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時渡りのかえか  作者: 塩引鮭
現代編
25/65

25、箱の主

現代編その22


〜箱の主〜


「は、話し合おう!ワシはまだ生きたいねん!」


箱の中の声からは必死さが伝わってくる。


しかしだ。とても人が入っていられる大きさではない。


1m×20cm×20cm、ざっと、そんなとこであろうサイズの白っぽい木の箱には、あちらこちらに封印と思える貼り紙がなされている。

そんな箱の中から、つい先ほどから年配の男の声がするのだ。


そして箱の中からは見えないと思うのだが、かえかの青朧火が分かるらしい。


「なあ、嬢ちゃん達!その箱はなんだ?」

赤星の右手は懐の拳銃のグリップを握りしめたままである。


佐々木はテーブルの前で正座の姿勢になっていたが、いつでも動ける緊張感を保っていた。


「何って、道代の家宝だよ!」

「たぶん、、道代は中身を、、知らない」

フィーレラナに続いて、かえかが答える。


「その中身が分かるのか?」

赤星は2人が落ち着いていることから、ようやく懐の拳銃から手を離してテーブルに置いてあったコップを手に取り、ビールを口に含んだ。


「なんとなくね!ただ私達も開けられないかもしれないから、道代は中身を知らないと思うよ」

そうは言いつつも、フィーレラナは、どうしてくれようかと目がギラついている。


横のかえかも箱を見つめたまま、ニヘッと笑みを浮かべたのが見えたのだろうか?

何かを察した箱の中身が、またカタカタと震え出した。


「な、何をしようとするねん!こ、この封印は主様だけしか開けられないから、あ、諦めて、、、欲しい、、、です」


箱の中身は何故か最後は要望である。


「ふーん」

嘘くさいとでも言うような表情でフィーレラナは箱を見つめていたが

「じゃあ、いいや!でも、こうして話は出来るんだから、知ってることは教えてもらうね!もらうね?もらうからね?」


フィーレラナの問い詰めに、追い討ちをかけるようにチリン!と、かえかが鳴らした青朧火の鍔の音に反応して、何度目かのビクッと箱が震える。

中身のモノは従うしか選択肢が無いようである。



以後、フィーレラナの尋問が始まったのだが。


「あなたのお名前は?」


「・・・言えません」


「私たちを呼び寄せたのは、あなた?」


「身に覚えがありません」


「あなたの主人は?」


「・・・い、言えません」


「箱からは出てこれないの?」


「・・出たくあり、、、出れません」


物凄いスピードで箱を掴むと、フィーレラナは床に箱を縦にして、わざとドスンと置いた。

それと同時に、かえかが、ゆっくりと鞘から青朧火を抜き放つ。


「ちょ!ちょっ!ストップ!!ストーーップ!!、、ちょっと落ち着こうか!落ち着こうね!お願いだから落ち着いてください!」


公安の取り調べより、ひでえー

赤星は新しい缶ビールを開封してコップに注ぎ入れていた。

もうフィーレラナの尋問や箱の中身に関しては彼女達に任せて放置である。


佐々木はポカーン状態のままで、見えるものには、きっと頭の上をトンボがクルクルと飛び回っているのであろう。


喋る箱、それを痛ぶるフィーレラナとかえか。


なんだこの光景は。


持ち主は酔い潰れたままなのだが、何故に道代が、この箱を家宝として持っている?


うん、私、酔ってるのね。

アルコールを理由に現実逃避したいのだが、残念ながら佐々木も、そこそこお酒には強い体質らしかった。



「守秘義務なんや!コンプライアンスなんや!勘弁してくれまへんか?ワシは、なんとしても主人に巡り合わないと行けないんや!」


悲痛な叫びなのだが

「どうやって?」

「箱のクセに」


フィーレラナとかえかの追い討ちは絶妙である。


赤星と佐々木に至っては、箱からコンプライアンスとか予想外の言葉が出てきて、もう笑いをこらえるのに必死だ。


「なあ嬢ちゃん達、そのくらいで勘弁してやってくれ!なあ箱!」


「箱ちゃうわ!」


赤星のせっかくの助け舟なのに、否定してしまったことで墓穴を掘り、じゃあ名乗れば?と追い詰められていては救いようがない。


「じゃあ、その主人とかは、どこにいるのよ?」

フィーレラナの問いに、しばらく沈黙していたのだが


箱の中身は、ようやく

「およそ1週間ほど前から行方不明になりました」

すすり泣きそうな声だった。


「箱の中に居ながら1週間前までは感じてたってことね?つまり主人の存在は知ってたのに箱のまま、ぐうたらしてたの?」


なにやら聞こえない声で箱の中からブツブツと言い訳みたいなことを呟いているようだったが、箱に向かって青朧火を突き立てられ。

「吐け」そのかえかの言葉に心が折れたようだった。



その後の箱の説明によると、主人の存在を感じてはいたが、1週間ほど前から存在が全く感じられなくなったこと。


それはこの世界に存在しなくなったのと同じ意味なのだが、死亡ということではないのだけは分かるのだということ。


動けない自分の代わりに、かえかとフィーレラナに捜して欲しいということ。


「甘えんな!」

箱を踏みつけフィーレラナは左腕を構える。

もちろん、こんなとこでブッパなしはしない。

しかし、怯えきった今の箱には、これで充分だった。


「あなた達なら、主人の顔が分かれば、すぐに何処に居るのか判るはずです!」


「だーかーらー、どうすんじゃ!!!」


あらはしたない!でもそんな彼女も可愛い。

フィーレラナの暴言ですら、今の酔って理性が外れかけてる佐々木には癒しなのだろう。


「想い出の魔鏡、、、というのがありまして、、、それを使えば」


「「場所」」

フィーレラナとかえかの短い言葉が威圧してくる。


まるで滝のような汗が箱から出ているように見えるが、酔いがまわりだしたのだろう。

赤星と佐々木は、もう無我の境地に居るつもりらしいが、きっと悪酔いに違いない。



もう用済みと、喋る箱は2人がかりで押し入れの奥へ蹴り飛ばされたのだが、その頃には赤星と佐々木も眠りについていた。

フィーレラナの魔法の効果である。


道代はベットへ運び、別で2組しかない布団の自分達の分を1つ佐々木に与えて寝かせ、残りの布団に抱き合うように、かえかとフィーレラナが。


赤星と村瀬は抱き合うような格好にさせられ、1枚の毛布をかけてもらえただけでもマシだったのかもしれない。

朝、起きたら、さぞや大惨事だろう。



みんなが寝静まった後の押し入れから、もう綺麗な身体じゃないとか、シクシクと声がしたとかしないとか。


その夜は全員グッスリだったので箱のグチなどは誰にも聞いてもらえなかったのである。


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