19、その刀、青朧火なり
現代編その16
〜その刀、青朧火なり〜
「鶏肉が特売だったから買いすぎたと思ってたけど、結果オーライになったわね!」
テーブルの上には大量に作られた唐揚げの山があった。
3つの大皿に、それぞれ山盛りになった物を手で指し示しながら道代は説明を続けていく。
「これは普通に揚げた物ね!塩コショウで薄味にしてあるから、好みでマヨネーズを付けてね!こちらの黄色いのはカレー粉の衣で味付けしてあるから、そのままでも美味しいわよ!赤い衣のは豆板醤と七味が効いててピリ辛にしてあるから
遠慮なく食べてくださいね!」
そう言うと道代は、そそくさと玄関から出て行ってしまった。
と思ったら、すぐに大きな箱を抱えて戻ってきた。
「こういう時に箱のまま冷やしておけるって、大型の業務用冷蔵庫、様々ね」
どうやら店で出す商品を、そのまま持ち込んだらしい。
350mlの缶ビール24本入りの箱だった。
「何から何まですみません、しかし職務中なので、さすがにアルコールは、、、」
遠慮する赤星に「24時間、職務中なの?」道代はイタズラっぽく笑って見せる。
クスクス笑い出す佐々木。
村瀬は唐揚げに目が釘付けで断りでもしたら後で恨み節を聞かされそうだ。
「仲良くなるのが仕事なのに遠慮したら失礼なんじゃありません?」
笑ってはいるが道代の圧が凄かった。
「ご馳走になります」
ここに居る赤星以外の5人は思った。
(落ちた!)
妖精と使い魔達は姿を隠す必要もないのか、自分の身体とほぼ同じ大きさの唐揚げに抱きつきながら、かじりついてる。
その姿は、取り皿の上で格闘しているようにも見えて、この場を和ませていた。
かじりもしないでマヨネーズをペロペロする者。
カレー味に目を丸くする者。
ピリ辛味と熱さにヒーヒーしながら、かぶりつきが止められない者。
大振りに揚げられた唐揚げ1個とほぼ同じ大きさなのに、3種類それぞれ1個ずつ全種。
この妖精達は食べ切ったのだが、一体、どこに入ったのだろう?
かえかとフィーレラナの後ろで野球ボールのように満足そうに転がり寝始める者も居たのだが、その5つの姿を見ながらビール片手に癒される者、あきれ返る者。
みな、それぞれである。
どことなくまだ遠慮気味だった赤星達の取り皿に、次から次へと道代は容赦なく唐揚げを取り分け、空いたグラスに缶ビールのプルタブを開けて注ぎ足して行く。
かえかとフィーレラナは、いつものようにコーラを飲んでたのだが、他のみんなが飲んでいるビールに興味津々だったようで、見た目が未成年だから遠慮させるべきか議論が始まろうとしかけた時、赤星が
「そういえば嬢ちゃん達は歳は幾つになるんだ?」と疑問をぶつけてみた。
酔うほどでは無いが、アルコールのせいにしてみるのも良い選択だったかもしれない。
しかし結果は酔いが覚めかけるものだった。
「その問いには、申し訳ないが正確には答えられないのだ」
全員が???となりかけてるとこにフィーレラナは続ける。
「元の世界、共和国での話なら、私は170歳ほどだ」
思わず口に含んだビールを吹きそうになる道代。
箸で摘んでた唐揚げを落としかけたのは村瀬だ。
「向こうで出逢ってからは、10年は過ぎてるが、ご覧の通り、かえかはエルフでも無いのに、このままだ」
そう語り、優しげな眼差しで見つめる先には、いつの間にか、かえかがフィーレラナの膝を枕にして、スースーと寝息を立てている。
その側、テーブルの下にビールの空き缶が1つ転がっていた事をフィーレラナが教えてくれなかったら、全員が気づかなかっただろう。
(師匠の魔法並みだな、このビールは)
缶ビールの空き缶を手に取り、フィーレラナは続ける。
「ソーザ師匠の言う通りなら、かえかは出逢った時から成長と老いという時間が止まってるらしい」
「その、ソーザというのは?」
ここまで大人しくしていた佐々木が訪ねる。
「私たち共和国の戦術指南を受け持ち150年続いた戦争を終わらせ、時の狭間の女神の予言を承った魔導師の師匠だ」
戦争、女神、魔導師、150年。
いきなりの情報量なのだが、受け止められない事は、お酒のせいにしよう!
どうせ報告書など書かなくてもいいのだ。
何故なら、、、
その時、パチクリと目を覚ましたかえかが起き上がる。
佐々木のカバンを凝視した後、部屋の四方八方に目線を泳がし、左手に何かを持ったままのような姿勢で、そこに添えた右手を振り回して、また左手の方へ重ねた。
ほんの一瞬の間に。
「見られてるから切った」
そう言う、かえかの言葉に、まさかと思ったのか、佐々木は脇に置いてあったカバンを手に取り、中を確認する。
タイミングがいいのか悪いのか?
バイブで振動しているスマフォを手に取り耳元へあてると。
「そちらのカバンに付けた1つと、部屋に仕掛けた6台、全てから映像と音声が途絶えた!何があった?」
ここの誰でもない年配の男の声が問いかける。
「申し訳ないですが監視は不可能のようです」
小声で話た後、佐々木は電話口の上官の返答を待たず通話を切る。
「本当に申し訳ありませんでした!私は、このカバンに仕込んだ1台しか知りませんでしたが、いつの間にか別で6台、この部屋にも、これと同じカメラが仕掛けられていたようです」
言葉と共にテーブルから少し後ろに身を引いて、その場で佐々木は土下座の姿勢を示していた。
佐々木が知らないのだ。
当然、赤星や村瀬も知らないのだろう。
国が絡むと違法捜査とかいうレベルでは無いらしい。
佐々木はテーブルの上に、合わせれば親指の爪程の大きさになるだろうか?
真っ二つに斬られている小型の盗撮用カメラを置いた。
「あのさ、どうやって判ったの?」
村瀬が初めて口を開く。
かえかは部屋の壁を指差しながら
「この方向。だいぶ遠いけど、フィーが話してるのと同じような声が聞こえたから」
佐々木は思った。
恐らくはビルの関係もあるだろう。
電波の受信のため500m程の位置に車が待機してたはずだ。
このかえかという少女は、それが判ったのか?
上司は6台と言っていた。
あの一瞬で部屋に仕掛けられてたであろう6台と、このカバンの中にあるカメラを
カバンを開けず傷つけずに切ったのか?
何で?どうやって?
「ちょ、ちょっと!いつからカメラが仕掛けてあったの?私、ここで着替えたりしたんだけど、いつから?」
赤面しつつ、取り乱しかけた道代に佐々木が責任を持って、そこは消去させます!
知りたいのは彼女達の事だけで悪意があるわけでは無いので必ず謝罪させます!と約束し、上官に代わって改めてお詫びしますと土下座を繰り返している。
その姿に道代も佐々木さんが悪いわけではないから、お仕事でしょ?と慌ててなだめだしたのだが、その横でボソッっと。
「道代さんの着替え」と呟いた村瀬の頭を赤星がゴツンと強めに叩いた。
「聞きたかったんだが、今日、トラックも切ったんだよな?何か使ったのか、どうやって切ったのか、教えてもらえないだろうか?とてもその手だけで切ってるとは思えないんだが」
確かに赤星の疑問はもっともである。
かえかは何も持っていないはずなのだから。
しかし何かを持っているのだという確信はある。
「手!」
かえかの言葉に固まっていると、何かを握りしめたかのように左手を、甲を上に向けて赤星の前へ差し出す。
何を渡されるのか半信半疑で赤星も自分の左手を、かえかの手の下に添える。
手のひらを上に向けて。
「重い、、、から、、ね」
そう言って開いた、かえかの手から予想以上の重さに、慌てて右手も添えたが、思わず前のめりになった姿勢で、両手は床に着いていた。
「これ、、は?」
赤星が握った感触は、そう!刀、、、日本刀なのではないか?
未だ両手は床に着いたまま、びくともしない。
この重さは、とても持ち上げられるような代物ではない。
「青朧火」
かえかが呟くと、赤星の両手には、青白く陽炎のように揺らめく。
そう、まさしく日本刀のようなシルエットが浮かび上がってきたのである。




