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時渡りのかえか  作者: 塩引鮭
現代編
29/65

29、観光・・・なわけは無い

現代編その26


〜観光・・・のわけは無い〜


「わああ!!綺麗!!」

「おーっ」


もうすぐ御殿場駅に到着するロマンスカーの窓から、富士山を見たフィーレラナとかえかの感想に佐々木は微笑んでいた。


「天気が良くて何よりでしたね!上の方にはまだ、かなりの雪が残ってますよ」

進行方向の右側の窓にへばりついたまま、フィーレラナは、うんうんと激しく頷いている。

かえかは相変わらず「おーっ」と言うだけであったが、おそらく感動してくれてるのだろう。


程なく御殿場駅に到着すると、佐々木はタクシー乗り場には向かわず、バス停の案内板で行き先を確認して時刻表と時間を比べる。


ここまでの交通費も含めて必要経費で申請出来るので、タクシー料金などは気にしなくても良かったのだが、そこは国民の税金を使っているからという、さすが国家公務員である。

それにせっかくの天気なので、かえかとフィーレラナに、のんびりとバスで移動して、秋葉原とは違う景色も、出来る限りゆっくりと楽しんでもらおうと考えていた。

指定された時間にはまだ、余裕があるはずだ。


佐々木は厳密には防衛省職員であり、特別職国家公務員。つまり自衛官なので意味は同じようなものだ。

元々は防衛大臣補佐官の秘書で防衛医科大学校の研究員という肩書だったのだが、異邦人である少女達に四六時中、寄り添う事で、階級を1つ上げてもらった代わりに、ある程度は自分で判断して動いていいという特例の権限ももらっている。

それは自分で望んだことではなく、何か周りに祭り上げられているのだという自覚はあった。


そうなるように仕組んだのは、2週間ほど前に防衛省でかえか達と一緒に会った官房長官、坂本である。

どうやら佐々木は防衛大臣補佐官の秘書の時に、幾度か会っただけの坂本から覚えられていたようで

「とても優秀で、秘書や研究員のままにしておくのは勿体ないと聞いているよ。君さえ良ければレンジャーの試験を受けてみてはどうかな?」

確かに当時、そんな事を言われた記憶はあるのだが、レンジャーなど、冗談じゃ無いと思っていた。

3日3晩、重量物を背負ったままの地獄の訓練など、他にも口にするだけでも恐ろしい事が山ほどあるのに、何故このか弱い私が、そんなの受けなきゃいけないのだ!と。


か弱い部分については、赤星さんや村瀬さんに絶対にニヤニヤされて否定されるだろうけど反省などしてたまるものか!

現実には女性隊員からでも、わずかだがレンジャーの資格を勝ち取った人は、少ないが居ることは居る。

とはいえ官房長官の権限を、そんな事に使ってまで、私をねじ込まないで欲しい!


広報やらイベントやら絶対に仕事が増えて休みが減るに決まっているのだ!

誰がそんな試験、受けるものか!

ただ、たとえ休みが無くなっても、かえかやフィーレラナと一緒に居られることについては、いつのまにか仕事でなくても、ずっとこのままが良いという自分が居るのである。


「もしもーし!佐々木ぃー!バス来たよ?あれに乗るんだよね?」


フィーレラナの問いかけで現実に戻された。

思い出してムカムカしていたが、やはりフィーちゃんは可愛い!!!

かえちゃんも堪らない!!!

バスに乗り込む頃には佐々木の機嫌も治まっていたのである。



今日のためにと昨日、道代から「3人のおかげで売り上げも倍以上になったし、プレゼントしちゃうね」と強制的に全員で出かけたのは、登山ショップだった。


「御殿場までは行きますが、別に富士山に登ったりとかではないですよ?」

佐々木の言葉に道代は「ファションだけよ」とイタズラっぽく笑って見せ、ウエア売り場の方へと向かったのだった。


いわゆる流行りの登山女子ならぬ山ガールに仕立て上げたいらしい。


春らしいチェック柄の薄めの長袖シャツに、半袖タイプのベストを重ねて、下は脚が動かしやすいように緩めのキュロットタイプのスカートだったりショートパンツなのだが、脚を出すことだけは道代は譲れなかったらしい。

せっかくの生足、、、でもまだ寒いかしら?などとブツブツ呟いてたら

「暑い寒いは私達は大丈夫だよ!」とフィーレラナが。


ああ、そうね!魔法ってホント便利よねー、と悩んでた事がバカらしくなったのか、ニヤつき顔で道代のプロデュースは加速していったのである。

上は帽子から下は紐で結ぶタイプの軽めのトレッキングシューズまで色違いでコーデしてみた。


フィーレラナの帽子は、耳も隠しやすいようにとキャスケットの物を。

かえかはサファリハットなのだが、わざと大きめの物を選んだようで

被らずに顎紐で背中にぶらざがった形にしてみた。


佐々木は現地で上官達との顔合わせがあるからスーツ持参でと断ったのだが、道代の「フィーちゃん達とお揃いのコーデにしたくないのぉぉ?」という悪魔の囁きには勝てなかったらしい。

私は魔法使いではないので!と頑なに生足を出すのだけは却下して普通のズボンスタイルだけは死守した。


今回は登山目的ではないため、背中に背負うリュックは3人共に同じ形と色の小さめの物にした。


「いいわよー!このチーム感!」

いつから監督になったのか、道代は満足気であったが、大きさとしては変わりやすい天候にも大丈夫なよう、防寒防水も兼ねたアウターくらいは余裕で入る大きさを選んである。


佐々木は持参したスーツを折りたたんででも入るくらいの、もう少し大きいのにしようかと悩んでいたのだが、道代の大丈夫だから!の言葉のまま、半信半疑でみんなと帰宅してみて、そこで初めて、何も無い空間から現れた、かえかの桐タンスを見せられ、開いた口が塞がらなかったのである。

「ここに仕舞って貰えば、、、ね!大丈夫でしょ?」


この子達は、もうなんでもアリだ。


そんなこんなのやり取りが有り、まさかの官房長官、坂本から佐々木へ直接の電話が理由で今、3人はこうして指定された御殿場にある板妻駐屯地にやって来たのであった。


受付で敬礼した後、身分証を提示し、まずは更衣室を使わせてもらうことにし、かえかとフィーレラナも着替えるわけではなかったがついて来る。

2人は初めてなのだが何故か手荷物検査はパスで素通りを許されていた。


ここは普通科連隊の陸軍や新人の教育、演習、そして女性自衛官も多いのだが、なにより東富士演習場に近い場所でもある。

佐々木も訓練で、何度か訪れた事もあるので建物の位置関係は、なんとなくだが覚えていた。


階級章の付いたスーツに着替えを済ませ、自分の着替えとリュックは、この場で出してもらったかえかのタンスに仕舞ってもらった。

防犯カメラで見られてないことは、察しの良いかえかに確認してもらっているので安心である。


かえかやフィーレラナまで、リュック無しの手ぶらでは怪しまれるので、2人は背負ったままだ。

というより道代からのプレゼントで気に入っている事もあり、中にはオヤツだのお菓子が多めに入っているので手放したくないらしい。

まるで初めてランドセルを買ってもらった子供のようだ。


着替えを済ませ通路に出ると、佐々木と同い年くらいだろうか?

階級章では佐々木より下になるのだが、女性自衛官が待機してくれていたようだ。


「本日みなさまのご案内をさせて戴きます門倉と言います。階級は佐々木先輩よりも下になりますが、お嬢様方を緊張させないために本日のみ、完全無礼講でとの命令を受けております。どうかご了承ください」

ええーーーっ、あり得ない!!!有り得ない!!!


別に目の前の自分よりも若くて階級が下の者に、ただの「さん」付けで、馴れ馴れしく呼ばれたところで、大して腹が立つわけではない。

自衛官同士でも公務以外で会ったりする場合は下手に周りに緊張を与えないよう、一般人と同じように振る舞うことは何の問題も無いとしている。


でも自分はまだ、普通科連隊長兼板妻駐屯地司令にも、そしてこれから会うであろう官房長官にも、どうやって挨拶しろと言うのよ?


「はぁあ〜い!佐々木でぇ〜すぅ!」

無い無い。コロされるわ!


かなり間を置いてから「分かりました、、、こちらこそよろしくお願いします門倉さん」と言うので精一杯だった。


案内されたのは部屋ではなく敷地内の外で、すでにそこには軽装甲機動車が2台用意されていた。

その車の前で板妻駐屯地司令と官房長官が立って待っている。


慌てて敬礼をしてみたが、「ああ、そういうのはいいから!」とニコニコしている坂本に遮られ、出かかった声を抑えるように口をパクパクするしか無かったのである。


何この状況?


「じゃあ、行こうか」

そういう坂本に佐々木は「あ、あのお、意見具申失礼いたしますが、どちらへ?」


「ん?演習場」

何故か官房長官のルンルン気分が、周りの誰にも分かるほどの上機嫌っぷりなのであった。


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