第6話 『憤怒と憎悪』
こいつは何をしようとしてるんだ?
すると、男は僕にいやらしい笑みを見せた。
「最初はこいつを性奴隷にしようと思ったんだけど、やっぱりそれはなしにしたほうがいいな。もっとおもしろそうなことを思いついた」
男は剣を舌で舐めると、母さんの首に刃先を向けた。
そして、剣をあげると、勢いに任せて剣を振り下ろした。
一瞬のことだった。
母さんの首は落ち、僕の顔を見上げていた。
血が跳ね、僕の頬につく。
「母……さん…?」
なんだ、この気持ちは。
痛い。
胸が痛い。
痛みを感じるところを見ても、傷は見当たらない。
違う。傷の痛みじゃない。
心が痛い。
僕はこれまでにないような絶望を感じた。
「そうそうそれだよ。ああもう最っ高!」
男は快感を覚えたのか、気持ちよさそうな表情をしていた。
僕は無意識に体が震えて、拳を握っていた。
「……お前えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
僕は檻の傍まで走り隙間から手を通し、何度も男を掴もうとした。
「あ~あ~、凶暴になっちゃったよ。そんなこと態度でいるとお前も切るぞ?いいのか?」
「黙れ!よくも!よくも母さんを!絶対許さない!」
「はぁ、まあいいや。こいつを飼う金は今持ってないし、またいつか来るわ」
男は僕に背を向け、手を振り、扉を開けて外に出て行った。
なんで、なんでこんな目に。
僕は辛くて泣いていた。
フッと意識を取り戻す。
気づいたら僕は地面に寝ていた。
どうやら僕はいつの間にか寝ていたらしい。
……苦しい。
この苦しみは一体、何が原因なんだろう。
エルザたちに裏切られたからか?
それとも奴隷にされたからか?
母さんが殺されたから?
きっと、すべてに対しての苦しみだろう。
辛い。
なぜ、僕がこんな目に合わなくちゃならないんだ。
なぜ、こうも苦しまなくちゃいけないんだ。
どうして……どうして、どうして!どうして!
どうして、僕がこんな気持ちにならないといけない。
どうして、僕が傷つかなきゃならない。
僕が何をした。
僕が何をするっていうんだ。
『復讐してやる』
そんな言葉が僕の頭をよぎる。
殺す。殺す!
僕を裏切った奴も、母さんを殺した奴も全員、これでもかというくらいぶっ殺す!
エルザを殺す。村人を殺す。奴隷商を殺す。貴族を殺す。闇族を殺す。ゴブリンを殺す。国王を殺す。人間を殺す。僕を苦しめるのに関わってる奴全員殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
僕はこのとき、完全に復讐心に囚われた。
待ってろよ、エルザ。
俺が必ずお前を殺してやるからよぉ。
せいぜい、俺が来るのを怯えて待っていろ。
「くくっ、フハハハハ」
エルザがこの世のすべてに絶望してる姿を想像すると、笑いが止まらない。
この想像が現実になるようにしないとな。
奴隷商が俺を見ながら、不快そうな表情をしていた。
だが、そんなことなど気にしない。
俺は数分笑った。
エルザ、今すぐお前のところに向かってやるからな。
そのときが楽しみだ。
少し時間が経過すると、落ち着いてきた。
エルザを殺しに行くことを考える前に、まずはここを抜け出さないとな。
どうするか。
前は中々思いつかなかったが、今回はすぐに思いついた。
俺が飼われたときに、奴隷を飼いにきたやつか奴隷商を殴ればいいだけのことだ。
母さんが飼われたときのことを思い出す。
奴隷商は母さんの檻を開けて、母さんの手首に手錠をかけたんだ。
開けてから手錠をかけるまで、結構時間があいていた。
その時間に奴隷商か飼いに来たやつを殴り飛ばせばいいんだ。
結構時間があいていたと言ったが、あまり自信はない。
その時間を逃せば、待っているのは地獄の奴隷生活のみ。
それだけは回避しなければならない。
とりあえず、作戦はこんな感じでいいだろう。
そもそも誰かに飼われないとダメだからな。
それまで気長に待とう。
俺はそのまま眠ることにした。