5、最初の朝
ゆっくりとではありますが、現代編その2です。
どうかお楽しみ頂けたら幸いです。
m(_ _)m
現代編その2
〜最初の朝〜
見慣れぬ低い天井。
記憶の混乱とか油断ではない。
ここの家主の女性の好意は妖精からも疑いのないものだとわかってはいたが、こんなにグッスリと寝てしまったのはいつぶりだろう?
ふと横を見ると、かえかが艶っぽい瞳で自分の寝顔を見つめていたのに気づいたがすぐに上半身を起こしてソッポ向いてしまった。
???
ピンクのカーテンの隙間から明かりが漏れてくる。
お互いにゆっくりと立ち上がった2人はカーテンを開いてみると、窓の外には手の届きそうな距離に、こちらと同じような窓が付いた壁があった。
呼吸もピッタリと申し合わせたかのように、2人は首を、上へ、そのまま下へ、そして上へ。
「石の建物・・・だねー」
「うん」
相変わらず、かえかの返事は小さい。
別の部屋からはトントンと小気味いい音と、なにやら良い匂いが漂っている。
そっと隙間から様子を伺うと道代が料理をしているようだった。
「そろそろ起きた?今、朝食出来上がるから待っててね!」
昨日土足のまま座り込んでしまったテーブルには、焼き魚は鮭だろうか、卵焼きにご飯と味噌汁、中央にボールに大盛りになったサラダがある。
一通り揃ったとこで昨晩と同じ位置でテーブルを囲んだ3人。
そういえば全員、大きめのTシャツにショーツだけという格好である。
どうやら泊まりに来た同性には、いつも同じ格好をさせてるらしい。
道代の趣味である。
「遠慮なく食べてね!好みが分からないけど、口に合わなかったら無理しなくてもいいからね!」
言い終わると、かえかもフィーレラナも、目の前で手を合わせて「頂きます」と言ったのである。
かえかの声はフィーレラナの声でかき消されたかもしれないが。
今、この子達・・・間違いなく頂きますって言ったわよね?というか昨日から気にもしなかったけど、ずっと日本語通じてるわよね?日本語、話してるわよね?
位置が分かっているのか、おかずには目もくれず、正確に箸で口に、ヒョイパクと運びながら、目線は目の前の少女達を見つめたままだった。
その時?
フィーレラナがプチトマトを器用に箸でつまむのだが、そのまま口に運ばず固まってるのかな?と思っていると
あれ?落とし・・・いえ、消えてる!
もう一度、目を凝らして観察してみる。
かえかの方も箸で切り分けた鮭の身を口に運びもしないのに消えるのである。
それでも2人は、ちゃんとご飯も食べているし、味噌汁も器を運んで口に付けている。
おかずも満遍なく食べてはいるが、たまに箸の動きが止まると、そのつまんている物は消えるのである。
いや、早いから気づかなかっただけで、瞬間に消えるのではなく、周りから欠けるように消えてる?
かなり早いが。
自分が口に運ぶ動作は止めないまま、目だけが2人の箸の先端に集中する。
ぼんやりとだが何か・・・人の形のようなものが
あれ?、、1、2、、、3、4、、、5匹居る?
「あ、あの〜、その子達は?」
思わず聞いてしまった。
道代に見つかってしまった使い魔三姉弟や妖精達は、それぞれ食べ物にかぶりついたまま道代を見つめて固まっている。
その道代の目線の先を確認してから、かえかが
「見えてる・・・ね」と初めてフィーレラナよりも先に話してくれた。
声は小さかったが、聞き取れないわけではなかった。
「神の御加護があるのか、、だから私たちはここに来たのだろうか?」
かえかに問うかのようにフィーレラナは話すが、その答えに、かえかが
「それ、、、はまだ、、、分からない」
服は違えど腰に巾着袋を付けたまま。
その中から無造作に指輪を出してみるが、別段あの時のように青白くは輝いてはいない。
話の内容が分からない道代は、気にした様子もなく「可愛いお客さんが増えたのなら大歓迎よ!」と食事中なのに行儀の悪さも気にせず、嬉しそうに頬杖をついて見せる。
かえか達が、その道代の優しい笑顔と美味しい料理に、使い魔や妖精達が撃ち抜かれてたのに気づくのは、すぐ後の話であった。
「貴女達のお洋服、洗ってあげようと思ったんだけど、これといって汚れも無いみたいだし、どうしようかしら?代わりのなら幾らでもあるんだけど」
本当はちゃっちゃっと洗濯機にぶち込んで、自分の趣味であるお店のコスチュームとか、色々着せてみたかったというのが本音で、口実にするつもりだったのだが
かえかの黒い着物は丈こそ短いのだが素材は素人でも分かるような気がする上物であった。
フィーレラナの方はというと、布の部分はシルクのような緑の・・・うん、こちらも高そうだけど分かんない。
それ以外の肩当て、片方だけ隠す胸当て、腰に巻きつけてる・・・枝?
全部、木なのである。
つまり下手に洗濯機に入れられなく挫折したわけだが。
美少女2人を裸エプロンならぬTシャツ1枚だけという格好にさせられただけでも良しとしよう!
さすがにノーパンはマズイので新しいショーツを渡したが、ブラについては、やんわりと「その胸当ては結構で構わない」とフィーレラナから断られていた。
明らかに合うサイズではないから、だろうなとは思ったが、その時の2人からの恨めしそうな視線がちょっと怖かった。
食後に冷蔵庫からペットボトルのお茶、コーラ、ミルクコーヒー、ある物は一通り出してみた。
コップとは別に晩酌用の盃もあったので、妖精たちが飲みやすいかな?といくつか用意してみた。
かえか達もだが、使い魔くん達も妖精達もコーラに興味津々で平気で飲んでいる。
意外とこだわりとか無いのね。
楽しそうに観察していると、フィーレラナが腰に下げていた小さめのバックから袋を取り出し「こんなものでしか御礼が出来ないがよろしいだろうか?」と片手でジャラジャラと中に入っていた宝石のような石をテーブルの上に置く。
そのどれもが原石のままらしいのだが、大きさはバラバラでも、加工したかのようにどれも、まったく曇りが無い輝きを放っている。
慌てて道代はテーブルの上で押し返し「そんなの気にしなくていいのよ?…でも…気にしてくれるのなら」
イタズラっぽい表情をしながら道代は提案してみた。
フィーレラナがドン引きするほどのモジモジしながらの上目遣いで。
なんでもお店の買い出しと準備で出かけるとのことで道代はお昼には帰ってくると言い、出かけて行くそうだ。
12時頃と言われたので妖精達から3時間ほど後を教えてくれるらしい。
テーブルが置いてあった部屋の窓からは多少遠くに景色が見える。
道代のお店は5階建てのビルの3階にあり、同じ階の別の事務所フロアーを住居代わりにしていた。
その部屋の窓から屋上を眺めて「上に登ってもいいだろうか?」
フィーレラナの問いに、じゃあ、こちらの玄関から階段が、と言いかけていると、それを了承してもらったと思ったのか、フィーレラナは窓から飛び降り、、、ではなく上がったのである。
上へ。
その後を追うように躊躇なく、かえかも窓から飛び上がる。
「えっ!?」とは思ったが、慌てて近寄り窓から身を乗り出して上を見るが、2人の姿は無い。
下に落ちたわけでもない。
まあ、あの2人なら大丈夫かな?
根拠は無いが窓は開けっぱなしにして出かけることにした。
風魔法で空中の姿勢をズラし、屋上に降りた後、真っ直ぐ上にしか飛べないかえかの身体を同じく風魔法で捕まえるように引き寄せる。
辺りを見渡すと細く四角い石の建物ばかりで下には人間の大群がひしめき合っている。
が、明らかに個人それぞれ別の意識で動いているようで、集団での殺意や戦う意思にのみ支配されてる様子など微塵もない。
「所々に怒りや、やり切れない感情もあるが、あの優しくしてくれた人間の女性のように、穏やかな人も大勢いるようだ」
辺りを見渡し更に高いビルへと空中を移動していく。
更に高いところへ。
「フィー!あれ!」かえかが遠くに見えるスカイツリーを指差す。
「見覚えがある形…な気がするけど」
フィーレラナが答えると否定はせず、されどかえかが付け加える。
「うん、でも似てるのは、、、上半分だけ」