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第九話 奇妙な襲撃と勧誘

 港に戻ると、港には百人近い人間が待っていた。

 また、港には宝を運搬するロバも多くいた。


「たくさん引き上げたな。これで、いったいいくらになるんだ。見当もつかない」

 近くにいた冒険者が教えてくれた。


「一人当たり十万リーネは行くだろう。それに宝はこれだけじゃない。島の倉庫に収納しきれない。護衛付きで三隻がすでにヴィーノの街の古物商に換金するために出発した」


「残りはいつ換金するんだ? 今日中に運ぶのか?」

「わからん。それは潮の理が決めるんだろう」


 港に休憩所ができていたので休む。

 転移門のある方角から大勢の人がやって来る。


(ヴィーノの街に品物を売りに行った一団か。品物を売って、転移門か魔法で帰ってきたな)

 大木戸がやって来て声を掛ける。


「倉庫にお宝がまだ入りきらない。もう、一隻ヴィーノの街に護衛付きで貨物船を出す。時間のある奴は護衛の軍艦に乗ってくれ。残りの人間は、倉庫に宝物を運ぶ手伝いをしてくれ」

(まだ、昼を少し過ぎた頃だし、ヴィーノの街に行くか)


 遊太は護衛の六十五m級の軍艦に乗った。軍艦一隻を護衛につけて貨物船がマンサーナ島を出る。 軍艦には五十名の人間が乗り、貨物船に十名が乗っていた。


 軍艦と貨物船が港を出る。

 島を出ると暇になった。他の冒険者の噂話が聞こえてきた。


 男性冒険者が女性冒険者に声を掛ける。

「なあ、今回の沈没船の引き上げって、ちょっと妙だよな」

(気になる話題が聞こえてきたね)


 遊太は噂話に耳を(そばだ)てる。

「そういえば、港で妙な光景を見たわ。沈没船の引き上げ品を受け取っていたけど、港から売りに行く船に乗せず、倉庫にも運ばないのよ。あの、引き上げ品は、どこに持っていったのかしら?」


(今回の大規模引き上げ作業で、こっそり引き上げられた品があるのか。鏡の騎士団の関与といい、どうも気に懸かる)


 遊太も話に加わろうとした時に、望楼に立つ人間が鐘を激しく鳴らした。

 大木戸が叫ぶ。

「来たぞ海賊だ。戦闘準備」


 遊太は白兵戦に自信がなかった。遊太は砲手に廻った。

 軍艦の片側には十四門ずつ、八インチの大砲が積んである。


 海賊との軍艦が距離三百mに来た時に、双方の艦から砲弾が飛び交う。

 遊太は一門に取り付き、玉を込めて発射する。轟音と共に、砲弾が飛んで行く。


 砲弾が飛び交うと、海賊船の陰から八艘の小型艇が飛び出して、軍艦を大きく迂回する。

大木戸から、魔道具を介して緊迫した念が飛ぶ。


「やつら、直接に貨物船に乗り込んで舵を奪う気だ。貨物船を渡すな」

 だが、海賊の小型艇は砲撃を華麗に避ける。


 海賊の小型艇はすぐに貨物船に接して、攻撃要員が貨物船に飛び乗った。

 波の上では、ぴったりに貨物船に寄せてある小型艇のみを攻撃する行為は、非常に難しい。


 下手に攻撃すれば運んでいる荷に当たるし、より悪ければ貨物船を沈める。

 海賊の軍艦を砲撃しつつ。遊太は判断に迷った。


 大木戸の焦った念が飛んで来る。

「海賊船側、海賊船に砲撃を集中。残りは反対側に廻って、海賊の小型艇を砲撃」


 大木戸の指令を受け取ると、潮の理の船員が率先して動く。

 潮の理の団員が海賊の軍艦とは反対側の砲台に張り付き、貨物船側に向かって無謀とも思える砲撃を開始した。


 結果、軍艦は左右に砲弾を撒き散らすように砲撃をする。

「違う、この船じゃない」


 誰かの念が飛んできた。誰かのものかわからない。

 念はすぐに砲撃音により集中が乱されて消える。


 誰かのわからない念が聞こえると、海賊たちに動きが見られた。

 貨物船に乗っていた海賊たちは、一目散に小型艇に乗り逃げる。


 海賊の軍艦も針路を変えて去っていった。

 大木戸が叫ぶ。

「やったぞー。海賊たちを追い払ったぞー」


 大木戸は嬉しそうに叫んでいた。だが、どうも心の底からは喜んでいない、と遊太は感じた。

(何だろう、この襲撃? 何か妙だ。まるで、品物を奪うのが目的ではなく、何かがあるのかを確かめるための襲撃だ)


 海賊にすれば、ここまで多数の護衛がいる軍艦を襲った判断が妙だった。

 また、防御側にしてみれば、貨物船が最悪、沈むような命令をするのが不思議だった。


(『違う。この船じゃない』の念。あの念の意味する内容は、何だったんだろう?)

 海賊の襲撃の後、貨物船は無事にヴィーノの街の貿易港に入航した。


 品物の換金が済んだので、転移門から皆でマンサーナ島へと飛んだ。

 港に戻ると、宝の分配金が支払われる。


 開催した潮の理の発表では、沈没船を十八隻引き上げた。うち二隻を海賊に奪われる。

 売り上げが約三千四百万リーネ。倉庫保管費用、消耗品費用、換金費用で四百万リーネを引き、残り三千万リーネを参加者人数の二百二十人で割る。端数を引いて一人当たりの報酬は十三万六千リーネだと公表される。


(沈没船の引き上げは、儲かるな。なかなかの稼ぎだ。これなら、島を支配して、沈没船の引き上げを同じクラン内で回そうとするのも頷ける)


 数字の信憑性は潮の理しか知らない。だが、十三万六千リーネの分配金に不満を口にする者はいなかった。分配金を受け取っての解散となる。


 解散は夕方前になった。釣りに行くには時間が少なく、ログアウトするのは早い時間だった。

 マンサーナ島の酒場で情報を集めようとすると、テッドと会った。


 テッドは愛想よく話し掛けてきた。

「こんにちは、船長。また会ったな。ちょっといいか? 儲け話だ」


(儲け話か。テッドは、そこそこ信用できる人間だ。けど、あまり誰彼となく話し掛けていると、話は他に漏れるんだよな)

「聞くだけなら」とテッドに従いていく。


 テッドは酒場の個室席を取ると、神妙な顔で話し掛けて来た。

「俺たちと組まないか? 俺たちは、海底探査装置を持っている人物を探している」


(クランの大鵬も動き出したのか)

「組むって、クランの大鵬とか? 俺は一人だぜ」


 テッドは身を乗り出して、笑顔で語る。

「違うよ。これはクランの枠を超えた誘いだよ」

「中身によるな。俺は海底探査装置を持ってはいる。だが、しがない漁師だ」


 テッドは真面目な顔をして切り出した。

「わかった。なら、俺から話せるところまで話す。実はこのマンサーナ沖かマンサーナ島に凄いお宝が眠っている」


「鏡の騎士団が追っている宝か?」

 テッドは大きく頷いた。

「そうだ。その宝を一緒に探そうぜ」


 テッドの誘いには興味があった。

「こっちは実は、二人で動いている。そっちは何人で動いている?」

「こっちは、三人だ」


「合計で五人か。物事を密かに進めるのなら、五人くらいがちょうどいいな」

 テッドが意気込んで尋ねる

「なら、組むか? 報酬は平等に配分だ」


「とりあえずは、情報交換だ。今度はこっちから情報を開示する。鏡の騎士団が狙っているお宝は賢者の石が関係している。そっちはどうだ?」


「鏡の騎士団が狙う財宝は、まだ、海中にあるって話だ。今回の大規模な沈没船の捜索も表向きのポーズだ。本当の目的は海底の広範囲調査にある」


 いささか拍子抜けしたので、確認する。

「それだけか?」


 テッドも同じだったのか、渋い顔をする

「そっちこそ。それだけか?」

「どうやら、お互いに金になりそうな話だと掴んではいるが、真相には至っていないようだな」


 テッドは腕組みして苦い顔をする。

「同感だな。でも、俺たちは組まないと、鏡の騎士団や白頭の鷲には敵わないぜ。一緒にやろうぜ」

 テッドの意見には一理あると思っていた。また、遊太はテッドが嫌いではなかった。


「実は俺は組みたいと思っている。だが、仲間の同意が必要だ。テッドだって同じだろう?」

 テッドは強引に交渉を進めなかった。

「そうだな、じゃあ、今日はメール・アドレスの交換だけにしておくか。態度が決まったら教えてくれ」

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