20、ほろ酔い
現代編その17
〜ほろ酔い〜
「わざとイジワルしたわね?かえか」
ほんのり赤みがかった顔でニヤニヤしながらフィーレラナが、かえかを見つめていた。
その片手には先程握られていた空き缶ではなく、いつの間にか新しい缶ビールが握られている。
みんなが、かえかの青朧火に目を奪われているどさくさに、道代の側から新しい缶ビールを手に入れたらしい。
ほろ酔い気味になっているフィーレラナに全員が今、気づいた。
「あーーーっ!!!」
道代の叫びも時すでに遅しである。
「うん」
フィーレラナの言葉に表情は変えないまま、かえかは立ち上がり、赤星の側まで近づくと、その浮かび上がっていた青朧火を握り。
パチン!と刀身を鞘に押し込んだ。
その瞬間から赤星は両手に掛かっていた信じられない過重から解放されると同時に、手にあるはずの青白い日本刀からは重さは感じなくなったが今頃、炎の熱さも初めから感じてなかった事に気づいたのである。
「その炎で火傷するのは悪意のある人だけなの!元々、重さは無いのだけど、かえか以外が鞘から抜こうとすると重くなるから」
つまり、フィーレラナが言うイジワルとは、かえかが赤星に渡す前に、少しだけ鞘から刀身をズラして、抜きかけた状態で渡したという事だ。
警告も兼ねてるということか?
自分以外が、この刀を持つことは出来ないのだと。
よこしまな考えでも火傷するかもしれないと思ったのか、村瀬は露骨に怯えた表情で、刀を持つ赤星から少しずつ遠ざかっている。
佐々木は、その刀身を、この世ものではない青い揺らめきに、目を奪われたまま固まっている。
かえかが赤星から刀を取り返そうとした時
「嬢ちゃん、その刀に名前はあるのか?」
赤星の問いに、かえかは少し首を傾げてみたが、再び刀を赤星の方に差し出すように向けると、その刀から青白い炎が少し分かれ、文字を形作っていく。
青朧火・・・と
「おぼろ」
そう短く呟くかえかに「おぼろと読むのか!漢字なんだな」
それは妖刀なのか、はたまた。
そんなことを、フィーレラナ以外のここの者達が考えていると、窓際の方へ移動したかえかが、なにやら壁に向かって構えだした。
右脚の膝を曲げて前へ踏み出し
左脚は真っ直ぐ後ろへ伸ばし半身に構える。
そう、今日トラックを切った時と同じ構えだ。
違うのは左腰に宛てがった刀が判る事で、ちゃんと居合切りの構えに見えるということ。
その様になった姿勢に佐々木が「まさか?その方向!」
佐々木の声に「大丈夫、誰も殺さない、、、(道代さんのを)見られないようにするだけ」
そう言い終わるや、かえかの左腰から小さく、キン!と音がした。
その抜刀の早さは誰にも見えていない。
いや、抜いたのだろうか?
そして先程までボールのように転がって寝ていた妖精達の1人が居なくなっている事に誰も気付いていない。
かえかとフィーレラナ以外は。
数分前。
道代の店舗兼、住居がギリギリ目視出来る大通りの脇に、1台のミニトラックが止まっていた。
皮肉にも大きさや形は、今日かえかが切ったのと、ほぼ同じくらいの保冷車である。
その窓のない白い荷台の中には、何台ものモニターを監視していた3人の男女が居る。
狭い荷台の中、決して快適とは思えないのだが、オペレーターと思える男女1名ずつと、その後ろで先程、佐々木と通話をしていた上官の男であった。
しかし既にモニターには何も映っていない。
音声も途絶えたままだ。
映像と音声の発信器、全て一瞬で、かえかに切られたのだと、ここの者たちは誰も知らないのだから。
スマフォを見つめたまま苦虫を噛み締めている上官の男の頭の後方に、いつの間にか、この車内の誰にも気づかれず、人の形の影が1つ浮かんでいる。
いや、人の形と言うには小さすぎるそれは先程、唐揚げを食べ過ぎボールが転がるかのように寝ていたはずの使い魔の末っ子だった。
その目を通して、かえかには見えている。
何を切れば良いのかと。
そして確認し、理解し終わったのだろう。
姿を現したままスーッと前に移動したかと思うと、クルッと荷台の前方部分にあたるモニターが並んでる前で上官の方に向き直る。
その姿に慌てたのか、オペレーターと思わしき男女が慌てて上官の側に、飛び退くように引き下がる。
上官と思われる男も、有り得ない光景を目の前に、驚きを隠せないままではあったが、懐から護身用で忍ばせていた拳銃を構え、使い魔の方に向けたのは、さすがというべきか。
ゴメンナサイ
そう聞こえた?いや、目の前の得体の知れない者は声を出したのか?
しかしペコリと、こちらに向かって腰から、お辞儀をした時、そう頭の中に伝わってきたのである。
そのお辞儀が終わった直後、モニターの下、足元にあったであろうパソコンの本体、数台からバチバチと小さな火花が飛び散ったかと思った時には、全てのパソコンが真っ二つに切り裂かれていたのである。
そして同時に上官が構えていた拳銃の引き金の部分だけが切られた事に気づく前に、軽い金属音を立てて床に落ちた時。
使い魔の末っ子の姿は消えていたのである。
「今日はこのくらいで、また明日来ます」
赤星からのアイコンタクトで、村瀬が道代に、ご馳走様でしたと挨拶をして帰宅することにした。
驚くことばかりで、もっと話を聞かなければいけなかったのだが、佐々木や赤星達は、遅くならないうちに道代の部屋を後にした。
あの少女達の目的など、聞かねばならない事は山積みだが、逃げたり居なくなったりの心配はないだろうと思う。
身体検査など、どこまで協力を求められるか、まだ慌てる段階でも無い。
本音としては、もう驚かないとは言いつつ、今日起こった事だけでも整理するための時間が欲しかったのが最大の理由である。
ただ、急がなければいけないのも事実だ。
遅かれ彼女達は世間に知れ渡る。
それが好意的なのか、利用しようとする悪意からなのか。
佐々木も赤星も、そして村瀬も、上からの命令で動いてはいるが、これからどう接していくべきか悩ましいとこである。
年頃の少女のように扱うべきなのか?
未知の猛獣を餌付けするようなものなのか?
そして彼女達が、もし?・・・敵対するとしたら?
どのくらいの防衛戦力が必要か?暗殺は可能か?
佐々木は上司から聞かれるであろうシュミレーションに没頭しながら「また明日」と短い言葉で、その夜は赤星達と分かれたのである




