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第四話 日常と鰹節

 家のリビングに行って、冷凍のピザをオーブンに入れる。

 ピザが焼けるまでの間、携帯で八百万関連の情報をチェックしていく。


「マンサーナ沖は鰹がよく釣れる。鰹を釣るにはオキアミ団子より鰯がいい、と。マンサーナ島の水産加工場に鰹を持ち込むと、鰹節にできる、か。明日はやってみよう」


 画面をスクロールさせて、さらにニュースをチェックする。

「賢者の石を買います、か。賢者の石の値段は一億円~三億円。病人なら欲しいんだろうな」


 八百万内のゲーム内通貨リーネは日本円に換金できる。だが、八百万には、もう一つ別の機能があった。


 ゲーム内のマジック・アイテムを現実世界に持ち出せるサービスだった。 

 地球人には魔法に見えても、宇宙人からすれば魔法でも何でもなく、作り出せる技術があった。


 人間にゲームをさせたい宇宙人は、賢者の石のようなオーバー・テクノロジーのようなアイテムを作って人間に提供する。


 それゆえ、日本政府はマジック・アイテムを現実世界に流入させるために八百万を奨励していた。

 宇宙人の科学力の解明こそが、少子高齢化に悩む日本の生きる道だと政治家も力説していた。


 ピザが焼けたので、食べていると、リビングの扉が開く。遊太の妹の亜美が立っていた。

 亜美の年齢は十五歳。黒い色のワンピースが似合う、黒髪のショート・カットの少女だ。


 亜美の肌は母にて色白で、顔は丸顔。鼻は少し低く。化粧気はない。

「どうした? 亜美もピザを食うか? 食うなら、焼くぞ」


 亜美は片方の腕でもう片方の腕を押さえて目を泳がせて頼む。

「あのね。お兄ちゃん。明日、その、友達と、ご飯を食べに行くんだけど。お金がなくて。少し分けてくれないかな。お金」


 亜美のいかにも不安気な表情から、何か事情があるお金だと遊太は薄々と思っていた。

 気になったので六ヶ月前に、興信所を使っていじめの有無を調べた。結果、虐められていないと報告を受けほっとした。それから、亜美がお金を必要とするたび遊太は両親に代わって金を渡していた。


 遊太は携帯のアプリを起動させる。

「わかった、携帯にチャージしてやるよ。一万円でいいか」

「ありがとう」と亜美は、か細い声で礼を口にする。


 遊太の携帯から亜美の携帯に一万円がチャージされる。

 遊太は優しい口調で告げる。


「なに、礼をきちんと口で言えるうちは金も回してやる。それにそんなに大きな金額ではない。金は八百万で稼げる」

(今日も水上タクシーで一万五千円稼いだしな)


 亜美が躊躇いがちに訊いてくる。

「お兄ちゃんって、八百万で稼いでいるでしょう。プロ・プレイヤーなの?」

「セミ・プロってところかな。本格的なプロじゃない。だから、死なない」


 プロ・プレイヤーの死。表向きにはゲームを長時間やり過ぎたためと発表されている。

 だが、真相はわからない。宇宙人が持ち込んだVRMMO技術にしても日本ではいまだに解明できていなかった。


「よかった」と亜美は安心した顔でリビングから出て行った。

 遊太はピザを食うと、風呂に入って眠った。

 目が覚めると、朝になっていた。朝食を摂り、自室に戻る。


 パソコンの電源を入れて、八百万にログインするソフトを起動する。

 画面が真っ白になる。白い画面を見つめれば、六秒で昨日ログアウトした場所に意識が戻る。


 マンサーナ島はそよ風が吹いていて晴天だった。

「船の自動修理も終わっている頃だし、今日も稼ぐか」


 マンサーナ島は静かな島に戻っていた。港には観光客と漁師がいる。

 マンサーナ島はクランのうしおの理が支配権を持っていた。


 潮の理は漁業や沈没船の引き上げで収益をあげるクランである。

 だが、他のクランに島全体を貸す事業も行っていた。


 先日のように邪魔されずにシー・ドラゴンを狩ったり、戦争をしたりを希望するクランがある。その場合は、島を借り上げるほうが有利なので、起きる状況だった。


 島が借り切られている場合でも、魚市場のような民間施設は誰でも使用可能だった。なので、魚を持って行けば金になった。島が貸し出されても、島を借りているクランと敵対しなければ問題なかった。


 街のいたるところにある旗が、錨と波を記す潮の理の紋章になっていた。

 島の支配権は、鏡の騎士団から潮の理に戻っていると見てよかった。

「戦争も終わったし、漁を始めますか」


 遊太は魚群探知機を見ながら魚の群れを探す。マンサーナ島からほど近い位置に魚群がいた。魚群に網を放り投げると、鰯が数十尾、取れた。

(鰯は簡単に獲れるけど、安いからな。鰹を狙ってみるか)


 そのまま魚群探知機と双眼鏡でカモメの群れを探しに懸かる。これまた運よくカモメの群れが見つかった。漁船をカモメの群れの下に走らせる。


 船をオート・バランス・モードに切り替え、さっそく鰹漁に挑戦した。初めての鰹漁で鰹は二十尾が釣れた。


 カモメが一度、消えたが、すぐに近くに別のカモメが出現した。再度、釣ると、また鰹が釣れた。鰹漁の二回目は一回目より魚群が長く出現したので、三十尾が釣れた。

「生簀に鰹が五十尾か。一尾二千リーネで十万リーネか。一人なら中々の収穫だ」


 獲れた鰹をヴィーノの街まで運んで金に変えてもよかった。けれども、やりたいことがあったので、船をマンサーナ島の水産加工場に向けた。


 水産加工場前の桟橋に船を横付けにする。水産加工場には鰹節製造機が置いてあった。

 誰も利用者がいなかったので、待ち時間なしで使えた。


 試しに鰹を一尾入れると。頭、骨、内臓が取り除かれた鰹節が二個出てくる。

「さすがゲームの世界だ。作るのに半年は掛かる鰹節が、機械に鰹を入れるだけで、ぽんとでてくる。よし、保存が効くように、全部、鰹節にしよう」


 遊太は五十尾の鰹をすべて鰹節に加工する。無人自動販売機から耐水性のある木箱を買う。

 鰹節は木箱に詰めた。別の機械で木箱にマンサーナ製鰹節の焼印を押して封をする。

「マンサーナ島の特産品ができあがりだ。これをヴィーノの街に持っていってみるか。何でも、ものは試しだ」


 八百万では地域ごとに特産品が作れた。特産品を遠くへ運ぶことで儲けを出せる仕組みがあった。

 魚船の荷台に鰹節を固定して、遊太はヴィーノの街に向けて漁船を出した。


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