第4話 『魔人の奴隷』
村を出てから数十分が経過すると、街の門が見えた。
門をくぐると、綺麗な街が広がっていた。
だけど、それを見ると、もうすぐ着くということを痛感させられる。
抵抗したいけど、まったく力が入らない。
それに麻痺してるときって結構痛いんだな。
全身がずっと痛い。
なんで、僕がこんな目にあわなくちゃならない。
僕が、魔人だからか?
エルザ……お前…
どうやら無意識になにか企んでるような笑みを浮かべていたらしい。
村人たちが僕の顔を覗きこんでくる。
こいつら全員ぶっ殺す。
「そいつを地面に下ろしてくれ」
エルザが話しかけていたのは、僕を担いでる男だった。
男は僕をおろして綺麗な体勢に寝かせた。
「何きめえ顔してんだよ!」
エルザは僕に近づいたかと思うと、腹部に激痛が走った。
エルザは重力の勢いに任せて倒れるように肘を僕の腹に下ろしていたのだ。
「ううぅぅうぅ」
あまりの痛さに情けない声を漏らす。
胃液が逆流してるのがわかった。
腹を抑えたい衝動に駆られるが、麻痺して動かないから余計苦しく感じる。
「ラング!」
母さんの声が聞こえる。
子をちゃんと心配してくれる。
やっぱり人間より魔人のほうがよっぽどマシだ。
「なんか日頃の疲れもこいつを痛めたら、取れた気がしたわ」
「本当かよ。俺たちにもさせてくれ」
なんというか、物騒で残酷な話を普通にしてる。
そんな人間がしてる行為に恐怖さえ覚える。
「俺もさせたいところだが、我慢してほしい。たくさん殴ったら、奴隷として価値が下がってしまう」
「確かに奴隷商に売れば結構な金が入るからな」
エルザ、そうか。君は魔人の僕を売って、金にしようとしてるのか。
エルザ、これが友達にすることか?
エルザ、お前にとっての友達ってなんだったんだ?
エルザ、エルザ、エルザ……許さない。
絶対許さない。
今のエルザが笑っている姿を見ると、恨みの感情が大きくなるのがわかった。
お前なんか、もう友達でもなんでもない。
僕を裏切ったことを後悔させてやる!
もしかたら僕はこのときすでに、復讐心に囚われていたのかもしれない。
「エルザアアァァァァ!」
すると、一瞬目の前が光った。
その途端、左腕に想像ができないほどの激痛が走った。
そこを見ると、僕の腕がなくなっていた。
「う、うわああああぁぁぁぁ!」
僕の腕が、なんで?!
腕は綺麗に切られたようになっているから、もがれてないことがわかる。
断面からは煙のようなものが浮き上がっていた。
血液もドバドバと出て、床を一気に赤に染める。
「僕の腕があああああぁぁぁぁ!」
「ああもう腕がなくなったくらいでそんなに騒ぐんじゃねえよ」
「な、なんで僕の腕が!」
「あ~あ~わかったよ。そんな騒ぐなって。ったく、これだから魔人は」
エルザは面倒くさそうに説明をした。
「俺が何属性か忘れたかよ」
属性?エルザは確か……
「思い出したか?光属性だよ。だから、それを光線みたいな感じでお前の腕を消したんだよ」
エルザは手の甲を僕に向けて、紫色の宝石のようなものが埋め込まれた指輪を見せた。
この石は確か、魔石だ。
だからこれは、『魔術の指輪』か。
魔術の指輪、それは魔術を使う上で必要不可欠の品だ。
魔術で生み出せる属性は火、水、風、土、氷、雷、そして光と闇の七つだ。
人はこの中で一つしか使えない。
たまに二つ、三つ使える人もいるが、全属性が使える人はいない。
光と闇が使える人は十万人に一人くらい少ない。
光だったら当たりだろうが、闇はハズレだ。
それも、闇は人の心を悪くするんだ。
闇は強力でかなり強い。
だから、エルザは相当運がいい。
僕が使える属性は火と水だけだ。
エルザ、お前はいったいどこまで僕を苦しめる気、だ……
徐々に意識が薄れていく。
このまま気絶してしまえば殺されるかもしれない。
でも、なんとか意識を保とうとしたが、あっけなく気絶してしまった。
「おら、起きろ」
エルザの腹パンで目が覚める。
顔を上げると、目の前には何かの建物があった。
周りがなぜか薄暗い。
上を見ると、空は綺麗な水色だった。
ここは建物と建物の間、路地裏だった。
もともと、怪しく見えるが、周りの暗さがより怪しさを醸し出してる。
エルザは扉を開けて、中に入った。
それに続いて、俺も中に連れてこられた。
周りには、檻がたくさんあり、中には亜人や魔物、妖精に、そして人間もいた。
「今日はなんの御用で?」
少し太ったおじさんが近づいてきてエルザに話しかけた。
こいつが奴隷商か。
「こいつを奴隷として買い取ってほしい」
奴隷商は俺の全身をまじまじと見つめ、こう告げた。
「これは、中々の品ですな。いい値にいなりますぞ」
「マジか!?殴りすぎないでよかった」
エルザは冷やっとしたように、胸をなでおろす。
「で、いくらで買い取ってくれるんだ?」
「本来なら金貨六枚ですが、腕がないから金貨五枚でどうでしょう」
「金貨五枚か……まあ、所詮このくらいか」
「こいつは?」
エルザは母さんを指差して訊く。
「そうですね。お母さんのほうは年をとっていますし、金貨五枚で飼いとりましょう」
「決まりだな」
「では」
奴隷商は金貨十枚をエルザに渡して、僕と母さんを受け取った。
まだ動けない。
一体いつまで麻痺してるんだ。
エルザたちはもう出て行って、村に帰ってしまった。
くそ、あのとき僕の力であいつらを殺せばよかった。
「じゃあ、これをつけてもらいましょう」
奴隷商の手には、鉄製の腕輪を持っていた。
そしてそれを僕と母さんの右の手首につけられた。
「これは…?」
「特殊な魔法で、魔力を抑える腕輪になっています。だから、これをつければ君たちは魔人の力を発揮することができないということです」
「あ、ちなみに自分でははずせないようになっているので、いくらはずそうとしても無駄です」
それを最後に僕と母さんは別々の牢屋に入れられてしまった。