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やることやったら転生していた  作者: 御重スミヲ
12/87

森から街へ

     5


 枝から一度、落ちたが。甲羅(こうら)の重さに慣れてきた。パレオを短く着直し。腰に回した(ひも)にサンダルを(はさ)んでいる。

 エイトたちを捕捉(ほそく)するのは簡単だった。ほぼすべての生き物の意志。別個の気配(けはい)。音になるかならないかの振動も、何となく感じとれる。

 ペコの警戒網の三歩手前。風下(かざしも)から枝葉を()かし見てると。肩をつつかれる。

 なんだよ? さっきから亀の甲羅に興味津々(きょうみしんしん)。顔にでっぱりのある、立派なオランウータンだ。何か渡そうとしてくる。

 悪いがこれは、やれんのだ。え、違う? どうやら見物料らしい。むしろオレが通行料、(はら)うべきだが。くれるというなら、(もら)っとこう。仲良く果物をかじりながら観戦。

 集団から一人だけ遅れてる。あきらかに(さそ)いだよな。物陰から(おそ)いかかる一匹の(おおかみ)。群れを追われたのか、やぶれかぶれだ。

 エイト達は、(むち)牽制(けんせい)、誘導し。投げ縄で(から)()る。自由を(うば)われた(おおかみ)(うな)(ごえ)

 なんだ、あれ。小さな香炉(こうろ)? エイト達は、顔に布を巻き付ける。これは、まずい。オランウータンと(そく)、移動を始める。ペコの発する音波が一瞬、強まった。

「どうした?」

 遠くの声もよく聞こえる。

赤猿(あかざる)みたい。()る?」

「逃げられんのがおちだろ。獲物は十分(じゅうぶん)。こいつ眠らせたら、出発するぞ」

 助かった。むこうの経験の浅さ? こっちに()れがいたのも大きい。

 ありがとな。気にすんな? わかれた後も、一度(もど)って、果物を置いていく。くれ好きなおばちゃんか。

 腹は減ってない。無理に食べるのもな。亀の甲羅(こうら)。ランドセルっぽいけど、大きな穴があいてる。

 影に仕舞(しま)えないか? (はた)から見れば、木の(みき)にそっとイチジクを押し付ける、奇妙な男。カラスの鳴き声。負けるかぁ。

 実体(じったい)は駄目でも、影はどうだ? イチジクの影を自分の影に(かさ)ねて。仕舞(しま)った、と思う。日向(ひなた)に出したイチジクに影はない。おおっ。だからなんだって言われると困る。それで運搬(うんぱん)できるわけでもなし。

 影がないと、存在感がない。確かに手に持って、見えてるのに。気を抜くと、ない気がする。味もしない。食べた分の影はどこへ? 食べ残しの皮に、影を戻すことはできる。影を戻せば、ほんのり甘い。うーん。これが元の味だっけ? 実験しながら、四つとも胃袋に収納。

 大回(おおまわ)りにエイト達を追い越す。荷物も人員も、どんどん送り出して。あれが最後の幌馬車(ほろばしゃ)。なお積み荷を増やしてる。長めに休憩とっても大丈夫だよな。

 苦労して手に入れた素材。いよいよ加工、何作ろ。武器つくる? 言ったか、そんなこと。わぁ、言った、言った。だから、腹くすぐるのやめて。

 (もり)とか手斧(ておの)(あつ)いは、てんで駄目。皆、はっきりとは言わなかったが。オレ、びびりだし。素質がないんだろう。ああ、ナイフも。剣なんかもっとだ。

 エイト達が使ってた(むち)。あれなら、ぐさっとやらずに()むから、いいんじゃないか? まあ、甘い考えだって、すぐ思い知る。

 影に仕舞(しま)ってた、素材を引っ張り出す。

 あの質感。皮、だよな。編み方わからんが、こんな感じ? 持ち手にどう固定すればいいんだ? 結局、想像をそのまま形にする。訳もわからず、先端を紐状(ひもじょう)にして。うん、まあ。なかなか。

 さっそく振ってみる。重い。痛い。気分的に。

 鋭く振ろうとすればするほど。だわんだわん。その気もなく、なんとなく腕が動いた時に、いい音出たり。何百年か振れば、ものになるのか?

 いやいや。素材の形状、変えられるなら。意志で動かすこともできるはず。狙った葉っぱを打ち落とす。地に突き立てた棒を引き抜く。ホーゥ! 格好(かっこう)いいぞ、オレ。数分後。猛烈な眠気が。かろうじて(むち)を影に仕舞(しま)い、木登り。

 (あやつ)った(あと)、いちいち寝てるんじゃな。対策、考えつくまでお蔵入りか。

 もちろん、ふつうに振れば問題ない。振れればな。


 ()()は、移動に専念。街が見える所まできた。地平線も、直線かぁ。

 森が途切(とぎ)れて、草原が広がる中。黄土色(おうどいろ)の一枚岩がでんとある。それが街らしい。

 人口、二万? 生まれ育った町を思い出す。なぜって。田舎(いなか)には、広報(こうほう)ってものがあってだな。外に立ってるスピーカーから。時報をはじめ、火事の発生・鎮火。(まよ)(びと)のお知らせ。電話での詐欺(さぎ)や、逃げた猪豚(いのぶた)に注意。なんて放送する。

 耳を()ます。喧騒(けんそう)にまじって、あちこちで同じ内容を呼びかけてる。さすがに拡声器はなく。地声(じごえ)のようだ。腹に穴のあいた男に注意。誘引の(こう)を過剰に使用しているとおぼしき男に注意。影を操る男に注意。

 全部、オレのことじゃ? 木の上に、身を隠していながら。なお息をひそめる。それにしても、注意って。通報しろとか、捕まえろとか、退治(たいじ)しろとかじゃないんだな。

 日が暮れるまで、二時間くらいか。

 木陰(こかげ)()りて、サンダルを()き。木の影に、自分の影を仕舞(しま)う。イチジクを(いじく)ってて、思い付いたこと。この木の特徴、覚えておかないとな。よし。

 (わだち)から離れて歩いた。突き当たったのは、ドレープのある急斜面。(のぼ)ってもいいけど。分厚(ぶあつ)い木製の門扉(もんぴ)は開いている。審査はないが。人も馬車も、速度をおとして出入りしてる。

「街は初めてか?」

 クルタ姿の女が、声を掛けられてる。オレは五歩ほど後ろで見ていた。女が不安そうに周囲を見回すので。さらに三歩さがる。

 女が(うなず)くと。衛兵(えいへい)らしき男は、腕章(わんしょう)を渡す。くすんだ黄色と緑のそれは。

「初心者の(あかし)だ」

 (よど)みなく続く説明。それを付けていると。(まわ)りが積極的に世話を焼く。食堂や宿屋では、()けが()き。仕事の斡旋(あっせん)もするそうだ。

 オレが通りかかっても、衛兵は何も言わず。目さえ合わない。

「街は初めてです」

 (ため)しに言ってみたが、無反応。これでいいわけなんだが。気持ちのいいもんじゃない。念の(ため)、足音を忍ばせて、通過。

 一枚岩って印象は、間違ってなかった。微妙に色合いを変えていく地層。それを()()いてつくられた街。

 建物は五層? ()じれたり(つな)がったり、頭でっかちだったり。規則性がない。窓はあるが。板戸(いたど)()じると、室内は真っ暗だろう。

 大通りは馬車がすれ違える(はば)。そこに面した一階は店舗だな。それぞれ色の違う日除(ひよ)け。隙間だらけの商品棚に、誰も文句はないようだ。匂いで客引きしてる所もある。ビストロかな? たまらん。

 村と比べて。女の(よそお)いも、いくぶん華やか。ちょっとした()(いろ)や、刺繍(ししゅう)をして楽しんでる。男はパレオ姿も見かけるが。ベストや、丈の短い上着を羽織っている。あとはゆったりした長衣(ながぎぬ)とか。お、スーツ発見。

 人の密度は、朝七時のオフィス街ってとこ。ぶつかる心配もなく、のん気に見物。眺めるだけで、こんなに脳が喜ぶのにな。女達が足を止め、不愉快そうに辺りを見回しはじめる。慌てて、目に付いた石段を上がる。それは折れ曲がりつつ、屋上(おくじょう)へ。

「おおっ」

 物干し台や、ベンチ。鳥小屋もある。通路としても利用されてて。うわっ。けっこうな距離、()んだな。高い場所を移動するのは、たいてい女だ。オレは風下(かざしも)を選んで、彼女たちをやり()ごす。

 外周(がいしゅう)、十キロメートルってとこか。ほぼ楕円形(だえんけい)。建物の外壁(がいへき)がそのまま街を囲む(かべ)になってる。

 不規則に掛かる空中回廊。目抜(めぬ)(どお)りすら折れ曲がって、放棄された区画も目立つ。

 なんの計画性もなく。各々(おのおの)やりたいようにやったら、こうなった? 

 不完全なまま、完成した。面白い街だ。

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