表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
28/87

医師の忠告


 初心者と(おぼ)しき女が、カフェの呼び込みをしていた。

()れたてコフィ、いかがですか」

 可愛いというより、優しいお母さん系。

「米麦のリゾット、おいしいですよ」

 即、入店。どっちに引かれたって? 両方。

 無理言って、食器を借りてテイクアウト。食べ終わったら速攻、返しに来ますんで。

 建物の(かげ)でいざ、食おうとしたら。家無し男が寄ってきて、マイ(うつわ)を差し出す。

「半分でいい」

 どっかで(なん)か食べた(あと)らしく、木目(もくめ)際立(きわだ)ってる。ちょっと()りない、ってやつ?

「おう」

 言われるままに分ける。

「何でも、教えてやるからな」

 図々(ずうずう)しくも、この飄々(ひょうひょう)とした感じ。いいよな。

「とりあえず、食おう」

 野菜たっぷりのリゾット。出汁(だし)()いてて旨い。

 さて、肝心なところ。米なのか、麦なのか? 前世で言う、もち麦でした。残念だが。まあ、これはこれで。ぷちぷち、全部()まないと気が済まなくなるから。少量でも満足感がある。体にも良さそうだ。

「いま、街から出るとしたら。何、持っていく?」

「丈夫な麻布(あさぬの)

 迷いのない答え。(かゆ)が半分だから、理由は教えないそうだ。

「わかった。持っていこう」

 いまから食べ物を追加したり、金を渡すのは違う気がする。

 男が歯を見せた。最後の一粒を指で取って口に入れる。

「ごちそうさん」

 ()きもせず。ことさら無頼(ぶらい)気取(きど)るでもなく、自分の速度で去っていく。何百年たっても、オレは、ああは()れないんだろうな。


 昼時(ひるどき)にわるいとは思ったが、ドクを(たず)ねる。

「あら。リュウイチさんの所に行ったんですよ? ()れ違いね」

 アニソンさんかな? 少し待つように言われる。軽食も(すす)められたが。

「さっき食べたばっかりだがら。気持ちだけ、ありがとう」

 五分もしないうちに、ドクが帰宅。

「無駄足、()ませてわるい」

「いや。アーニャにも用があったし、いいんだ。よかった、来てくれて」

 昼飯もまだだろうに、診察室に誘われる。

「頼むぞ」

 しかも、盗聴防止付き。なんだ? ドクの話は端的(たんてき)で、わかりやすかった。

「僕が以前、所属していた学術研究会が、リュウイチさんに興味を持っている。医師で発汗の仕組みを研究している者がいて。彼女に、誘引の気の(おさ)え方について、意見を求めたんだ。そこから話が伝わったらしい。すまない」

 深々と頭を下げられた。

「いや。別に、ドクが謝るようなことじゃないだろう。むしろ、ありがとう。あれからも、いろいろ調べてくれてたんだな」

「いや。結局、解決方法も見つからないまま。患者の秘密を()らすだけになってしまった」

 公的のものではなく。自分で自分に課してる決まりのようだ。

「反省は(あと)で、勝手にやるとして。まず、僕はその学会を脱退している。理由は、その集まりが閉鎖的で、いま苦しんでいる人たちの役に立っていないと思ったからだ。もちろん、学問を発展させることも大事なんだが。得た知識を抱え込んで、風化させてしまっているのが実情だ」

 ちょっと困ったように首を(かし)げる。

「自分でも、批判してるように聞こえるが。公平に話しているつもりだ」

「ああ。わかってる」

 オレのために語ってるってこともだ。

「僕たちは、人の秘密に触れる機会が多い。信用の置ける人物だと、世間では言われる。自然、役所や議会とも(みつ)に遣り取りする者が出てくる」

 (なん)か、見えてきた。女村での情報と、誘引の気の残滓(ざんし)があるっていう、オレ。すでに点線で(つな)がってる。うわぁ、やばい。ドクが、話してくれてよかった。

 村であったこと。どこまで知ったのか、口にしない。オレに質問する気もないようだ。知りたがりのくせに。言えない理由があるのか。ブルーノと似たような?

「実は、役所の内情に(くわ)しい人から。気を付けるようにって、言われた」

「そうか、よかった。そういう忠告をしてくれる人がいるんだな。ただ、(おおやけ)の機関とは、別の線で動く者もいるから。より、注意してほしい」

「学会って、話を聞くだけじゃないんだな?」

 ドクの眉が寄る。

「探求者は、困った性質を持っていて。知る(ため)なら、かなり危険なこともする。大半は理性も持ち合わせてるが、全員そうだとは言い切れない」

「生きた人を使った実験もするのか?」

 冗談めかして言ってみたが、ドクは肯定も否定もしなかった。

「少なくとも数十種類の検査を受け、百以上の質問に答えることになるだろう。リュウイチさんが、人体の構造や、世界の成り立ちに興味があって。同じ手法で探求したいと思っているならまだしも。苦痛だと思うよ」

 確かに。途中でキレそうだ。

「一方で、万に一つの可能性ではあるが、知る機会を奪うことになるから。正直、いまも悩んでる。僕だってリュウイチさんと、そういう探求ができるなら、ぜひお願いしたい」

 ははっ。やっぱり、ドクはこうでなくちゃな。

「誰よりリュウイチさんが、答えを知りたいだろう。安全が保障されるなら、何を置いても勧める。だが、彼らはまだ、あまりに未熟だ」

 (まぶ)しいものでも見るような目。

「かく言う僕もそうだ。それでも、この手で触れていいものと、そうでないものはわかる。あれこれ理屈を並べてはみたが。リュウイチさんのためと言いながら、実際は彼らのためでもある。手に余るのが、目に見えている。現状、平和に生きているのに、いまここで無茶をする必要はあるかい? 身勝手な理屈で、本当に申し訳ない」

 触れるな危険? ハザードシンボルでも付いてんのか、オレ。

 でも、そうだな。卵生が当たり前の世界に、(へそ)を持つ奴が一人。天地がひっくり返るようなことだろう。

 もし、体を(いじ)り回されて、我を忘れて怒ったら? 少なくとも、椅子を蹴飛ばすくらいじゃすまない。

 はぁー、大丈夫だ。(なん)てことない。距離を置けばいいんだ。

「ありがとう。言いずらいことを言ってくれて。幸いって言ったら、おかしいが。オレ、商会の仕事を()()って、街を出ることにしたんだ」

 ドクの顔が、ぱっと明るくなった。理解が早くて助かる。

「ああ、それがいい。仕事ならば、うん。突然、街を出るのも仕方ない」

 肩の荷が下りた、って感じ。同類を(わら)う気はない。小心者万歳! よくぞ話してくれた。

「もし、役所から人がきたら、オレの症状とか、これまでの経緯(けいい)も正直に言ってもらってかまわない」

 情報操作済みだし。それでドクの負担が減るといいんだが。

「気を(つか)わせてわるいな。必要ならそうさせてもらうよ。(しら)を切る自信はあるんだが。副役所長には、太刀打(たちう)ちできそうにないから」

 やはり、切れ者か。味方なら心強いが、今回は敵陣。

「それで、質問があるんだが。答えられる範囲でいい」

「何だい?」

「この街にある学校。ドクも卒業してるだろう? その学会と関係があるのか?」

「大半が卒業生だ。分野が違えば顏も知らない、なんてざらだが。口伝(くちづた)えに知識を引き継いでいくから、縦の(つな)がりは一生消えないと考えていい」

 ってことは、学校側もかなりのことを(つか)んでて。それに(ともな)った動きがあるんだな。どういう形なのかは不明だが。

「それから、ブルーノって祈祷師(きとうし)を知ってるか?」

「ああ。彼は、昔から一生懸命で好感が持てる。僕も意見を求められたことが何度かあるよ」

 顔見知りだった。

「ちょっと、わからないんだが。それだけ勉強熱心で、卒業できないものなのか?」

「いや。彼くらいになれば、いつでも試験を受けられるし、合格できるだろう。すでに街公認の祈祷師(きとうし)だから、気にならないのかもしれない。街の外に出るなら、卒業していた方が有利なんだが」

「有利?」

「巡礼中の祈祷師(きとうし)は、托鉢(たくはつ)命綱(いのちづな)だ。学校の卒業生なら、行く先々で、その地を治める長が客として迎える。彼らも卒業生だがら。そのことにプライドを持っていて、中退者には当たりが厳しい傾向にある。(あつか)いが雲泥(うんでい)の差だっていうな」

 こっちにもあった学閥(がくばつ)。これは、命令してでも卒業させるべきか?

「本当に、いろいろありがとう」

「いや。大したことはできなくてな」

 人の罪悪感を利用するのは、どうかと思うが。誰でもいいわけじゃない。そもそもオレは、これを頼みに来たんだ。

「お世話になりついでに、もう一つ」 

「どうぞ」

 まだ始めて数日だが、と。自分たちの活動を説明する。ドクが、食堂の主人を知ってるなんて、ますます好都合。

「こっちの勉強会はアットホームで、物足りなかもしれないが。よかったら時々、顔を出してほしい」

「文字。それを使いこなせば、患者の話を混同しなくなるし、治療の効果を検証しやすくなるな。いや、僕の方からお願いするよ」

 今日からさっそく行く、って。よかった。ドクは服装からして、アロハ~なんだが。正直、挨拶(あいさつ)しか聞き取れない。一割くらい英語と、別の響きも混じってて。時間はものすごーくかかるだろうが、(なん)とかなるだろう。

 うん、(あと)(まか)せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ