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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
19/87

アーニャの取調べ


 オレが朝飯(あさはん)を終える頃。アーニャが起きてきた。日照時間が活動時間の、彼女にしては珍しい。

「なんだ、うまくいってないのか?」

「分析はすんだよ。材料が、二ぁっつばかり()りないの」

 (うら)めしそうに、厚切りベーコンを咀嚼(そしゃく)。いつもの革一式は脱いでいて、ビキニ姿だ。ここのところ、窮屈(きゅうくつ)格好(かっこう)をしていた反動かと思ったが。落ちない染みを落とそうとする労力が()しいんだ、と力説された。まあ、見せてくれるなら、見とこう。

 ちなみに、オレの防護スーツが見えないことについて。アーニャは(はな)から、いいように解釈(かいしゃく)してる。

 (おのれ)の姿を風景に溶け込ませる能力は存在する。(たこ)由来(ゆらい)? 銭湯で一緒になった男は、輪郭(りんかく)はわかるが、そこそこうまく擬態(ぎたい)していた。本人に言わせると、したくてしてる訳じゃない。気を()くとそうなる。持ち物までは変えられないし、中途半端(ちゅうとはんぱ)。だそうだ。

 アーニャも、そこまで自由自在なのははじめて、って。少しは(うたが)おうか。

「そういえば。さっき公報で、エイト商会の即売会があるとか」

「え、ほんと?」

 勢いよく立ち上がったアーニャは。しおしおと椅子に座る。

「どうした? 買いたいものがあるんだろ」

「お金がない。あそこ、品揃(しなぞろ)えはいいけど。初心者でも、付けは()かないんだ」

 白の区画にある本店は小規模だが。各地に支店や倉庫があって、取り寄せられないものはないらしい。

「もう二週間。いや、もっと? お店は休業してたから。きっと、混むよ。アタシは関係ないけどね」

 やさぐれ気味(ぎみ)のアーニャ。

「そんなに休んで、よく客が怒らないな」

会頭(かいとう)(みずか)ら従業員(ひき)いて、素材集めに行っちゃうからね。でも、その(あと)は。珍しいものが手に入るって、皆、知ってるから。黒の宿屋(あた)りでも、休暇()ばして、待ってる連中が多いんじゃないかな」

「アーニャの欲しいものって(なん)だ?」

 買えない、と(くや)しがりつつ。口にするだけでも、うれしそうだ。

「うーんとね。香り猫と、い」

 激しく扉が(たた)かれる。

「あ、アタシいないよ」

 テーブルの下にもぐったところで丸見えだ。仕方ない。

「はい。どちらさま?」

 細めに扉を開けたのに、勢いよく()み込まれた。いや、刃物向けられたら、無条件でホールドアップ。後ろに()がるよ。

「アーニャ! なぜ、役所に出頭しない? 私に足を運ばせるなんて、いい度胸じゃないの」

 (やり)(かま)えた衛兵の間から現れたのは。ヴィヴァンディエールの軍服姿。いかにも、できる女だ。

「あ、あ、アタシは、なんにもわるいことしてないから」

 テーブルの(あし)にしがみついたところで、無駄だと思うが。案の上、自分よりずっと小柄(こがら)な女に、片手(かたて)で引きずり出されてる。

「無実だというなら。正々堂々、(みずか)ら出向いて釈明(しゃくめい)するべきでしょう」

 それ以上、力に訴えることはせず。アーニャを椅子に座らせて、その向かいに腰を下ろす。大きなため息。

「副役所長の権限で、ここに、公認調香師アーニャの取調(とりしら)べを略式で行う」

立会人(たちあいにん)、コンスタンティン」「同じく立会人(たちあいにん)、ブブ」

 え? 思わず衛兵に(たず)ねてしまう。

「ブブって、ハインツが名前付けた?」

「あ? ああ」

「そこ。関係ないことは(あと)にしてちょうだい」

 すみません。衛兵共々(ともども)、戸口(がわ)に寄る。

「こういったことは、初めてのようね。あなたは誰で、アーニャとどういった関係ですか?」

「友人です。リュウイチと言います」

「わかりました。あなたが立ち会うことを認めます。正式な立会人(たちあいにん)ではないので、いつ退去してもかまいません。ただし、アーニャが取調(とりしら)べを(こば)んだり、逃亡した場合は、役所に出頭してもらいます。拒否すれば、身柄(みがら)拘束(こうそく)、連行もあり()ます」

 オレ、人質か。アーニャが応じれば問題ないわけだが。もしもの時は、まず逃げる。決まっているから不安はない。

「お、横暴だぁ」

「私だって、こんなことしたくないわよ。あなたが(さわ)ぎを起こすたびに、なぜか私のところにお(はち)が回ってくるの」

 好戦的な話し合いの内容を要約すると。

 まず、誘引の香の過剰使用が取りざたされた時。真っ先にアーニャが、関与を(うたが)われた。もともと異臭を(ただよ)わせたり、実験動物を逃がしたり。強く出られないこともあり。役所での尋問(じんもん)を大人しく受けている。

 街には、製作者を保護する制度があって。定められた期間、製法を()せ、独占販売できるらしい。アーニャ、オリジナルの誘引の香が、登録されたのが三年前。期限が切れて、アーニャは素直にレシピを公開した。アーニャ自身も販売を続けるが。粗悪品が出回るようになる。

「材料費をケチったか」

「そう、そうなんだ。あんな安い値段で売り出せること自体おかしいよ」

「あなた、余計な口を(はさ)まない」

「すみません」

「とにかく、アーニャ。あなたは、レシピを()()()()公開した疑いあり、とされている。私の前で一度、公表した通りに調香して、問題ないことを証明しなさい。そうすれば、くだらない言い()かりなんて退(しりぞ)けられるのに。なぜ、やらないの?」

 あ。無茶、言ってる訳じゃなかったんだ。むしろ味方?

「アタシが、調香のことで間違えるわけない。もし、間違えたとしたら、ちゃんと作れてる人がいるのは、どういうわけ? 向こうがおかしなことやってるのに。どうしてアタシが、そんなことしないといけないの? その前だって、やってもいないことで(うたが)われたんだよ?」

 ああ。意地になってたか。これもわかる。わかるが。

「あの、すみません。友人として、アーニャに聞きたいことがあるんですが?」

 きちんと発言を求めれば、簡単に許可は出た。まあ、単純にお疲れなんだろう。

「どうぞ」

「アーニャ。問題の(こう)を調合できるだけの材料はあるか?」

「それは、あるよ。腐るほどある」

 嫌疑(けんぎ)が晴れない(かぎ)り、同製品の調香を禁止されているんだとか。それで、金が()き。新たな(こう)の開発を(あせ)ってたのか。

「だったら、調香して見せてやれ」

「リュウイチまで、そんなこと言うんだ」

 やめろ。涙目。こっちまでうるっとくる。その(くや)しさ。半分はオレのせいだし。

 彼女の才能は本物だ。鼻がいいってだけじゃない。調香に対する情熱と知識、そして直感。お偉いさん達が頓珍漢(とんちんかん)な情報を流す中。オレにたどり()いてる。

 どうやら、オレの発する物質は強烈すぎて。近接で、誘引の香を連想したのはアーニャだけ。男女関係なく、わずかに好感度をアップさせるものだからな。

 アーニャは、オレの言い分を信じてしまう可愛いところがあって。尚且(なおか)つ、それを言いふらさない分別もある。

 まるっと人を自然体で受け入れるなんて、なかなかできない。これでも、恩義を感じているんだ。

 どうやったらアーニャは、やる気になるんだ?

「それができたら。さっき、アーニャが欲しがってたものを買ってやる」

「ほ、本当? あれ、すっごく高いんだよ」

 アーニャが口にした金額。あ、やっぱり、それくらいするか。前世なら、血統書付きの子猫を買っておつりがくる。

「お、男に二言はない」

「やる! やります。ほら、調香するから。さっさと来て」

 武器を手にした衛兵を押しのけ、隣室に走っていく。空き部屋使ってるの、秘密じゃなかったか? まあ、いい。

「ちょっと、アーニャ」

 副役所長とやらの背中を見送って。立会人(けん)衛兵の二人と、顔を見合わせた。

「仕事とはいえ、いろいろ大変だな」

「いや、そっちこそ。話が進んで、俺らはよかったが」「また無駄足だろう、って言ってたんだよな」

 アーニャに調香させないのも議会なら。早く香をつくらせろ、と。こっそり責付(せっつ)く議員もいるんだとか。小声の打ち明け話。

「俺らも、早くつくって欲しいんだ」「アーニャは、調香の腕はいいからな」

「じゃあ。アーニャは、もう大丈夫か?」

「ああ。(あと)(まか)せろ」「俺たちがちゃんと立ち会うから。がんばれよ」

「え?」

 ますます小声になる二人。

「これから、金策だろ?」「女のためとはいえ、給料二月分はきついよな」

 男前な奴だと()(たた)え。低金利の金貸しまで教えてくれる。

「ありがとう」

 逃げるように部屋を(あと)にする。確かに金が必要だし。品物も、早く押さえないとならない。

 あと。短槍(たんそう)、怖い。

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