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時渡りのかえか  作者: 塩引鮭
現代編
17/65

17、トラックを切ってしまった

現代編その14


〜トラックを切ってしまった〜


道代から居場所を聞いて、早速3人は動いていた。


早めに合流してから、どう接触していくか?相手の事が分からなさすぎるため、その場の流れで決めようと行き当たりばったりになるのは仕方なかったのかもしれない。


目的地の千代田区立図書館に着いた時には丁度、対象の少女達が出てくるとこであった。


面識が無く、女性ならば警戒心も薄れるかもということで、佐々木が一定の距離を保ちながら接触するタイミングを図る。


更にその後方を赤星が、そして村瀬は先行したり予測した場所で待機して見失わないようフォローする役回りである。


道代が選んでくれた洋服のおかげもあってか、すれ違う2人の美少女ぶりに振り返る人物は多かったが、さすがに声をかけようとする者は居なかった。


しかし、それ故、佐々木も声をかけるタイミングが掴めないまま、ある交差点に差し掛かった時だった。


点滅を始めた歩行者信号。

道路中央付近の横断歩道上にて転びそうになった男の子を庇おうとした母親が、横向きに肩から倒れてしまう。

そこへ黄色信号だから間に合うとでも思ったのだろうか?

1台のミニトラックがスピードを落とさないまま交差点に侵入しようとしていた。


かえか達を除いて、その交差点に一番近かったであろう佐々木は

あの運転手、親子に気づいてない!

そう判断したものの、ここからでは間に合わないと考えた時である。


青朧火おぼろ

短く口にすると、歩道に居た筈のかえかは、20mほど先でうずくまって動けない親子を庇うかのように、迫り来るミニトラックの目の前に立っていた。


直立姿勢からスッと右脚の膝を曲げて前へ踏み出し、左脚は真っ直ぐ後ろへ伸ばし半身に構える。

両手は何もない左腰の部分に。


その左腰あたりに置かれた両手に、青白い炎が揺らめいた刀の柄と鞘が握られているのを見えている者は誰もいない。


いつのまにか親子を挟んで、かえかの後ろ側に立つフィーレラナを除いては。



ソーザが「青い朧の火のようじゃな」と言ってから、名前の無かったこの刀を、かえかは青朧火と書き、総称して「おぼろ」と呼んでいる。


一見、居合の構えに見えるその姿勢だが、かえかは刀身の刃を下に向け、右手は逆手で柄を握り、そのまま胸を反らすかのように上体を上へ、えび反りのように起こしながら刀を抜き放ち、切り上げた。


逆さ切りのようなモーションで振り上げた後、頭の上で刀身をクルッと回し、腰の鞘へと収める。


それはコンマ何秒の世界だったかもしれない。


しかし間近で見ていた佐々木と、そして赤星には、何故か構えて右腕を振り上げるかえかの動作が走馬灯のような・・・まるでスローモーションのように見えていた。

もちろん刀で切り上げたのだとは見えていない。


ただただ美しかった。



横断歩道で取り残された親子を避けるかのように真ん中から左右に分かれたトラックは、その後しばらく道路を走行した後、また引き合うかのように合流して互いを八の字で支え合いながら止まったのである。


その頃には、かえかとフィーレラナに手を握られ、支えられた親子は安全な歩道部分まで移動していた。


「あ、あの、ありがとうございます」


へたり込む母親は息子を抱きしめたまま、何が起こったか整理できてはいなかったが、手を引いてくれた目の前の美しい少女達にお礼を言った。


「よかったですね」

ニッコリとフィーレラナが微笑むと、そのまま、かえかと早歩きで、その場を離れていったのである。



「あいつ、切りやがった!」


赤星がすぐに2人を追いかける。

その後を追って村瀬も走り出す。

「切ったって、車を?彼女達が?何も持ってないようにしか見えないんですが!」


かろうじて村瀬にも横断歩道の真ん中に2人が、一瞬で現れた様子は見えていたようだ。

しかし、その後のかえかの詳細な動きは目で追えていない。


赤星よりも近くの場所で見ていた佐々木を除いて。


「あれは居合切りのひとつと同じ所作だ!あの嬢ちゃん、何か持ってやがる!それより交通課に連絡して、すぐにあのトラックを回収させろ!どうせもう間に合わんだろうが、大騒ぎになる前にだ!現場検証も、こちらで後で説明すると言っておけ!どうせゴネてくるから、こちらは政府関係で動いていると黙らせらればいい!あの切り方だ!道路封鎖しても、おそらく破片やカケラすら出てこやしないだろうしな」


赤星を追いかけながら村瀬は杉本課長にお願いするつもりで携帯を取り出していた。


また頭痛薬を多めに飲ませちゃうんだろうな。

村瀬は申し訳ないと思っていた。



追いかける2人が、かなり早足だったからか、ある程度の人混みが少なくなったところで追いつく。


「お、おい!そこのお嬢ちゃん達!」

仕事柄とはいえ、普段から職務質問などしないのだろう。

声の掛け方に苦手意識をにじませている。


こんなことなら、そこらのチンピラ相手の方が、まだどれだけ気が楽か。


佐々木も赤星と村瀬に追いつき、少し息を整えている。


この3人はかえか達がここで意図的に追いつくように止まったのだと気づいてない。


見覚えのある顔にフィーレラナは警戒心丸出しだが、かえかは無表情のジト目のまま「ソフトクリーム」と呟いた。


察したフィーレラナと、確信犯のかえかが、顔の向きはこちらに向いたまま。

目だけが、ゆっくりと横へ向いていく。


赤星達も習うように同じ方向へ視線を向けると

そこには、新発売!美味しいクレープとソフトクリーム!の看板を立てかけたファミレスがあった。




「本当に経費で落ちるんだよな?領収書忘れんなよ!」

赤星は恨み節のように吐き捨てながら自分の財布の中を凝視している。


その左右、窓際には、苦笑いした村瀬が。

通路側には引きつった笑顔の佐々木が。


向かいにの席には、かえかとフィーレラナが座って、2人の手にはソフトクリーム。

目の前の皿には、それぞれクレープが置かれている。


赤星と村瀬はアイスコーヒー。

佐々木はホットのミルクティーであった。



「私は初めましてですね!佐々木と言います。道代さんとは、そこの彼と私は友達でして、国からのお願いで貴女達とも、お友達になれないかと伺いました」


奥の村瀬を示しながら挨拶をする。


佐々木が会ったばかりの道代と友達というのは嘘ではない。

彼女達を悪いようにしないのなら、安全を約束して、尚且つ護衛までしてくれるのであればと先程、友達になったのである。


真ん中の赤星については、既に面識が有るのだが、フィーレラナの警戒っぷりからしても、決して良い印象ではないのだろう。


なので左右の自分達でフォローしながら赤星が、こうして餌付けしていくとい「良いお兄ちゃん作戦」になったのである。

本人希望のため、最初の「良いおじさん作戦」は却下された。



そして、そんな思惑を見透かしてか、表情は崩さないまま、ニヒッ、と笑ったかどうか。


その、かえかの一瞬の間に、少し引き気味で妖精くん達とフィーレラナは気付いていた。



目線はこちらを向いたまま。

食べるのを止めない2人に、嫌な汗をかきながら固まる3人。


ファミレスの、とある座席では時間が静かに過ぎていく。


異様な雰囲気を漂わせたまま。

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