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時渡りのかえか  作者: 塩引鮭
消えゆく戦国編
62/65

62、京の都の終焉

消えゆく戦国編その20


〜京の都の終焉〜


緒方には目の前の男が、道代様だのUVカットだの、何を言っているのか理解出来なかったのだが、それでも自分が負けるなどとは微塵も考えてなどいなかった。


陽が沈んだことで、この男が言う通り、力が増すのだとしても、自分にも、あの方から授かった神に等しい力がある。そう!これ程の力を与えてくれるのだ。あのお方は神に違いない。

その自信から繰り出された一閃「先程は平気だったようだが、これならどうだ?」

言い切るのと、刃先がドレンの首を横に薙ぎ払うのは同時だった。


一瞬で詰められた逃れられぬ筈の間合いを、ドレンは既の所で飛び退き、かわす。今度は受けなかったのである。


「持ち手を変えましたね?」そのドレンの言葉に緒方は感心する。

「ほう!見えているのか」


先程の右手ではない、ある筈の無い左腕の先。その空中に刀は浮いている。ドレンには左肩口からの黒い霧がまとわりつくかのように、持ち手の柄の部分を絡め取り、刃先の先端にまで巻きつくように覆われているのが見えていた。

だから今度は交わしたのである。まともに斬られるのはマズイと。


「かえか様の斬撃を弾き切ったのも・それ・ですか」

緒方は答えない。ただ笑って更に間合いを詰め、切り掛かってくる。


ドレンにしてみれば、逃げることは難しくも無い。ただ、それは相手も同じことで、かえかの斬撃をかわされ続けて消耗戦に持ち込まれるのは避けたい。

疲れ果てて無抵抗のところを襲い楽しむつもりなのだろうが、こちらとしては逆に元気なうちに踏まれて楽しみたいのだ。


緒方の攻撃を、のらりくらりとかわしながらもドレンは小さくため息をつく。

初めての戦闘。本来はご主人様の前で、役に立つ男としてのアピールをしたいのだが、どうものんびりとしてられないのも事実。


別れた赤星や佐々木も捜さねばならないし、とはいえ、あちらには、かえかが使い魔を、3体とも付かせてある。

赤星、佐々木、そして発見出来たのなら、やよいも含めた3人をサポートさせるためと、居場所を知らせるためではあるのだが、そのことによるかえかへの弊害もある。


いろいろと考慮しつつ、しかし今後、共和国の世界を罪人で埋め尽くし、他の時代へと消えていった、もっと強力な力を持つ、3人の別の始祖との戦闘も見据え、かえかやフィーレラナ、そしてやよいという少女には、始祖との経験も積ませなければいけない。

始祖として、・なりたて・で、既にもう、この力加減なのだ。共和国の150年戦争では実は、かえかやフィーレラナは、消えた3人の始祖とは遭遇していないのだから。


それでも今は時間が惜しい。

「仕方ありませんね」ドレンは自分に言い聞かせると、懐からナイフとフォークを1組取り出し、左手に持ったフォークの谷の部分で緒方の刀を受け止めた。

そこへ右手に持ったナイフで、刀の鍔と刃の境目のところへ打ち付けると、きっと業物のはずであったであろう、黒い霧をまとった緒方の刀は、簡単に折られてしまったのである。


あまりの出来事に、驚きを隠す事も忘れた緒方ではあったが、すぐに刃の無くなった刀を捨て、見えない左手での手刀から、掴みにかかろうとする。


しかし、いくら緒方の黒い闇の左腕でも、ドレンの身体のどこにも触れることは叶わず、その部分だけ穴が開くようにすり抜けるのみなのだ。


「貴方が人間のままで始祖になってくれて良かった。まあ始祖とは、そういう者なのですが」


緒方の手刀に、肘の部分まで身体を貫かれたかのように見えるだけの状態から、ドレンは、そのまま前へ。緒方に向かって歩き出した。


何故か動けぬままの緒方の口からは、悲鳴とも懇願とも取れる、止めろ!近づくな!という言葉が出ていたのだが、ドレンと重なり合った時には言葉が消え、緒方の身体をドレンが通り過ぎた後には、僅かに動く力無きミイラと化した緒方だった男が、口をパクパクさせたまま膝立ちに崩れ落ちていた。



「終わった?ああ、まだこの方がマシよね」

かえかの腰に手を回しながら、支えるように恐る恐る近寄ってきたフィーレラナが、緒方だったモノを見つめながら言う。


背中側へと移動したフィーレラナに、後ろから腰の部分へと両手を回された形で抱きしめ支えられながら、かえかは鞘から青朧火を抜き放つと、膝立ちのままの緒方の正面から、真っ直ぐに喉を貫いた。


その姿勢のまま「やよい、どこ?」そう聞いては見たが、緒方の記憶の中には、やよいという名前は無いらしい。


ならばと、かえかは青朧火を通して緒方に・映像で記憶している・やよいと葵の姉妹を思い浮かべて緒方に直接流した。


すると、やよいの時には怒りと欲情に、葵の時には欲情のみにカタカタと身体を震えさせ始めた。



その様子に「もう・・・いい」とだけ言い放つと、喉を貫いたままの青朧火の刀身から噴き上がる青い炎が、一瞬で緒方だった物を包み、跡形もなくチリへと変えていく。


「ミノキタ・・が・最後の楽しむべき場所・・言ってた」

再び膝を突き、地面へと座り込んだかえかを支えながら、フィーレラナは後ろを振り返る。


そこには、緒方という枷が外れだ事で、手身近な人々を襲うことのみに目的を変更した、罪人の連鎖が映し出されていた。



ある程度の抵抗力と、わずかにでも残っていたり持っている罪の意識を糧として、自身もまた罪人になっていくという、人間という存在自体が悪なんだという滅びへの強い感情。


その罪の意識や感情に耐えきれない者は、そのまま滅び、葛藤する程に強い感情の罪人と成り果てる。

緒方のような女性への強い支配力と願望もまた、罪人へと成り果てる要因ではあったのだが、余りにも強すぎる感情は、時に始祖へと目覚めさせる条件にもなったようだ。


いずれにせよ京の都は手遅れなのだろうとフィーレラナは思う。

最初の、およそ2,000体も、ほんの一部であり、実際にはもっと取り囲まれる形で居たに違いない。


共和国の時のように、ここを起点に守り抜いていけば、押し返し、取り戻せる可能性もあるかも知れない。しかしあの時のように、エルフやドワーフの協力も、妖精たちの力添えも、ここでは見込めない。


いかにかえかやフィーレラナ、ドレンが個々で強くても、罪人の増えていく連鎖力等を考えたら、同じ150年とは言わなくとも、実際に何年、何十年で済むのかも怪しい。


ここへ来た目的。助けるべき人。それは、かえかとフィーレラナの運命であり、永く続く始まりへのキッカケに過ぎない。


そして、そのキッカケは、果てしなく尊く、ただただ重い。


助けたい願い。助けられない事実。本当に運命のままなのか?救われないのか?救えないのか?



かえかを抱き上げたドレンに、あちらの森へと、フィーレラナが促す。


一際太く大きい幹の根元に背を預けて脚を伸ばすように座らせると、フィーレラナが風の囀りのような呪文を唱え始める。


木の根の部分から無数に生えて来た草達が、かえかを包み込むと、そのままの優しい寝袋の様な形に変わっていく。


「ざっと1時間くらいかしらね?使い魔が3体とも居ないから、久しぶりだし、無理していっぺんに、力を無駄に出しちゃったって感じかな?」


「それでは私が、かえか様の横で添い寝を」

横になったドレンに対して、フィーレラナの容赦の無い蹴りが入る。


ドレンにしては珍しく、何故か素直にフィーレラナに蹴られて30mほど斜面を転げ落ちて行ったのだが、直ぐ様に立ち直りダッシュで戻ってきた。


「何晒すねん!このワンコエルフ!」

抗議するドレンに「いや、おかしいでしょ?添い寝とか言っておいて、何でかえかと頭と足が反対方向になってるのよ!!しかもアンタの頭の位置、どこの匂いを嗅ごうとしてんのよ!!」


そんな2人のやり取りの最中、目だけを開けて、かえかは呟く。「来た」とだけ。


ハッとするフィーレラナとドレン。

「場所が分かったのね?」かえかの肩に手を触れてフィーレラナは共有しようと試みる。

ドレンもまた共有しようとかえかに触れるのだが、草越しとはいえ、何故かそこは、かえかの太ももの位置だった。


集中しているためか、誰にも突っ込まれず。しかし3人が観て、共有している映像。

それは使い魔の末っ子が見ている、とある屋敷の屋根よりも、はるか真上。


距離こそはまだ遠いが、その全ての方向を取り囲む、闇の中に紅く光る罪人の群れであった。


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