23、語られるいつかの世界
現代編その20
〜語られるいつかの世界〜
「私達は過去に来たのかもしれない」
フィーレラナの呟きの意味を、ただ聞き流すしかないのだが赤星は、この機会にと、話してみることにした。
「なあ・・・君達は、何処から来たのか聞いてもいいかい?」
赤星の問いに、「私も知りたい!かえちゃんとフィーちゃんが、どんなところで暮らしてたのか」と道代が後押しをする。
佐々木も、コクコクと興味津々の目でうなずく。
村瀬は妖精達とポテトの奪い合いで遊ばれているようだ。
「酷い世界だったんだ!罪人にさせられてしまった人間達が次から次へと、地の底から現れてくる。わずかに残った私たち、エルフとドワーフはソーザのお陰で、なんとか140年、耐え凌ぐ事が出来た。元々、戦うことを好まない種族同士だったから、この2種族だけが生きながらえる事が出来たのかもしれない。ほとんど滅んでいたはずの人間達は、何故なのか地中から這い出して黒い霧をまとった罪人として大軍で襲ってくるようになったんだ。初めは話しかけたり抑え込んで意思の疎通を試みたのだが、すぐに無駄だと分かった。切って、叩いて、砕いて、ようやく土に返すというのを何年も何十年も昼夜を問わず繰り返し、そして140年が過ぎ、疲れ果て、心が折れかけた頃、ソーザが言っていた時の狭間の女神の予言通り、ようやく現れたのが、かえかだった」
横に居てくれる親愛なる友人の横顔を、これ以上ないという優しい眼差しでフィーレラナは見つめていた。
「それから10年、私たちエルフとドワーフの民は、侵略されていた領地を奪い返し、押し戻し、、、ようやく最後の地の浄化を終わらせたのだが、その最後の土地にあったのが、アレだ」
その視線の先には、今日ここへ花見に来てから、かえかとフィーレラナが、ずっと見つめているスカイツリーがある。
「え?嬢ちゃん達の世界には、あれがあるのか?」
スカイツリーとフィーレラナ達を、交互に見返しながら、赤星は驚く。
「半分だけだけどね」
どこか作り笑顔のように答えるフィーレラナの、その言葉の意味が赤星達には理解できなかったが、佐々木が
「じゃあ、この世界に来たのは、あのスカイツリーと関係があるの?図書館で、いろいろな場所のお城や塔、遺跡を調べてたり歴史を調べてたのは、、、」
佐々木は図書館に同行するようになって、どんな本を手に取り、読みあさっているのか、ずっと側で観察していたので、逆に何を知りたいのかと思っていたのだが、彼女達の世界にあるスカイツリーは果たして本当に同じものなのだろうか?
まわりの心配そうな目にクスりと笑いながら
「別に壊そうとはしないぞ!あそこからは破壊的な悪意や思念とかは感じないから」
「じゃあ、なんで私のお部屋だったの?」
今度は道代である。
この世界に現れた最初の場所は道代の部屋だった。
しかも食事中のテーブルの上である。
これについてはフィーレラナは苦笑いをするしかなかった。
「申し訳ないのだが」
しばらくフィーレラナは考えを巡らせてみたのだが。
「どうやって、この世界に来たのか?何故、道代の部屋だったのか?何のために、何が目的で、、、うん、うまく説明出来ないのだ」
軽くズルっとコケかけるとこを、気を取り直してみた赤星達だったが
「私達の意思で来たわけではないのだが、そこは分からないのだ!申し訳ない」
フィーレラナは赤星に向き直り、ベンチに座ったままではあったが、上半身だけでお辞儀をするように頭を下げるしかなかった。
「あたし達では、、、ないから」
いきなりかえかが話出した。
「フィーも、なんとなく、、、気付いてるよ、、、ね」
しばらく考え込んでみたが、すぐに「ああ、やはりアレか?」
フィーレラナの言うアレに、かえかは分かっているのか、コクリとうなずく。
もう一度、まわりを見渡し、道代に向かってフィーレラナは語りかける。
「私達ではないようだ、だから連れてくる」
連れてくる?誰が?誰を?
まわりのみんなには、何が私達じゃないのか、誰をなのか、意味が分からない。
「この世界に来た目的が分かりかけたかもしれない」
フィーレラナは立ち上がっていた。
「帰ろう!道代の部屋に!」
えっ!?
花見に来てから1時間も経っていない。
なのにフィーレラナは帰ろうと言い出して、少々、面食らってしまった。
こんないい天気なのに、もう帰るの?と道代はブーブー文句たらしていたが、フィーレラナが二の腕に抱きついて来たので、すぐにデレデレした顔で
「しょーがないなー、もう!」
その変わり身の早さに佐々木は、ただじっと道代を見つめたまま無表情であった。