ありがとうございます。非力ではありますが、私もできることは致します」

 心底怖がりながらも、そう言えるのが偉い。オレだったら、仮病(けびょう)忌引(きびき)って手もあった。

「まあ、やってみる」

 経文(きょうもん)の援護射撃もないよりましだ。

 ミイラ、あんまり見たくはないんだが。まず、観察。黒いつららの突起部分。鼻とは完全に一体化してる。口の中にも続いているが、唇との間にほんのわずか空気の流れが。()れ出た粒子が次々付着して、その隙間(すきま)すら、いまにも(ふさ)がりそう。これ、窒息(ちっそく)寸前ってこと?

 手をかけてゴム化。分割して、慎重に引き抜くと。一気に通りがよくなる。像全体が、がたがた揺れたのは、()()んだのか? 心音も少し強くなった。

 手製の衣服と引き合ってる。呼気に含まれる(もや)が薄っすら付着する。黒いところ全部、さっきと同じ堆積物(たいせきぶつ)か。感覚を()()ませても、曖昧(あいまい)な境目。(むし)る? ()ぐ? 結局、いちばん気の進まない方法を選ぶ。(じか)(さわ)って。卵の殻が(さけ)けるところを想像する。理屈の上なら、中身は傷つかない。

 ぷわん。なんともファンシーな音を立てて、縦に()ぜた。

 それなりに身構(みがま)えてたんだが。心停止寸前のものが、そんな素早いと思わないだろ?

「ぎゃーっ」

「リュウイチ様!?」

 ブルーノが、お(きょう)を中断するほどの非常事態。

 猿のミイラみたいな、()れっ()れの(なん)かに、組み付かれてた。とっさに皮子がガードしてくれたから、生の接触じゃないが。皮子は、うえぇー、ってなってる。ごめん、ありがとう。

 口のとこに口らしきものが。フィルターなかったら、ディープキスだよ。あぶねぇ。ちょっと()れてしまったらしい、皮子の部下五十六によると。かさついてるのに、じめっとしてて、かび臭いそうだ。うえっ。

 そして、何? この、世界にただ一つの吸引力みたいな。内臓、口から出そう。フィルターから急速に空気も何も持ってかれて。皮子と一体化してもおかしくない。真空パックの一夜干しってこんな気分?

 女であることは間違いない。垂乳根(たらちね)だから。すべてが()からびて、しわくちゃの老婆。ミイラだからってわけじゃない。伝説の、年老いた女か!

 きぃきぃ何か言ってる。脳が翻訳拒否。

 なんと、ブルーノが()()がしてくれた。あんなに怖がってたのに。ぽっきり折れそうな老婆を羽交(はが)()め。

「あ、ありがとう」

「いいえ。リュウイチ様、ご無事ですか? 私が勝手なお願いをしたばかりに」

 けっこう冷静だ。いや、オレと同じで、現実を見ないようにしてるのか。

「ど、どうしましょう?」

 わっちゃぁ。(のぞ)きでもしたのか。オルファがおろおろと、その辺を歩き回ってる。

「な、(なん)か食べ物を持って来てもらえる? あと、飲み物と。すごい飢餓状態みたいで」

「あ。は、はい。とりあえず、そちらの祭壇(さいだん)にお(そな)え物が。あと、下で何かやわらかいもの、わけてもらってきますね」

 あー、ほんとオレも冷静じゃないわ。すぐそこにある物、見えてなかった。

 黒い()(がら)(あやつ)って。拘束衣(こうそくい)を作成、と同時に着せる。かなり小柄。猫背が治っても、オレやブルーノの胸くらいまでしかないな。

 やっと、言葉に耳を(かたむ)ける余裕ができた。声にもならない風切り音。

 (われ)に、飯を?

 いいけど。そんながりっがりで、いきなり固形物食ったら死ぬんじゃないか? まあ、いま生きてるのが不思議なくらいなんだが。

 慈愛の人なんだよな。恐々(こわごわ)と、でも甲斐々々(かいがい)しく。ブルーノが世話を焼き始める。ああ、大丈夫だな。ちゃんと汁物からいってる。あとは任せた。

 オレは、さっきから息苦しくて。けっこう緊急事態です。周りを気遣う余裕もなく、皮子にガードを()いてもらう。

「誘引の気じゃぁ」

 (かす)れた悲鳴。忌避(きひ)かと思ったら、歓喜だった。

「我に、その(かたまり)をくれてたも」

 (かたまり)? フィルターのことか?

「頼みます」

 口調に、理性が感じられる。目は(しわ)に隠れて見えない。迷ったが、服の(そで)を解放する。

「どうすんだ、こんなの」

 どうせ使いものにならないし、試しに渡してみると。くんくんと()いで、目詰(めづ)まりした側から吸引。驚愕(きょうがく)する男二人の前で。しわくちゃお(ばば)が、見る々々(みる)ぷるっぷるの美女に。

「生き返った。感謝いたす」

 声にも張りが出て。ええ、美声です。

「うまいのぅ」

 自分でスプーン持って食い始めた。髪はベリーショート。はっきり言えば、坊主だが。骨太で、()まるとこしまったトランジスターグラマー。腹痛(はらいた)は、大丈夫そうだな。

「お待たせしました! 出来立ての白乳(しろちち)プリンを」

 オルファさん帰還。何それ、オレも食いたい。

 言葉を失い、目を見開いてる守役(もりやく)の手から、ボールごと(うば)い取り。(もと)老婆が、飲むように食べた。

「オルファと申したな。感謝いたすぞ」

「は、はい?」

「我は、ネジェム。街最初の人にして、その弟子。学校の創立者にして、(おお)先生なり。我の苦境に気付きもせなんだ弟子達は、もごもご。守役(もりやく)たちの勤め、日々感じておったぞ。折角(せっかく)(そな)え物を食えぬのが、口惜(くちお)しゅうて口惜(くちお)しゅうて」

 もごもご、気になる。あんな状態でも、周囲のことは把握(はあく)してるし。重要なことをさらっと言う。さては、()けた曲者(くせもの)か。

「そこなブルーノ。怖がらせて悪かったの。確かに、我は貪欲(どんよく)が過ぎる。良いものとは言えぬ。しかし、そちの大先輩でもあるからして。少しは大目に見てたも」

「は、はい」

 助けたいって言った時点で、受け入れてると思うぞ。

「そして、リュウイチとやら。我を復活させた御業(みわざ)、見事なり。(こうべ)()れて、礼を()くそう」

「どういたしまして」

 特に何をしたってことでもない。体質。そうだ、それ!

 オルファ、平然としてるよな。いま、皮子は適当に(まと)わり()いてるだけで、オレを密閉(みっぺい)してない。

 やった。誘引の気、抜けた? これが一時的なものって可能性は大きいが。この、ネジ? ネジェムか。連れ歩いて、吸引してもらえばいいんじゃ。

 皮子、どう思う? いんじゃない? これからちゃんと(しつ)けるし。

 何やら不穏な言葉が聞こえたが。まあ、許可は出た。

「突然だけど、ネジェム」

「なんぞ? 恩人ゆえ、かく呼ぶことも、無礼も許そう」

 あ、偉い人だっけな。

「オレ達と、旅に出る気はないか?」

「ほう。旅とな。我は、ずっと(あこが)れていた。しかし、二階から飛び降りたくらいで、足の骨を折るような脆弱(ぜいじゃく)な体では、とても()えられまい」

「老いた体では難しくても、いまはどうだ?」

「ふむ。そうであった! いますぐ、そこから飛んでみるとしよう」

 やめて、ここ三階。まあ、話に聞いてた(おお)先生なら、ぼっ壊れてて当然か。

「実験は、もう少し落ち着いてからでいいんじゃないか? いま、怪我したら、連れていけない。それとも、行く気ないのか?」

「ゆく。ゆくぞ。我は、世界を見たい。お主のその力の秘密も知りたい。是非(ぜひ)とも、連れて行ってたも」

「ブルーノ、相談もなくごめん。いいか?」

「もちろんでございます。リュウイチ様がお決めになったこと。反対するなど、努々(ゆめゆめ)考えも」

 (なん)とか少しずつ、敬語やめさせよう。あとは、解剖(かいぼう)されないように気を付けて。

 そういえば、占い師が言ってたな。三者(さんしゃ)をどうたら。人数は(そろ)った。細かなことは後から付いてくる、たぶん。そろそろ、門の向こうも見えるだろう。

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