祈祷師ブルーノ
オレが神の使者でも何でもない、ただの人だ。っていう説得は、失敗に終わった。
「一年生でありながら、それほどの知識をお持ちの方が、徒人であるはずがありません。何卒、仕えさせていただきたく」
嘘が吐けないって前提を覆すとか。方向はともかく、信仰心ってすごい。対して、オレは曖昧表現が得意。言い逃れなら任せろ。
「えーと、あれだ。神の試練。真に求めるなら、本当の使者に会えるってわけ。いまこそ信仰心を示す時。トライ・アゲン?」
ブルーノは泣く泣く街へ帰っていった。どうも、仕事の予定があるらしい。何やってんのか、興味はあるが。のこのこ付いて行ったら、元の木阿弥だ。
せっかくだがら採集してこう。筍みたいな形の芋。にんにくの匂いのする草。毛の生えた果物。アーニャのとこ、調味料くらいあるよな?
朝から垂れ流しですみません。女達に、なるべく被害の及ばないルートを素早く通過。
遠くからでも嗅ぎ付けて、ちゃんとスーツを着てる。アーニャは、友人宅にカオちゃんを自慢しに行くそうで。
「ご飯は、朝の分だけでいいよ。場合によっては泊まってくるかも」
マスクの向こうにあるだろう、曇りのない笑顔。いや、今日は、事情があって食堂には寄ってこなかったんだ。
ちょっと焦げたが。塩味のソテー、と言い張ろう。まずくはない。
「ま、まあ。たまにはこういうのもいいよね」
文句を言わずに皿を受け取る。偉い。うらやましそうな視線の先。香り猫の餌は、さくらんぼみたいな赤い実。緑色の酸っぱいフルーツより、うまそうだ。
アーニャは籠を抱えて、いそいそと出かけていった。
影から防護服を取り出す。手を加えれば、民族衣装に見えなくもない。ジェラバって、言ってたか。フィルターと、一応、透明にしてある顔の前面。限定で影を仕舞えるか? できた。代償は一時間の仮眠。
皮子たちは部屋に残す。すまん、部下、百六十ニ。こいつも一回、影を取ったくらいじゃ昇天しないってわかったが。リスクは避けたい。何も考えずに、皮子を道連れにしてたからな。
街中で物色。探してる時は、なかなか見付からない。ドクあたりがよさそうだが。案外、学校つながりでバレそうだ。やはり、知り合いは避けよう。
辻に立ってる、立派な髭を生やした男。聞けば、占いをするという。頼むと、籤を引かされ。共に、しばらく通りを眺めていた。
「かつての労苦に囚われてはならぬ」
びっくりした。突然はじまるんだ。
「実りを甘受せよ。何も持たぬが良し。ただし、三者は脇に置け。時をまってはならぬ。心を放置してはならぬ。西に難あり。恐れず向かえば、吉に転ずる」
うーん。わかるような、わからないような。まあ、占いだからな。
千ミミ払って、こっそり影に影を仕舞わせてもらった。リスキーだが。まだ、二回目だから大丈夫なはず。
せっかくの影の薄さ。利用しない手はない。光でも音でもない。意識としか言いようのないものを広げていく。ブルーノ発見。神呼ばわりは勘弁だが。あの知識量、興味はある。
今朝の熱狂ぶりが嘘のように、穏やかに仕事をしていた。一人で、墓所の清掃。道々呼び止められて、お祈りしたり、お経を上げたり。草の葉に包んだものを渡されてる。お布施かな。家に招じ入れられて、話を聞いたりもしている。途中から、時間を気にしだして、早歩き。葬儀が一件。神父のような僧侶のような仕事に見えるが。周りは、祈祷師って呼んでる。昼食に招かれたのを見て、オレも一度、離脱。屏風がどうなってるかも気になる。
ブルーノの生真面目さを舐めてた。休みなく歩き回る。太陽が絞られ始めると、カンテラに灯を入れ。別の回廊から挨拶されているのに気付かない。五メートルから離れると、気配を感じとるのも難しくなるようだ。慎重に辺りを探って、神経をすり減らしてるのがわかる。やっと、件の辻占に遭遇。足取りが軽くなる。直後、肩を落とす。どうやら、知り合いのようで、二、三言葉を交わしてわかれた。
この目論見の甘さ。オレらしい。寿命までかけたのに。
夜半になってもブルーノは、半泣きで、小走りに街を探し回る。さすがに胸が痛い。そっと並走。しばらく駆けて、やっとオレに気付く。足を止め、絶句していた。
「わ、私の未熟さにあきれておられるのでしょう」
「いや。その根気に感心してる」
あきらかに自分より賢い、きちんと生きてる奴に、ここまでさせた。まずは、詫びる。
「試すようなことして、すまない」
「とんでもない。頭を上げてください」
大慌てのブルーノ。悩むことでもないか。宗教関連なんて、概要すらあやしいんだ。あきれられるのに、時間は掛からないはず。
「ブルーノ。いまのオレを見て、どう思う? 皆と何も変わらないだろう?」
「確かに、今朝のような濃厚な気配はありませんが。もしや、今日一日、共にいてくださったのでしょうか」
本当に感じとったのか、願望なのか。苦笑するしかない。
「創造主とか、悟りを開いた者とか、その使いとかじゃないんだ。ただ、むこうの記憶が、人より多くあるだけ」
「ですが」
「だから、ブルーノにそれを伝えれば、オレは特別じゃなくなる。ふつうに付き合えると思うんだが」
「は、はい。ふつうには無理かと思いますが。教えを授けていただけるのなら、神のしも、いえ。一学生として大いに学ばせていただきます」
だから、拝むのやめて。
様なんて分不相応な敬称と、丁寧語はどうにもできなかった。それがもともとの話し方だって、言い張るんだ。負けるわ。




