14、道代のコーデ
現代編その11
〜道代のコーデ〜
かえか達が無事に部屋へ戻ってきてくれた翌日。
道代は2人が普通に外を歩けるように着れる私服の購入に走り回っていた。
「ちょっと、これだと派手かしら?でも、これからの季節なら短いスカートでもいいわよね?上は、フィーちゃんなら、この白のフリル付きのブラウスとか、あ、かえかちゃんには、ワザと大きめのチェックのシャツも有りよね?」
完全に顔の締まりが無くなっているのだが、周りの目など知ったこっちゃないらしい。
昨夜、2人から、この世界や国の成り立ち、歴史や地理など、詳しく記載された書物などはないだろうか?と聞かれ、なら無料で立ち寄れる図書館とかはどうかな?とススメてみたのだが。
さすがにコスプレイヤーの認知度が世間に浸透してきてるとはいえ、その刺激的な格好では歩けないし、コスプレイヤーに間違われるだけでは済まないと思ったのである。
かといって、自分の私服を貸し出すにしても、いろいろサイズも合わず。
特に道代の胸のサイズに対してだけは、2人がプーッと頬っぺたを膨らませるので
「その格好では、あまり外を歩いちゃダメだからね!」となだめ、2人に別で服を用意してあげるからとサイズを測る口実に、身体中ベタベタ触りまくってご満悦だったのは内緒である。
なにせ肌に触れる時のフィーちゃんの敏感な反応。
正反対に、どこでもウェルカムと動じない、かえかちゃんの潔さ。
昨夜のことを思い出し、ニヤニヤしながら、それぞれ別でも組み合わせられるように。
かといって派手ではなく落ち着いたコーデに彼女達のスタイルの良さも活かす。
うん、我ながら良い買い物が出来たのではないだろうか?
下着も可愛いのから、チョイ攻めのセクシー系まで、既に購入済みである。
結果、両手に、お店がくれた大きめのショッピングバックを、3つずつ。
もちろん衣装代として、お店の経費で落とせるように領収書も、しっかりもらって抜かりはない。
手荷物でいっぱいになるのが目に見えていたので、先に病院へ桂子のお見舞いにも行ってきた。
外傷があったわけではないので、体調の様子を見てから改めて警察の方と話をして、明日の退院になるとのことで安心である。
欲望を抑えるつもりのない自分の趣味満載の着せ替えショーのため、道代の帰宅は、お昼前と早かった。
「おーっ」と棒読みっぽい声で、広げられた服を見つめ、かえかが珍しく興味を示している。
あまり表情には出さないみたいだけど、喜んでくれてるのよね?
よしよし!
かたやフィーレラナの方は無言ではあるが、いつものキラキラしている瞳が、今はギラギラしているようで、鼻息も荒い。
エルフのイメージが崩壊していくのだが、これは完全に、つかみはOKってことよね?
ふふふ、着々と餌付けは成功しているではないか!
心の中で道代がガッツポーズをしているなど、かえか達には思いもよらないだろう。
「じゃ、じゃあ、着替えてみようか!」
興奮しているのを悟られないように、、、しているつもりはないようだ。
ヘラヘラ顔の道代の言葉に「じゃあ、脱ぐ」と、かえかが後ろ向きになると、いつもの食事のテーブルを横にどかす。
空いた場所で背伸びをするように両手を上へ伸ばし、左右へ広げ斜め45度の位置で止めると、今度は、その位置から両手を下へ。
更に膝を曲げて両手を床まで持っていくと、その四角く描いた空間に、ぼんやりと何かが現れ始めた。
「えっ!?えっ??」
そこに現れた四角いものを見て、しばし驚きで固まっていた道代が、ようやく疑問形で呟く。
「た、、んす?」
その問いに、かえかも「うん、桐タンス」
道代は自分の頭の上を何匹かのヒヨコがピヨピヨと回ってる気がした。
うん、もう驚かない。
固まっている間に、かえかとフィーレラナは脱ぎ終わり、脱いだ着物とフィーレラナの上下の服や木製の防具、他の人から見たら装飾品にしか見えないのだが、それらも一緒にしまい込んでいる。
はうっ!と意識を戻し、我に帰った道代は心の中で、もう少し脱衣の時のドキドキを味合わせてよ!と悪態をつきながら2人の体の前に購入してきた下着をあてがって
「これかな?これなんかどうかな?」と、通常運転に戻っていた。
道代のコーデに2人が身を包み終わった後、お昼は図書館へ向かうついでに外食で済ませようと道代は考えていた。
その前に靴も購入しなきゃね!
2人の足に合うサイズは、実際に履いてもらわないとダメだろうと、サイズの豊富な量販店へとやってきた。
跳んだり走ったりとかが多そうだから、この2人ならテニスシューズとかランニング用の、お洒落なスニーカーだろうと実用性を考えて提案してみたが、やはりここでも、かえかは「おーっ」と棒読み声で、履いた靴の感触を確かめるようにピョンピョン飛び跳ねている。
それにならうようにフィーレラナもピョンピョンしているのだが、広く天井が高めの量販店。
その吹き抜け部分から、そのまま2階に上がりそうな勢いだったので、道代は「あ、あの、これ、履いたままで帰るので、このまま購入します!」と、慌てて会計を済ませ、お店から頂いた手提げ袋に2人が履いてたものを入れて、2人の手を引っ張ると、お店を逃げるように後にした。
「あ、あのね!人前で、あんまり跳んだりとかしてはダメよ」
決して怒鳴らず、優しい口調で言うと、かえかとフィーレラナは同じ方向に首を傾けて「なんで?」と息ピッタリ聞いてくる。
「だ、だってパンツ丸見えになるでしょっ!!!」
さすがに大声になった。
ジャンプ力は、どうでもいいらしい。
顔は赤面させたまま肘にバックを下げて両手で2人の手を引っ張り、早足でその場を逃げ出していた。
改めて、この2人は別次元なのだと思い知らされる。
まずは常識を覚え込ませないと、うかつに外は歩かせられない。
人並外れた能力で人前で、ああも飛び跳ねられては、今のSNS時代、必ず注目され、あっという間に広まってしまう。
この子達が評判になって、お店にお客様が増えてくれるのは願ったりだが、そういう人間離れした評判は望んでいない。
「ねー、道代ーっ、」
ズカズカと2人の手を引っ張って歩いていた道代は、あっ!と我に帰って振り返る。
引っ張り過ぎて手が痛かったかな?
「あたし達の履物、それ、しまうから貸してー、」
かえかが、そう言うと、クルッと後ろ向きになり両手を上へ伸ばした。
「こ、こんなとこでタンス出しちゃ、駄目ーーー!!!」
人通りの多い交差点付近の歩道。
道代は、かえかに飛びついていた。