41、決意する佐々木と赤星
現代編その38
〜決意する佐々木と赤星〜
「話しましょう。指輪の秘密を」
エランバーヘルとバンバルが作ってくれた指輪。
私とかえかを求める世界へ導く指輪。
そう信じていた。
7個の理由。私たち「3人」の運命。
ドレンから聞かされた、これから起こる「彼女の死」
助けられない。納得出来ない。
まだ信用など出来はしない出会ったばかりの目の前の男。
だが例え相手がバンパイアだとしても、納得するしかなかった。
ドレンは、どう見ても膨らみなど無い執事服の懐から、それ、を取り出して、フィーレラナとかえかに見せたのだから。
「な、なんでアンタが、それを持っているのよ!?」
「もう少し先になるとは思ったのですが、私のことを信用してもらうためには、これをお見せするのが、一番手っ取り早いと思いましたので」
ドレンの手にあるそれは、かえかの青朧火の元となり、導きの指輪と信じていた物に形を変えた、そう、青い石板。
その3枚目だった。
「私も預かっているんですよ。時の狭間の女神から」
一度、公安に戻り、データベースで確認すると、そのまま区役所へと足を運んだ。
住民情報と照らし合わせ、道代のメモと変わらないことを確認すると、まずは2人が暮らしているはずのマンションへ向かった。
「道代さんが最後に会ったのが、下の妹が10歳の時で、ということは今は姉が17歳で妹が12歳ですよね?まだ幼い姉妹だけで、こんな高級マンションですか?」
別に区内では珍しくもないのだが、駅近で立地も良ければ、それなりに値段は高い。
税金とか資産税を考えても、村瀬の言う通り、とても幼い姉妹だけで維持出来るような代物ではない。
「ああ、お前の大好きな道代さんと同じだ。旧家の爺さんが絡んでるからな」
何のために孫娘達を、そうしているのか謎なのだが、他県に構える例の会長。岡本道代の祖父にあたる人物。
その旧家の家名は九条といい、会長は投資や不動産を取り仕切る九条グループから引退はしているが、今でも陰で実権は握ったままだと言われている九条慎一郎である。
彼には他に跡を継がせる息子達や孫は大勢居たが、詳しく調べてみると孫娘なのは、道代とやよいの2人のみだった。
つまり歳は離れているが道代とやよいは従姉妹ということになるわけだ。
どちらも物心つく頃から早々に別の縁も無い家庭に養子に出されていることが判ったのだが、道代は5歳の時に岡本家へ、一人っ子として。
やよいもまた5歳になった時に村上家へ、一人っ子だった10歳の娘、葵の妹として養子に出されている。
九条グループの財力なら、養子に出さなくとも育てていく事に困りはしないはずなのに、何故わざわざ縁も無い家庭に養子に出したのか?
道代にも、やよい姉妹にも、生活には困らない資金と財産は与えてられているのだが、彼女達が九条家を揺るがすようなスキャンダル絡みで産まれたわけではないようだ。
ちゃんと正統な家系図の一員だったからこそ、謎なのである。
そうなると九条家の跡取りには女系がいない事。唯一の道代とやよいが離されたことには、あの箱が関係しているのではないか?
例の喋る箱が、いつから何故、道代の方に渡されたのかまでは不明だが、養子として預かった両親は、両家ともに早く亡くなっている。
そこに不審な点は無かった。
おそらく当人達も理由など分かりはしないだろう。かといって理由も無いのに九条慎一郎に聴く訳にもいかない。
管理人からスペアキーを預かり、立ち合いのもと部屋へと入る。
どちらなのか、あるいは姉と妹、両方ともになのか、幼い割には部屋は几帳面な程に、きちんと片付けられていた。
いくつかの写真立てには自撮りなのだろうか?仲が良かったのだろう。
どれも笑顔の2人が並ぶ姿の写真ばかりが置かれている。
「今時スマフォで済むのに、わざわざ写真にして飾るなんて珍しいですね」
村瀬の言う通りなのだが、逆にそれだけ、この姉妹は孤独だったのでは無いだろうか?
いくら生活に困らないとはいえ、幼い子供が2人だけで生きていくというのは。
そういえば亡くなった両親の写真は1枚も無い。
2人が通う、それぞれの学校の話では、この家には電話は無く2人が持つスマートホンのみだそうで、どちらも圏外のまま連絡が取れないのだという。
捜索願いの件についても検討したようだが学校側の話では、九条家からは生活費の援助をしている立場から休学届けが出されたのみで、それ以降は相手にしてもらえず、学校側としても事件に巻き込まれたという確証が無いため、現在まで放置している現状だ。
つまり学校側の立場としても、大騒ぎにしたくないのが本音だ。
まったくっ!心の中でボヤきたくもなるのだが、これといった手掛かりは無いため、赤星と村瀬は、その場を諦めたのだった。
マンションから出て、さあ次はどうしたものかと考えていた時。赤星の携帯電話が着信を知らせてくる。相手の表示は佐々木であった。
佐々木からの内容を聞いて驚く赤星であったが、「そうだな、もしそうなるなら、、、ああ、連れては行けないな」赤星は相棒の村瀬の顔を、じっと見つめている。
「赤星さん、分かりました。では用意します。身体のサイズは以前にお伺いしたままでいいですよね?太っていて後で合わないとかの文句は受け付けませんよ?」
「うるせー、どうせこれからゲッソリと痩せるハメになるんだろ?」
電話の向こうの相手がクスりと笑うのが何故か心地よかった。そう!赤星は覚悟を決めたのである。
少し前の防衛省。佐々木は官房長官の坂本に直接の連絡を取れる優先権というのを許可されていた。
というより、あの2人に何か新しい発見や変化があれば、何を差し置いても必ず自分に直接の連絡を取るようにという命令なので、自分から好き勝手に坂本に連絡を取り放題というわけでもない。
道代の店から外へ出てすぐ坂本の携帯へ直接コールする。2回のコールで坂本が着信に出ると、佐々木の言葉を待たずに「緊急なのだな?」とだけ話した。「はい」佐々木もまた短く、一言だ。
しばらくの間が有り、電話の向こうで誰かと会話をしているようだが、「1時間後に防衛省で」とだけ言うと、坂本は電話を切った。
早めに着いた佐々木は、案内された個室で待っていた。おそらく2人きりになるだろうからなのか、個室は意外と狭い。
発見機のかえかが居ないので、盗聴や盗撮の心配はあるのだが、後で確認できることだ。
約束の時間より5分遅れで坂本が入ってきた。1人だけだ。
「30分だけ空けた。それで済ませられるか?」佐々木は黙って頷き、テーブルの上に紙とペンをおく。
それを察したのか「いや、盗聴や盗撮の心配はない。通路の人払いもしてある」そう言ってくれたので「分かりました。では」佐々木は報告とお願いをしたのである。
「なるほど。その姉妹を救い出すのが、まずは少女達がこの世界に現れた目的ということか。それで、こちらに戻れるか、いや、まずは行く事が出来るのかも分からないのだったな」
佐々木は頷く。そう、かえか達3人は確実なのだろう。だが自分と赤星が、一緒に行ける保証も無いし、何よりこの世界に戻れるという保証も無い。それでも見てしまったのだ。
「日本国民を救い出すのは自衛官の責務であり使命です!」
思わず坂本はニヤついてしまった。「良かったよ!君を見込んだ自分の目に間違いがなかったと自慢できる」
そういう坂本は前のめりで聞いてくる「で、何が欲しい?」
官房長官の前なのだ。真面目な性格もあり、普段から表情を崩すことの無い佐々木の顔からは、初めて坂本に見せる、その言葉を待っていましたという、ニヤついた顔をしていたのである。
「遠慮はしませんよ?」
その後、佐々木は本当に遠慮しなかったのである。