第7話 『逆らう奴隷』
多分一週間が経ったと思う。
それまでにここに来た人は何人かいるが、他の奴隷を飼って帰っていった。
昼頃のときだ。
玄関先の扉が開いて、貴族のような服装をした男が入ってきた。
と言っても、前の男ではない。
どうやら貴族がよく奴隷を飼うらしい。
確かに貴族はクズが多いからな。
そもそも人間は全員クズなんだけど。
クズだから奴隷のことを何とも思ってない。
人を人と思ってないのだ。
人間は意味もなく人種差別をする。
だからクズなんだ。
で、その貴族がこの店にやってきた。
奴隷を一人ずつ見ていき、俺を見たところで動きを止めた。
男は俺を少し眺めると、奴隷商に話しかけた。
「奴隷商、こいつにする」
「この奴隷は金貨五枚です」
「金貨五枚か、結構するな……まあいっか、こき使うんだし。この値段以上は働いてもらわないとな」
ついに飼われる時が来たか。
男が金貨五枚を奴隷商に渡したあと、ついにそのときがきた。
奴隷商は俺がいる檻の鍵を解錠して扉を開けた。
その瞬間、俺は拳を握って奴隷商にとびかかり、勢いに任せて顔面をぶん殴った。
「なんだよ、結構簡単じゃねえか」
俺はひりひりする手を振り、倒れた奴隷商を見下ろす。
それを見て男が一瞬驚いたが、冷静を取り戻し、背中にある剣を抜き俺に向ける。
「くそ、奴隷のくせに!」
男はそんなことを言いながら、俺に向かって剣を振り下ろした。
それを俺は華麗に避けて、剣の持ち手を掴み、男から奪い取った。
そして剣の刃先を座り込んだ男の顔に向ける。
「ひっ!」
クズだから殺すか?
「た、助けてくれぇ」
「奴隷は普通に殺して、自分が死ぬかもしれない状況になったら命乞いをするのか。とことんクズだな」
俺は剣を下ろして、条件をだした。
「そんなに助けてほしければ土下座して、『助けてください~、あなた様の奴隷になりますから~』って言え」
「はぁ?誰がそんなことするか!」
男はそう叫びながら、俺の顔面に向かって殴り掛かろうとした。
こいつ、よくこんな状況で拒否できるな。
よし、殺すか。
俺はその攻撃を普通に避けて、剣を思い切り振り、男の首を落とした。
一瞬のことに男の脳が追い付いていないのか、落ちたあとも不思議そうに周りをキョロキョロしていた。
きもちわるい。
俺は剣を生首に突き落とす。
すると、血となにかドロッとしたものがでてきた。
黒目はそれぞれ違う方見ている。
なんか、より気持ち悪くなった。
でも、なんかこれおもしれえ。
俺はとどめを差すように何度も生首を踏みつけ、ぐしゃぐしゃという音が響くところまでいった。
踏むたびに俺の頬に血がついてくる。
「あ~、気持ちいい」
ゾクゾク~とする初めての感覚に襲われた。
そうか、これが快感というものか。
俺は男を殺めたことに快感を覚えていた。
生首はもはや原型をとどめていない。
そういえば、奴隷商もいたな、忘れてた。
奴隷商がいたところを見ると、いなかった。
一瞬慌てたが、それもすぐに落ち着いた。
奴隷商はソロリと逃げようとしてるのか、ゆっくり動いていた。
俺は後ろから奴隷商の耳に顔を近づけた。
「何逃げようとしてんだ?奴隷のことはどうでもいい。でも自分だけは大切か?お前もクズか」
「ゆ、許してください。私は奴隷を所持していただけでこき使おうとは思ってません」
その声は震えていた。
また命乞いか。
もうそれは飽きた。
「そうだな。じゃあこれ、貰ってくわ」
俺はさりげなく、奴隷商の服についてる胸ポケットに手を入れ、物を盗った。
これは、『紋章の刻筆』という紋章を刻みこむ筆だ。
主に奴隷によく使用される。
これを使えば、奴隷がすぐにできるし、裏切ることもできない。
俺にとって超良い道具だ。
「最後に、この腕輪をとってくれ」
「そ、それはできません」
おいおい、とうとう体まで震えだしたぞ。
腕輪をはずせばより強くなると思ってるからか?
「……そうか、わかった。お前は殺さねえよ」
その言葉を口にすると、奴隷商は安堵のため息をつく。
俺はその背中に剣を勢いよく突き刺す。
奴隷商の胸のところは貫通していた。
「うっ、な、なんで」
口から血をこぼし、俺の方を向く。
「え?嘘に決まってんだろ。もしかしてお前信じてたのか?バカだな~」
俺は奴隷商がムカつくように、わざと大げさに笑った。
「お前はこれだけで十分だ」
俺は剣を振って抜いた。
すると、ぽっかりと空いた穴から大量の血が出てくるわ、出てくるわ。
「痛みに苦しみながら徐々に死ね」
俺は最後に恨みの籠った声で囁くと、奴隷商に背を向け、カウンターのところに向かう。
引き出しを開けると、金貨や銀貨が何枚も入っていた。
これだけあれば生活には困らないだろう。
俺は近くにある袋を持ってお金をジャラジャラと全部入れた。
これが金貨百枚と銀貨五十枚の重みか
用は済んだと扉のところに向かうと、奴隷商が視界に入る。
白目になって、びくとも動かない。
完全に死んだようだな。
まるで苦しみから解放されたような表情。
くそ、ムカつく。
もっと苦しんで死ね。
俺は剣に復讐の念を込めながら頭に突き落とす。
そしてこの建物を出て行った。