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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
21/87

再会

     6


 孟が、屏風絵(びょうぶえ)に掛かり切りの間。オレは所持金、百五十ミミという(てい)たらく。

 見かねたアーニャが、小遣(こづか)いをくれた。新しい(こう)の開発は進んでいない。材料が一つ()りないことを理由にしてるが。じつのところ、香り猫のカオちゃんに夢中で。尻の所をぎゅっとできないだけだ。(もと)(こう)をつくるだけでも、それなりに(かせ)げるらしい。

 女に小遣(こづか)いもらって、昼間からふらふらしてる。ヒモみたいだが。皮子のリクエストで、墓所探し。二カ所発見したが、(から)だった。

 定職に()いてない身で、こう言うのもなんだが。オレ、ちょっと働きすぎだよな? 酒でも飲みたい気分。これまでは金がなくて、自重(じちょう)してた。人前で飲むのは無理。雑貨屋で、(びん)入りを買ってみる。

 路地裏で後悔。前世の発泡酒の方が、なんぼかうまい。もっと高い酒もあるはずだが。もともとワインとか、ブランデーとか、味わかんないんだよな。

 気の抜けた、妙な香りのする、ぬるい酒。ひそかに落ち込こんでると。ホームレスの男と再会した。視線に(こた)えて。口付けたのでよければ、と渡す。

「はじめて飲んだな?」

「ああ」

「安酒の飲み方、教えてやるよ」

 なんのことはない。水車が()み上げたばかりの水に、しばらく()けて置けばいい。さっそくもう一本買って、先に渡したものと交換。

 冷やしたものは確かに、ずいぶんましだ。

「そういえば、街のこと、何でも知ってるって言ったよな?」

「ああ。これの分は答えよう」

 聞きたいのは、旧式の墓所の位置。先日(おとず)れたのと、さっき見て回ったのと、他には一つしか残っていないらしい。

 流れで、近頃の墓事情を(たず)ねる。女の間では鳥葬(ちょうそう)、男の間では水葬。あとは樹木葬(じゅもくそう)流行(はや)りなんだとか。

「へぇ」

「死んでしまえば、(なん)だって(おんな)じだ。他所(よそ)じゃ、遺体から手足を取って、生きてる奴につけるなんてことも、するらしいぞ」

 男はご機嫌(きげん)で去っていった。酒代(さかだい)分はしゃべったということだろう。

 さっそく教わった墓所に行ってみる。(すた)れたというのは本当だった。

 皮子は、気にしなくていい、と言っているが。オレのせいで自由に動けないのはかわいそうだ。

 報告がてら診療所を(たず)ね、頼んでみる。ドクはあっさり、残りのイリを(ゆず)ってくれた。何から(しょう)じるのか、うすうす気付いていたようだ。

「黙っていてわるかった。違うといい、などと探求者らしからぬ願望があってな。いまの話を聞いて、確信した」

 確かに。現代医療を知らなかったら、いくら皮子の(ため)とはいえ、受け入れ(がた)かっただろう。

「リュウイチさんが聞いたのは、鉱石の町のことだろう」

 いくら治りの早い体でも。落盤(らくばん)でつぶされたら、どうにもならない。現場の医療従事者の苦肉の策。

「僕も、若い頃は知識欲にまかせて、解剖(かいぼう)なんかもやったが。治療のためにそこまでやる()()りがつかなかった」

 他の生き物に食い荒らされない環境であれば。動物のそれからも、イリは()えるだろう、とドクは言う。

「いい機会だから、体のことは本人の治癒力に(まか)せて。心のケアに専念するよ」

「釣りの楽しみを(うば)って、わるいな」

「そんなことはない。今度は、本物の魚を釣りに行こう」

「ああ」

 新たな部下、百六十一と百六十二を従え。晴れて、皮子は自由の身。

 皮子とこいつ等って。同化してるんだがら、同じもののようでいて。皮子だけに、自我がある。肉とか魚料理に興味を示したことはない。皮子も、何か別の生き物。もっとえば、人だったりしたんだろうか。

 どう思う? 出会った頃、記憶がないとか悩んでたし。わりとシリアスに(たず)ねたんだが。

 ぷつっ。ため息()かれた。え? オレが言った?

 皮子は皮子。そうだった。人気(ひとけ)がないのをいいことに、その辺の鉢植えへジャンプ。

「おお。そんなこともできるようになったんだ」

 それがクローメの木だったらしく、直後、悶絶(もんぜつ)。慌てて救出する。苦い、(しぶ)い、すっぱい? 味もわかるようになったのか。

 果物(くだもの)ジャム、っていうよりソースだな。買って、中を泳がせてみる。おいしい? よかった。さすがに固形物は無理だが。スープや果汁なんかは、楽しめるようだ。

 そろそろ銭湯にでも。考えたところで問題発生。フィルターが壊れた。

 皮子さん。とっさに穴、閉じてくれたのはありがたいけど。このままじゃ、オレ死ぬから。

 屋上(おくじょう)風下(かざしも)へ避難。ああ、びっくりした。壊れ方が尋常(じんじょう)じゃない。ぐずぐず砂みたいになって、消えた。心当たりといえば、毎朝、影を仕舞(しま)ってたこと。夕刻、人前で別の光源に当たった時も、そうした。

 一先(ひとま)ず、もう一つのフィルターで対処。これが壊れる前に、新しいのを買わねば。無精(ぶしょう)をせずに、どこかの時点で影を戻せばいいのか?

 夜中。蝋燭(ろうそく)の灯りの(もと)で実験。といっても、フィルターを使うわけにはいかない。拾ってきた岩の欠片(かけら)。小枝。(たが)(はず)れた(おけ)。卵由来(ゆらい)のフィン。

 黒い殻からつくった足ひれは。何度、影を仕舞(しま)おうと、何の影響も受けない。これでフィルターつくれればいいんだが。見た目は模倣(もほう)できても、性能が追い付かない。

 その他のものは、十回から十五回。影を取ると、(くず)れて消えた。だんだん弱くなるってことじゃないのか? 本当に突然、壊れる。(おけ)をばらした板に、いちいち影を戻してみたが。やはり、十二回目で消えた。うーん? 気持ち、オレの影が濃くなってるような。いやいや、そんな。

 やばっ。オレ、他所(よそ)に影、仕舞(しま)ったままだ。もう、一週間は()ってる。寿命、だいぶ(ちぢ)んだ? いや、実験結果の通りなら、問題は回数で。影を戻そうと戻すまいと関係ないのか。わからん。とにかく回収はしよう。このままじゃ、気持ちがわるい。

 明け方まで、まだ間はあるはず。闇に(まぎ)れて街壁(がいへき)()い、途中から飛び降りる。確か、この(へん)。やけに低い位置から、にょっきり枝が出ている樹を探す。あった。あったが。なぜ、こんなことに?

 (みき)には、しめ縄。お供え物までしてある。御神木(ごしんぼく)か何かだった? なんか、もう、すみません。闇の中。境目なんてわからない。この辺だろうという所で、影を戻そうと思うだけだ。お、ちょっと調子が上がった。影って大事なんだな。

 え、何? そんなに調子がいいなら、(むち)振ってみたら?

 皮子のアドバイス。つまり、命令に従って。一振り、二振り。相変わらず下手だ。影があるとおぼしき場所に当たれば、枝も動く。枝自体を打つこともできる。ただ、(ねら)った通りにいかない。

 意志を込めろ? 頭上の枝に巻き付け、自分の体を引き上げる。ターザンごっこで、その(へん)を一周。できた! さほど疲れもしない。と、思ったらきた。おやすみ。

 おはよう。周囲は、すでに明るい。腹の減り具合から推測。一、二時間で目が覚めた。進歩してる。

 ただ、何? この状況。御神木(ごしんぼく)の前で、一人の男が、身も世もなく泣いている。墨染(すみぞめ)姿。どこかで、会った?

「あ。ブルーノか」

 数本離れた木の上で、つぶやいただけ。言い訳するなら、オレは寝ぼけてた。勢いよく顔を上げる、青い目の坊さん。しまったと思うが、もう遅い。

「リュウイチさん?」

 しっかり、認識されてる。仕方なく地上に降りると。手を伸ばし、ふらふらと近付いてきた。

「ど、どうしたんだ?」

「神が、神が去られてしま」

 滂沱(ぼうだ)の涙を流していた、目を見開いて。オレを凝視する。

「神よ!」

 (すが)られそうになって、思わず()けた。

「あ、ごめん」

「神よ」

 ヘッドスライディングしてもめげないのな。

「一週間ほど前。あちらの樹に、神が御座(おわ)すを感じたのです。私は毎日、お参りして祈りました。しかし、今朝、参ったところ気配は消え()せ。私の信心が()りないばかりに、神は去られたのだと(なげ)き悲しんでいたのですが。(なん)のことはない、私の目が(くも)っていただけのこと。この気配、存在感。あなたこそが神です」

 大丈夫か? 瞳孔(どうこう)開いてるぞ。

 それは、たぶん、アレだ。回収した影の分と、ちまちま仕舞(しま)った影の分と、卵の殻の分もあるか? あと、皮子たちの気配。言えるか。

「気のせいじゃないかなー」

 (おのれ)の影の濃さに、ぎょっとして。木陰に移動する。ぐいぐい距離を詰められた。

「いいえ。確かに私は未熟者ですが。この感覚は気のせいなどではありません」

 最初の印象。もっと、理性的な奴かと思ったが。相変(あいか)わらず、気配を感じとれるのが厄介(やっかい)だ。墓(めぐ)り中は、気を付けてたのに。

「もし、あなたが神ではないというのなら」

「ないです」

「神の御使(みつか)いに違いありません」

「とにかく。一度、深呼吸を」

 少し距離はあるものの、街道を行く人がこちらを気にしてる。

 ほんとは逃げたいんだが。大声出して追いかけられそうで。そしたら余計目立つだろ? 名前、叫ばれたくないし。

 ブルーノが身を寄せるようにして(ささや)く。

()身分を隠しておいでなのですね」

 まあ、いろいろ隠してるけれども。

「考えが(およ)ばず、失礼いたしました。このブルーノ。これより誠心誠意お仕えし、祈らせていただきます。ですから、ここから去られるのだけはっ」

 興奮して声、大きくなるわ。鼻水出てるわ。

 まあ、とりあえず。

「わかったよ」

 他の答えはノーサンキューなんだろ。

「ありがとうございます」

 平伏(ひれふ)されて、立ってるなんてできない。小心者は、体育座り。これから、どうしよう。

 何、皮子? おめでとう、再び、おそろい?

 そうか。会社で、年上の部下ができたと思えばいいのか。以前のオレの立場。部下の方な。

「まずは、祈りを(ささ)げましょう。どんなお(きょう)がお好みですか?」

 般若心経(はんにゃしんぎょう)とでも答えればいいのか。はははっ。やっぱり、やりにくいよ。

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