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第二十一話 目鉢鮪祭り

 翌日、ログインして島の掲示板をチェックすると『目鉢鮪祭り』の掲示があった。

 魚市場で目鉢鮪の買い取り価格を確認すると、一㎝で三百リーネだった。


 マンサーナ島で取れる目鉢鮪の標準は、二m。一尾が釣れれば六万リーネの売り上げになった。

 買い取りは島の魚市場で買う、とあった。裏にオルテガ・バンクがいる状況に間違いなかった。


 水産加工場をちらりと覗く。水産加工場では鮪チャーシュー、鮪オイル漬け、鮪の燻製を作る準備が着々と進んでいた。


(目鉢鮪も外に出さない気か。どうやら、デットが以前に言っていたように鮪から賢者の石の欠片が出る話には信憑性が出てきたな。でも、鰹と目鉢鮪の共通点は何だ?)


 茨姫と港で合流する。

「ちょっと今日は気になることがある。目鉢鮪に狙いを定めていいか?」


 茨姫は機嫌よく同意してくれた。

「いいですよ、船長。せっかくの目鉢鮪祭りです。目鉢鮪を狙いましょう」


 船を出して鰯の魚群を探す。もう、何度か船を出していたので、鰯がどこにいるのかがわかるつもりだった。


 だが、今日はなかなか、鰯の群れが見つからなかった。

 茨姫が困った顔で尋ねてくる。


「おかしいですね、鰯の魚群が見当たりません。もう、オキアミ団子を餌にしますか」

「鮪を狙うには、生き餌が一番だ。生の鰯なり秋刀魚なりが欲しい」


「漁師の(こだわ)りってやつですか?」

「そんなんじゃないけど。そんなのかもしれない」


 茨姫が苦笑いする。

「言っている内容が矛盾していますよ」


「それにしてもおかしいな。鰯の群れはどこだ?」

 茨姫は何の気なしに発言する。


「前にもこんな状況があったそうですよ。魚の群れの位置が大きく変わる事態が」

「そうなのか? 何が影響しているんだろう?」


 茨姫が冴えない顔で語る。

「詳しい理由はわかりませんが、その後にレジェンド・モンスターが出現しました」


「魚の群れの移動とレジェンド・モンスターの出現の関係性か。この海には何かあるな」

 茨姫が明るい顔で教える。


「いました、カモメです。鰯より先に、大型魚の魚群が見つかりましたね」

「しかたない。不本意だか、オキアミ団子を餌に釣ってみるか」


 二人でオキアミ団子を針につけて海中に投げ入れる。

 当りを待つが、なかなか来ない。茨姫は目を細めてぼやく。


「来ないなあ。やっぱり、オキアミ団子じゃ食い付きが悪いのかな」

 茨姫の竿が(しな)った。


「うわあ。こっちに来ました。この手応え、力を抜くと海中に引き込まれそうです」

「竿を貸してくれ。俺が上げる」


「お願いします」

 今まで上げた中で最も強い引きだった。魚との格闘が始まる。


 竿を倒して、竿を上げる。無理に力に逆らわず順当に魚の力を奪っていく。

 十分後、魚の頭が見える。


「よし、銛の準備だ。魚の頭に銛を食らわせやれ」

「了解しました」


 茨姫は魚を三mの距離まで引き付けて銛を打ち込む。

 銛は魚の頭を外れた。体に銛が食い込んだ魚は、激しく暴れる。


 再び引き寄せようと格闘すると、鮪が静かになった。

 リールを巻き、百八十㎝の魚を引き上げる。


 手で触れて辞書で確認する。『傷んだ目鉢鮪』の記述があった。

 茨姫がしょんぼりした顔で謝る。


「すいません、うまく頭に当てられなくて」

「まあ、いいさ。魚群は消えていない。もう、一尾釣ろう」


 再び竿を振ると、今度は遊太に当りがきた。遊太は無難に鮪を引き寄せる。今度は茨姫が外さずに銛を打ち込めた。


 二尾目の目鉢鮪を上げる。大きさは百六十㎝だが、『傷んだ』の表記がなかった。

 二尾を釣り上げたところで、他の漁船もやって来る。


「どうします? ここで、まだ釣りますか?」

「二尾、手に入ったから、いい。ヒッコリに行って解体してもらおう」


 船をヴィーノの街に向けつつ会話をする。

 茨姫は真面目な顔で訊いてくる。


「船長は今回、鮪から賢者の石の欠片が出ると思いますか?」

「水産加工場を確認した。今回の目鉢鮪祭り、オルテガ・バンクは鮪を外に出したくない素振りだった。目鉢鮪祭りの目鉢鮪は、いつもと違う」


「目鉢鮪は二尾とも一m越えなので、出るといいですね。賢者の石」

 ヴィーノの街に着いた。目鉢鮪の二尾を大八車に積む。氷で冷やして料理屋ヒッコリに運んだ。


 ヒッコリの主人は昼の営業を終えると、目鉢鮪を解体に懸かる。

 主人は先に小さいほうから解体に懸かると、無事に解体を終えるが賢者の石は出ない。


 落胆すると、主人が冴えない顔で訊いてくる。

「こっちの大きく傷がある目鉢鮪。解体しても大した値がつかないが、解体するかい?」


「気になることがあるのでお願いします。解体料が不足なら、さっきの鮪の赤身で払います」

「そうかい。なら、いいけど」


 解体を主人は残念そうな顔で告げる。

「駄目だな、こりゃ。鮪が船に上がる前に激しく暴れたな。身が焼けちまって、美味くないぞ。仕事だから解体するけど、俺の店では出せないなあ」


 主人が解体していると、ガチっと音がする。

「何だ?」と主人が音のした物を丁寧に取り出す。


 包丁とぶつかった物体は、長さが八㎝、幅三㎝、の金色に輝く塊だった。

(出た。賢者の石の欠片だ。本当だ、鮪類から出るんだ)


 遊太が目を奪われると、主人が賢者の石の欠片を渡す。

「何か、鮪から変な金属が出てきたな。血合いの部分から出てきたから、飲み込んだ異物とは違う。こんなの初めてだ。どうする? 持って行くかい?」


「もちろん」と受け取る。もしやと思い、小さな鮪の血合いの部分をスライスして調べる。すると、 直径五㎝、厚さ一㎝ほどの賢者の石の欠片が出てきた。


(鮪も鰹も赤身の魚だ。賢者の石は赤身の魚の血合いの部分にできるのか。それで、オルテガ・バンクは、鰹や目鉢鮪を島の外に出さないようにしていたんだな)


 昼の営業を終えた店内を借りて、茨姫と密談をする。

「賢者の石の欠片がどの魚種のどの部位から出るのかわかったな」


 強い興味を示して茨姫が訊く。

「やっぱり、海底の賢者の石の成分が漂い、生物濃縮されているんですかね」


「生物濃縮はない。現に、鰯や海胆から賢者の石の欠片どころか粒すら出ない」

「小さくて見えないだけかもしれませんよ」


「どのみち、見えないほど小さいなら、集める手間が著しく掛かる。商売にならないから、オルテガ・バンクは出てこない」

「では、遊太さんは、どう考えるんですか」


「原理はわからない。だが、生きた魚の血液から賢者の石はできている。マンサーナ島、海の中、生きている赤身魚。この三点が重要だ」


「マンサーナ島には、まだ秘密がありそうですね。わかりました。マンサーナ島についてリンクルさんに調べてもらいましょう」


 賢者の石の欠片は遊太が預かり、倉庫屋に預けた。鮪の代金を分けて、茨姫とは別れる。遊太は浮力玉を買い、マンサーナ島に戻った。

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