12、ラーメンとプリンと頭痛薬
現代編その9
〜ラーメンとプリンと頭痛薬〜
数秒、固まってはいたが全員で前に揃えられてる靴に足を入れる。
不思議なことに靴が並んでる順番と、その持ち主の刑事達が立っていた順番は、左から右へ間違いなく正解だった。
「どうなってやがる!??」
部屋の中に立ち入ったのは課長の杉本と赤星に村瀬。
そして玄関を上がったところで靴を脱いでいた2人の合計5人である。
当然、靴の脱いでいた順番など、あの少女達から細かく見えていたとは思えない。
何か説明の出来ない力や現象が、それぞれの身に起こっているのだが、誰も今、体験しているのに理解出来ていない。
ビルの周りにも2人ずつ別で3チーム待機させてはいるものの、中の当人達は、ひとまず逃げる気はなさそうだ。
杉本は頭を悩ませていると携帯に着信があった。
「上の警備局からだ」周りの部下達に伝えると着信に応える。
短く杉本ですと返事をした後は無言で相手からの話に黙って聞き入っていたが「はい、了解しました」そう言って携帯を懐に戻した。
「上の警備局から、取り敢えず引けとの命令だ。今回のことについて、お隣の部署の国テと(国際テロリズム対策課)外事課、そして内閣府にまで、どこからか話が行ったらしい。防衛大臣補佐官からも現状を静観しつつ、報告が欲しいとのことだ!下手すると自衛隊まで絡んで出でくるぞ」
杉本は正直、上が全部、面倒を見てくれるのなら、ありがたいと思っている。
こんな訳の分からない事案は丸投げして、普通に山積みになってる別の捜査に戻りたいのが本音だ。
何故なら、あの少女達を犯罪者扱いしたくないというのが理由の半分。
悪い子達ではないのだろうという刑事の勘みたいなものだろうか。
部下達、全員に撤収を告げると、村瀬に「中の女性、知り合いなんだろ?追い出されたばかりだから、俺達もカッコが付かん!電話でいいから後日、必要な時に話を伺うことになるから、今日は引き上げるとだけ伝えておけ」
下で待ち構えてた部下が後部座席のドアを開ける。
そこに杉本が乗り込むと、すぐに横へ赤星も乗り込んできた。
「まったく、お前に大人しくしてもらうための張り込みだったのに、つくづくトラブルメーカーだな?赤星!」
苦笑いするしかないが、頭をかきむしりながら「俺で良かったじゃないですか!あんなの誰が居合わせても、説明できません」
ごもっともな話である。
走り出した車の中で、全員の沈黙がしばらく続いた後に、杉本が、ふと思い出したかのように呟く。
「なあ、エルフと、、、”なりそこない”って、何に、なりそこねたんだ?」
あの部屋に居た杉本と赤星、そして玄関側にいた内の1人、助手席の部下。
自分達より、ひと回りもふた回りも年下であろう、あの黒髪の美少女に全員が、欲情と心地よい寒気を感じていることに自覚などなかったのである。
「うん、ゴメンね!それと今日は本当にありがとう!この子達も悪い子じゃないから、話はちゃんと出来ると思うけど、その時は私も同席させてね?うん、無理でなかったらでいいから!うん、うん、皆さんにも、すみませんと伝えてもらえたら!うん、それじゃあ!」
村瀬との電話を終えて、かえか達に「今日は、このままここに居て大丈夫だそうよ!あの人達は、悪い人ではなく正しいことを守ろうと頑張ってくれてる人達だから、悪く思わないであげてね」
道代は優しく伝えてみた。
「全員、危ない武器を持っていたが、誰でもそうなのか?」
フィーレラナが言ってるのは、刑事なので拳銃のことなのだろう。
部屋に踏み込んでいた時は誰も手に取って構えてはいなかったはずだが、この子達なら分かるのだろうと勝手に納得しておくことにした。
「そんなことはないわよ!さっきの人たちは警察の人で刑事さんなの!ああいった危ないものを持ってるのは、刑事さん達か、悪い人達だけよ」
道代は映像で見せられた窓からの、かえかとフィーレラナが煙で見えなくなる部分までだけで、その後のことは分からなかったし、ましてや現場に居たわけでもなく、かえかやフィーレラナ、桂子が連れて行かれたビルのフロアが桜の木でジャングルのようになってることは知らなかった。
歌舞伎町から、ここ秋葉原までは、かなり距離もあるはずだが、まさか電車で帰ってきたとも思えないし。
深くは思わず、食後のデザートに買い置きのプリンを出してあげた。
これも目を丸くして夢中になるのだが、思ってたより妖精くん達の取り合いバトルが激しかったので、今度は多めに用意しようと決意する。
何気にテレビの電源を入れると、丁度夕方だったこともあり、ニュースで歌舞伎町のビルから謎の桜の木が、いきなり出現!桜の木に侵略されたビル!の話題でチャンネルを変えても、どの局も特集を組んで延々と現場中継が流れていた。
黙って、そっと顔をテレビから横のフィーレラナに向けると、テヘッ、と悪戯っぽく返された。
かえかはスプーンを口に咥えたまま、そのスプーンの持ち手の部分を、上下にブンブンさせている。
ラーメン食べて、プリン食べて、頭痛薬、人生で初めてのディナーコースね
常備してる薬箱から取り出した頭痛薬を口に運びながら頭を抱える道代であった。