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時渡りのかえか  作者: 塩引鮭
現代編
34/65

34、2度目の防衛省

現代編その31


〜2度目の防衛省〜


あれから坂本と会うのは2週間ぶりだろうか?

佐々木は呼び出された防衛省の一室にて官房長官が現れるのを4人で待っていた。


今回、かえか達には2度目の防衛省訪問となったのだが、送迎は無く、赤星が車で送ってくれたのだ。

「近所をうろついてますので、終わったら電話をください」と、そのまま車で走り去っていく。

同じ国家公務員とはいえ、畑の違うところは苦手らしい。


入り口の受付で簡単な確認作業はあったが「承っています」とあっさり通された。


佐々木とフィーレラナとかえか。そして緊張を隠しきれない道代の4人で訪れたのだが、今回は何故か道代も指名されていて理由は聞かされていない。


案内された前回とは別の、無駄に広い室内は、シーンと静まり返っている。


佐々木は「ねえ、この前みたいにカメラで見られてるとか、分かる?」

フィーレラナは横のかえかを覗き込むが、かえかは黙ってフィーレラナの目を見つめるだけである。

「カメラは無いんだって!」何故それで分かる?会話のなかった2人に、アイコンタクトだけで通じ合えるにも程があるだろ!と心の中だけで突っ込んでいた。


程なくノックもしないで官房長官の坂本がズカズカと入ってきた。もう完全に身内相手のような距離感を醸し出している。

その後ろには前回と同じ気難しそうな補佐官と、事務次官であろうか?女性が木製のトレーを持っているのだが、お茶では無いらしい。


「お待たせしました。岡本様は初めましてですね」

坂本の言葉に緊張から声が出なかったのか、道代は無言で、なんとかお辞儀だけは出来た。


全員が形式の挨拶を済ませて着座すると、立っていた女性が持っていたトレーをテーブルの上に置いて後ろへ退いて行く。


「約束だったね。今回用意した物は、あくまで仮のモノなのだが、実は、そうせざるを得ない問題があってね」


佐々木には、なんとなく理由がわかっていたのだが、知る良い機会だと黙っていた。


「君達、苗字はどうするね?」そう言いながら坂本は紙とペンを正面のフィーレラナに差し出す。


ペンを手に持ち、書き出す姿を見て全員が、左利きなんだと思った。

すると、ここのみんなを見透かしたかのように右手に持ち替え、続きを書いて行く。

見たこともない文字で、随分と長く書き込み、ようやく終わったのだが、3行ほどになるその文字は、どこの国の文字に似ているのかさえ難しい。


横から覗き込んでいた道代は、以前フィーレラナ達に部屋で見せた観光ガイドやファッション雑誌のことを思い出していた。

確かあの時フィーレラナは日本語をスラスラと読み、普段使っていた言葉や文字の大半は日本語が多いみたいなことを言ってはいなかっただろうか?

しかし今、フィーレラナが書いている文字は筆記体でもアラビア文字でもエジプトの壁画のものでもないようで似ているようで、文字なのかすら分からなかった。


書き終わったフィーレラナは、周りを確認すると、手にしていたペンのお尻の部分で文字のとこを軽くひと叩きしたのである。

すると文字だけが紙から剥がれるように宙に浮かび、歌声のような響きが聴こえ出したのだ。

その美しさは音楽なのだろう。メロディしか理解できず、いや、この場に音楽家が居ても、楽譜に書き起こせただろうか?


「ね!分からないでしょ?だからフィーレラナだけでいいわよ」

そう優しく微笑む美少女を、ああーー、可愛いなコンチクショー!

それぞれ両端で佐々木と道代が同じ事を考えていたのだが、横でひらがなで・かえか・とのみ書き切っていたかえかは「苗字、、、知らない」と紙とペンを坂本へ差し出して返した。


「その名前は誰に付けられたのか分かるかな?」坂本の問いにも、小首を傾げるだけである。


ひとまず名前のことは諦め、坂本は説明を続ける。

「国外に行く場合の渡航についてだが、この世界では身分を証明しなければいけない。君達には元の国との連絡が不明なため外交的に証明が無理になるのだが、この際なので、仮の日本国籍を受けてもらいたいと思う」


もちろん簡単な話ではないのだが、法を曲げてまで、そうしたい理由があるのだ。

自国民であれば、他国からの引き抜きの心配が無く、彼女達を堂々と守れる。

いや、それは建前であり、本音は日本が、この未知数の少女達を独占したいということなのだが。


このまま無闇矢鱈に国外を渡り歩き、他の国に取り込まれるのだけは、絶対にあってはならないのだから。


かといって彼女達を縛り付けて置くのも正直、難しいだろう。

それ故の提案であり政府から、かえか達への飴と鞭の比率は、10対0にも等しい。


本当に・やっつけ・で作った訳ではないが、パスポートに記載されている名前は、・かえか・と・フィーレラナ・と書かれているのみだ。

証明写真は、あらかじめ佐々木が道代の店で撮っておいた物なので、それぞれメイド服の衣装にケモノミミが頭に付いたままのものを使用されている。


世の中、これでまかり通るんだ。またしても佐々木と道代の思考はシンクロしている。


「身分の職業については特別外交官としてある。外務省にも話は通してあるので、何かあった時には大使館経由で頼ってもらって問題ない」

つまり外交特権で他から手出しをさせないためなのだが、使えるモノはなんでも使い、法的にも抜かりは無いということだ。


「帰国したら、そのまま外務省、もしくは防衛省勤務もお願いしたいのだがな」

笑ってはいるが、どこか冗談には聞こえない坂本の言い回しに、初めて道代が声を出した!いや、噛み付いたとも取れる声の大きさでだったのだが。


「じょ、冗談じゃありません!フィーちゃんと、かえちゃんは、もう、私の家族です!そしてうちの店の大事な仲間です!外務省とかに取り込んで、あんなことや変なことして嫌なことなんて、させません!」


さすがに驚いた。坂本は、たじろぎかけたのだが、これを待っていたのかもしれない。


「では、なのですが彼女達が今後、何かしでかした時に貴女は責任を取れますか?そこらの人が物を壊しました!事故をしました!とかいうレベルでは無い事は、貴女もうすうす分かってますよね?我々が認識している彼女達の実力は、下手をするとビルの1つや2つ、簡単に無くなるかも知れないレベルです。その時に貴女は庇いきれますか?残念ながら、うやむやに出来るのは政府だけだ。まあ、それも怪しいですが」


確かにそうなのだろう。道代は言葉を返せなかったのだが、その横、かえかの黒い髪の毛先が・・・ふわりと少しずつ舞い上がっていく?


「道代のこと、、、いじめ、、、だめ」


この場所に居るフィーレラナ以外が、初めて体験するであろう、その殺気。

いや、それは殺気などという簡単な言葉では表せない、何かもっと有無を言わさない絶望というモノが身体を奪っていくような感覚であった。


後ろに控えていた補佐官の男と事務次官の女性は自ら気づかないうちに膝から崩れるようにへたり込んでいる。

坂本は口から何かが出かけているのだが、それを拭うことすら出来ない。


なんとか佐々木が、ようやくフィーレラナの肩に触れるとフィーレラナは「かえか!」と叫びながら、かえかの両肩を押さえていた。


そうなのだ。目の前の相手は、話こそ伝わるのだが、化け物なのだ。

あの解析し切れなかった血液検査で、ありえない血だと、既にそれは判っていたはずなのにだ。



ようやく落ち着いてくれたのだろうか?隣の道代は、恐る恐るではあったが「か、かえちゃん?あのね、いじめられてるわけじゃないのよ?かえちゃんとフィーちゃんが自由に暮らしていけるように真剣に考えてくれてるのよ」


「ほんと、、?」かえかは頷く道代を見て、そのまま正面の坂本を見つめる。


その表情は、いつもの美少女のままである。


まるで先ほどのかえかは、表情も変えず美しい少女のままだったはずだが、中身だけが何かに変わったようだった。


しかし今、目の前に居る少女に、恐ろしさや恐怖など、砂一粒もありはしない。


ようやく自分の口元を拭う行為をして気を取り直すと、「いや、強制ではない。どうするかは君達の自由だ!ただ、我々にも協力やら、お願いしたいことは、まだまだある。そう、これからもお願いしたい」

坂本は2冊のパスポートと共に4枚の航空券、そして1枚のクレジットカードが置かれたトレーを差し出す。


「第一希望通り、まずは今回、ルーマニアへの航空券だ。悪いが日取りは指定させてもらったので、向こうの大使館にも連絡は入れてある。羽田から、一度イスタンブールへ行ってもらい、その後ブカレストへと行くルートの方がいいだろう。クレジットカードは全員で1枚だが、名義は佐々木にしてあるので、必要な物は彼女にお願いするように。それでなのだが、ホテルについては現地で決めてくれたまえ。何せ目的が鏡を探すのでは、こちらには分からないのでな」


「あ、あのおー、」道代がテーブルのトレーを指差す。

「その4枚ある航空券って、、、私もですか?」恐る恐る聞いてみた。


「もちろんだ!初めての海外になる。岡本さんには是非、彼女達の保護者兼、ブレーキ役として、、」

「ブレーキ?」坂本を見つめるフィーレラナが怖い。


たじろぐ坂本を無視して、わーい!わーい!道代と旅行!とはしゃぎ出した2人を「無理!」道代は短く言い切った。


「だって、お店を何日も放ったらかしになんて出来ないでしょ?」

口が裂けても飛行機が怖いという本音は言えない道代。


周りを恐怖で凍りつかせていた張本人も含めて、2人は見る影も無いほどにショボくれていたのである。


じゃあ、あの人しか居ないわね。




旅行シーズンのゴールデンウィークを避けて落ち着きだした空港には

佐々木とフィーレラナとかえか。



そして佐々木の思ってた通り、全員の荷物を担がされ、持たされた赤星が立っていた。


「なんで俺なんだよ!」



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